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最後の時詠みは、過保護な魔導軍師を守りたい  作者: 凪砂 いる
第六章 未来を選ぶ者たち

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36.あなたがいた未来

 街全体を巨大な時術の陣が包み、それに呑み込まれる。

 戦略局では、その調査に追われていた。

 しかし、手元の情報だけでは限界がある。人手も足りない。

 時間も――あまりない。

 このままでは、調査が間に合わない。


 アネルの水晶板には、各地から追加で連絡が届いていた。


『戦略局へ。通信水晶の時刻同期異常について、追加の詳細情報を送ります――通信局 エリオ・ファルク』

『黒晶鉱の不審な大量発注を再度確認。出荷先は中央魔導都――西部鉱山 コンラート・レルシュ』

『最近中央魔導都で発生している魔導具異常について。故障ではなく外部からの時術干渉の可能性あり――工房区 魔導具技師会』


 私が中央に来て、仕事で関わった人たちは、今日も暮らし、働いている。


「私たちの仕事が……今もこうして今日に繋がっている?」


 アネルが、私の頭にふわりと手を乗せる。


「ティルアの仕事で、今日も生きている人間がいる」


 私は深く頷き、アネルの瞳を見上げる。

 視線が重なり、私たちは互いに小さく頷いた。


 警備局へ資料を届けに行く途中、見覚えのある親子がいた。


「お姉ちゃん!」

「ヴェラちゃん……?」


 ヴェラちゃんは、にこっと笑い、後ろで彼女の母も微笑んでいる。


「わたし、ちゃんと帰れたよ!」


 私はふっと笑う。


「……よかった」


 ヴェラちゃんのお母さんが頭を下げる。


「あの時は、本当にありがとうございました」


 私の仕事で、続いた明日がある。

 ヴェラちゃんをあの時、助けたから彼女は今日もここで笑っている。


 空を見上げる。

 どこまでも高く、透き通るような青い空が広がっていた。


 戦略局へ戻ると、張り詰めた空気の中を職員たちが走り回り、騒然としていた。

 立ち尽くす私のもとへ、ユスティンさんが慌てて駆け寄る。


「……追加の情報で、さらにまずいことがわかりました」


 足早に局長室へ戻り、アネルの水晶板を見る。

 ユスティンさんとアネルの顔が、揃って曇っていた。


「追加情報をつなぎますね」


 ユスティンさんが操作すると、身体の神経が凍りつくような冷たさが全身を走る。

 魔法陣、いや、それ以上の何かが、起きようとしていることがわかった。

 アネルが険しい顔で水晶板を見る。


「こんなふうに、異常地点では共通して黒晶鉱を加工した小型の時術核が仕込まれているっす。おそらく、西部鉱山から不審な大量発注で出荷されたものは、これかと。そして、これを見てください」


 ユスティンさんが別の情報を映し出す。


「時空核が……中央魔導都の魔力導線へ、すべて接続されています」


 私は、その情報に描かれている点を見る。


「この点……街を囲んでいるだけじゃありません」


 アネルが私の方を見る。


「ティルア、何が見える?」


 私は水晶板を指さす。


「全部、中央へ向かっています。中心は……時律監察局本部です」


 ユスティンさんがカタカタと震え、首を振り、顔色は青ざめている。


「いやいや……いくらなんでも、露骨すぎますって」


 アネルの顔が今までになく険しくなる。


「……だからこそ、疑うべきだ」


 私も、頷く。


「……見えているものだけを、答えにしてはいけません」


 しかし、術式の構造を見ると、エオネ村の十年前の霞と同じ特徴がある。

 未来の枝を減らし、最後には――。


 それから私は、集まった情報を解析していくにつれ、次第に身体が冷えていき、時間がやけに遅くなっていくように感じた。

 心臓の音が、いやに響いている。


 日が傾き始めたころ、私は窓から街を見ていた。


 今日も、街は人々の生活が息づいている。

 この街のどこかに、私が助けた人達がいる。


 私は、アネルの方を向く。


「前に……世界は、私たちがいなくても、普通に続いていた、と言いました」

「ああ」

「でも……私がいたことで、続いた未来もあったんですね」


 アネルが、私の隣へ来る。


「私の未来も、そのひとつだ」


 あの日、私は奴隷として働いていた国境砦の魔導炉で、アネルが七秒後に死ぬ未来を見た。そこから私たちのすべてが、始まった。


「ティルア。君があの時、声をかけなければ……私は、死んでいた」


 私はむくれたように少し視線を逸らす。


「……そういう言い方は、ずるいです」


 そして私は、アネルの紅い瞳を、じっと見る。


「私も同じです。あなたがいたから、私もここにいます」


 彼が砦から救い出して、初めて名前を呼んでくれた。

 中央で仕事をくれた。自分で選ぶことを教えてくれた。

 故郷で、同じ景色を見てくれた。


 私たちは、お互いがいたから、今ここにいる。


 互いに笑みを交わしていたその時、ユスティンさんが解析結果を持って戻ってきた。


「局長。ティルアさん……これを、見てください」


 水晶板にすべての解析結果が映し出される。

 時術核の術式を重ね合わせると、巨大な術式が復元されていた。

 私は、その巨大なものを読む。


――時律収束(じりつしゅうそく)


「これは……時間を止める術式ではありません」


 アネルが、何かを察したような視線でこちらを向く。


「……では?」


 私の指先が震える。


「中央魔導都で起こりうる未来を……ひとつにしようとしている」

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