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ホテル(仮タイトル)  作者: 一級フラグ建築士


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プロローグ

 海鳥が煩く鳴き、まどろみにいる事を邪魔してくる。今はただ、もっと寝ていたい。この船旅は少し長かったけれども、幸いにして船酔いになることは無かった。街を出て、もう数日は過ぎたが、別に急いではいない。なんならば、もうしばらくは、このまま船に揺られていてもいい。そもそも、最早私には帰る場所がない。


 あの日、仕事から家にかると一日で家があった場所が更地になっていた。思い出の品々も、集めていた本も、思い入れのあった家具も、父からもらったコートも、今夜食べようと奮発して買った肉も、なにもかももはやそこには無かった。少しボロではあったが、何年かは住んで愛着があった我が家であったが、ただ少し仕事にでていたわずかな時間の間に、なにもかもが失われてしまった。


 我が家を解体した業者は、そのまま廃材を全て積み込んで撤収しており、現在においても音信不通である。


 本来解体される予定であったボロ屋と間違われて、我が家はずさんな解体業者のせいで、きれいさっぱりに失われてしまった——というのが顛末である。まちがって解体されてしまったと分かったのは、解体されるはずのボロ屋が解体されずに残った為だ。…普通確認してから作業を始めないのだろうか?


 とにもかくにも、二度と戻らないものが多すぎる。悲観にくれて今後どうしようかと悩んでいた時に思い出したのが、幼少期の頃に訪れた、あの離れ島のホテルである。今回の事で、なにもかもに疲れてしまっていた私は、そのまま退職してあの島での日々を取り返したいと思った。思ってしまった。


 父と母はもういないけれども、あの島のあのホテルに行けば少しは思い出が取り戻せるんじゃないかという期待もあった。あの地平線が見える部屋で、海を見ながらゆったりとした時間を過ごした時間を、今再び取り戻したいと。そして、気がつけば退職手続きもして、更地になった土地も売払い、そこそこのお金とわずかな身の回りのものをバッグに詰め込んで船に乗っていた。


 覚えている。大きなプールに植物園、それと海の近くのコテージ。小さな船着き場に、オンボロの船。リゾート地の賑わい。ホテルの部屋から見る夕焼けも、コテージからみる夕焼けも最高だった。海の匂いがする、あのコテージのベッドで眠った。植物園で家族で写真を撮った。カンカン照りの日のプールで足の裏をやけどした。


 行けば部屋ぐらいは開いているだろう。今後の仕事や住む場所は、数日、あのホテルに滞在してから考えればいい。それぐらいのお金はある。


*****************************


 船旅は続く、かなり南に来たものだが、島に行くためには途中で船を乗り換えねばならない。大きな港で降りて、島行きの船に乗り換える。ボロボロの船だが、島の船着き場にたどり着けるのはこの大きさの船しかない。年々ぶりかにまたあの島にいけるというワクワクを胸に、船に飛び乗る。


 あと数時間すれば、目当ての島に着ける。それまで、もう一眠りさせてもらおう。

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