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仙道家ヘ!

 そして、静奈さんの家に行く土曜日になった。


 カップル(仮)になった日の夜に、静奈さんに色々聞いたが、特に何かしてこなくても大丈夫と言っていた。服装もそのままで大丈夫見たいだ。


 午前十時頃に恒例の駅前で待ち合わせをして、静奈さんの家に行く事になっている。静奈さんのおじいちゃんが、この時間ぐらいに来て欲しいと言ったようだ。


 駅前で静奈さんと合流して、家に向かう。今ままで門しか見たことがなかった場所に入れるのは、少し楽しみな気持ちもある。だが、今回は楽しみよりも緊張が遥かに大きい。


「緊張してる?」


「少しだけ……」


 本当は少しどころでは無いが、そう言ってしまうと静奈さんは申し訳なさそうにするはずだ。だからここは、少しだけという事にした。


「ありがとうね♪物凄く緊張しているのは、顔を見ればわかるよ♪」


 笑顔でそう言う静奈さんは、普通に気が付いている見たいだ。なんだが、物凄く恥ずかしい。


「けど、緊張なんてしなくても大丈夫だよ♪航君なら、普段通りで大丈夫だよ♪私が保証するよ♪」


 そう言われても、緊張するものは緊張する。普段通りで良いと言われても、意識して普段通りにするとあえて変になってしまう。けど、意識しないのは難しい……。本当にどうしたらいいのだろうか。


「全然緊張ほぐれないね♪それなら……」


 と、笑顔で静奈さんは俺の手を掴む。俺よりも少し小さな手を恋人繋ぎで繋ぐ。柔らかな手の感触は物凄く心地が良い。


「私たちは今、カップル(仮)なんだから、こうしとかないと不自然だよ♪航君が嫌だったら、無理は出来ないけど……」


「全然嫌じゃないです」


 むしろ、ありがたいぐらいだ。東京でも罰ゲームという形で手を繋いで一緒に歩いた。だが、その時よりも緊張する。これが、カップル(仮)の効果なのだろうか?


「良かった♪家の中にも手を繋いで入るからね♪」


「わかりました。そっちの方がカップルぽく見えますしね!」


「そういうことだよ♪」


 確かに手を繋いでいた方がそう見えるが、俺はこの柔らかな感触を手から離したくないというもの理由の一つだった。


 自分の手を握ってもこんなに柔らかな感触はしない。女の子特有の柔らかさだろう。


 それから、十分ほど歩くと静奈さんの家に着いた。大きな木造の門があり、周りは塀に囲まれている。面積だけでも家が大きいのは誰でもわかる。


 脇戸の鍵を開けて中に入る静奈さん。俺も静奈さんと一緒に中に入る。


「大きいな……」


 中を初めて見る俺は、真っ先にその感想しか出て来なかった。大きい事は見なくてもわかっていたが、こうして見てみると大きさが実感出来る。


 俺と家とは違う木造の作りで、いかにも昔の家という感じの家だ。竹ぼうきなどで掃除をしている光景が目に浮かんでくる。


「何も無い家だけど、広さだけは一品だよ♪」


「そんな事無いですよ」


 何があるのかは全く知らないけど、俺はこういう雰囲気の家は嫌いでは無い。いや、どちらかで言えば好きな部類に入る。木造の家で、木の香り包まれて送る生活をしてみたい。


「おじいちゃんの部屋に向かうよ♪普通のおじいちゃんだから、緊張しなくても大丈夫だよ♪」


「わかりました」


 緊張するなというのは難しいが、覚悟は決まった。自分自身が静奈さんの彼氏役をやると決めたのだ。うまく出来るように頑張る以外無い。


 静奈さんに連れられて、家の中を歩く。中は見た目通りの作りになっていて、ドアなどが一切無く全て襖になっている。見える限りでは部屋の床は全て畳だ。外に見える盆栽や、松の木が家の雰囲気と合っている。


「本当に何も無い家でしょ?」


「そうですね」


 静奈さんが言った通り、大きさは普通の家とは比べ物にならないが、至って普通の家だ。たまに使用人らしき人が通る事以外は普通に見える。


 こんな広い家なのだ。当然のように掃除をするもの一苦労だ。大勢の使用人が居ても不思議な事では無いか。


「ここだよ♪」


「なんだか雰囲気が違いますね……」


 今までここに来るまでに見てきた部屋とは明らかに雰囲気が違う。同じ襖を使っているにも関わらず、場所が変わるだけでこれほど雰囲気が変わるのだ。間違いなく、おじいちゃんの部屋だろう。


