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タイムカプセル  作者: 大野 錦


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卒業式前2004年3月

 2話目です。

 よろしくお願いします。

卒業式前2004年3月



 2004年3月の初め。未だ冬の気配を残す寒いある日。Y市立第四小学校でホームルームが開かれていた。

 6年1組の担任は久米谷(くめや)綾子(あやこ)。30代前半の女性教師。生徒たちや保護者たちからの信頼の厚い先生である。


「そろそろ卒業式ですが、以前言っていたタイムカプセルを実施しようと思います。2組の林田(はやしだ)先生がちょうどいらない旅行用の大きな鞄があるので、その中に寄せ書きのノートとクラスの記念のものを入れたいと思います」


 久米谷先生はノートを二冊だし、一冊は生徒全員が将来の夢や、未来の自分へのメッセージを書くことを指示し、もう一冊には先生が生徒全員へのメッセージを書く。

 これの2クラス分を鞄に入れ、地下に埋め、20年後に同窓会を記念して開ける。

 そんな話が6年生になってから出ていたのだが、肝心の入れるケースが用意できなかったので、保留のままだった。

 だが、2組の担任の林田先生がケースを提供してくれるので、タイムカプセルは実施と決まった。


「プッ、20年も土の中に入れてたら、どんなケースだって腐食して、中身は崩れてるぞ。第一カプセルじゃねーし」


「じゃあ、止めさせるのか? 誠志」


「オレの言うことなんざ、誰も聞かねーよ。まぁ、こいつらが20年後にボロボロのノートを見る事になるのは、流石のオレでも心が痛むがね」


 教室の一番後ろの窓際に座るのは、鵜月(うづき)誠志(せいし)。その隣の席は(いずみ)雅哉(まさや)

 鵜月と泉は互いにだけ聞こえる声で話す。


 鵜月は頭が良い。というよりどこか変わっている。

 彼が好きなのは勉強。それもガリ勉タイプではなく、4年生でほぼ小学校の学習を全て自主的に終え、5年生から中学の参考書や問題集を買ってもらい、学習するのを一番の趣味としていた。

 彼は、どんなゲームよりも、問題を攻略して解くのが、知的好奇心と達成感を覚える、としばしば泉に言っていた。



 そして、鵜月は一種の問題児でもあった。

 時折授業中に、先生の説明の間違いを指摘したり、解答困難な質問をして先生を困らせては、楽しむ悪趣味の持ち主。


 素行不良は一切ないが、とにかく先生からすれば、相手にするのが面倒な生徒。

 極めつけは、修学旅行時に男性教師陣が宿泊した旅館の食堂で、深夜に飲み会をしているのをデジカメで撮影して、後に記念写真を並べたところに、この先生たちの醜態写真を混ぜ、「このような大人にならないように注意しましょう」との一文をつけたことだ。


 泥酔姿を撮られた2組の林田先生は、カンカンに怒り、鵜月の両親を呼びつけようとしたが、久米谷先生がどうにかなだめて、この件は不問とされた。

 同級生たちもあまり鵜月と関わるのを避けていて、仲が良かったのは、この泉雅哉くらいである。


 久米谷先生は出席番号順にノートを記載する事と、明日のホームルームまでに何を記念品として入れるかを決める事を指示して、一時間目の授業が始まった。


 「い」の泉は2番目、「う」の鵜月は3番目なので、一時間目の授業の後にはノートが、泉に回って来た。


「雅哉。ソッコーで書け。オレはこの休み時間に書き終えたい」


 鵜月が泉を急かす。

 泉が書き終え、鵜月にノートを渡すと、直ぐに鵜月はノートに書きつけて、次の出席番号4番の生徒にノートを渡した。


 記念品は今学期の春にY市立第一から第四小学校で行われた、球技大会の優勝記念のソフトボールに決まった。

 男女で8人制サッカー、ソフトボール、ミニバスケのチームを、各校で各学年ごとに作り、総当たりの対抗戦を行ったのだが、この第四小の6年女子ソフトボールチームは圧勝をして、それも2組の女子たちは「優勝できたのは、1組の人たちがおかげだった」と記念のソフトボールを譲ってくれたのだ。


 鵜月と泉は男子サッカーチームに入り、こちらも第四の6年男子チームが優勝したが、かなり際どかった。

 運動神経も良く、近所の少年サッカークラブに通っていた鵜月と泉がチームに入っていなけば、優勝は難しかっただったろう。



 卒業式まで数日。鵜月は校長室に呼ばれていた。久米谷先生も一緒である。

 実はこのように問題児だった鵜月は、しばしば職員室や校長室に呼ばれ、色々と注意を受けていた。

 注意の中には「必要以上に勉強をしない事」など、およそ学校で受ける注意とは思えないものさえあった。


「は~、しかし校長室って、何であんなに立派なのかね~。色々記念品をしまう棚も多いしな」


「誠志、今日は何を注意されたんだ?」


「オレはすでに中学の勉強をしているから、中学に入ってから、先生を困らせる質問はするな、あとその偉そうな態度はいい加減止めろ、って言われたよ」


 付添いの久米谷先生が言う。


「でも、自主的に先の勉強をしてるなんて、すごいと思いますよ。私はそんな鵜月君に感心しています」


「先生も結構勉強してるじゃん。偉くなりたいんでしょ」


 久米谷先生は教頭、そして校長試験の勉強をしている。それを鵜月は見抜いていた。


「先生は旦那さんがこの近くで農業をしてるんだろ? だから転任にならないように、この学校に残り続けるために管理職に」


「よく分かりましたね」


「でも、これからは子供が減り続け、この学校は20年後には更地にされ、ネット通販の物流センターでも作られんじゃねーか」


 泉は鵜月と先生の会話について行けない。何を言っているのか意味不明だ。


「そうならないように努力はしますよ」


 久米谷先生が答える。

 今日は天気が良く暖かい。この天候が続けば、卒業式には桜が咲き始めているかも知れない。



 卒業式前日。学校の裏手の広い敷地の奥。

 桜の木の近くにノート4冊と記念品2つを入れた、林田先生の旅行用ケースを埋める日。

 2クラスが、家が農家の久米田先生が用意したシャベルで掘り、ケースを入れると、土を被せた。

 

 2組の記念品は、ある女子生徒が市で金賞を取った習字の作品である。

 ノート4冊と、ソフトボールと、この習字の作品、そしてケースは、久米谷先生が自宅で預かり、この日の朝にケースの中に収納したそうだ。

 ケースの鍵は林田先生に渡している。


 泉は埋めた目印となった桜の木を眺める。

 ちょうど、幾つかの枝には微かに蕾が出始めている。


 こうして卒業式を残し、Y市立第四小学校の6年生たちは、全ての小学生の学習と行事を終えた。


卒業式前2004年3月 了

 う~ん。何かまだなれない。

 初っ端が連載作だと、色々混乱しています。



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