最強の騎士
「絶対に防ぐ事が出来る。被害も一切出ない」
その言葉と同時にゴーレムの一撃がドレインを直撃する。ツカサとワタルを守るために割って入った行動だったが、これが良い方向に行くか行かないかは守られた二人には判断出来ない。しかし、他の二人ーーーラトリーと全身傷だらけのドメインは安堵していた。そう、この場にドレインが現れたという理由でだ。
二人は自分の大陸の騎士の能力を知って居る。その化け物染みた加護の力を知って居る。だからこそ、安堵したのだ。自分たちは大丈夫だと心の底から思う事が出来たから。それは他の誰でもないドレインだからこそ、与えられた安心だった。
ドレインはゴーレムの一撃を、言葉の通り一切の被害を出さずに、まるで何事も無いかのように簡単に受け止める。後ろに居る航達には拳の風圧以外一切何も来ず、信じられないが全くの無傷だ。だが、さらに信じられないのがドレインだ。直撃したにも関わらず、一切の無傷。それに着用している騎士服には泥一つとして飛んでいない。もはや、後ろから見ている航には何が何だか理解出来ない。だが、それもまた仕方がない。ドレインの加護の能力を知らなければ理解出来ないだろうから。
足元に展開された魔方陣はワタルが加護を使う時とは比べ物にならないほどに巨大で、そして複雑な魔方陣。いとも簡単に攻撃を受け止めたその力は本人以外は全く図りえない能力だ。ただ、周囲からのドレインの印象は一つだったーーー。
「ギルバード様が出てきたらもう大丈夫だわ!」
そう、ギルバードが戦いの場に出てくれば、一切負ける事が無いという印象だった。だがこれは印象だけでは無く、全くの事実であるからこそ、荒唐無稽な話は浸透し、誰も疑う事無く信じている。
「ツカサ殿、ワタル殿!ここは任せて、怪我人を!」
ドレインに言われ、二人は頷き、そしてドメインの元に向かう。ラトリー一人だけでは抱える事が出来なかったドメインだが、ツカサのデザイアを使用し、体を浮かせると移動する事も容易い。後は目の前のゴーレムと、男を倒す事が出来れば全てが終わりだ。この城下町に平和な時間が戻ってくるだろう。
「二人共、ドメインを頼む。俺はギルバードを手伝うよ」
ワタルは一人で戦おうとしているドレインの手助けを行おうとした。ドレインが強いのは今の一瞬で理解する事が出来たワタルだったが、それでもゴーレムと男が相手だと分が悪いと判断したのだ。だが、そんな言葉をラトリーは首を振りながら否定する。
「やめておいた方がいいわ。確かにホシノ君は強いけど、ギルバード様の邪魔になるわーーーそれほどまでに強いのよ」
そう言うラトリーの言葉には一切の偽りが無く、事実しか言っていない。この場でドレインの手助けに入れば確実に邪魔になる。勇者という存在でもドレインの足元にも及ばない。加護を三つ持っているなどという次元の話ではない。一つの加護があまりにも強力過ぎるが故、ドレインは最強の騎士と呼ばれている。この大陸で一番強いのは?と聞かれれば、誰も口を揃えて名前を出すのがドレインなのだ。
「この剣は全てを切り裂き、なおかつ貴様の攻撃は一切通らない」
口にすると同時に足元に展開された魔方陣が光輝き、そして全て言葉通りになる。ドレインの加護はそういう物だった。
ドレインの加護は言霊を操る能力だ。自分が口に出した事をいかなる事でも加護が叶えてくれるという荒唐無稽の加護……ドレインが負けないと言えば絶対に負けないというバカげた力……だが、そんな加護をドレインは持っているのだ。
言葉には強い力が宿いる。それは古くから言われている事で霊力なども関係している。しかし、強い力が宿るからと言って、誰でも扱う事が出来る訳では無い。言霊の力を引きよせるには相当な努力と類まれた運……さらに奇跡に奇跡が重なる事でようやく引き寄せられる際どい物。普通の人は言霊を扱おうとなどしない。なぜなら、それは奇跡を二度起こすよりも遥かに難しいからだ。
だが、ドレインの加護はその二度奇跡を起こすより難しい言霊を加護によっていつも簡単に引き寄せる事が可能なのだ。故にドレインが言葉を放つとその通りになり、一切覆す事は出来ない。勝利宣言が放たれてしまえばドレインの勝利が確定し、ドレイン自体に出来ない事は何一つとして存在しない。
