ワインの味
数年ぶりに訪れた島は、見るからに寂れた感じだった。思い出の中で人がごったがえしていた商店街は見る陰もなく、実に静かだ。あたりを見渡しても、人影を見つけることができない。思えば船の人も「あの島に観光かい?珍しいね?」と言っていたっけ。激しく揺れる船に揺られて、ようやくたどり着いたにも関わらず、この十数年の間に観光で訪れるものがいなくなってしまったようだ。
記憶の中で、綺麗な白い壁だったホテルが、くすんだ灰色に見える。錆びついた金属サッシに、ギシギシというガラス扉。薄ぼんやりしたロビーで、空き部屋があるか尋ねると、すんなりと空き部屋に案内してもらえた。
以前止まった部屋は、ファミリー用の大部屋だったが、今回は安い一人部屋だ。記憶にあった景色とは違うが、赤い絨毯に、きれいな白いベッド。……しかし、良い部屋とは言い難い。部屋にあるのはベッドと机だけだ。そして年季のはいった木造のベッドは、座るだけでギシギシと音を立てる。そのまま、白いシーツの上に体重を預けて、寝っ転がる。それだけで少しきしんだ。……記憶にある部屋と比べてはならないが、それでも天井が低く感じる。部屋が狭いのか、それとも私が大人になったからか。
島を巡りたいが、今はもう少しこのまま天井を眺めていたい。
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あのまま眠ってしまったらしく、起きれば既に日が沈んでいた。船旅中もほとんど寝て過ごしていたが、それでも疲れていたのだろうか?子供の頃は、そのまま海に遊びに行けたのに。……そう思えば、あの時も初日は、父は母に私たちをまかせてホテルで寝ていたっけ。
食堂に行き、受付の時に渡されたチケットを夕食と交換する。固くて古い椅子に、使い込まれたテーブルが、この食堂の年季を感じさせる。久しぶりに食べるお刺身に海鮮スープは、こんなホテルでも贅沢を感じさせてくれる。問題は、そこそこの広さの食堂に、私しかいないことか。
ちらりとウェイターの方を見ると、酒類の注文を聞いてきた。あまり進んで飲むほうではないが、こういう時は少しでも飲んだほうが良いだろう。ここで飲まずに部屋に戻るのは、ホテルにとっても苦しいだろう。酒代にわずかばかりのチップを乗せて、手頃な値段のワインを注文した。はっきりいって味は分からない。デザートの果物は、まるで見たことがないものだったが、美味しかった。
これが大人の一人旅というヤツなのだろうか?飲むつもりはなかったワインは、ちょっとした贅沢だ。それなのに、なぜだかとても寂しくなった。ろくに味もわからないけど、それを紛らわしたくて追加でワインを頼んだ。贅沢とはなんだろうか?
飲みすぎたその足で、まっすぐに部屋に戻る。体重を預けたベッドの上で、『明日は植物園に行く。』そう心に決めた。




