26・転
風のように猛スピードで突っ込んできた何かが、明を追い越した。
そして、その手に握った剣を一閃した。
『!?』
いや、一閃ではない。ほかの全員が、そうとしか見えなかっただけだ。
無数の斬撃が音すら引き裂いて、髪の竜を全て切り落としていた。
「な、あ、あなたは……」
「よう」
剣を持っていたのは、白髪の老人だった。
ローマンに入る際に、畑の虫を駆除してあげた、あの男性だ。
「おめえさんには世話になったからな。ちょっくら借りを返しとこうと思ってな」
『なんだ貴様はァ!! 邪魔をするなァ!! LAAAAAADAGAAAAAAAAAAA!!』
魔唱により、魔王の真下から次々と骸骨の竜が現れた。
それは大量の恐竜の骨格模型を踏みつぶし、それを逆再生したかのような異様な光景だった。
骨の竜の大群が、二人の眼前にうようよと現れる。
「……逃げてください。ここは俺が」
「命ってのは年の順で張るもんなんだよ若いの」
老人が、剣の切っ先で地面を引っ掻いた。
そのあまりのスピードに、剣の先が白熱し、それを円状に振った際に、まるで火のような輪が浮かび上がる。
「あ……あれは……」
必死で体を起こそうとしていたゴシカが、その火の輪に目をむく。
「よう、嬢ちゃんも見てたぞ。だがフォトンに頼ってるようじゃまだまだだな」
「まさか……まさかそれが本来の火輪の型……!」
近くの壁に背中を預け、ゴシカが強引に立つ。
「あなたは、まさか!」
「もう一つアドバイスだ。お前さんの剣、なかなかスジは良かったが、我流じゃ行けて【十二連斬】がせいぜいだろうよ」
「は?」
『何をゴチャゴチャと! LAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
魔王の魔唱で竜の骨が襲いかかる。
「いいか、見て覚えろよ。一瞬も瞬きするなよ」
老人は目をつぶると、剣を正眼に構えた。
そして――
「奥義【十五連十二連斬】! チェイサーッ!!」
稲妻が空気を破裂させたような、すさまじい音が響き渡った。
光線のような斬撃が信じられないスピードで放たれ続け、竜の骨の群れが直立したまま粉微塵に消し飛んだ。
「は……」
あまりの出来事に、明もゴシカも固まってしまっている。
特にゴシカの衝撃は大きかった。
彼女が先ほどの戦いで繰り出したのは【六連斬】だ。それもフォトンの力を借りてやれたことだった。
だが、今この老人は、その倍に当たる【十二連斬】を十五回連続で放ったのだ。
「そ、そんな……伝説の奥義【十二連斬】を連続で……」
「伝説ってのは正確じゃなくていけねえやな」
そう言って老人はからからと笑う。
『この技……! 貴様……あの時の……!』
魔王は驚愕と怒り全身を震わせる。
「何言ってるかわかんねえからカンで答えとくが、ワシゃあ四代目だ」
『大剣槍弓聖ェェェェェ!!!』
数百年の怨嗟を込めて、魔王が絶叫した。
「それじゃ、義理は果たしたからな、あとはぁ頼まぁ」
だが、老人は我関せずと背を向け、そのまま帰っていく。
『バカにするなあああああああああああああ!!!』
怒り狂う魔王は気づいていなかったが、既にそのすぐそばまで明は辿り着いていた。
そして――
「嬉しかったよ。俺の書を、美しいって言ってくれて」
その体に、血文字で漢字を書きこんだ。
『な……!』
魔王の体が、輝いた。
光はどんどん強くなり、魔王の体を包んでいく。
『嫌だ嫌だああああああああああ!! あの闇の中に戻りたくない!! ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……!!』
怨嗟の叫びをまき散らし、血文字をぬぐおうとする魔王。
しかしもう効果は発動してしまっている。
「またどこかで」
『あ』
瞬間、何かに気づいて目を丸くした魔王。
その姿が、ひと際強い光に包まれてまるで花火のように空に打ち出された。
光は空中で爆ぜ、消えた。




