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化け物

 先に行動を起こしたのはドメインだった。相手が格上であるという事は対峙した瞬間に理解している。相手が行動するのを待っているよりも先に自分で行動する。主導権を握らせないためだ。


 格上相手に主導権に主導権を握られてしまうとーーーそんな事を言うまでも無く手が付けられなくなる。ドメインは相手のおおよその実力を量れている。ワタルの領域にまでには到底たどり着かないにしても、強者である事は間違いない。


 ドメインがワタルと対等に戦えたのは、単純に戦闘経験が乏しいからだ。ドメイン方が遥かに対人戦闘を積んでいるからこそ、初心者のワタルの動きに対応する事が出来た。同じぐらいの経験があれば確実に瞬殺だった。そして、対峙している相手は格上。さらに、戦闘経験も豊富だ。ドメインが圧倒的に不利な状況。その中で主導権を握られるのはさらに状況を悪くしてしまうだけだと、ドメインは理解している。だからこその行動だった。


 剣を得意な持ち方に変えると同時に加護が発動する。足元に展開された加護はドメインが得意とする詠唱無しで発動する事が出来るデザイアだ。ドメインは加護の力で剣士として戦いながらデザイアも同時に発動する事が出来る。簡単そうに見るが、デザイアを詠唱無し、さらに複数発動する事は容易では無い。さらにドメインはその行動を戦いの中でする。一切戦動きを鈍らせずに行うのは、加護とドメインの実力があってこそ出来る芸当。


 互いに剣を持ち、接近する中でドメインの背後にだけデザイアが発動している。普通の相手であれば恐怖と驚きで動きが鈍る物だが、男は一切そんな事気にしていなかった。


 ドメインの剣を受け止めた瞬間に襲い掛かるデザイア。そして、不適な笑みを浮かべて全く躱す動作をしない男ーーードメインが自分の目で確認出来たのはそこまでが限界だった。


「っ!!!」


 強烈な痛みを体に感じ、気が付いた時には地面に倒れていた。一切何をされたのか分からないまま、力が入らない体は地面の冷たい感覚と、外傷が無いにも関わらず、強烈な痛みを感じる事しかできなかった。それも、倒れてからしか気が付かなかった。


「どうだ、地面の感覚?お前にはお似合いだな!」


 そのままドメインは男に再びデザイアを発動しようと試みるが、男はドメインの顔を蹴り飛ばす。痛みで集中力が一瞬で切れたため、デザイアは発動する前に消えた。


「お前では勝てない……だが、別に殺すつもりは無い。だから抵抗しないであればこれ以上は何もしない。俺はお前に用事がある訳じゃ無いからな……」


「っ!!」


 顔を踏み、動かしながら男は笑う。ハルバード家を継ぐ者として素質を持って生れて来たドメイン相手に余裕の態度。その様子だけでこの二人の間にどれほどの差があるの理解する事が出来る。男は負ける事など一切度外視している。だが、ドメインは自分が負けるとは一度も思って居なかった。


「まだ抵抗するのか?何をされたのか分からないまま地面に倒れたのに」


 ドメインは再び魔方陣を展開する。同じように顔を踏まれたり蹴られるが今度は消えない。そういう行動をされると理解出来ていたら何てこと無い。痛みなどこれまでに何度も経験してきた。何かされると理解していればドメイン的には何も問題が無い。


「おっと!危ないな」


 同時にドメインを踏んでいた男の足が凍りかけたが、気が付き、離れる。ドメインは立ち上がり、剣を構える。すると、黒フードが抱えているラトリーが一瞬動いたのを確認した。その動きは極わずかで、抱えていた黒フードすらも何も疑問に思わない程度の動き……しかし、ドメインは気が付いた。ラトリーが既に意識を取り戻しているという事に。


 だが、ドメインが相手にしても勝てない相手が目の前に居る現状で意識が戻るのは問題だ。抱えている黒フードなら相手に出来るかもしれないが、目の前に居る男はラトリーでは話にならない。ドメインとの差以上に歴然とした差がある。だからこそ、意識が戻ったが動けない。邪魔になるのが目に見えて居るからだ。


 しかし、ドメインは気が付いていた。ここでこの男を倒す事が出来ればラトリーを取り返す事が出来る事に。ラトリーはドメインに比べれば確かに強さは劣る。しかし、仮にも王立魔術学院の生徒だ。決して弱く無い事はドメインは理解していた。何度も模擬戦で戦う光景を見てきたが、ドメインは弱いと思った事は一度も無い。


 だからこそ、二人で戦う事が出来れば黒フードも倒す事が出来るだろう。この男だけが問題なのだ。


「さて、これからどうする?戦って負けるか、勇者が来るのを待つか……。後者にするにしても来るまでの暇つぶしが居るから、前者としようか」


(勇者?一体誰の事だ……?)