「入るよ?」


「構わん、入りたまえ」


 部屋の中から渋い声が返ってきた。静奈さんのおじいちゃんの声だろう。なんだが物凄く怖そうな声だ。


 静奈さんは襖を開けて、一緒に中に入る。今更だが、手を繋いだまま入ってもいいのだろうか?という疑問が浮かび上がってきたが、本当に今更だった。


 何を言われるかわからないが、静奈さんのお見合いを無くすために必要な事だ。


 部屋の中には俺のイメージと全く同じ人が居た。言うまでも無く性別は男性で、白いひげを生やし、高そうな着物を着ている。


 部屋の中も、書斎をイメージさせる部屋だ。大きな本棚があり、木の机が置いてある。床は他の部屋と同じで畳だが、物凄く落ち着いた雰囲気の部屋だった。


「お主が、静奈の彼氏か……」


 入ると同時に静奈さんのおじいちゃんが真っ先に俺に質問をしてくる。だが、これは予想出来ていた事だった。


「はい、静奈さんとお付き合いしております」


 だからこそ、詰まったり、間を空けたりしないで答える。少しでもそういう間などあったりすると、不自然に思われるからだ。


 それに、静奈さんから言われる前に、俺自身から言う事によって、俺のイメージも下がらない。イメージが良くないとこのカップル(仮)自体が意味を無くしてしまう可能性が出てくる。


「どれぐらい前から付き合っている?」


「一ヵ月ほど前です」


 ここは静奈さんと事前に話し合って居る。一ヵ月という短い間であったら、本来恋人同士でするような行為をしていなくても何も可笑しな事ではない。それに、出会った時期を考えても、付き合うまで短いという訳でも無い。


 あくまでも、お互いの事を少しは理解しているという証明にもなるのでは無いか?と、事前に静奈さんと合わせたのだ。


 もう一つ、東京に行った時に俺が居た事は伝わっていないらしい。松本さん達にも、静奈さんの方から言わないで欲しいと伝えてある。万が一にも付き合っていないという本当の情報が流れる心配は無い。


「ふむ……なるほど」


 手を顎に添えて、考える仕草をしながら俺の方を見つめる。鋭い目線に少し怖くなるが、その仕草は驚くほどに様になっていた。こういう仕草をする機会が多いのだろう。


 静奈さんはおじいちゃんの事を普通だと言っていたが、俺にはそう思えない。いや、俺に思えないだけで、静奈さんからすればこれが普通なのかもしれいない。とにかく、物凄く厳しそうな人だ。


「いささか、お主と静奈ではつり合いが取れていない気がするが……」


 おじいちゃんの言う通り、静奈さんと俺ではつり合いが取れていない。静奈さんは物凄く可愛い。一緒に居るとすれ違う人が振り向くレベルだ。しかし、俺は物凄く普通だ。


 何か特別に得意な事がある訳でもなく、容姿が良い訳でも無い。どこにでも居る普通の高校生だろう。自分でもそう思って居るのだから、他人がそう思わない訳が無い。


「おじいちゃん、それは流石に言いすぎだよ♪それに、それは私が決める事であって、おじいちゃんには関係ないでしょ?」


 静奈さん……満面の笑みを浮かべながらそう言っているが、目が笑っていない。正直に言うと物凄く怖いです!完全に怒っているようだ。


「す、すまぬ……」


 流石に静奈さんの笑顔を見て気が付いたおじいちゃんは、申し訳なさそうな顔をしていた。それにしても、その恐怖の笑顔は身内でも怖い見たいだった。


「ずっと思ってたんだけど良い?」


「はい……」


 静奈さんはその笑顔のまま、おじいちゃんに問いかける。というか、おじいちゃん変な汗かいてる!完全に静奈さんの事怖がっている!


「その変な雰囲気、何?おじいちゃん、そんな話し方今までした事ないよね♪普通にして貰っていい?」


「はい……わかりました」


 先ほどの空気が嘘のように、急にしょんぼりしてしまう静奈さんのおじいちゃん。どうやら、俺が来ているから普段とは違う雰囲気を出していたようだ。


「どうしてそんな事をしたの?」


 静奈さんの問いかけに、一瞬沈黙が訪れる。だが、直ぐにその沈黙もおじいちゃんの声によって消される。


「だって、ずるい!儂の静奈なのに!!儂の可愛い孫娘なのに!!」


「私はおじいちゃんの物じゃないよ♪わかってる?」


「わかってるのじゃ!けど、けど!!儂だって静奈と手を繋ぎたいのじゃ!!その小僧ばかりずるいのじゃ!!」


 急変した静奈さんのおじいちゃんに俺はただ、見ている事しか出来なかった。確かに静奈さんの言う通り、どこにでもいそうな、孫娘が大好きなおじいちゃんだった。


「おい、小僧!」


「あ、はい」


 急に俺に話し掛けてきた。一体どうしたのだろうか。手を放せとか言われそうだ……。


「どこまでやったのじゃ!儂の可愛い孫娘とどこまでやったのじゃ!」


「えっと……」


 実際は付き合っている訳でもないので、全く何もしていないが……それを正直に答えてもいいのか困る。聞かれてもいいように付き合いだしたのは、一ヵ月前という事にしたのだが……。


 俺は困り、静奈さんの方に目を向ける。静奈さんとはまだ手を繋いでいるので、距離は近い。視線だけで気が付いてくれるはずだと信じる。


 そして、視線に気が付いた静奈さんは、先ほどの怖い笑みとは違う、楽しそうな笑みを浮かべて口を開く。


「全部やったよ♪恋人になったらするような事全て♪」


「な、なんじゃって!!!」


 静奈さんの衝撃発言に、おじいちゃんは驚いて、立ち上がった。隣に居る俺も予想外の言葉に何も言えなかった。


「小僧……本当か?」


「えっと……」


 答えていいのか分からないので、そっと視線を逸らした。その瞬間、静奈さんは繋いでる手を強く握ってきた。別に痛いとかでは無いのだが、その行動の意味を理解出来ないほど、鈍く無い。


