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黒フード

 ドメインに連れられて来たのはオシャレなカフェだった。石で作られた赤い外観に、大き目のガラスが数枚あり、外から中の様子が見える。中は全て木材で作られており、テーブルや椅子はもちろんの事、床や天井も全て木材で作られている。高い天井にはいつもの魔石が輝いており、色別に分けられて居るため綺麗だ。


 そんなカフェの中に入った俺たちは経験したことが無い雰囲気に落ち付かない。というか、外に行列が出来ているにも関わらず、ドメインが顔を見せただけで中に通された。並んでいる人達からの視線を物凄く感じた。


「どこ行くんだ?こっちだ」


 俺たちは一つだけ空いている席に座ろうとしたが……ドメインに止められ、座るのを諦める。そのまま店員に奥まで案内される。奥には誰もおらず、十席ほどの椅子と長テーブルが置かれている。

日本で言うシャンデリアのように形に魔石が綺麗に並べられている。


「ドメイン……どういう事なの?このお店って物凄く有名なお店でしょ?普通こんな所まで案内される事なんて無いわよ?」


 このお店の事をラトリーは知っているようだった。俺と柊は当然のように知らないが、外の並び方から見てもかなり人気があるお店なのは伺える。学生の俺たちが入る雰囲気のお店では無いという事も理解出来る。


「このお店を立てる時にハルバード家からかなりお金を出してるからな。家と継ぐ俺が声を掛ければ当然こういう対応をされる。勿論、事前に話をしていればの話だがな」


「…………」


 特に自慢げに言う訳でもなく、ドメインはさらりと凄い事を口にした。流石に普段敵対視ししているラトリーも何も言えずに口を閉ざしていた。事前に伝えだけで何もせずに人気店の奥に入れてもらえる。一般人の俺には想像も出来ない世界だった。


「とにかく座れよ……あ、ラトリーもついてくる事は分かっていたから、人数は予め伝えてあるから人数的な事は気にするなよ?」


「その言い方だけ、私があなた達と一緒に居たい見たいな言い方ね……まぁ、色々言いたい事はあるけど、このお店に来られた事に免じて今日は何も言わないであげる」


「それはありがたいな」


 話を流しながらドメインは一番近くにあった席に座る。それに続いて俺たちも同じように席に座る。椅子の座り心地も柔らかく座りやすい。城にあるほどでは無いが、かなり高価な物が使われて居るのは容易に想像がつく。


「メニューに書かれた物、どれを頼んでもいいぞ」


 そう言われドメインに渡されたメニューには料理の写真と同時に金額が書かれていた。フィアナとアーニャに文字を教えてもらい少しだけ読めるようになったので、金額だけは全て分かる。


「さすがに私はこの値段は頼めないわ。家自体が裕福では無いから一般的な値段の物しか頼めない」


 メニューに書かれた金額は想像以上に高額だった。俺と柊はフィアナから貰っているため問題無いが、一般人にキツイ値段設定だった。


 一般人の人が多く並んでたい店前だったので、内容の方が違うのだろう。VIP席のような場所なので値段設定も高い。その分前で食べるよりもさらに美味しい物が出てくるという訳だろう。


「何言っている?好きな物を選んで良いと言っただろう?この店は全て俺の驕りだ。気にせずに食べてくれて構わない」


 元から奢るつもりだったのか、ドメインはさらりと言う。それなりに金額はするはずだが……流石に名家の家を継ぐドメインなだけあって、硬貨は持っているのだろう。


「流石にそれは申し訳ないわ!自分で出せそうな物ーーー」


「気にするな。俺から誘ったんだ。俺が出すのは確定だからいつも見たいに気にせずに食べろ」


「私が大食い見たいな言い方をするわね……」


 ジト目でドメインを見ながらラトリーはメニューに視線を落とす。これ以上は不要なやり取りだと気が付いたのだろう。ドメインが奢ると言ってくれているので、この場は何も言わずに奢られる方が良い。


 ドメイン的にはお礼は要らないかもしれないが、いつかお礼する事が出来れば良いと思った。


 それから各自料理を頼み、待つことになる。選ぶのに時間が掛かってしまったため、予定の三十分は超えてしまうだろうが、カフェを選んだ段階で三十分など無理がある。それを理解しているからこそ、何も言わないのだろう。


 初めても模擬戦の時は驚いたが、こうして会話をするようになってドメインが物凄く良い奴だという事がわかった。学院に居る間だけになるが、仲良く出来れば良いと心から思っている。


