【収納】の起源
この話、一万字くらいで投稿したかった(本音)
説明が追いつかない……
ディノさんに襲われ(?)。
シアルと別れ。
ネイと再会し。
……元パーティーに、幻滅し。
畳み掛けてきた出来事のせいか、僕は普段よりもずっと早い時間に眠りについた。
何の抵抗もないまま、僕の意識はあっさりと落ち……
ーー
ーーーー?
……た、のだろうか?
いつの間にか、僕は見知らぬ場所に居た。
思考ははっきりしているのに、体の感覚はどこかふわふわとしている。
……明晰夢、ってやつかもしれない。
どうして僕はこんな夢を見ているのだろう?
不思議な空間で彷徨っている僕の前に、美しい女性が姿を現した。
夢にしては、やけに鮮明だ。
僕は現実でこんな人物に会った覚えは無いのだけれど。
……しかし、それでいて何故だか、その女性とはこれが初対面では無いような気がする。
僕の頭が創り出した、理想の女性像とか?
そんなに疲れてるのかなぁ……
『やっと私の声が届いたね。元気そう……と言っても、ずっとアイラのことは見てきたけどさ』
しばらくじっとどこかを見つめていた女性は、不意に僕に語りかけてくる。
ーー君は誰?
そう口に出そうとしたが、上手く声が出ない。
口が思うように動かないのだ。
『大丈夫、聞こえてるよ。なにせ、ここはアイラの世界だから。心の中? 頭の中? まぁ何でも良いや。とりあえず、私がアイラの夢に入り込んでいる、とでも思ってくれれば』
……言葉に出さずとも、念じれば通じるらしい。
【念話】、というやつだろうか。
「そもそも、これは本当に夢なの? やけに鮮明だけど」
『半分夢で、半分本当かな。少なくとも、体が寝ているのは間違い無いよ』
「で、君は誰?」
『私はネフィル。【空間】の精霊だよ』
「【空間】の精霊?」
聞いたこともない言葉が飛び出てきた。
この世界に存在する精霊は、実在する魔法の属性に対応している。
「空間」は無属性魔法の派生形だが、そもそも無属性魔法には精霊が存在しない。
更に言えば、中でも空間魔法は現在使い手の居ない失われた魔法に分類されているはずだ。
……いや、そもそも。
精霊は本来、肉眼視することができない存在。
仮に彼女の言い分が本当だとして、どうして僕にその姿が見えるのだろうか。
『その顔、さては信じてないわね。なら、まずは少しだけ歴史の授業をしましょう。貴方たち人間が魔法を使えるのはどうして? 分かる範囲で、なるべく詳しく説明してみて』
僕は不審に思いながらも、言われた通りに魔法の「歴史」を、記憶の片隅から引っ張り出した。
僕は魔道士では無いし、歴史の専門家でもない。
それこそ僕が知っているのは、魔法の表層的な部分だけなのだが……
ネフィルは、一体僕に何を言わせたいのだろう?
「かつて魔王の勢力が力を増し、無力な人間を一方的に虐げ、虐殺の限りを尽くしていた「暗黒期」があった。
それに対抗するため、神は地上に「精霊」と呼ばれる使いを送り込み、精霊は人間に魔法を授けた。
魔法を手にした人間は徐々に魔王軍を退けられるようになり、人間が種として自力で存続できるようになるまでを見届けた精霊は、神の元へ戻った。
そして、気まぐれな精霊だけは地上に残り、魔道士と契約を結んだり、自由気ままに彷徨っていたりする。
……とまぁ、僕が知っているのはここまでだよ」
『まぁ、大きく間違ってはいないわ。でも、その歴史にはまだ続きがある。そして、その中には忘れられた精霊がいるの』
忘れられた精霊?
『精霊はもっと、多種多様なのよ。例えば……私のような【空間】の精霊とか、【時】の精霊なんかも居たわね。それらは魔法上では纏めて【無属性】に分類されるけど、各々精霊は存在する。私以外の無属性精霊は人間に魔法を教えた後、すぐに天界に帰って行ったわ。地上に残る精霊は、本当にごく僅かなの』
「でも、精霊魔法の使い手は、そこまで珍しくはないと思うけど……」
『それは純粋に母数の違いね。例えば、精霊が10000匹生まれたとして、その中に属性を持たない精霊は1匹居るかいないか程度。で、地上に留まる精霊の数も大体その程度だと言われているわ。その両方に合致する確率は1億分の1。恐らく、地上に私以外の無属性精霊は居ないの』
「あぁ、本来精霊はもっとたくさん居て、その中のごく一部だけがこの世界に居るってこと?」
中でも無属性は希少すぎて、そもそも地上では無属性の精霊の存在が知られていなかった、と。
『物分かりが良くて助かるわ。それで、精霊が去った後も、魔法の適性や使い方はその子孫へ、さらにその子孫へと受け継がれていった。ここまではOK?』
「ん? そしたら、空間魔法の使い手が生き残っているはずじゃないかな。今の時代では、空間魔法は失われた魔法に分類されているはずだけど……」
『それが問題なのよ。空間魔法を始めとした無属性魔法の適性は、一体何処に消えたのか、ということがね』
適性が消えたこと、か。
魔法の適性は、残酷なことに両親からの遺伝に大きく左右される。
勿論、それが全てではないし、確かにイレギュラーは存在するのだが。
適性が、発現しないということは……
「皆、子孫を残す前に殺されたとか? いや、でも流石にそれは無……」
『その通りよ。やっぱり、貴方について来て正解だった』
……正解だったんだ。
消去法で辿り着いた答えだっただけに、僕自身驚きが大きかった。
『数千年ほど前。かつて、あらゆる属性の魔法に耐性を持った魔王が居た。魔法を意に介さないその魔王は、圧倒的な力で人類を蹂躙した』
「大魔王マスティマのこと?」
『そう、そいつよ。で、そんな彼にも通じる魔法が、2つだけあった。勇者の持つ、対魔王に特化した【聖属性】魔法と、属性を持たない【無属性魔法】。マスティマは勇者と無属性の魔法使いに屈し、封印された』
ーー無属性魔法?
