落着2024年5月
ふぅ、何とか上手くいったでしょうか?
多分、「夏のホラー」は短編にしようと思っています。
落着2024年5月
1
「こんなケースに入れて、20年後無事な訳がないだろう。中の全てはオレが別の場所に保存しておいた。だが多分オレは20年後には来てないと思うから、お前たちだけで探せ。ヒントは多分ある。 2004年3月 6年1組 偉そうな鵜月 誠志」
私たちが書いたノート二冊と、先生たちが書いたノート二冊。そして1組の記念品のソフトボール、2組の記念品の習字の作品。
それら全てが消え、代わりに入っていたこの鵜月のホワイトボードのメッセージを、当時を思い出しながら、私は何度か反芻した。
「偉そうな……。偉い、偉い人……。ん、校長?」
私は当時の担任の久米谷綾子校長に向き直る。
「これ、やったの先生でしょう。多分、鵜月に頼まれて。保管場所は校長室ですよね?」
「そう、泉雅哉君。正解です。君が来ていなかったら、別に黙ってなく、初めから全部出そうと思っていました」
久米谷校長は説明をする。
ヒントとは、鵜月と一緒だった事が多く、彼の発言を多く聞いていた私が来ていたら、多分私が当ててくれるだろう、と鵜月が卒業式後に久米谷先生に伝えていたからだ。
Y市立第四小学校を卒業すると、基本的にY市立第二中学校に通う。
そして、私と鵜月はZ県では有名な高校に受かり、大学は別々だが、一緒に東京に進学したので、(当然、鵜月はあの国立大学だ!)長い付き合いなのである。
中高の部活も共にサッカー部だった。
そして、大学卒業後に鵜月はアメリカへ渡る。
2
当時、問題児の鵜月はよく校長室で、校長から注意を受けていた。
担任の久米谷先生の同席の元だが、6年生の最後の注意の日に、鵜月は当時の校長と久米谷先生に、次のようなお願いをしたらしい。
「分かりました。態度は改めます。それと一つお願いがあります。例のタイムカプセルの件。どう考えても旅行用の鞄を地中に埋めたら、20年後には腐食して、中身はボロボロになります。ですので、中身はこの校長室の鍵の付いた展示棚の中で保管してくれませんか?」
当時の校長は「それは有り得るな」と了承し、鵜月は次に久米谷先生にもお願いをした。
「先生、中身とケースは先生が預かる形にして下さい。そして中には後でオレが用意した物を入れて、埋める方向で進めましょう」
その用意した物が、このホワイトボードのメッセージだった次第である。
「この林田先生のケースは、ちゃんとした方法で処分するとして。では、校長室に行って中身を見に行きましょう」
要するに、この旅行鞄のちゃんとした処分のために、私たちは駆り出されたという訳か。
そして、私たちは久米谷校長に連れられ、学校内に入り校長室へと向かった。
3
流石に20人以上が校長室に入ると狭さを感じるが、それでも窮屈というほどではない。
久米谷校長は高さ2メートル、幅も2メートル、奥行き1メートルの展示棚の前で身を屈める。
この展示棚の上部の150センチはガラス張りで、様々な賞状やトロフィーが飾られている。
下部の50センチは両開きの棚が4つあり、一番右端の棚を久米谷校長は開錠して、中身を出した。
4冊のノート、ソフトボール、額に入った見事な習字の作品が出され、中央の広く立派な机にそれらは置かれた。
「うわ~、これらちゃんときれいに残ってるぞ!」
「ねぇ、ノートを読んでみよう!」
皆でそれぞれノートを読む。自分の書いた将来の夢やメッセージ。
久米谷先生と林田先生の各生徒ごとへのメッセージ。
「林田先生。申し訳ないのですが、ノートの各ページをスマホで撮って、印刷をして、印刷物を本日来ていない方々のご実家へのお渡しをお願い出来ますか?」
久米谷校長が退職済みの林田先生にお願いをする。林田先生は了承する。
私たちの同窓生の中には、卒業後にZ県の他の市町村、又は他の都道府県に家族で引っ越した者たちが4名いるので、その転居先を知っている久米谷校長がY市外への実家の郵送を担当する。
当然、この4名のY市から引っ越した同窓生は来ていない。
「林田先生、撮ったのを間違ってSNSなんかにアップしないで下さいよ!」
2組のある者が言うと、校長室内は笑いに包まれた。
「あっ、誠志……、鵜月にはオレが撮ったのを送りますよ。多分あいつ日本に帰ってこないし」
私は鵜月用にノートを撮る。
「鵜月君、何を書いたのかな?」
全員は鵜月のメッセージ内容に興味を引かれる。私もそうだ。
4
「20年後。多分オレは来ていない。同窓会をやるんだろうけど、酒は程々にしとけよ。林田先生みたいに醜態を晒さないように!」
またも笑いに包まれる校長室。
林田先生は当時の怒りが再燃したようだ。
私は久米谷先生のメッセージを読んだ。
先ずは私に対して。
「泉雅哉君。あなたは誰とでも仲良くなれる、人当たりの良さが素晴らしいと思います。きっと将来は、色々な人たちと交流するお仕事に就きそうですね。あの癖のある鵜月君と仲良しなんだから」
まぁ、正解だ。東京でごく普通な営業マンをやっているのだから。
そして、鵜月に対して。
「鵜月誠志君。あなたほど頭が良く、そして変わった生徒は、今までいなかったですし、これからもいないでしょう。でも、一匹狼的ながら、周りのことが良く見えているその才能は素晴らしいです。将来あなたが何をやってるかは想像が出来ませんが、きっと私たちがびっくりするような事をしているのでしょうね」
末
こうして私たちのタイムカプセルの発掘は終わった。
予定通り、このY市では一番の食事処を貸し切っているので、そこで同窓会の飲食だ。
Y市には酒造があり、ちょうど今だと、3月初旬に出された「春」の限定季節酒と、5月初旬に出された「初夏」の限定季節酒が飲める時期である。
私たちが行くこの食事処は、この酒造の酒を豊富に揃えている。
もっとも、あまり飲みすぎると、鵜月に注意されそうだが。
落着2024年5月 了
タイムカプセル 完
相変わらず推理要素は低いですね。
初の推理物の連載作でした。
お酒飲みたい。
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