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18・王と書道部

 王都ローマンにそびえたつ、白亜の城。無敵宮の二つ名を持つ大ローマン宮殿である。

 カリギュラ国がこのローマンに遷都して以来の王城であり、そのため、未だに建築は続いていると言う。

 その王城の謁見の間は、巨人でも住んでいるのかと言うほど、高い天井とそれを支える巨大な円柱が二列に並び、その間を真っ赤な絨毯が続く。円柱は玉座に向かう前に左右に別れ、そのまま四角形に玉座を取り囲んでいた。

 一段どころか二段ほど高くなった場所にある玉座に腰掛けるのは、国王カリギュラ十二世その人である。

 鷲の嘴のように高い鼻に、豊かな口髭が目を引く。目元は鋭く、どこか酷薄あるいは無関心にも見えるその佇まいは、謀略渦巻く王宮を生きてきた事を示しているのだろうか。

 玉座から見下ろされる先、赤絨毯の上には、明とゴシカ、そしてステンシルが立っていた。

 アキラやゴシカが入る事を許されているのは、王女であるステンシルが身元を引き受けているからであり、本来であれば謁見どころか、城に一歩たりとも足を踏み入れる事あたわない。

 そういう意味ではアキラは緊張してしかるべきだが、あまりにも現実離れした光景に、映画村でも歩いているかのような気分で、逆にリラックスできていた。だが、ゴシカの方は右手と右足が同時に出る月並みかつ、激しい緊張ぶりであった。

 そんな彼らの両脇には、ローブ姿のフォトン使いが控えている。謁見者が不審な動きをすれば、すぐさまフォトンで攻撃できるように警戒しているのだろう。しかし、大会での明の腕を知るためか、緊張しているのが如実に表情に出ている。

 玉座にもっとも近い位置にいるローブの人物は、オールド・フェイスである。

 その表情はというと、不自然なほど何の感情も乗っていない。

 正体がバレているとは思っていないかもしれないが、目の前に明が現れて、動揺をおくびにも出さない豪胆さである。

 ――役者だな……、明は心中で呟く。

「……それで、わざわざ余の時間を取ったのはどういうわけだステンシル」

 露骨に蔑みの色を乗せ、王が言う。

 明には、それが父から娘にかける声色とは思えなかったが、ステンシルの方は特に気にした様子もない。

「はっ」

 胸に手を当て、畏まって話し始める。

「昨日の御前大会予選においては、こちらのアキラ選手の実力を目にした他の参加者たちが恐れをなし、全員が辞退してしまいました」

「……知っておる。余の御前試合を辞退するなどと、不愉快な話であるがな」

「そこで、提案なのですが、エキシビションマッチを行ってはと」

「エキシビションだと?」

 片眉を上げて睨むように言う。

「はい。国民は試合を渇望しております。ここでアキラ選手の試合を見せて、王の寛大さを知らしめるのがよろしいでしょう」

 いつもの語尾を出さず喋るステンシルの声には、やや緊張の色が見える。

「……回りくどい。一人では出来まい。相手は誰だ」

 ステンシルが、視線を向けた先は――

「無論、主席魔導師のオールド・フェイス殿」

「……!」

 僅かに肩を跳ねさせるオールド・フェイス。

「将来有望なアキラ殿と、主席魔導師殿の戦いとなれば、これほどのカードはないでしょう」

「ほう……」

 鬚をしごきながら、初めて興味を示す王。

 その王からは背中しか見えない位置であるが、当のオールド・フェイスの眉間にはシワが刻まれ始めている。それでも必死に感情を抑えているのだろうか、大きな変化とはなっていない。

「面白い提案だが、どうか? オールド・フェイス」

「……は」

 ゆっくり王に体を向ける主席魔導師。

「……よろしいかと。私の方も異存はありません。彼ほどの才ある魔導師と試合をするなど私も経験がありませんから、楽しみです」

 一切の動揺を見せず、オールド・フェイスは笑った。

 いずれにせよ、王が望む以上、彼はそう答えるほかない。

「うむ。それでこそ、主席魔導師よ。では、明日だ。明日正午、エキシビションマッチを開催する。都内に御触れを出せ!」

「!」

 その場にいた全員が驚きに息を飲んだ。

 いくらなんでも急すぎる。

 だが、王の言葉に逆らえる者などいないのだろう。どこか歪さを感じさせる反応を見せる王宮を尻目に、アキラは小さく拳を握りしめた。

 ここまではステンシルの作戦通り。

 オールド・フェイスがフォトンシーフであることの証明は難しい。

 もしそれがスムーズに行かず王宮での権力闘争になった場合、『呪われた王女』であるステンシルは分が悪いと彼女は言った。その時は、明は実の娘の言葉なら聞くのではとは思っていたが、今日、王に会って初めて彼女の言っていた意味がわかった。あれは、肉親の情愛を感じているとは到底思えない。

 だからこそ、ステンシルは試合の場にオールド・フェイスを引きずりだすことにこだわった。

 試合となれば、明の実力が上とふんだのだ。

 この試合で一方的に勝つ事ができれば、主席魔導師の座は入れ替わるに違いない。

 あれほど酷薄な王のことだ。簡単に乗り換えるだろう。

 そうなれば、話は変わってくる。

 王宮で優位なポジションを得てから、フォトンシーフであることを証明するという策だ。

 だが、明は先のことはあまり考えていない。

 試合でオールド・フェイス自身と勝負すれば、決着がつく、そんな気がしていた。

 彼もひとかどの魔導師。力と力をぶつけ合えば、きっと通じるものがある。

 そんな明の考えは――

 結論から言ってしまえば、あまりにも甘いものであった。

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