だが、その加護には一つだけ欠点が存在するーーーいや、欠点と呼ぶほどでは無いが、言霊を他人に反映させる事は出来ないのだ。例えるならば、相手の死を望む言葉を発しても、相手は自決したりしない。あくまでも自分にしか影響がない。だからこそ、負けないように勝利宣言する。自分以外にも反映させる事が可能であれば、もはやそれは神に近い存在になる。加護ではそこまでする事は出来ない。ドレインは最強ではあるが、神様では無いのだ。
ドレインが軽く剣を振ると同時に周囲には一切の被害が出ず、なおかつ固い鱗にようなゴーレムの腕を豆腐を斬るが如く簡単に切断する。ドレインの言葉により、今剣を振れば全てを切り裂く事が可能であり、ドレインの体には一切に攻撃は通らない。まさしく、最強であり、誰も勝つことが出来ない。
さらにドメインの加護の強い所は、一度言った言葉は加護が消えるまで取り消されないという所だ。言葉を重ねるたびにドレインは強くなり、さらに高みに上る。今現在は全てを切り裂き、攻撃は通らない。周囲の被害の一切出ないという状況になる。
「化け物め……」
ゴーレムの後ろに居る男はドレインを見て、そう呟いた。もはやドレインに勝つ事は不可能な状況であり、男は何一つ出来ない状況にある。男はドレインが来る前にワタルを殺せなかった段階で勝利する事が出来ない状況だ。九歳の時に加護に目覚めて、竜を殺したその日から一切の負けは無く。剣術の才能に恵まれ、さらに加護は恐ろしく強力。勝てる相手では無いのは言うまでも無い。
あまりの強さに神種選定の参加資格を得ることは出来ないのだ。加護を使ってしまえば戦う前に勝利が確定する。参加してしまえば大会が成り立たたないのは言うまでも無い。その加護を乗り越えてこそーーーなどと簡単に口に出す事は可能だが、誰も勝てないからこそ最強の騎士と言われているのだ。だからこそ、目の前のゴーレムが強い弱いなどというのは一切関係なく、だだドレインに勝つことは不可能な事なのだ。
片腕を切断されたゴーレムは自身の上を片腕でつかみ、そして切断部分に繋げる。すると、何事も無かったかのように腕は元に戻り、ゴーレムはドレインと対峙する。もはや、普通の攻撃はドレインには一切通らない状況。勝ち目は無いが、意思をと持たないゴーレムにはそんな事理解する事出来ない。故に、足元に魔方陣を展開される。
ゴーレムには意思が存在しない。命じられた事をそのまま遂行する事のみに全てを掛けている。あらかじめ、男がアレセイア大陸の組織以外を全員敵認定しているからこ、ゴーレムは動く事ができ、ドレインに攻撃しようとしている。だが、意思を持たぬ者にはデザイアは発動する事は出来ない。しかし、ゴーレムの足元にはデザイア発動時の魔方陣が展開されている。
「なるほど……魔石を埋め込んで作られているのか……」
ドレインが呟く通り、ゴーレムの大部分は魔石で作られている。魔石から作られているからこそ、動く事が可能であり、デザイアを発動する事が出来る。魔石から滲み出る魔力をそのままデザイアに使用しようとしているのだ。ただ、敵を倒すという思いのみで発動されるデザイアーーー竜ほどでは無いにしろ、威力は量りしえない。だが、ドレインには関係なかった。
「この剣はデザイアすらも切り裂くーーー」
そう言うとドレインはゴーレムに目掛けて剣を振るう。風を切る剣の軌道は足元の魔方陣。そして、展開された魔方陣は加護の力によって、簡単に切り裂かれる。これで、ドレインには物理攻撃もデザイアによる攻撃も通じなくなった。
「私が守る姫様の元で行った非道。全て償わせてやる」
ドレインは剣を構え、ゴーレムの腕の軌道のまま振るった剣は空を切り裂き、そしてそのまま両腕を切断する。先ほどは片腕を残したため、再生されてしまったが、両腕を無くせば、再生する事は無いと踏んだドレインだったが、うまく行かない事だって存在する。切り裂かれた腕が自分から動きだし、ゴーレムの切断部分に近づいていく。何度切り裂かれても再生されてしまえば意味が無い。いくら勝利が確定しているとしても、時間を掛ければそれだけ何が起きるか分からなくなる。万が一ということもある。早めに戦いを終わらせたいドレインだった。