 ようするに、静奈さんは私に合わせて欲しいと手で伝えているのだろう。そんな事をしたら余計にややこしい事になるのは目に見えているはずだが……そう思い、静奈さんの方に視線を向けると、そこには六花さんと同じ笑みを浮かべた静奈さんが居た。


 あ……これは完全に楽しんでいる。気が付いた俺は静奈さんに合わせる事にした。なぜか?と聞かれれば勿論答えは一つだ。ここで合わせなければ後で何を言われるか全く分からないからだ。


「色々しました……」


「----」


 俺の言葉におじいちゃんは真っ白に燃え尽きる。まるで、某ボクシング漫画の最終話のように真っ白に燃え尽きている。


「ず……」


 椅子にもたれて真っ白に燃え尽きていたおじいちゃんは、急に立ち上がり、俺の方に指をさして口を開く。


「ずるいのじゃ!そんな嘘で騙されないのじゃ!儂も静奈と色々したいのじゃ!そこを変われ!!」


「おじいちゃん……流石にそれは私もひくよ……」


 孫娘に色々したいと言うおじいちゃん……確かにそれは身内でも言われるのは嫌だろう。いや、身内だからこそ嫌なのだろうか?


「そんな……儂は一体どうすればいいのじゃ……何をすればいいのじゃ……」


 机に両手をついて、うなだれる。完全に力尽きている。


「私たちの関係を認めて、お見合いを無しにしてくれると嬉しいな♪」


 静奈さん……そういう事を聞いた訳では無いと思います。


「認めぬ!儂は認めぬ!儂がお主たちを見て、本当に付き合っていると思ったら認めるのじゃ!」


「それじゃ……今からここでキスでもしようか♪」


「…………」


 静奈さんノリノリだな……物凄く笑顔だし、楽しんでいるのだろう。俺は何も言わない方がいいだろう。


「しなくてもよい!そうじゃ!もうすぐしたら静奈の学校で文化祭があるのじゃ!そこで二人がデートをしている所を見るのじゃ!儂が直々に見るのじゃ!!」


(本当にこの展開になった!?)


 静奈さんと六花さんが言っていた通り、文化祭でデートをするという展開になってしまった。それも、おじいちゃんが直々に見に来るという展開だ。


 始めにおじいちゃんを見た時は、本当にこの展開になるのかと不安だったが、問題も無くなった。二人の予想通り、自ら提案してきた。


「わかったよ♪私たちのラブラブなデートをしっかり見ててよ♪」


 楽しそうに笑う静奈さんは、隣に居る俺の腕を抱きしめる。甘い香りと同時に手に柔らかな感触を感じた。静奈さんの胸が手に押し付けられているのだ。


「見せびらかすではない!早く出ていくのじゃ!もう、今日はよい!」


「わかったよ♪それじゃ、行くね♪」


 そう言うと、俺たちは部屋を後にした。静奈さんが襖を閉めると同時に部屋の中から物凄い声が聞こえてきたが、聞かなかった事にした。


「ごめんね……変なおじいちゃんで」


「大丈夫です……初めはかなり怖そうだと思いました……」


「いつ辞めるんだろって思ってて見てたけど、全然辞めなかったから、私から言っちゃった♪」


「物凄く怖がってましたよ……」


「あれぐらい大丈夫だよ♪いつもされてて、慣れてるだろうしね♪」


「いつもあんな感じなんですね……」


「そうだよ♪ずっと、あんな感じだよ♪」


 孫娘である静奈さんの事が本当に可愛くて仕方が無いのだろう。あの様子を見ていれば分かる。


「とりあえず、これからどうする?私の部屋に来る?」


「え……いいんですか?」


「私は全然大丈夫だよ♪」


 静奈さんの部屋に入れる機会など、そうそう訪れないだろう。家の中に入るのだって、静奈さんの彼氏役としてきているから入れるだけで、そうでなければ入る事は出来なかっただろう。


「今日は辞めておきます」


「そっか♪それなら駅まで一緒に行こ♪」


「わかりました」


 物凄く勿体ない事をしたのは理解しているが、そういうのは静奈さんが良くても控えておくべきだろう。仮にも女の子の部屋なのだから気軽に入っていいものでは無い。


 もし、本当に静奈さんに好きな人が出来た時のためにとっておくべきだ。男の俺と部屋に二人きりなど、危ない。


「全然気にしなくてもいいのに♪」


「どういう意味ですか?」


「なんでも無いよ♪」


 笑顔で近づいてきた静奈さんは、俺の手を掴んで、握ってきた。


「私の部屋に来るか、駅まで一緒に手を繋いで帰るかのどっちかだよ♪」


 と、静奈さんが言うので、俺はずっと柔らかな手を握って、駅まで一緒に帰った。


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