「来たのだ!美味しそうな匂いなのだ!!」


 柊が声を上げると同時に部屋の中に店員が入って来た。手には頼んだ料理を持っており、部屋全体にいい香りが広がり、お腹を刺激する。


 城でも料理が出るため、お腹いっぱい食べる事が出来ないと思っていたが、美味しそうな匂いにその考えが薄れる。満腹までは食べないが、多めに食べようと決めた。そう思わせるほどにいい香りだった。


 机に人数分置き、店員さんは礼をして下がる。机の真ん中には数種類の飲み物が置かれており、近くに連絡用の魔石もある。何かあればこの魔石に魔力を流し込めば店員さんが再びこの部屋に来る仕組みになっているのだろう。


「美味しそうなのだ!!くくく、我の血が滾るのだ!!」


「ツカサは一体何を言ってるんだ?」


「私に聞かれても分からないわよ……」


 柊の理解できない言葉を聞いて、首を傾げるラトリーとドメインだが、そんな様子は視界に映っていないだろう柊は気にせずに手を合わせる。


「いただきますなのだ!」


 そして一人で食べ始める。柊の様子にラトリーは少しだけ笑みを浮かべて、柊に続き食べ始める。俺も同じように手を合わせてから美味しそうな匂いを放っている食べ物に手を付ける。


「美味しいのだ!!」


「これ、本当に美味しいわ!」


 女の子二人は幸せように口を動かしながら食べる。俺も料理を口に入れると、二人が言っていたことが直ぐに理解出来た。


 俺は何かのお肉を頼んだのだが、口に入れて噛むと同時に肉汁が溢れだす。お肉自体の柔らかさもあり、軽く噛むだけで噛み切れてしまう。味付けも焼肉のタレに近い味になっており、ご飯があれば物凄く進む料理だ。


「お口に合って何よりだな。ここのは美味しいから、しっかり食べろよ」


「ありがとう!それにしてもドメインって、毎日こんなの食べてるの?」


「何言ってる。俺が毎日食べてるのはもっと美味しい」


「あ、そう……」


 一切自慢げにせずに、そんなの当たり前だろ?とでも言い気な顔のドメインに、何も言わずに料理を食べる事に戻るラトリー。名家と言われているだけあって、出てくる物も毎日美味しい物に決まっている。


 かくいう俺たちも城に住んで居るため、出てくる料理は絶品だ。フィアナ用に作られた物を食べたりしているので、ドメインが毎日食べている物より美味しいのでは無いだろうか。


 しかし俺たちの一般人の舌では、普段食べている物よりも美味しいと言うのは理解できるが、詳しい味の違いなどは判別する事は出来ない。よって、学食もこのお店も、城の料理も全て日本で食べていた時よりも美味しいとしか言えない。


「本当に美味しいのだ!けど、あんまり食べすぎると夜食べきれなくなるのだ!」


 そう笑顔で言いながら四分の一程度残った料理を俺の元にお皿事渡してくる。俺が見つめると、にっこりと満面の笑みを浮かべたため、俺は負けて食べる事にした。


「ホシノ君は本当にヒイラギさんに弱いわね……」


「ラトリーよ。男って言うのはいつも女のために何かをする生き物なんだよ」


 ドメインがそう言うが……分からなくもない。結局、男という生き物は可愛い女の子にお願いされると断れない呪いにかかっているのだ。これは男に生まれた瞬間に掛かる呪いだ。


「男って大変ね……私は女で良かったわ」


「我は男に生まれたかったのだ……」


「え……」


 ラトリーが柊の言葉に驚きの表情を見せた。言葉そのものに深い意味は無かったのかもしれない。しかし、柊の表情に深い陰りを感じるのだ。ラトリーもその事に驚いたのでは無いだろうか?


 先ほどまでの柊とは明らかな落差。高い山から急激に崖から落ちたような落差。表情と落差からその言葉は柊にとって何か特別な思いがある言葉では無いだろうか。


 少しだけ暗い空気になり……どうにか空気を変えようと、口を開こうとした瞬間、強大な爆発音が響いた。


「なんだ!?」


 爆発音と共に店内が少しだけ揺れる。家具などが倒れるほどでは無かったが、確実に揺れを感じた。小さな地震を体験した時のような感覚だ。明らかに何かが起こったのだ。


 ドメインは俺たちより早かった。急に立ち上がり、部屋を勢いよく出る。俺たちも少しだけ遅れて部屋を出る。


 お店の中には先ほど通る時は落ち着いた雰囲気だったにも関わらず、他の客が突然の爆発音に驚き、逃げ惑う人達で騒がしかった。お店の中から見える街並みは、戸惑いながら逃げ惑う人々と、多数煙が上がっているのが見える。


