始まる文化祭
二人の後を追跡すると、フードコートに着いた。六花は携帯で時間を確認すると、良い時間だった。
そういえば、追跡するという事は……お昼を食べる時間は三人には無いということだ。今更それを思い出し……六花は口を閉ざした。
二人に説明するにもどうすればいいのか分からない。朝ごはんは食べてきただろう。しかし、お腹が空いても可笑しくない時間だ。実際に六花はお腹が空いている。
「やっぱり、人が多いね……」
「それは仕方が無いのだ!この時間は皆、贄を求めてこの場にやってきてしまうのだ!」
「そうだね!けど、二人とも座れるのかな……どう見ても席が空いているようには見え無いけど……」
「確かにそうなのだ!」
彩とつかさは、フードコートを見渡すが、空いている席があるとうには到底見えない。
「ひとまず、後を追いましょうか?」
六花の言葉に二人共頷き、付いていく。しかし、席が見つからないので、航と静奈は困っている様子だ。
だが、静奈が外にある席を見つけ、なんとか座れるようになった。三人も近くにあるベンチに腰を下ろし、二人の様子を見る。
「お腹が空いたのだ……」
「彩もだよ……お腹と背中がくっつきそうだよ!」
「我にはそうは見えないのだ」
「そんな真顔で言わないで!大げさに表現しただけだから!」
三人は何を食べるか決めている二人を見ながら、待っていた。そして、カップルに人気があるお店にする事が決まり、席を立つ。
「ここに戻ってくるだろうし、ここに居ましょうか」
「そうですね……」
「我も居るのだ……」
お腹が空いてあまり動きたくない三人は、お店に行く二人をベンチから見送り、待つ事にした。
席を取っているので、ここに戻ってくるのは確実だ。待っていても戻ってくるなら、問題無いだろう。
『良かった♪それじゃ……私、これを食べたい♪』
ベンチに座りながら航と静奈の会話を聞く。どうやら食べたい物が決まったようだ。
「ところで、カップルに人気があるお店なんて、ここにあったかしら?」
六花は、不思議そうに二人に聞く。歓迎会の時にはそんなお店は無かったはずだ。少なくとも、六花の記憶には全く無い。
「我も全く知らないのだ!ここに来るのは久しぶりなのだ!」
「彩は知ってましたよ!と言ってもクラスの友達から聞いただけですけど」
「恋人が居ない私たちには、あまり関係ない事だものね……」
「なんだか、悲しい気持ちになるので、辞めて欲しいです!」
実際に居ないのだから……と、彩は思ってしまったが、それも悲しくなるので考える事をやめた。
『一本のスプーンで……あーんしながら?』
航の声が聞こえてくると、三人は別々の反応をした。六花は冷たい視線になり、彩は悔しそうな顔になり、つかさはどうでも良さそうな顔をしている。
「なんだか、物凄くうらやまーーーうんん、恥ずかしい事をしようとしてない!?」
「彩……どうして言い直したの?完全にバレてるわよ」
「なんだか、こうして後をつけているのが、馬鹿らしく感じるのだ……」
本来はカップルらしく振舞えているか?というのを確認するために始まったオペレーションストーキングだったが、ほとんど意味が無いように思えてきた、つかさだった。
三人は付き合って居ない事を知ってる。しかし、知らない人が見れば、間違いなくカップルに見えるだろう。これはもう間違いないと三人は思う。
「そうね……お腹が空いたし、食べる所を見たら辞めましょうか……面白い事も起こりそうにないし……」
「そうですね。ずっと、付け周る訳には行きませんし……」
「我もお腹空いたのだ。もう良いと思うのだ」
こうして、航たちが食べ終わると、二人の後をつけるのを辞める事が決まった。
二人がイオン中に入ってから、しばらくすると戻ってきた。航が一人で食べるには大きなオムライスを持っていた。
席に座った二人だったが、暫くオムライスに手を掛けなかった。理由は分からないが、三人は食べ始めるまで、見ていた。
『それじゃ……言い出しっぺの私からするね……』
そんな静奈の言葉で、その沈黙は終わる。そして、一本しか無いスプーンに手を掛ける。
『航君……あーん』
恥ずかしそうな静奈の声が聞こえると、航と静奈はあーんをした。
「…………」
そんな二人の甘々な様子を見ている三人。心の中は一体何をしているのか?そんな思いしか浮かび上がってこなかった。
二人は特に会話も無く、そんな甘々な光景を続ける。三人はジト目でそれを見続ける。心の中は無の状態だ。
周囲の人達も、二人の光景を見て、様々な反応をしていたが、三人ほど心がこもって居ない目をしている者は居なかった。
そんな光景を無で見続けていると、オムライスはほとんど無くなる。ふと、そんな時に航が急に立ち上がる。
「どこに行くんだろ……」
「絶対にトイレなのだ!」
「って、こっちに来たわ!」
六花の言う通り、航は六花たちの元に一直線で来る。この行動で三人は察した。
後を付けていた事が完全にバレたという事にーーー。
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「一体何をやってるんですか……」
俺は怪しげな三人……もとい、六花さん達に声を掛けた。今まで全く気が付かんかったが、明らかにボランティア部の三人だった。
「ダレカトカンチガイネ」
「ソウナノネ、アヤタチハケッシテヘンナモノジャナイノネ」
「ワレハチガウノダ。マチガエナノダ」
「…………」
