デザイア
三人が居る場所に着くと、急に足元にある魔法陣が、淡い光を放ちだす。周囲に光の粒が浮かぶ上がり、小さな夜空のような光景ができ、一度強い光を放つ。
「それじゃ、行きます」
王女様がそう言うと、俺が見ている風景は一変する。先ほどまでは外に居たにも関わらず、俺たちは全く別の場所に居た。
「……………」
薄暗い部屋の中には、先ほど祭壇にもあった魔法陣が消えずに光り輝いてい居る。見た目は倉庫にも見えなくは無い場所だが……こうして魔法陣だけしか無い所を見ると、違うのだろう。
「これは転送魔法陣ですよ。この場所から、思い浮かべた場所に転移出来るという優れものです」
転送魔法陣……話を聞く限り、物や人を転送出来るのだろう。名前だけで便利な物なのは容易に理解できる。某青い狸のどこでもドアのような物だろう。
「凄いのだ!転送なのだ!!まるで瞬間移動のようなのだ!」
初めて体験する事に柊の中二心に火が付いたのか、物凄くテンションが高い。そんな柊の様子を楽しそうに笑いながら王女様は口を開く。
「ふふ、そうですよ。転送魔法陣は、滅多に見れる物では無いです。ここ以外にも数カ所ありますけど……それも制限された物ですので」
まぁ、思い浮かべた場所に行けるという魔法陣を制限無しにしておくと、この場所や城の中にも普通に侵入出来てしまうので、仕方ないだろう。
「上に行きましょうか」
アニメなどでは何となく知って居る異世界召喚物だが、やはり来るのは初めてだ。転送魔法陣など、俺たちの常識が通用しない物は数多く存在するに決まって居る。
王女様の後に続いて、俺たちは階段を上る。少し上ると分厚い扉が現れ、ギルバードが軽々しく開ける。
扉を開けると、薄暗い場所に居た俺たちに、明るい光が差し込む。一瞬、眩しさのあまりに目を閉じてしまった。
目を開けると、そこは見る限りお城の中だった。しかし、シンデレラの王子のお城のように、高そうな装飾品などは無いように見える。
だが、シンデレラの時には存在すらしなかった物が、目の前に居た。ファンタジー世界ならではの存在だった。
「エルフなのだ!ファンタジー同道の亜人なのだ!」
柊が言う通り、俺にもエルフに見える。俺たちとは違う神秘的な服を着ており、耳は長い。獣人が居るのだから、エルフが居てもなんら可笑しくない。というか、エルフは鉄板の存在だろう。
「あまり見るで無い……」
目の前のエルフは、俺たちが見ている事に気が付き、恥ずかしそうにして、腕で自分の体を抱く。すると、柔らかそうな大きな胸がはち切れんばかりに揺れる。静奈さんよりも大きいかもしれない。
「彼女はエリスと言うエルフです。治療魔法のエリスパートですよ」
「イメージのまんまなのだ!物凄いのだ!!」
柊は嬉しそうにエルフ……エリスに近づく。エリスは少し困った顔をしていて、そう言う視線を向けられる事に慣れていない見たいだった。
「久々に見た……エルフの私を見て、驚かない人を見るのは」
「どうして驚くのだ?」
柊は不思議そうに聞いている。柊は驚いているよりも、初めて見るエルフという存在に好奇心を抱いているのだろう。
今まで画面上だけで見ていた存在に会えたのだ。その嬉しさは図りえない物だ。
「エルフは本来、人里には居ないのだ。エルフの里……どこにあるかは知らないが、見かけるのは容易では無いはずだ」
王女様の隣に居たギルバードが説明する。なるほど、だからこそ、この世界の人はエルフを見かけると、驚いた反応をする物なのか。
居るという事は知ってるが、どこに住んでいるか全く分からない種族が近くに居れば驚きもするだろう。
「ちなみに、私見たいな獣人も珍しい二ゃ!エルフほどでは無いけど、見かける機会はほとんど無いと思う二ゃ!」
割と異世界召喚物では、人間以外の生物は良く見かけるような気がする。獣人もそうだし、エルフもそうだし……街中を普通に歩いているイメージがあった。
「とにかく、よろしくなのだ!!」
満面の笑みを浮かべ、手を差し出す柊に、エリスも柔らかな笑みを受けべて、手を握りる。
それからエリスと別れて、城を上に登っていく。エレベーターやエスカレーターと言った便利な機械は存在しないので、階段を上って行く。
