メロディア城に
黒フード三人は階段のように少しだけ段を作り、横に並びながら短剣を持つ。ドメインとの戦いの中で組織的な動きを見せていた事から、この陣形が本来の形なのかもしれない。
「なるほどな……その陣形はアレセイア大陸の組織か……親父から話は聞いていたが、本当に階段のような形を作るんだな……」
ドメインは全く視線を外さずにそう呟いた。俺はそんな話聞いた事無いが、アレセイア大陸の者がどうしてメロディア大陸に居るのだろうか?
いや、それ自体は問題では無い。大陸同士行き来は同然出来るため居ても可笑しくない。この三人組は一体何が目的でこんな事をしたか、というのが重要な事だ。
他の大陸の城下町で問題を起こせば当然大事になるのは間違いない。そんな事は考えなくても分かる事だ。なのにどうして意味の無い事をするのだろうか。
「それに……アレセイア大陸の組織は四人一組で組む。この場に居いないもう一人が居るという事か……近くに気配が無いからどこかに潜んで奇襲しようとしている訳でも無い……何が目的だ?」
「……………」
「ふっ、話すわけ無いか。顔を隠しているという事は素性を知られないように言われたという訳か。それとも男女である事すらも隠すように言われたか……まぁ、どちらでも構わない。倒せばどうとでもなる」
剣を強く握りしめ、俺とドメインは少しだけ間隔を空ける。俺とドメインは一緒に戦おうとしているが、決して一緒に訓練を行ったり、息の合った動きなどが出来る訳ではない。あくまでも同じ敵を倒すという共通の目的があるだけだ。間隔を空けなければ互いの動きの邪魔になる可能性が出てくる。そうなってしまわないように空けた間隔だ。
一人で三人の息の合った攻撃を躱し、まとめて倒す事は容易では無い。だからこそ二人で戦う事に意味がある。息の合った相手を一人で倒すのは一人ひとりの実力より上でも容易では無いとギルバードも言っていた。数が多い方が有利というのは何に対しても同じ事だ。
「ワタル……怪我はするなよ」
「心配するな。ドメインに勝った事を忘れたのか?」
「そうだったな」
ドメインが少しだけ笑った瞬間ーーーそれが合図だった。俺とドメインは正面から三人に向かって駆け出す。
階段の陣形を保ったまま、黒フード三人組は後ろに下がるが、動きが少しだけ遅い。あの陣形を保ったまま、俺とドメインの動きに対応するのは難しいのだろう。
しかし、そうでは無いとすぐに気が付く。俺は三人が居た場所に近づく事によって、足元に魔力が少しつづ練りあがっていく事を察知する。
「ドメイン!正面に魔力が練りあがる感覚がある。何かデザイアが発動する!」
「了解!」
練りあがる魔力は正直な所かなり弱い部類に入る。柊のデザイアと比べるまでも無く、模擬戦の時に感じたドメインの魔力とも比べ物にならないほど小さい。あまり強いデザイアでは無いのは容易に判断できる。
俺とドメインは左右に少しだけ別れ、その場を踏まないように注意する。隣を通る時に爆発した足元だったが、規模が小さいため二人には当たらない。その瞬間に距離を詰める。
ドメインは右に居る黒フードに剣をふるう。短剣でうまく勢いを殺し、ドメインの連撃を軽くいなす。短剣の扱う腕はかなり高いようだ。
だが、防がれる事は想像が付いていたかのような不敵な笑みを浮かべ、瞬間的に加速をする。その動きに合わせて俺は左の黒フードに剣を振るう。
俺が振るう剣を短剣でいなすが、俺の狙いは当てる事では無く気を逸らす事だ。たまに反撃で短剣を振るってくるが、加護ですべて躱す。軌道がわかるため、当たる心配はほとんど無い。
ドメインは急激に加速した事により、右の黒フードは一瞬姿を見失った。左右を確認するが姿の見えないドメインに対して気が付いたように後ろを振り向く。
「あたりだ!しかし、もう遅い!」
背後に回っていたドメインはすでに剣を振り下ろす瞬間だった。今から背後に振り向き、短剣でドメインの連撃を止める事が容易では無いはずだ。
だが、三人組の真ん中に居た一人が階段の陣形を当然抜け出し、背後に回り込んでいたドメインのさらに背後に付く。俺は慌ててカバーに入ろうとしたが、ドメインの顔を見た瞬間、その動きを止めた。
背後に回り込まれ、短剣を首裏に突き刺されようとしているにも関わらず、不適に笑っている。刺されれば殺されてしまう可能性があるにも関わらず、一切の焦りが見えない。まるで、この状況を自分で作りだしたかのようにーーー。
刹那ーーー俺は回り込んだ黒フードの背後に魔力が練られる気配を察知する。加護でドメインの意図を理解した俺は、気が付かれないように再度剣を振るう。
そして、ドメインの首裏に短剣が突き刺さる瞬間、黒フードは巨大な氷塊により、吹き飛ばされる。
「----!!!!」
声にならない声を上げた黒フードは地面を叩きつけられながら背後の壁に激突する。威力が強かったためか、吹き飛ばされた黒フードは一切動かない。
その事に気が付いた残り二人の動きは速かった。仲間である一人を助ける素振りすら見せずに、俺たちから距離を取る。そして、魔力が練りあがるのを加護で察知すると同時に煙が上がる。
一瞬で視界を封じられた俺は加護で相手の剣の軌道を確認するが、一切見えない。どうやら俺を攻撃する気は全く無いようだ。しかし、油断はせずに煙が無くなるのを待つのが得策だろう。
