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異世界召喚物なのだ!!

 文化祭が終わり、俺たちは片づけを行う。静奈さんから頬にキスされた件は結局うやむやになってしまった。


 俺的には物凄く嬉しい出来事であるのは間違い無いが……みんなの視線が鋭く、冷たい物だったのは言うまでも無い。


 そんな嬉しい出来事から、さらに嬉しい事が起こった。キスが理由かは全く分からないが、静奈さんのお見合いは無くなったのだ。


 それだけではなく、今後お見合いはしなくて良いと言われたらしい。静奈さんも驚いたようだった。


 全部静奈さんから聞いただけの話なので、他に何かあるかもしれない。しかし、静奈さんが求めていた結婚の自由は約束される事になった。


 静奈さんが物語りの世界に行く理由は無くなったが、そんな事関係なく、一緒に物語を集めてくれるようだ。ちなみに六花さんと一緒で、留年はするらしい。


「ありがとうね!航君!」


 笑顔で言ってくれたお礼だけで、彼氏役をやった俺も嬉しい。静奈さんが自由に選べるようになって、ほっとしている。


 こうして、当然の出来事から彼氏役になったが、無事に終わった事になる。


「ふぅ……」


 今日出来る片づけを終えた俺は、部室に向かう。劇の片づけは後日に行う事になっているので、今日は行って居ない。


 クラスの出し物の片づけをしていたのだ。明日は休みになるが、教室が文化祭仕様のままだと、授業が出来ない。だから、先にクラスの出し物から片づけを行う事になっている。


 特に用事は無いのだが、誰か居るのでは無いか?と、そんな根拠の無い考えを抱きながら俺は部室に行く事にした。


 ちなみに今日は、部活には集まらない事になっている。各自で片付く時間が変わるためだ。それに時間も遅くなるのも理由の一つになる。


 空は既に暗くなり始めている。そんなに時間が掛からない内に日は落ちるだろう。そんな空を見ながら、部室に到着した。


 予想通り……と言うかなんというか、部室は空いていた。集まらない事になっているのに居るのに部室に来る物好きが居る見たいだ。俺も全く人の事を言えないけど。


「あれ、柊か?」


 部屋の中を覗くと予想外の人物は居た。てっきり、居るとしても静奈さんか六花さんだと思って居たからだ。柊が居るとは思いもしなかった。


 彩は教室の片づけが終わると同時に、眠いと欠伸をしながら先に帰ったので、居ない事は知って居た。


「一体どうしたのだ?忘れ物でもあったのだ?」


「いや、特に理由は無いよ……誰か居るかもしれないと思って覗きに来たんだ」


「物好きなのだ!」


「柊も人の事言えないだろ……」


「それもそうなのだ!航先輩と同じ物好きなのだ!」


 柊は部室に持ってきた劇の小道具を見つめていた。みんなが私物で持ってきた物は持って帰って居るだろう。


「終わった後は少し悲しくなるのだ」


「確かに……その気持ちは分からないでもない」


 何か楽しい事が終わった後と言うのは寂しくなる。でもそれは、その出来事を楽しんだからこそ思う気持ちだと思う。


 柊も俺も文化祭という行事を楽しんだのだろう。それに柊にとっては、学校で始めての文化祭だ。楽しくない訳が無い。


 占い?でもノリノリだったし、劇でもアドリブを急に入れるほどテンションが上がって居た。相当楽しんだだろう。


「物凄く楽しかったのだ。占いも、劇も……あんな風に出来るのは、文化祭のようなイベントじゃないと難しいのだ」


「普段から結構していると思うけど……」


「普段は大声で叫んで、剣を振り回したりしてないのだ!流石にそんな事しないのだ!」


 確かに柊は言葉だけで、あまりそういう行動をしたりしてない気がする。まぁ、普段から常習的にしているのならなばそれはそれで問題だが。


「あんな風にもう一回楽しみたいのだ……」


 感慨に浸りながら言った言葉。その言葉と同時に俺たちは膝を折り、地面に倒れる。強烈眩暈と共に頭痛が襲ってきたからだ。


「眩暈が凄いのだ……」


「ああ、間違いない……」


 そう、物語が開く時の合図だ。俺だけではなく、隣の柊も同じような状況なので間違いないだろう。


 六花さんと静奈さんも同じ体験をしているはずだ。物語が開く時は全員にこういう現象が起こる。帰り道などで襲われて居ないか?など少し心配になる。


 男の俺が頭痛と眩暈で膝を折るほどの痛みだ。女の子であるみんなが耐えきれる訳が無い。というか、それにしてもーーー。


「今回はやけに長いのだ……」


 柊の言う通り今回の頭痛は長い。これほどまでに長いのは初めてだ。そして、もう一つ初めての事が起きる。


「おい、柊……」


「ど、どうしたのだ……」


「扉が……」


 柊は視線を部室にある扉に向けると、目を見開く。誰も触って居ない扉が勝手に開こうとしているのだ。


 そして、頭痛により何も出来ない俺たちは、扉がゆっくりと開くのを確認した。


 そこで、俺の意識は落ちたーーー。


************


 閉じた瞼の先から眩しい光を感じ、俺の意識は覚醒していく。


「うぅ……」


 隣から柊の声が聞こえた段階で、俺は目を開く。二人だけで物語の世界に来たようだが……近くに居て良かった。


「-------」


 立ち上がった俺は、まともに発する事が出来なかった。目の前に映る風景は、今まで見た事が無い風景で……。


「柊……大丈夫か?しっかりしろ」


 隣で倒れている柊の体を揺すり、起こす。小さな声と共にゆっくりと瞼を開いた。


「見てみろよ」


「どうしたのだ……」


 目を擦り、体を起こして目の前の風景を見た柊は目を見開いた。


「-------」

 

