予選一回戦
開催された予選は大盛り上がりだった。参加人数が少ないとはいえ、神種選定に出よう としている者ばかりだ。当然のように実力を持っている者が多く集まる。白熱した戦いになるのは言わなくても分かるだろう。
戦い自体も面積がさほど広くないため、長くても二十分程度で決着が付く場合がほとんどだ。組み合わせ自体は完全に抽選になるため、互いの実力は考慮されいない。強い者と当たればやはり、戦い自体も早く終わる。
俺と柊は戦いの強い組の戦いの流れなどを見ながら、話しをしていた。戦いになるまでの間は、研究する時間にしているのだ。
神種選定に出るという事は、同じ大陸でも戦う必要があるという事だ。せっかく戦いを見れる機会があるのだから、こうして見て学ぶ事が出来る機会があるのならば、率先して行うべきだろう。
「次は七組と十五組の組み合わせになる二ゃ!」
アーニャが放送で言うと、俺たちは立ち上がる。俺と柊コンビは七組になる。そして、少し離れた所に居る二人組も立ち上がったため、その二人は十五組なのだろう。
会場の中心に行き、相手と握手をする。これはフィアナが今回特別に付けたルールの一つになる。フィアナらしいと言えばフィアナらしい追加ルールだと聞いた時は思った。これは予選だけで適用されるルールになるため、本番では行われる事は無い。
戦う相手は巨漢の男と、少し細めの男だった。巨漢の男は腰に剣を携えているため、俺と同じタイプだろう、逆に言えば細めの男は柊と同じでデザイアを扱う事が得意な相手になると予想される。基本的な組み合わせはフィアナも言っていたが、やはり、剣士タイプとデザイアを使う二人に組が多い。予選を見ているだけでも、ほとんどの組がこの組み合わせになっていた。
「どういう風に戦うのだ?」
「言われた通り、手を抜いて戦うしか無いだろう……相手には申し訳無いけど……」
これは神種選定に出るためには絶対に通らなければならない道になる。という事は、他の大陸から視察されている事は言うまでも無い。だからこそ、ギルバードもアーニャも全力を出すなと言ったのだ。
アレセイア大陸の者には勇者だとバレていたが、やはり知らない者がほとんどだ。加護を三つ扱う俺と魔力総量が十五万の柊……世間に流れれば噂になる事は絶対に逃れられない。だが、俺と柊の噂は学院に居る者なら知らない者を探す方が難しい。しかし、俺たち二人の情報は学院外には流れていないのだ。それは単純に、個人の情報を漏らさないという事を生徒一人ひとりが守れているためだ。
王立魔術学院と呼ばれるぐらいだ。外には出せない研究結果なども多く存在するはずだ。その中の一つという事だ。学院内では一瞬で広まった噂だが、学院外で言いふらす生徒など王立魔術学院にはほとんど居ないという事だ。育ちも良い生徒が多く居るため、自然とそういう事が成されるらしい。これはフィアナとギルバードから聞いた話だが。
「俺は加護は使わない。柊は強い魔力を使う事は禁止にしよう。あくまでも一般レベルにまで落として使ってくれ」
「分かったのだ!我も大分魔力を扱う事に慣れて来たのだ!そんな事簡単なのだ!」
そう言う柊はこの一ヵ月で本当に魔力の扱いが上手になった。口だけでは無いと俺は知って居るため、安心して任せられる。
「それでは準備する二ゃ!三十秒後に始める二ゃ!」
俺たちは巨漢の男たちから少し距離を取り、対峙する。そして三十秒経過すると同時に、巨漢の男が動き出した。
「悪いなぁ!そんな細い腕では止められんぞ!!」
巨漢の男は俺に接近してきた。見た目の割には俊敏な動きだが、今まで戦って来た者たちよりも遥かに遅い。それに、巨漢の男は確かに筋力があり、物理的に重い一撃を放つのだとわかるが、筋肉の使い方が十分に行えていない。正直な所力任せで攻撃するーーーそう言った感想しか出てこない。受け止める事は可能だが、俺はあえて躱す事にした。
