文化祭終了
「あんな嘘に騙されるほど、儂は甘くないわ!」
文化祭当日に、静奈のおじいちゃん……孝則は使用人が居る部屋の中で叫んだ。
そう、孝則は静奈と航が付き合って居ない事を知って居た。大好きな孫娘の事をずっと見ていたのだ。あんな小さな嘘で騙されるほど、馬鹿ではない。
それに、仮にも一つの家の家主……それも普通の家ではなく、昔から存在する家だ。そんな家主がバレバレの嘘に騙されるはずなかった。
他家との話し合いなども今まで存在した。孫娘の嘘を見破れないのでは話にならない。
「なぜ、その時に言わなかったんですか?」
嘘だという事を知って居る松本は、そう孝則に聞く。松本は完全に口を割って居た。
「仕方無いじゃろ……あの場で言っても、付き合って居るの一点張りは目に見えておる」
「確かにそうですね」
松本も静奈の性格を知って居るからこそ、同意する。簡単に言った事を曲げて、認める子では無い。
「だから、この日まで待ったのじゃ!見てからなら、嘘だというのも追及できるからのう」
一般の人に学校が解放されるのは、十時からだ。それに、静奈がクラスの出し物が終わる時刻は昼頃になる。その時間に行く事にしているのだ。
「儂が行く事によって、静奈に迷惑を掛けるのは申し訳ないからのう……」
準備だけを済ませて、行く時刻まで待つ。そして、ご飯を食べたり、仕事をしたりしている内に、時間が近づいてい事に気が付いた。
「松本、行くのじゃ!」
「わかりました」
松本の呼び、車で学校に向かう。文化祭の日は、学校の駐車場も使えるようになっている。数は少ないが、毎年空いているので、大丈夫だと知って居るのだ。
そして学校に着く。静奈がクラスの出し物の仕事を終えて、動き出すタイミングを見て、付いていく。
流石に近くで見ると、直ぐに存在に気が付いてしまうので、あくまでも遠目から雰囲気だけ見る。
会話を聞かなくとも、雰囲気だけで大体察しが付く。それに嘘だと分かっているのに、徹底して見る必要も無い。
静奈の事は物凄く気になるが、凝視するのも申し訳ない。あくまでも軽く見る程度しかするつもりは無い。
部室の前で待ち合わせをして、二人が手を繋いで歩く。満面の笑みを浮かべている孫娘を見て、孝則はすぐに気が付いてしまった。
「松本……やめじゃ。それに、お見合いの話は無しにする」
「……一体、どうしましたか?」
あまりの事に、驚きを隠せない松本は、不思議そうに聞く。言いだした事を途中で辞める人ではない事を十分に承知しているからこそ、驚いているのだ。
「あの表情を見れば、わかる。無粋な事は辞めて、孫娘を応援する事に決めたのじゃ」
「なるほど……そういう事でしたか」
孝則が見た静奈の笑顔は決して、家族に見せる物とは違う。使用人に見せる物とも違うし、友達の六花に見せる物とも全く別の物。答えは一つだった。
「儂たちは好き勝手に文化祭を見回って、静奈たちの劇を楽しむとしよう」
楽しそうに笑う静奈を見ながら、孝則は微笑む。 大切な孫娘だからこそ、幸せになって欲しいと思って居る。
お見合いの静奈の事を思って進めていた……しかし、嘘まで付いて、お見合いを断ろうとした理由がわかった。
それなら、孝則に出来る事はたった一つだけだった。
**********
劇の時間が近くなってので、俺と静奈さんは体育館に来た。そして、関係者以外立ち入り禁止の裏に入った。
「来たわね!」
「やっと来たよ!」
「待ったのだ!」
既に三人は来ていたらしく、俺たちが来た事によって全員が揃う。劇はこの三十分ほど後になる。
「小道具は私たちが持ってきたら大丈夫だよ!」
「我も手伝ったのだ!」
「二人共ありがとうね♪」
部室にあった小道具も、全て体育館の裏にあった。俺たちの代わりに持ってきてくれたのだ。
「時間通りに進んでるから、開始時間も同じになるはずよ」
「それまでにしっかり、準備しないとね!」
俺たちは劇のために、制服の姿か着替えなければいけない。俺は女装をして、静奈さんは勇者役の服を着て……と、各自の役割に沿って、服を着替える。
それと、何度も行った事だが、一応流れの確認なども行う。着替える時間と合わせるとあまり時間は無いが、仕方ないだろう。
そして、着替えを終わらせて、流れの確認をする。その最中で声がかかる。
「五分前になります!最終確認をお願いします!」
「わかりました♪」
途中だったが確認を終えて、俺たちは出番を待つ。幕があくまでに少し時間が掛かるが、それも背景の準備などになるため関係ない。
行ってくれるのは実行委員会の人達なので、俺たちは場所などを言うだけになる。
「お願いします!」
