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過去との決別

もう冬ですね。

……秋どこ行った?


僕はシアルと集めきれなかった分の魔力草を早々に摘み終え、真っ直ぐギルドに戻った。

やはりというか、予想通りというか、ギルドはかなり騒々しかった。


「すみません、クエストの納品を……」



「アイラさん! 良かった、無事でしたか!」



「僕は無事ですが、何かあったんですか?」


……まぁ、知ってるけどさ。

受付嬢はひどく安堵した表情を浮かべ、僕にことの顛末を教えてくれた。


ディノさんの見立て通り、シアルの起こした火柱が、魔人の襲撃だと捉えられていたようだ。


「本当に良かった。……あぁ、ミシャルさんが、貴方がここに来たら、執務室に呼び出すようにと」



「わかりました。受付嬢さん、ご心配をおかけしました」



「リシェ、とお呼び下さい。今後ともご贔屓に!」



リシェさん、か。

覚えておこう。


最近知ったことだが、同じ受付でも空いている受付と行列のできる受付があるのは、目当ての受付嬢がいるかいないかの違いらしい。


どうやら受付嬢は担当する冒険者の数やランクによって給与が変動するようで、有望な冒険者をなるべく自分の担当に引き入れたいのだと。


……でも、そんな受付嬢事情を差し置いても、あの人は僕のことを本気で心配してくれていたような気がする。

今後は、リシェさんのところでクエストを受けてみようかな。



「ミシャルさん、アイラです。入ってもよろしいですか?」



「入れ。お前()()に聞きたいことがある」



たち?


もしかして、ミシャルさんは僕と一緒にシアルがいると思っているのだろうか?


……どうやって誤魔化そう。


僕がそんなことを考えながら扉を開けると、そこには二人の人物が座っていた。

一人は勿論、ミシャルさん。


もう一人は……



「アイラさん、無事でしたか!」



「……うん、無事だよ?」



「なんで疑問形なんですか……」



違う、僕が無事であることは確固たる事実だ。

僕が返事を戸惑ったのは、話しかけてきた相手が思いもよらぬ人物だったから。



「ネイ、どうして君がここに……」



今からクエストにしては、もう時間が遅い。

そもそも、本業が荷物持ちである彼女が、ソロでクエストに向かうとは考え難い。


……不審なのは、ネイの態度もだ。


あの時、追放された日。

あれだけ僕に失望し、幻滅していたように見えた彼女が、どうして前と変わりない態度で接してくるのか。

僕にはそれが不気味に思えて仕方なかった。



「久々の再会のところ悪いが、それは後にしてくれ。俺が聞きたいのは、【紅き閃光】の現状について、だ。元パーティーメンバーのアイラ、同じく元臨時メンバーのネイ。知っていることを話してくれ」



「元臨時メンバー? ネイ、もしかしてパーティーを抜けたの?」



「はい。その件については後でゆっくりと話しましょう」



「……うん」



僕がどこか釈然としない思いを抱えたまま、ミシャルさんは質問を始めた。



「まず一つ。【紅き閃光】が、地龍討伐に向かった件についてーー」



「ちょ、ちょっと待って下さい。今、なんて?」



「【紅き閃光】が、地龍討伐に向かった件について、だ」



……嘘だろ、マイルス?

僕はあれだけ止めたはずだ。


地龍には恐らく勝てない。

万が一勝てたとしても、地龍を「守り神」として信仰しているメリーズの町民、ひいては【蒼い彗星】を敵に回す。


どう転んでも、僕らには不利でしかないと。

あれだけ言ったはずなのに。



「地龍様からの報告を受けて、ヨーグに探りを入れて貰った。依頼主はコレクターの貴族で、地龍のツノや牙をコレクションに加えたかったらしい。……残念だが、王都にいるこの依頼主は咎めることができない。地龍と不可侵協定を結んでいるのは、あくまでこの町だけだからな」



……いくらなんでも調べるのが早すぎません?