物凄く無理やり誤魔化そうとしている三人に、苦笑いしか出なかった。流石にその誤魔化した方には無理があるだろう。
俺は静奈さんを手招きで呼んだ。席を立ち、駆けつける静奈さんは、満面の笑みだった。
「六花……何か言う事は?」
ニコニコと……怖い笑みを浮かべる静奈さん。完全に怒っている時の静奈さんだった。
可愛らしい笑みをしているにも関わらず、全身から鳥肌が立つほどの圧力。某、金髪の戦士とも戦えそうなほどの戦闘力をだ。
「ごめんなさい……」
その前では、六花さんだろうと関係ない。問答無用で、謝罪させる。柊と彩も申し訳なさそうにしている。
「あ、二人は気にしなくてもいいよ♪どうせ、六花に言われてだろうし」
「そんな事ないわ……いえ、私が悪いです。だからそんなに睨まないで欲しいわ!」
六花さんが何か言おうとすると、冷たい目で見つめる静奈さん。これは特殊な性癖の持ち主たちが大喜びしそうだ。
「申し訳ないのだ……」
「ごめんなさい……」
素直に謝る二人に、静奈さんはいつもの笑顔を浮かべて、頭を撫でる。本当に二人には怒って居ないようだ。
まぁ、今回は明らかに六花さんが企画したのだろうと想像できる。場所も時間も指定したのは六花さんだ。
「ちなみに、そのイヤホンのような物はなんだ?」
三人の耳を良く見ると、イヤホンのような物を付けている。流石に音楽を聴いているという事は無いと思うが……まさか。
「六花?それは何かな?」
「これは……そう!あれよあれ!あれよね!?」
視線を逸らして、焦っている六花さん。この反応で確信を持った。
「六花さん……流石に誤魔化すのは無理なのだ!」
「彩もそう思います……」
こうして、六花さんの口から、イヤホンが何かを聞いた。俺の予想通りの物で、静奈さんは顔を真っ赤にしていた。
「もしかして……今までのずっと聞いてたの?」
「はい……」
流石に申し訳なさそうにする六花さん。ベンチの上で正座をさせられている。
「全部聞いてました……」
静奈さんは恥ずかしさから、顔を手で覆った。今までの行動などが三人には筒抜けだったのだ。
俺も少し恥ずかしいが、静奈さんはそれ以上だろう。ゴスロリの件とか、オムライスの件とか……色々恥ずかしい事がある。
「ごめんなさい!もうしないから……ね?」
「当たり前だよ!もう……次は無いからね?」
「わかってる。もうしないわ!」
怒って居た静奈さんだったが、今回だけという事で六花さんの事を許した。まぁ、流石に静奈さんに言われたのならば、もうこんな事はしないだろう。
「今度、ジュース奢ってね♪」
「何本でも奢るわ!」
こうして、俺と静奈さんのデート練習が終わり、五人でイオンを周る事になった。
色々なお店を見たりして、帰り際に、文化祭に必要な物を購入して、帰宅した。
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俺たちは文化祭に向けて、準備をする。劇の練習は勿論の事、クラスの出し物もある。時間は長いようで短い。
作らないといけない物を多くある。まずはこれを完成させなければ、劇は出来ない。練習をしながら、優先的に終わらせていく。
デートの練習としてイオンに行って以来、物凄く忙しい毎日を送っている。
放課後は確実に残り、土日も集まって文化祭の準備を進めていく。土日はクラスの出し物の方に行かなくても大丈夫なので、そこで劇の方を進めていくのだ。
「その調子なのだ!頑張るのだ!!」
「やっぱり、セリフ覚えるのは難しいよ……」
劇のセリフを覚えたりするのは物凄く難しい。普段はしない慣れない事をしているから、余計にそう感じてしまうのだろう。
「けど、準備段階が楽しいわね!」
「そうだね!わくわくするよ♪」
前も思ったが、準備段階が楽しいというのは物凄くわかる下手をすれば、本番以上に楽しい。
クラスの出し物に関しては、喫茶店を行う事に決まった。男子が裏方をやって、女の子が接客をする。男がするよりも、その方が確実に良い。俺も男にされるより、女の子にされたい。
「航君!うまくいきそう?」
「なんとか出来そうです!」
絵の下書きを描くと決まった時は、本当にどうなるかと心配だったが、書き始めると案外いける物だ。難しい事であるのは間違いないが、みんなと一緒に準備するのであれば、楽しい。
文化祭の準備に明け暮れる日々。その中で物語の世界に行く機会が無くて良かったと少しだけ思って居る。
物語の世界に行っている時はこちらの世界では時間がほとんど経過しないので、時間の問題は全く関係ないが、やはり疲れてしまう。
花恋と一緒に暮らすためには物語の世界に行かなくてはいけないが、今は目の前の文化祭に集中したい。
花恋は大切な家族で、大切な妹だ。今すぐにでも一緒に暮らせるようになりたいと思って居る。しかし、物語の世界に行くのは、俺たちの意思ではどうする事も出来ない。だからこそ、目の前の文化祭に集中したいのだ。
花恋も大切だが、静奈さんも同じように大切なのだ。変な意味ではなく、ボランティア部の部員としてだ。
卒業後と約束していたはずのお見合い。静奈さんが、同意しての事であれば俺が口を挟むまでも無いが、今回はそうでは無い。
全く無関係な俺が口を挟んでいい問題では無いと思うが、放っておけない。なんとしても、阻止しなければいけない。
そして、時間は過ぎ去り、準備は順調に進んでいく。ついに、文化祭の当日を迎える。
静奈さんが人生が決まるかもしれない日が、ついにやってきたのだーーー。