幕は下りているので、俺たちは舞台の上に行く。そこで、背景の絵などの置き場所を言い、終わるのを待つ。
「頑張りましょうね!」
「セリフ間違えないか、心配だよ!」
「きっと、大丈夫なのだ!」
「そうだよ♪いっぱい練習したし!」
「ああ、そうだな。頑張ろう!」
俺たちは、互いに微笑み合う。劇がどんな反応を貰えるか全く分からないが、頑張ったのは変わりない。
俺たちが楽しく、そして満足出来ればそれは成功なのだ。だから、楽しく頑張ろう。
幕が開く音が鳴り響き、少しづつ幕が上がっていく。まだ出番が無い人は、裏に戻る。
完全に幕が開くと、ボランティア部の文化祭、最大の見せ場がやってきた。
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劇は順調に進んでいく。勇者である静奈さんが、囚われた俺(姫)を助けに行く事を決意するシーン。
見繕った勇者の恰好で、静奈さんがセリフを言う。その表情は真剣であり、本気で取り組んでいるのが分かる。
「私が助けに行かないと!姫を魔王の元から!!」
勇者の剣を高らかに掲げ、セリフを言う。本当は勇者の剣を探し出す所から行うつもりだったが、時間が足りない事に気が付き、省いたのだ。
元々勇者の剣を持っているという不自然さは否めないが、こればかりは仕方が無い。
『勇者静奈は、囚われた姫……航を助けるために、魔王城に向かう事を決意した』
六花さんのナレーションが入り、場面は動く。舞台が暗くなり、実行委員の人が、勢いよく場面を変える。そして、終わると舞台が明るくなる。
『勇者は魔王城を目指し、歩く。そして、向かう途中に穏やかな村に着いた』
彩のナレーションが終わると、勇者静奈は歩きながら舞台の真ん中に行く。
「のどかな村だな……休憩がてら寄って行くか」
村に寄って行く事を決めた勇者静奈。すると、一人の村人が来る。
「その恰好はまさか……あなたが勇者様!?」
村人の恰好をした六花さんは、勇者静奈に近づく。女の子という事もあり、どうみても善良な村人に見える。
「その通りだけど……どうして知って居るの?」
「姿を見れば誰でもわかりますよ!」
「そうかな……確かに派手な恰好はしているけど……」
「それにその剣!その剣は勇者の剣のデスブリンガーじゃないですか!」
どう考えて勇者が持つ剣の名前ではないが……ここは柊が恰好良いという理由で、絶対に譲らなかったのだ。
その村人に連れられ、村の中に入るが、勇者静奈は可笑しな事に気が付く。
「村人が居ないようだけど……」
『勇者静奈が言う通り、この村には全く人の気配が無かった。のどかな街並みなのは確かなのだが……』
俺はナレーションを入れ、再び劇に目を戻す。
「そりゃ、そうですよ……」
村人は勇者の方を向き、大声で告げる。
「私が殺したのだから!」
実行委員会に伝えていた通り、シリアスな音楽を流してもらい、場の空気を変える。
「私……いや、我は、魔王様の忠実な下部!魔王軍幹部のシナプスだ!!」
その言葉と同時に照明が落とされ、激しい音楽に変わる。戦いのシーンを音楽で再現しようとしたのだ。
魔王軍幹部と勇者静奈の戦いは激しさを増す。実際に戦いのシーンが激しい訳では無いが、そう表現するBGMや、効果音を入れる。
「我の村を滅ぼした化け物め!我の力で滅ぼしてくれる!!」
急に幹部の後ろから、柊が登場する……あれ、台本と違う。
この後は、勇者静奈が無事に魔王幹部を倒し、そして近くに居た村人である柊が仲間になるという台本だったはずだ。
ちなみに、柊は普通の村人なのに、補助魔法を使えるという謎設定だったはずだが……。
六花さんと静奈さんも台本と違う展開に、何が起こっているのか分からない様子だ。俺の方を見て、視線で何を伝えようと送ってくるが……このまま行くしかないだろう。
俺は視線を送る六花さんに出来る限り笑顔で、OKと手で合図した。
勿論困った顔をしていたが……劇を途中で止まる訳には行かない。これからはアドリブになるが、頑張ってもらうしかないだろう。
「我に与えられし力!晴天の加護、天空の加護、仙人モードなのだ!!」
「一つだけもろにパクってるのは、問題だってばよ!!」
俺たちにしか聞こえない声で彩が言う。確かにモロにパクってるが、そこは気にしない事にする。
「そして、我のこの聖剣ーーー約束された勝利の剣で、貴様を八つ裂きにしてくれるのだ!!」
一本しか買って居ないはずなのに、なぜかもう一本剣を持っている柊……理由はわかならいが、持参したのは間違いない。
「エクスカリバー!!!」
物凄い声で、剣を振るう姿は、まるで某英霊のような姿でーーーそんな訳がなく、小学生が勢いよく木の棒を振るうような姿だ。
「うわぁぁぁぁ!」