 ドメインに勇者の知り合いの心辺りは一切ない。そもそもドメイン自体勇者など架空の存在だと思って居る。勇者降臨の儀がある事は知って居るが、あまりにも成功例が無さ過ぎて、本当に召喚出来るかどうかもはっきりしていない。


(ただ、本当に勇者が居るとすれば……)


 そう考えると真っ先に出て来た顔はワタルとツカサだった。加護を三つ持つ前代未聞な存在と、桁違いの魔力総量を持つ存在。ワタルとツカサ……二人ともまだまだ実践経験が乏しいにしても桁違いの力を持っている。その二人が勇者だとすれば納得も行くが……。


「まぁ、良い。かかってこい」


 不適な笑みを浮かべる男は再び挑発する。その挑発には乗らずに、剣を構える。一緒にデザイアを発動して、雷と炎で形成された矢を背後に数本づつ用意する。これでドメインの方が遠距離でも攻撃が出来る事になったが……脅しにもなっていないのは理解している。相手の表情を見ればさほど驚異になって居ないのは子供でも分かる。


 だが、関係なかった。もし自分が負けて意識を失い、ラトリーがさらに連れて行かれる事を考えれば引けない状況だった。黒フードの一人を連れて行ったワタル達は合流すると言っていた。信じて待つ以外の選択肢は存在しない。


 ドメインとワタル。ツカサが力を合わせれば目の前の男など敵では無い。だからこそ、この場は死んでも引けない。連れて行かれる可能性は消さなければいけない。


 男の後ろに居る黒フードが距離を置けば危うい状況になるが、そうしない理由があるのだろう。ドメインには関係無い理由だが、ありがたい事は間違い無い。だったら、自分が足止めしていれば問題ないという結論に至る。


 勝てない相手だとしても、なんとしてもワタル達に繋ぎ渡す。本当に今の状況でやってきて、自分とラトリーを助ける事が出来れば勇者だと思いつつ苦笑する。勇者であろうとなかろうとどっちでも関係ない。来ると言ったのだから来ると信じている。ドメインは一切疑う事無く無条件に信じている。


「それじゃ、頑張るか」


 気合を入れなおして、ドメインはゆっくり歩きだす。男はその場から動かずに、不適に笑っている。自信の現れが体全体から滲むように出ている。


 そして、ゆっくり近づいていたドメインが一瞬で加速する。同時に甲高い音が鳴り響き、再び戦いが始まった。


*************


女の子からある程度話を聞くと、俺たちが直ぐに動き出した。まず、ギルバードとフィアナはこの話が本当かどうか判断すると言っていた。


 女の子が嘘を言っているようには見えなかったが、敵である黒フードの話を全て鵜呑みにする訳には行かないのだろう。ほとんど信じたと思うが、判断が出るまでは二人は動かないだろう。


 捕らえられた女の子は一旦監禁すると言っていた。だが、俺が引き取る事を了承してくれたので、話を聞いたり、一応逃げられないようにするのが目的だと思われる。フィアナに限って何かするという事はありえないだろう。


 俺と柊は直ぐにドメインを追うために黒フードに襲われた場所に戻る事にした。転送魔方陣で好きな場所に移動する事が出来るため、一瞬で移動出来るのだが、少しだけ問題がある。


 それは転送魔方陣は思い浮かべた場所に転送してくれる物であって、目的の場所に転送される物では無いという事だ。ドメインの居場所が分からないので、転送魔方陣で直ぐドメインの居る場所に戻るという事は出来ない。あくまでも、思い浮かべる事が出来る場所だけだ。だからこそ、二手に分かれた場所に戻り、走って行った方向を探す事にしたのだ。方向だけ分かっていても探すのに時間は掛かるが、分からないより良いだろう。


 フィアナにドメインを探す事を伝え、玉座の間から転送魔方陣を展開し、メロディア城に戻る時に使用した人気が無い場所に戻った。避難したためか、その場に誰もおらず、転送魔方陣を使用した事は見られていない。そのまま少し移動して、襲われた場所に出た。