ヨーグさん、恐ろしい人。


確かに、マイルスは報酬に貪欲だった。

大方、大金を積まれたせいで、依頼を断り切れなかったのだろう。


「それで、元パーティーのお前らに話を聞きたかったんだが……何も知らない、か」



「申し訳ないです」



「お前が謝ることじゃねぇさ。ただ、地龍絡みのこととなると、他ギルドのこととはいえ、ウチも細心の注意を払う必要があるんだ。ネイ、お前は何か聞かされていたか?」



「いえ、私は何も。……ただ、アイラさんが抜けてから、パーティーの雰囲気が険悪なものになったのは確かです。もしかしたら、あの人たちは早く手柄を立てようと焦っていたのかもしれません」



「……なるほどな」



パーティーの雰囲気が険悪?

僕という、あいつらにとって邪魔者だったはずの存在が消えたのに?

僕は、僕が抜けた後の【紅き閃光】の現状が信じられなかった。



「この件はもういい。もう一つは、先程の魔人襲撃についてだ。アイラ、ちょうどお前が居た方向だ。何か見なかったか?」



「そこで地龍様と会いました。なんでも、『逃げられた』と仰っていましたが……」



「そうか。やはり地龍でも、魔人となると簡単にはいかないのか」



……いや、多分あの人なら余裕だと思います。

ミシャルさんに嘘を付いてしまったことに、僕は少しだけ罪悪感を感じる。



「俺からの質問は以上だ。少しの間席を外すから、あとは二人で勝手にやってくれ」



そういうと、ミシャルさんは早足に退室してしまった。

二人で勝手に、とは、一体どういうことだろう?



「……ごめんなさい、私が無理言って、ギルドマスターにアイラさんと二人きりになれる時間を作ってもらったんです」



「ネイが?」



「はい。ずっと謝りたかったんです。私が間違っていたんです。あの後自分が同じ目に遭わされるまで、私は、アイラさんのことを信じてあげられなくて……」



ネイは目を赤らめ、ぽろぽろと涙を零した。



「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」



「……そっか」



今のネイの言葉だけで、マイルス達が彼女に何をしたのか、大体察しがついた。


……僕は今まで、彼らのことをひどく誤解していたのかもしれない。

いや、本当はもうとっくに気付いていた。

それを認められなかった自分がいただけだ。


【紅き閃光】は、僕が思っていたよりもずっとずっと自己中心的で、私利私欲に塗れたパーティーだった。

今となっては、あるのはこの事実のみ。


昔はもっと、仲間想いのいいパーティーだったはずなのに、いつからこうなってしまったのだろうか。

……Sランクに、昇格してからか。


「Sランク」という肩書に踊らされ、皆が我を強め、結果として今の【紅き閃光】がある。

かつて僕が知っていたそれとは、全く別のパーティーだ。


……いい加減、僕の中でも過去とけじめをつける必要があるのかもしれない。



「ごめんなさい、ごめん、なさい……」


「いいよ。もし逆の立場だったら、きっと僕も疑心暗鬼に陥っていた。僕はもう気にしてないからさ」


(そうやって、貴方はまた嘘を……」



「ん、何か言った?」



「……いえ。私は【赤い不死鳥】を除名されたので、明日にでもここでお世話になろうと考えています」



「そっか。じゃあ、また明日からよろしくね。今日は宿? 送ろうか?」



「大丈夫です。これ以上、アイラさんにご迷惑はかけられませんから。それでは、お先に」



ネイはどこか寂しそうな笑いを浮かべると、僕を残して部屋を立ち去った。


(……僕も、帰ろう)


僕とマイルスは、性格が全く違う。

だからこそ、互いに助け合い、補い合えば、良いパーティーを築いていけると思っていた。


……でも、それは、違った。

僕とマイルスは、ただ単に全く相入れないだけの他人だったんだな。


今日、ネイと話して、僕が【赤い不死鳥】、そして【紅き閃光】に無意識のうちに残してきた未練は、綺麗さっぱり消えてしまった気がした。


【紅き閃光】のメンバーと僕は、赤の他人。

それ以上でも、それ以下でもない。

今後、マイルス達が活躍しようが堕落しようが、僕にはもう関係の無いこと。

……そのはずなのに。



(どうして、僕は心を痛めているんだろう)



アイラが去った後の部屋の床には、一滴の雫が落とされていた。


ネイは勘違いを抱えたまま……(匂わせ)


次回は"声"についてのお話。

主人公を「荷物持ち」にすると閃いた時から、ずっとこの設定で行こうと思っていた部分です。

本当にここまで長かった。


続きが気になる、と思って頂けた方は、是非評価・ブクマ等よろしくお願いします!

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