「私の目は全てを見通せる目……弱点も全て」
呟くドレインの視界には全てが映しだされる。動いている腕の内部から、ゴーレムの内蔵まで全てが見通せる。だからこそ、ドレインは動いている腕に剣を振るう。そして、切断されると同時に砂となり消える。
「…………」
ゴーレムを召喚した男はただ、言葉を発する事無く、その様子を見ている。男の瞳にはもはや先ほどのような戦意は見られない。ただ、ドレインを見る目だけは恐怖を滲ませている。目の前の男が先ほど何をしたか……その事を理解しているのは男だけだからだ。簡単そうにやり遂げた事は、ランダムで移動するコアの部分を切り裂き、腕を消滅させたのだ。その事実は相手の全てが見えて居るという事実であり、もはやゴーレムの弱点は全て見つけられているという状況だ。
勝てないという事は理解していたが、目の前に居る圧倒的な存在にただ恐怖していたのだ。噂に聞いていたのと、実際に自分の目で確認するのでは大きな違うがある。夜景などを写真で見るとの、実際に見るのが違うように、今、男は本当の意味でドレインの強さを知り、戦意を喪失していた。
そして、ドレインの相手は、弱点が丸裸になったゴーレムだけになった。ランダムに変化するコアの場所は本来であれば偶然当てる事か、何かしらの計算で読む以外の方法しかなかった。だが、後者はあまりにも難しく、偶然に頼った方が確立は上だ。ゴーレムの強さはその弱点の引き当てる難しさにあったにも関わらず、ドレインの前では赤子同然だった。
攻撃も通らない。デザイアも切り裂かれる。城下町に被害を出す事もドレインを通しては出来ない。そして、攻撃は一切通らない。さらに弱点まで見破られ、逆に倒さない方が難しい状況になった。ゴーレムはただ大きな的になっただけだった。
「相手が悪かったな」
そう言うとドレインは一瞬でゴーレムに駆け寄る。その動きはもはやワタルとドメインの目を持ってしても認識する事が出来ず、動き終わった後に動いた事に気が付く。そして、空中を駆ける如く、何度もゴーレムの体を切り裂く。その中で全ての攻撃をコアに当てる事も忘れず、ゴーレムは再生する事も出来ず、ただ全身が切り裂かれるのを待つばかりだった。
時間にしておよそ十秒ほど経過し終わると、ゴーレムの巨大な体は全て砂のように消滅し、その場には一切息を切らさずにドレインが立っているだけだった。現況である男に視線を向けたが、戦意を喪失している事を理解したドレインは、剣を鞘に直し、戦いが終わった事を察した。
「強すぎるだろ(のだ)」
ツカサとワタルは、ドレインの強さに、そう呟く事しかできなかった。あまりにも圧倒的な力に、どうしてフィアナがドレインの事を信頼しているのか、という事を理解した。それは類まれた剣術の才能を持ちながら、なおかつ強力な加護を持って、全力で自分を守ってくれるからだとこの時に理解した。
「私はこの後、そこの三人を連れて城に戻る。ワタル殿とツカサ殿にはそこの二人の事をお願いしたい」
「わかりました。そちらもよろしくお願いします」
「何か分かり次第、連絡する」
そう言うとドレインはデザイアでアレセイア大陸の組織の三人を拘束し、転送魔方陣で城に戻る。残されたワタル達は全身負傷をしているドメインの治療をするために、治療してくれる心辺りのある人物を思い浮かび、直ぐに向かう準備をする。
全身の負傷が激しく、血が出ている部分も多いため、ワタルは王族専用の魔石で、転送魔方陣を使う事を決意した。ドレインとの会話で顔見知りなのは言うまでも無い。ラトリーとドメインもその事は察している。場所も理解出来ているため、見つかれば直ぐに治療してくれるだろう。
「転送魔方陣を使うから、近くに寄ってくれ」
そして、治療してくれる心辺りある人ーーーエルフのエリスの元に向かうべく、ドレインと同じメロディア城に移動する事に決めた。
そして、4人は転送魔法陣の中に入り、メロディア城に移動した。