長い廊下を歩き、明らかに豪華な扉の前でで立ち止まった。
「ギルバード、よろしくお願いします。誰も来ないでしょうが……一応監視だけしておいてください」
「わかりました」
ギルバードを残して、俺たちは部屋の中に入る。部屋の中は物凄く広く、高そうな装飾品も数多く存在する。
天井から垂れたレースに包まれた大きなベットや、高そうなタンスに、巨大な本棚。三人ほど座れそうなソファーに、ガラスで出来た机が置かれている。
「ここは私の部屋になります。あまりジロジロ見られると恥ずかしいのですが……」
「ご、ごめん……」
「やっぱり、先輩はムッツリスケベなのだ……」
柊から冷たい目を見けられているが、気にしない事にした。あんまり深く否定すると、さらに疑いが深くなりそうだ。
「それでは、色々話したい事がありますが……とりあえず、お二人のお名前を聞いてもよろしいですか?」
「そう言えば自己紹介がまだだったのだ!」
確かに、三人の名前は聞いたが、俺たちの名前を伝えて居なかった。あの時は、眼下の風景などに圧倒されて、そこまで回らなかった。
「我の名前は、柊つかさなのだ!!」
「俺の名前は、星野航です」
ありきたりな自己紹介を行う。本当は趣味なども言った方が良いのだろうが、特に無いので仕方が無い。
「ワタルにツカサですね。覚えました」
「私も覚えた二ゃ!」
王女様は少し微笑み、アーニャは耳をピコピコさせている。
「それで、王女様はどうして俺たちをこの世界に呼んだんだ?」
自己紹介が終わり、本題に入る事にする。王女様がこの世界に召喚したという設定ならば、王女様から物語を完結させる方法を聞ける可能性は高い。
聞けないにしても、何かしらのヒントになる可能性は非常に高い。王女様自体に目的がなければ俺たちを呼んだりしないだろう。
何を望んでいるのか知る事は、この先俺たちがどう行動していけば良いのかという事が分かる。これはかなり重要な事だろう。
「王女様というのは辞めてください!私の事は気軽にフィアナとお呼びしてください」
「いいのか?」
「本人が言うのだから問題ないです!もし言わなければ……お二人の事を勇者様と呼びますよ?」
楽し気に笑う顔は、少し六花さんに居てるような気がする。それにしても、勇者様なんて言われると、背中がむず痒くなってしまうので、辞めて欲しい。
「わかった、フィアナとーーー」
「勇者様!!カッコ良いのだ!我はそれでも問題ないのだ!!」
呼ばれるのが嫌だからこそ、王女様の事をフィアナと呼ぼうとしたにも関わらず、興奮気味の柊は勇者様と呼ばれる事を望んでいる見たいだ。そんなに勇者なんて言われるのが良いか?
「そ、そうですか……」
流石にフィアナも困った顔をしている。俺の方に視線を向けてきたので、助け舟を出す事にした。
「俺は嫌だから、普通に名前で呼んでくれ。柊の事も名前で頼むよ」
「わかりました!」
「むぅ……」
柊は納得してなさそうに頬を膨らませていたが、何も言わなかった。優しく頭を撫でると、膨らませていた頬も直ぐに元通りになった。
「では、どうして勇者降臨の儀を行ったか?という質問でしたが……その前に、この世界について少し話をしてもいいですか?」
「その方が良いと思う二ゃ!知らない事ばかりだろうから、少しでも知識はあった方が良い二ゃ!」
確かに、俺たちはこの世界について何も知らない。知って居る事と言えば、ファンタジー世界だという事だけだ。
この物語がどういう物語なのか?その事を再度知って居た方が、今後に役立つ可能性もある。
「わかった。教えて欲しい」
「我もこの世界について教えて欲しいのだ!」
「わかりました。それでは、教えますね……そちらにお座りください」
フィアナに言われたソファーに俺たちは腰を下ろす。知ってるソファーとは材質から全く別物だが、物凄くふかふかして柔らかい。座り心地は最高だ。
フィアナは近くある本棚から、一冊の分厚い本を取り出し、対面に座る。
その間にアーニャは、素早い動きで飲み物を用意した。慣れた手つきを見るに、給仕も行っているのだろう。
「まず、私たちの世界の魔術について説明します……」