 その風景を前にして、俺と同じように言葉にならなかったようだ。それほどまでに、あり得ない光景が広がって居たためだ。


「島が浮いているのだ……」


 そう、晴れ渡る空に白い雲……台地から切り取ったような巨大な島が浮いている。それに、近くを飛んでいる鳥が、物凄く大きい。鳥と表現すること自体が正しいのが疑問に思えてくるほどだ。


 浮かんでいる島から滝のように水が流れたり……飛空艇のような物が飛んでいたりと……完全に別世界だった。


「今気が付いたけど……俺たちが居る場所も浮かんでるな」


「本当なのだ……」


 俺たちが居る場所も、他の島と同じように浮かんでいる島の上だった。しかし、他と違うのはこの場所の雰囲気だ。


 足元には魔法陣のような物が描かれており、四方には全く読めない文字が書かれた柱が四本。その柱の上にはダイヤモンドよりも綺麗に磨かれた石の屋根。祭壇のようになっており、階段もある。


 人工的に作られたように見るが……それは全く分からない。しかし、何か幻想的で、特別な場所だというのは容易に理解できる。


「見渡す景色も物凄いな……」


 俺たちが居た世界よりも遥かに空気が澄み渡り、眼下には綺麗な緑をした木々が生えている。


 遠くには見た事が無いほど立派な城も見える。これは疑う余地も無いだろう。


「間違いなのだ……これは異世界召喚物なのだ!!!」


 今までの物語も俺たちにしたら異世界のような場所だったが、今回はそれとはまた違う。


 今、ラノベで大人気を博しているジャンル……突然異世界に転生や、召喚されるというジャンル。まさしく柊が言う通り、これは異世界召喚物だろう。


 浮かんでいる島や、ファンタジー世界にしか居ないような生き物……足元に浮かんでいる魔法陣や、全く読めない古代文字のような文字……もはや疑う余地も無いだろう。


「お目覚めですか?」


「!?」


 突然声が聞こえてきたので、俺と柊は声の方向に視線を向ける。


 そこには、豪華な服に高価そうな装飾品を付けた一人の女の子が居た。その隣には、兜だけは外しているが、全身を鎧で覆った巨漢な男。そして、幼い顔立ちに、小さな体をした女の子が居た。その子は頭に猫耳のような物を生やし、背後では尻尾が揺れている。


「私はメロディア大陸の王女をしております。名はフィアナ・メロディアと言います」


 綺麗な姿勢で、俺たちにお辞儀をする女の子。ピンクの髪をしており、小柄ながらも、王女にふさわしい品格を感じる。


「私はメロディア王国の騎士団長をしている、ギルバード・ドレインだ」


 巨漢の男は腰にぶら下げた剣に手を添えた後に、小さくお辞儀をする。見た事が無い鉱石で出来ているとみられる鎧を着ているにも関わらず、一切音を立てない姿はまさしく騎士と呼ばれるに相応しいように見える。


「私二ゃ、メロディア王国の情報補佐官をしている二ゃ!名はアーニャ・キャット二ゃ!」


 小柄なショートカットの女の子。耳と尻尾が無ければどう見ても人間にしか見えないが……在り来たりな設定だが、獣人なのだろうか?


「急にお呼びした事は申し訳ありません」


「だ、大丈夫です」


 これは物語の世界だとしても、この国……メロディア王国では王女様なのだ。一応敬語を使って、下手したてに出た方が良いだろう。


「それより、これは異世界召喚なのだ!?ここは重要なのだ!!」


「おい、柊……王女様だぞ……」


 話を聞いていなかったのか、全くそんな事を気にしていないのか……どちらかは分からないが、気を付けた方が良いだろう。


「大丈夫ですよ。あなたも堅い言葉ではなく、普段通りの言葉で構いません。むしろ、そうしてくれるとありがたいです」


「わかりました……いや、わかった」


 王女様から直々に言われたので、俺は普段通りの言葉にする事にした。隣に居る騎士……ギルバードに視線を向けたが、特に変化は無かったので、怒っている様子ではなさそうだ。


 物語の世界に来たという事は、必ず完結させる方法があるはずだ。それを探さなければいけない。だが、その前に王女様に対しての負罪で牢獄に入れられたのでは話にならない。


「あなたが言う、異世界召喚?というのは良くわかりませんが……私たちが、お二人をこの世界の呼びました」


「それって……」


「そうです。勇者降臨の儀を執り行い、お二人を呼びました」


 勇者降臨の儀……テンプレではあるが、俺たちはこの異世界に勇者として呼ばれたという訳になる。という事は、この平和そうに見える国に、危機が迫っているのだろう。


「勇者!航先輩!我たち勇者なのだ!そして、憧れの異世界召喚なのだ!!!」


 今までに見た事が無いテンションの柊。先ほど劇で行った事に近い出来事が起こり、興奮しているのだろう。


 それに、彩も異世界に転生したい!とかなんとか言っていた事がある。柊もそんな感じで異世界に憧れていたのだろう。


 全く知らない未知の世界に突然に呼ばれるなど、本当に起これば迷惑以外のなんでも無いが……夢の無い事は言わない事にしよう。


 とりあえず、物語を完結させる。俺たちが取る行動はそれが第一だ。


「ここではなんなので、メロディア城に行きましょう」


 王女様の言葉に俺たちは頷き、その場から階段を下りて、三人の居る場所に向う。


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