魔法を無効化する凶悪な魔王、マスティマ討伐の伝説なら、僕も知っている。
でも、討伐したパーティーは【聖剣の勇者】、【業火の魔道士】、【慈悲の聖女】の3人と、戦闘に関する記載が一切無い【荷物持ち】の4人だったはず。
「無属性魔法の使い手なんて、どこにも……」
『……さて、不思議なこともあるものね。一見何もない空間から物体を取り出したり、収納したり。その可笑しな力の根源は、一体どこから来ているのかしら?』
「……あっ」
目から鱗が落ちる、とは、まさに今の僕のような状況を指しているのだろう。
そうか。
【収納】のスキルは、元々……
『空間魔法から派生した産物、ということよ』
失われた魔法。
それは、大きく3種類に分別される。
使い方が難解すぎて、後世に継承することができなかった魔法。
上位互換となる魔法の登場により、使う必要が無くなった魔法。
……そして。
強力すぎるが故に、歴史上から抹消されてしまった魔法。
『大魔王マスティマは、数千年後ほどで自身に施された封印を解くことができると見積もった。そして、自身が封印される寸前、スキル【意思共有】の力で、配下のモンスター達に命令を下したのよ。「自分が封印を解くまでに、無属性魔法を使える者を根絶やしにしろ」と』
「それで、空間魔法の適性を持った人は……」
『モンスター、そして、その力を恐れた人間からの激しい攻撃を受け、空間魔法の継承者はこの世から消えて無くなったように思われた。でも、初めて貴方を見たとき、それは違うと確信した。空間魔法は、別の存在に進化していたのよ』
「別の存在……」
『【収納】というスキルにね。絶滅の危機に瀕した生物のうち、偶然生まれた変異種だけが生き残り、子孫を残す。長い歴史で見ても、ありえないことではないわ』
「生き延びるためとはいえ、【収納】に進化してしまったせいで、空間魔法は失われてしまった……ってこと?」
僕としては、ネフィルの言う「その力を恐れた人間から」という部分が非常に気になるところだが……
ここで話の腰を折るのもどうかと思ったので、適当な相槌を打っておく。
『えぇ。でも、結論から言うと、貴方は、いや、貴方だけは、この時代で唯一、空間魔法を使える存在になり得る』
「僕、だけ?」
『こればっかりは、持って生まれた素質。桁違いの収納量を持つ貴方にしか、空間魔法を復活させることはできない。私はそう考えているわ』
「……それ、前から気になってた。どうして僕は、他人より収納量が多いの?」
『さっきも言ったけど、【収納】は、空間魔法の派生。魔法を使うためには、一体何が必要なのかしら?』
「魔力。だけど、僕はそんなに魔力量は多くない方だよ?」
『収納している間、魔力は別の次元へと流し込まれている。そして収納した物体を取り出した時、同時に魔力は体へと戻る。……端的に言うと、アイラが今収納しているものを全て外に出せば、それはもう恐ろしいほどの魔力が返還されるわ。大方、非常用と称して大量に詰め込んでいるんでしょう?』
「う……」
図星も図星である。
非常用の水は今日かなり使ってしまったが、非常用の食料、汚れた時や破れてしまった時のための衣類、武器、自作の魔道具、モンスターの素材etc……
大量に収納できるのを良いことに、手当たり次第に放り込んでいたのは事実だ。
……というか、収納に魔力が必要だなんて、今初めて知ったんですけど。
『昼間は吸血鬼ちゃんの炎を消火したせいで、地龍に怪しまれてたけどね。水を収納するのに使っていた魔力が返還されたから』
「あぁ、それで僕が真っ先に疑われたのか……」
ディノさんは、何故かシアルよりも先に、魔力量の少ない僕を真っ先に疑っていた。
……それには、単純に僕の魔力が増えたというカラクリがあったらしい。
『ともあれ、アイラ次第ね。貴方がもし空間魔法を習得したいというなら、私は全力でサポートするわ。勿論、今まで通りのスタイルで荷物持ちを貫いてもいい。……とは言え、私の希望としては、習得することをお勧めするかな』
「理由を聞いても?」
『言ったでしょう。マスティマは、数千年後に封印が解けると踏んでいる、と。近いうちにまた人魔戦争が起こる可能性はかなり高いと思うわ。その時、貴方は自分を……何より、あの吸血鬼ちゃんを守ってあげれるの?』
「……」
昼間の出来事を思い出す。
地龍の前で僕は、あまりにも無力だった。
シアルを守る、なんて大口を叩いておいて、もしあの場で襲われていたら、文字通り命を張って時間を稼ぐことしかできなかった。
僕は、空間魔法を……
『……あ、体が干渉してきた。もうじき、貴方の体が目を覚ますみたい。起きたら、答えを聞かせてね?』
ネフィルはそう言うと、忽然と姿を消した。
恐らく、僕の意識への干渉をやめたのだろう。
ーー良い返事を、期待しているわ。
後には、そんな彼女の声だけが木霊していた。
荷物持ちの主人公に空間魔法を覚えさせるというのが当初からあった構想で、そこに辿り着くまでを後付けした感じです。
予想が当たった読者さんは是非教えて下さい!
この話はポーター始まって史上一番頑張って書いたといっても過言ではないので、皆様の評価やブクマを頂けると本当に嬉しいです……!