「魔術なのだ!?やっぱり、異世界召喚では鉄板なのだ!」
「……柊。話が進まないから後にしてくれ……」
魔術と聞いて、さらにテンションが上がる柊を見て、フィアナとアーニャは微笑む。そんな反応をしてくれるのが嬉しいようだ。
「まず、私たちには魔力心と呼ばれる魔力を作りだす事が出来る場所があります」
自分の手を心臓とは反対側に当てて、魔力心がある場所を説明してくれる。
「この魔力心にある魔力を使って、魔術を発動させる事が出来ます」
誰も居ない方向に手を翳し、フィアナは目を瞑り、口を開く。
「炎よ、我の下に発現せよ」
その言葉を呟くと、翳した手から魔法陣が展開され、ガスコンロから出るほどの炎が生まれる。
「おおおお!!!」
当然のように初めて生で見る魔術と呼ばれる不思議な力に、柊は前のめりになり、フィアナを見つめている。
「こんな感じに魔術を使う事が出来ます」
翳して手を下ろすと、炎も同時に消える。本当に画面の中で見るような能力だった。流石にこれには俺も少しだけ興奮してしまう。
「そして、この魔力心には、魔力の総量というのが決まって居ます。私は百二十で、アーニャは二百といった感じで数字化できます。高ければ魔力総量が多いという事になります」
実際に数字を聞いても高いか低いかはわからないが、とにかく魔力総量というのが大事だというのは理解できる。
これが少なければ、使える魔術の幅もかなり激減してしまうのだろう。
「それで、先ほど唱えた詠唱ですが……これには決まりはありません」
「どういう事なのだ?」
「自分が唱えやすい詠唱で良いという事です。自分が使う魔術ですから、自由に詠唱をしていいという事になります」
「適当に言って発動するという事か?」
「いいえ、違います……そうですね。自分が使う魔術をイメージしやすい詠唱を唱えるのです!」
「なるほど!わかったのだ!!炎の魔術が使いたい時は自分がイメージ出来る詠唱で良いという事なのだ!」
「そういう事ですね。自分が炎を使う!というイメージが出来れば、どのような詠唱でも構いません」
ようは、雷を扱う魔術を発動する時は、自分がその魔術を発動するためのイメージの詠唱を言えば良いという事だろう。
「そして、使える属性ですが……これには制限がありません」
「なんでも使えるのか?」
「原理的にはそういう事です。ただ、魔力を媒体にして発動する物なので、魔力心にある魔力で行える魔術のみに限ります」
「自分の魔力量によって、様々な魔術を扱える事から、魔術では無く、一般的にはデザイアと呼ばれる事が多いです」
デザイアーから取ったものだろう。自分が抱いた欲望や願望を魔力を使って、使用する事が出来るから、そのような名前で呼ばれるのだろう。
「魔術って言うのは昔の言いかた二ゃ!今はデザイアで通って居るの二ゃ!だから、二人もデザイアって呼ぶと良いの二ゃ!」
魔力量が多ければ、大魔術も使えるという事だろう。逆に魔力を使う練習などしなくても、自分の中でイメージさえ出来ていれば、簡単に行る事が出来るという意味では無いだろうか?
「そうですね……ちょっと、待ってくださいね」
ティアラはそういうと立ち上がり、両手をお腹の前に出すそして手の平を上に向けて、目を瞑る。
「炎雷よ、私の下に発現せよ」
再び詠唱を行うと、左右の手に小さな炎と雷が現れる。同時に二つの属性を扱っているという事だろう。
「こんな感じに、魔力量に比例して、色々な事が出来るようになります。別に四台元素を出すだけではなく、身体強化を行ったり……魔力が尽きな限り、自分が望んだ事は何でもできます」
「ただ、透明になったり、覗きをしようとしても無駄二ゃ!そういう場所にはデザイア無効にされる物がある二ゃ!それを遠くからデザイアを破壊する事も出来ないようになってる二ゃ!」
「なるほど…………」
そのデザイアという物については理解出来た。丁寧に足得てくれたおかげで、分からない事も一切ない。
「ここまでは大丈夫ですか?」
「全然問題無いのだ!」
「俺も大丈夫だ」
「そうですか。それでは、次はこの国の成り立ちや、生活に必要な知識を教えますね」
そういって、フィアナは自分で持ってきた分厚い本を手に取った。