「特に何もわかって無いな」


「そうなのだ。あれから誰もここには来ていないという事なのだ!」


 襲われた場所は移動した時と何も変化していない。特に変な場所は無いため、ドメインが走って行った方向に向かう。その瞬間に、爆発音と煙が遠くから上がってくるのが目に見えた。


「ドメインが戦ってるかもしれないな」


「きっとそうなのだ!急いで行かないといけないのだ!」


 行く当ても無くドメインを探すよりも、ドメインが戦っていると思って進んだ方が良いだろう。違う可能性もあるかもしれないが、人々が避難している城下町で、爆発音が聞こえたという事はドメインが戦って居る可能性が高いだろう。


 直ぐに俺たちは煙が上がっている所を目指す。進んでいくたびに狭い路地に入り、少しつづ音が聞こえてくる。途中に人と一切すれ違わない事から、ほとんどの人が避難を終えている事がわかる。後はラトリーを助けて、黒フードを倒すだけで全てが終わる。少なくとも城下町に平和が戻ってくる事は確かだろう。


 アレセイア大陸が何を思って城下町を襲撃したのかは不明だが、捕らえた女の子の発言から四人しか居ない事は知って居る。ドメインが何人相手にしてるのか分から無いが、戦った二人を捕えたらほとんど終わりだろう。一人で出来る事というのは極端に少ない。ただ、例外がある。


 そう、それは残りの一人が圧倒的に強い場合だ。他の三人を囮に使った作戦だと女の子が言っていた。残り一人が無いかするために囮になったと言っていた。だが、その残り一人が弱いとは一言も言っていない。少し拓けた場所で傷だらけで倒れているドメインを見て確信した。


 不敵に笑って、ドメイン前に無傷で立つ男は本物だと。している事は悪意ある事だが、実力だけは本物だと確信した。なぜなら、この目だけで判断するならば、ドメインが一切手も足も出なかったという事になるからだ。


 男は一切息を上げずに、不適に笑ってドメインの顔を踏んでいる。対して、ドメインは息を荒げて、満身創痍だ。体全体に切り傷が付いており、深くは斬られていないようだが、血が出ている箇所も多くある。何より、顔を踏まれているにも関わらず、一切抵抗出来ない所が二人の実力差を物語っている。


「ワタル……」


 ドメインが俺たちに気が付き、少しだけ視線を向ける。声も普段と違い、物凄く弱々しい。明らかに弱っているのが分かる。


 ドメインと模擬戦を行ってからさほど時間は空いていない。ギルバードに稽古に付けてもらっているが、数日で変化が出る訳が無い。多少戦えるようになったが、ドメインほどの経験は積めていない。だからこそ、加護を三つ持った俺と互角以上に戦ったドメインが手も足も出ない相手に勝てる道理はなかった。


 隣の柊もドメインの姿を見て何も言わずに目を見開いている。それほどまでにドメインが無いも出来ずに負けている状況を受け入れる事が出来ない。しかし、事実だからこそ動けずに立ち止まっている。


「ふふ、役者は揃った見たいだな、勇者!」


 どうして俺の事を勇者だと知って居る?という簡単な問いかけも出来ず、無言で男を見据える。一瞬でも目を離せば殺されてしまいそうな雰囲気が出ているからだ。いわば殺気だけで力の差が理解出来る状況なのだ。


 ドメインが一切傷を負っておらず、万全の状態であれば勝つ事が出来たかもしれない。だが、ドメインは満身創痍だ。戦力になる事を期待しない方がいいだろう。それに無理をさせてしまえば本当に普通の怪我では済まないかも可能性もある。だからこそ、ここは俺と柊で戦うべきだがーーー。


「何棒立ちしてるんだ!まぁ、良い。それよりも上はお前たちの死を望んでいる!だから、恨みは無いが……」


 男はドメインを踏んでいた足をどけ、ゆっくり俺たちの方に歩きながら口を開く。


「死んでくれ」


 その瞬間、男の目の前には巨大な魔方陣が展開される。柊が展開する時とは違う、重い気配のある魔方陣。普通の魔法では無いのは加護無しでも理解する事が出来る。禍々しい空気と回転する魔方陣。


 そして、魔方陣が動きを止め、赤く光ると同時に魔方陣はさらに巨大になり、唸り声が聞こえた。化け物が目覚めたかのような唸り声ーーそう表現するのが正しいかもしれない。今までに聞いた事が無い唸り声に、体が恐怖に支配される。