重い一撃が地面に触れると同時に、柊が動き出した。バックステップを行う時に巨漢の男から柊が見えない位置になるように回避した。その空きに柊はデザイアを展開する。
「させないよ!」
しかし、巨漢の男の背後に居た男は柊の動きが見えて居る見たいだがーーーそれは想定済みだ。柊が少しデザイアで溜めを作ると同時に相手は炎を矢を放ってきた。
俺はそれを剣で切り裂き、柊のデザイアの道を作り出す。巨漢の男が再度俺に攻撃を仕掛けようとするが……もう遅い。柊の足元には魔方陣が展開されている。その瞬間に俺は目をつぶった。
「我の望む範囲、全て暗闇に変われ!」
柊が詠唱を行うと同時に、ドーム内の光が一瞬にして消え去った。周囲の人たちも急に明かりが消えて、ざわざわしはじめる。だが、俺は目を瞑っていたため、急に視界を奪われた者より遥かに見える。
人間の目というのは、光が場所から暗闇に行くと目が対応しきれない。暗順応と呼ばれ、本来、暗闇に長い時間居る事によって目が少しつづ慣れてくる物だ。完全に完了するまで三十分は掛かるだろう。しかし、目を少し閉じていたため、見えるのだ。さらに、少ない魔力を目に集める事によって、明確に見える事が可能になった。
後は簡単だった。元々、ギルバードやドメインに比べると取るに足らない相手の二人。ギルバードから教えてもらい、ドメインにも勝った事があるため、負ける可能性は皆無だった。しかし、本気で戦う事が出来ないため、こういう作戦で戦う事にしたのだ。魔力を目に集めれば多少見えるようになる事に気が付く可能性もあるが、そんな事は関係ない。
仮に気が付いたとしても、相手が行動を起こす前に倒してしまえば何も問題ないのだから。それに柊は目を瞑っていない。作戦が読まれる可能性も考慮して、両方が目を瞑る事は行わなかった。あくまで俺が一人で目を瞑ったため、気付かれにくくしたのだ。
「デザイアで周囲の光をーーー」
俺は相手が何か行動を起こす前に、動き出す。一瞬で相手との距離を詰めて、厄介であるデザイア使いの方を先に攻撃する。剣を持ち、気を失う程度で攻撃する。
細めの男が倒れる音がすると、巨漢の男は焦りを見せる。ただでさえ、隙が多い男が焦りを見せるとどうなるかなど言うまでも無い。冷静さを見失い、魔力を込めれば多少見えるようになるという事すら気が付かない。
俺は直ぐに巨漢の男に気配を消して、接近して背後に回る。首を左右に振り、俺の姿を捕えようとするが、見えて居ないので捕えなれない。背後から剣で切裂き、男の叫び声と共に地面に倒れる音が響く。
「もういいぞ」
「わかったのだ!」
俺がそう言うと、柊は発動していたデザイアを解除する。周囲に光が戻り、観戦していた人たちの声の聞こえなくなる。そして、地面に倒れている二人組を見て、結果が決まった。
模擬戦を行う時と同様に、痛みや傷が全て精神ダメージに変わるようになっているため、切り裂いた二人は怪我を一切していない。痛みによって気絶しているだけなので、直ぐに目を覚ますだろう。
「勝者、七組二ゃ!!」
結果を告げるアーニャの声と同時に観客の歓声がドーム内に響き渡る。
「見事な不意打ちだった二ゃ!お見事二ゃ!」
アーニャが言う通り、確かに不意打ちになってしまうが、ルールの方には周囲の明かりをデザイアで消しては行けないとは書かれていなかった。観客に直接害のある物は使用禁止と書かれていたが、少し暗くなる程度では害とは言えない。ルールを良く見て、考えた作戦になる。
これは一回きりしか使えない技だが、一回使ってしまうと同じ作戦があると意識を植え付ける事が出来る。いつ使って来るのか分からないため、相手もそれなりに疲労が溜まるとギルバードが言っていた。
相手が使って来る可能性もあるのでは?と言ったが、その可能性も極めて低いと言われ、ギルバードを信じた俺たちは使う事にしたのだ。
とにかくどうであれ、俺たちは予選の一回戦を突破する事に成功した。