背後で魔力が練りあがる気配があるが、これはドメインの者なので気にしない事にする。
警戒するように剣を構えた状態で煙の中で待機している時に足音が聞こえ、集中する。
「っ!!!な、何するのだ……」
突然、飛ばされる音が聞こえたと同時に柊の声が聞こえた。さらに「な、何するのよ!離してーーー」とラトリーの声聞こえたが、突然声が聞こえなくなる。
遠ざかって行く足音が響くと同時に煙は少しつづ薄くなる。数秒もしない内に全て無くなり、柊の居た方向に視線を向ける。
そこには先ほどまで居たラトリーの姿は無く、柊は吹き飛ばされたのか、カフェ近くに倒れている。直ぐに柊に駆け寄り、手を差し出す。
「大丈夫か?」
意識はあるようなので、大怪我をしたという事は無いだろう。出血部分も少し切れている場所のみで、これなら体に残る傷では無いはずだ。その事に安心した俺はため息を吐いた。
「大丈夫なのだ……けど、ラトリーが攫われたのだ……我は近くに居たのに……」
「それは柊が悪い訳じゃ無い。狙われる事を考えていなかった俺のせいだ」
「違う。俺も狙われる可能性があると思って居たにも関わらず何も出来なかった。だからワタルだけの責任では無い。俺にも十分責任はある……だが、そんな事言った所でラトリーが攫われた事は変わりない。俺たちが助けに行かないとな」
「ああ、何かされる可能性も十分にあるから、早めに助けに行かないとだな」
ラトリーはこの異世界で出来た数少ない友達の一人だ。この異世界に居る間とは言え、仲良くなった友人を放置出来るほど俺は無責任ではありたくない。
「いや、お前たちには頼みたい事がある」
そう言いながらドメインは氷の壁に覆われた場所を見つめる。その場所は黒フードの一人が倒れていた場所だ。
「煙が出た瞬間に、仲間の一人を連れていかれないように氷で覆っておいた。まだ気絶しているはずだから、メロディア城まで届けてほしい。きっと、フィアナ姫もどういう状況になっているか気になるはずだ。頼めるか?」
「それは問題ないけど……一人で大丈夫か?」
「俺を誰だと思って居る。心配するな。それよりもこの襲撃の情報をいち早く伝え、解決させる方が先だ。更なる被害を防ぐためにもな」
ドメインの言う事は最もな事だ。ラトリーを助けに行く事も大切な事だが、ラトリーのように連れていかれる者が再び出ないようにする事も大切な事だ。ドメインが大丈夫と言っているのだから、俺はそれを信じてフィアナの元に向かう方が良いだろう。
「わかった。俺はそいつをメロディア城まで届けるよ。そして何か分かったら直ぐに合流しに来る」
「そうしてくれ。それじゃ、俺は二人を追いかける事にする」
そう言って、ドメインは駆け出す。探す当てがあるのかはわからないが、ドメインを信じる事にする。俺は自分に与えられた役割を果たすために、動いた方が良いだろう。
「柊痛い所は無いか?」
「我は大丈夫なのだ!それよりも早くフィアナにこの人を渡すのだ!!」
地面に倒れている黒フードは未だに意識は戻らない。ドメインは丁寧に意識が戻った時ように手足を氷で縛っている。仮に意識が戻っても何も出来ないだろう。しかし、意識の無い人を運ぶのは結構骨が折れる事だ。
「どうやって運ぶか……転送魔方陣を使うとしても人が少ない場所じゃないと使えないし……」
王族専用の魔石を預かっているので、転送魔方陣がいつでも展開できる。ただ、人に見られると面倒なので見られない方が良い。フィアナにも言われた事なので、注意した方がいいだろう。
「それなら問題ないのだ!我が黒フードを浮かすのだ!それに、今は避難している人が大勢いるはずなのだ!少し路地に入れば人は居ないはずなのだ!」
浮かす事が可能かどうかは分からないが、柊の言う通り路地に入れば人が居る確率は少ないだろう。大通りに居るからこそ人の視線が気になるが、路地に入れば問題なさそうだ。
「それなら浮かすのだ!!」
柊は瞳を閉じて、倒れている黒フードの方向に手を掲げる。加護を発動していない俺にでもわかるほどの高い魔力が練りあがる。そして、瞳を開けると同時に手の平が光輝く。
「浮かすのだ!」
なんとも適当な詠唱だが、黒フードの体は何かに摘ままれた見たいに浮かびあがる。そして、一定の高さまで上がると停止する。
「容量はフィアナに教えてもらったのだ!我の魔力総量なら出来るって言ってたのだ!」
簡単そうにやってのけた事だが、決して簡単な事では無い事は理解できる。物体を空中に浮かせて、停止させるなど聞くだけで難しそうだ。さらに歩く方向に停止させた物体を移動させなくてはならない。
「路地に入るのだ!フィアナの元に行ってから、何か分かったらドメインに合流するのだ!」
路地に走り出す柊の背中を見ながら俺は気を引き締める。柊はきっと、自分傍に居たにも関わらず、ラトリーを連れていかれた事に責任を感じているのだろう。だからこそ、柊は先ほどから率先して動こうとしている。
それがわかるからこそ、余計に気を引き締めて行こうと思った。攫われた原因は俺にもあるのだから余計にそう思える。
俺は柊の背中を追いかける。早くフィアナに連れていき、ドメインの元に向かうために。