柊の暴走を止める術は既に無い。六花さんはここぞというばかりに、やられる事を選択した。そして、舞台の裏に退散してくる。
「あれは一体何かしら……」
「さぁ……柊が暴走している事だけはわかりますけど……」
「そうね……私にもそれは理解出来るわ……」
六花さんの出番はこれで終わりだ。だが、勇者静奈の冒険はまだ続く。
「我も一緒に魔法を倒しに行くのだ!」
「そうだね!一緒に倒しに行こう!そして、姫を救出しないと!」
勇者静奈と元村人である柊は、互いに剣を携え、魔王が居る魔王城に向かう。既に剣の名前だけならば、完全に柊が勇者なのだが……そこの設定は変えるつもりは無いらしい。
台本と違う展開になったが、とりあえず元の路線に戻ってきたので、俺はナレーションを入れる。
『こうして勇者静奈は、力強い仲間と一緒に魔王城に向かうのだった』
舞台が暗くなり、実行委員の人が再び準備をする。そして、姫である俺も出番が近くなったため、スタンバイする。
「ここが魔王城か……」
それっぽい音楽を流し、魔王城の雰囲気を出す。頑張って書いた絵の効果もあってか、それっぽく見えるかもしれない……。
「はやく魔王を倒すのだ!」
「我を倒す??グハハ、笑わせるな!」
「!?」
どこからと聞こえてくる魔王の声。そして、黒いマントを靡かせて、魔王彩が登場する。
「幹部を倒したのは、流石勇者と言わせてもらうが……我に勝てる道理は無い!敗北を認めるなら、命だけは見逃してやろう……!」
「うるさいのだ!!倒すのだ!!」
勇者である静奈さんが話すシーンだが、柊は暴走しているため、一人で話続ける。静奈さんも何も言わずに、柊に言わせている。
「我の仲間を呼ぶのだ!!いでよ!!賢者六花!!」
「え?私!?」
完全に出番が終わったと思って居た六花さんが、柊に呼ばれて慌てている。だが、呼ばれたからには出るしかなく、村人の恰好で出ていく。
「き、貴様……裏切ったのか!」
ノリが良い彩は、その場の空気に合わせて、自分のセリフを変えていく。案外、こういうのが得意なのかもしれない。
「違うのだ!幹部は賢者に転職したのだ!!」
「て、転職??」
「そうなのだ!!ダーマの神殿に行けば、簡単に転職出来るのだ!!」
「そ、そうなのか……」
魔王幹部から急激に賢者に転職した六花さん。一体あの短い間何があったのか不明だが……気にしない事にする。
「だが、三人になった所で、何が出来る!我の真の姿を見よ!!」
展開は違うが、魔王が真の姿に変身するシーンだ。ここは静奈さんが驚くシーンだが……。
「今なのだ!全員で畳みかけるのだ!」
「え!?ちょっと待って!!」
「待たないのだ!エクスカリバー!!」
敵キャラの変身シーンを待たないという全く隙の無い完璧な勇者の味方。もはや、勇者は完全に柊になっているが、このまま進むしか無いだろう。
「私の力を思い知れ!!食らえ!!」
「私もやるわ!!」
勇者とその仲間、そして転職した元幹部により、魔王は何もする事が出来ずに、ボコボコにされる。
『そして、勇者たちは、魔王を倒したのだった』
ナレーションを入れる人が居ないため、俺が急遽入れる事になった。そして、劇はそろそろ終わりを迎える。
扉を開ける効果音を出す。その中には女装している俺が地面に捉えられていた。
「なんか、不細工な姫なのだ……我たちは外で待ってるのだ」
柊のひどい言葉に、会場はクスクスと笑い声が聞こえる。後で絶対に何かしてやる……。
「姫!大丈夫ですか!?」
「はい~~」
声を高くして、女の子のように出してみるが、当然のようにガラガラの男の声になった。
「良かった……心配しましたよ!」
すると、静奈さんは座って居る俺を抱きしめた。そして、耳元でささやく。
「イオンで言ったご褒美の事覚えてる?」
「はい……覚えてます」
静奈さんがなぜか俺にゴスロリの衣装を着させようとした時だ。あの時は、ご褒美という言葉に完全に踊らされた。
「今、ご褒美上げるね……」
と、その言葉と共に、俺の頬に柔らかく、温かい物が触れるーーーー。
「え」
「え」
「え」
「え」
「ええええええええええええ!!!!」
その場に居た静奈さん以外の四人と、会場が一つになった。俺は静奈さんにーーー。
「あれはなんなのじゃ!!可笑しいのじゃ!!静奈儂にもしてくれ!!!」
体育館の客席から、静奈さんのおじいちゃんが声を上げているのが聞こえる。だが、その声も空しく、幕が下りてくる。
一体どうしてこんな事になったが、全く理解出来ていないが、確かにご褒美だった。
そう、静奈さんは俺の頬にキスをしたのだーーー。
そんな物凄い出来事が終わり、俺たちの文化祭は終了した。