 唸り声は依然として続き、さらに城下町全土を振るわせるほどの振動が起こる。振動は少しづつ大きくなり、そして急激に止まる。だが、止まったにも関わらず、安心する事が出来ない。俺は直ぐに加護を三つ発動するがーーー間に合わなかった。


 展開された魔方陣から巨大な手首が姿を現した。岩石に覆われた手首は見るだけで頑丈だと判断でき、凹凸が広がっている。まるでゴーレムがそのまま出て来たかのような手首……さらに大きさは俺たちの身長の三倍ほどある。手首だけで三倍以上あるのだ。


「な、なんなのだ……」


「わからないけど……」


 これが何なのかは全くわからない。しかし、一つだけ分かる事があるとしたら……これは本当にやばいという事だけだ。


「冗談じゃないわ!早く動きなさい!!」


 突然声が聞えてきたため、俺は視線を向ける。視線の先には抱えられていたラトリーが黒フードにデザイアを使い、意識を失わせた瞬間だった。そして、逃げるようにラトリーは離れ、倒れているドメインに近寄る。


 男はそのラトリーに気が付くが特に動きは無い。直ぐに目の前の化け物に視線を向け、愛おしそうに眺めている。まるで父親が自分の子供を見つめるような目をしているのだ。


「ラトリー!ドメインを連れて出来るだけ離れてくれ!」


「そんな事言われたって、私一人の力じゃドメインを連れて行く事は出来ないわ!それに、二人はどうするのよ!?」


「俺はこいつを止める!」


「は!?何言ってるのよ!」


 ラトリーはドメインを抱えようとするが、女の子一人で男を抱える事は出来ないだろう。それに、少し前に気を失ったようなので余計に抱える事が出来ない。意識が無い人間は普通に運ぶよりも遥かに重くなる物だ。


「柊……デザイアでドメインを運びながら逃げれるか?」


「我も戦うのだ!あれはどう見ても人間が一人で勝てる物じゃないのだ!」

 

 俺だってそんな事はわかっている。だが、誰かが囮役をやらなければいけない状況なら女の子二人に任せるより、男の俺が行くに決まっている。それに柊のデザイアは強力すぎる。少しでも失敗すれば城下町に被害が出る事は避けられない。


「ハハッ!何をしてももう遅い!」


 手首しか出ていなかった全貌が少しづつ現れる。まるで地面から……地獄から目覚めた悪魔のように魔方陣から這い出てくる。大きさはもはや人間とは比べるまでも無く、まだ体の半分しか出ていないにも関わらず、建物よりも大きい。


 上半身は手首と一緒で、凹凸のある岩石のような感じだ。顔には紅い目は二つあり、ゴーレムといった感じの化け物だった。一度でもまともに攻撃を受けてしまえば、間違いなく死んでしまう。だが、このまま放置して俺たちだけ逃げ出しても城下町は無くなってしまう。黒フードの女の子が言っていた通り、この辺一帯は無くなっても可笑しくない。


「ここで二人とも死ね……」


 その言葉と同時にゴーレムはは完全に現れた。下半身も同じく岩石になっており、全身を見渡すがどこを狙えば攻撃が通るのかさえ不明だ。唯一目が通りそうな気がするが、あまりの大きさに目まで行くのが難しい。途中で叩き落とされるのが見えて居る。


「ぐうぉぉぉぉぉぉっっっ!!」


 ゴーレムが唸りと共に、俺たちに目掛けて拳を下ろしてきた。巨大なため動きが遅いなどという欠点も無く、拳が振り下ろされる。躱す事は決して難しい事では無いが、この周辺は瓦礫の山になってしまうだろう。しかし、躱さないと俺の命が……。


「我を守る絶対城壁よ。全てから我が身を守り給え!」


 柊が詠唱を行うと同時に正面には魔法障壁が展開される。柊の魔力総量は桁違いだ。しかし、その桁違いの魔力総量を全て使いこなせる訳ではないーーーだからこそ、化け物の攻撃は止められない。


 並みの攻撃では破る事は出来ないであろう柊の魔法障壁だが、並みではない化け物の攻撃だからこそ防ぐ事が出来ない。数秒だけゴーレムの拳は止まったが、障壁が割れてしまう。


「一体どうすればーーー」


 その瞬間、俺とゴーレムの間を割ってくるように転送魔方陣が展開された。その場所からメロディア城に居るはずのギルバードが姿を現す。


「絶対に防ぐ事が出来る。被害も一切出ない」


 ギルバードがそう呟くと同時にゴーレムの拳は俺たちを直撃する。

 

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