「俺は何が起こったか確認しに行く!お前たちは安全な所に逃げろ!」


「待って、私たちも手伝うわ!私だって戦えるだけの戦力はあるーーー」


「何もしなくてもいい。ハルバード家を継ぐ男として当然の事をしにいくだけだ。一般人であるお前たちは逃げる事を優先しろ」


 ドメインの声は低く、鋭い視線でラトリーを見つめる。普段のドメインとは違う雰囲気と共に本気だという事が伺える。冗談など一切なく、本気で何もするなと言っているのだ。


 そんなドメインにラトリーは戸惑い、そして視線を逸らした。


「わかればいい。それじゃ、また明日な」


 手を掲げて、走り出すドメイン。何か言いたげな顔をしているラトリーだが、何も言えずに去るドメインを見送るーーーだが、店を出たドメインの前に黒いフードを被った三人が姿を現す。


 まるで転送魔方陣で移動したかのように一瞬で姿を現した三人組。全身を黒い服で覆っているため、男か女かは判別できないが……明らかに怪しい。


 俺たちはすぐにお店を出て、ドメインの元に向かうとした瞬間、三人組の男が動きだした。


 どこからか短剣を取り出し、ドメインに迫る三人。ドメインも瞬時に剣を取り出し、待ち受ける。素早い動きの黒フードだが、ドメインの動きに比べると驚異にもならない。直接戦った事があるドメインの事からこそわかる。ドメインの敵では無いとーーーしかし、俺の考えは直ぐに否定される。


 一人がドメインに襲いかかり、剣を交わす。素早い短剣の動きだが、ドメインは簡単にいなす。だが、ドメインの死角から二人の黒フードが遅い掛かる。


 だが、それも気が付いていたドメインは躱し、二人目に蹴りを入れる。吹き飛び、地面を転がる黒フードの背後から三人目が遅い掛かる。


 ドメインはその三人目にも気が付いていたが……急激に加速をした一人目のフードが死角に入り、そのまま剣を振り下ろす。体を捻る事で躱したドメインだったが、そこまでだった。


 吹き飛ばされたフードが何事も無かったかのように立ち上がり、背後から蹴りを入れる。


「っ!!」


 蹴りの威力を応用して三人から距離を取ろうとしたが、読まれていた。振るった剣がドメインの横腹を掠め、地面に血が滴る。


 痛みに顔が歪むドメインにさらに三人同時に襲いかかる。三人が入れ替わるようにして攻撃する。その動きはまるで訓練された軍隊のような動き。明らかに素人では無い戦い方。


「こいつら……一人ひとりが強い」


 連携がうまく機能している事もあるだろうが、ドメインが押されているという事実がそれを物語っている。剣術一つとってもドメインの方が上なのは間違いない。だがーーーげんに押されている。このままでは間違いなく、ドメインは負けてしまうだろう。


「な……何よあいつら……ドメインの体から血がいっぱい出てるわ」


 ラトリーの言う通り、攻撃を繰り返されているドメインの体からが血が大量に出ていた。だが、それよりもラトリーの様子に違和感がある。自分の体を抱きしめて、何かの恐怖に耐えているように震えている。怯えて、あまり呂律もうまくあっていない。


「柊……ラトリーを頼んだ。俺も行くよ」


 ドメインに言われてたので手を出さなかったが、このままでは流石にやばい。ここは学園のように精神ダメージに変えてくれる事は無い。出血が続けば体の動きも鈍くなり、致命的な一撃をもらう可能性も高い。そうなればドメインは……。


「わかったのだ!」


 ドメインがデザイアを使わない理由は理解している。街中で使ってしまえば、被害が増える可能性があるためだ。ドメインであればそんな事言われるまでも無く気がついている。だからこそ、加護を使わない。


「やっぱり良い奴だな」


 俺はそう確信し、走り出す。ドメインを攻撃しようとしている三人の一人にタイミング良く蹴り入れる。吹き飛ぶ黒フードは地面に転がり、瞬時に立ち上がる。


 そして俺はドメインの隣に剣を構えて並ぶ。


「カッコ付けたのにざまぁねぇな……頼む。手伝ってくれ」


「初めからそのつもりだ」


 ここはメロディア城の城下町。フィアナにお世話になっている俺は少しでも役に立ちたい。今頃フィアナも大慌てで色々調べているだろう。俺が見ているだけでどうする。


「さて、やるか……ワタルと一緒なら負ける気がしないな」


「俺もドメインと一緒なら負ける気がしないよ」


 そう言い笑い合い、三人の黒フードと向かい合う。


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