カップル(仮)
「どうすればいいの!彩は一体どうすればいいの!誰か教えてよ!」
「彩、テンパり過ぎなのだ!少し落ち着くのだ!」
「でもでも!だって静奈さんだよ!?優しくて可愛くて!そして、おっぱいも大きくて!彩に勝ち目無いよ!何で抵抗すればいいの!?」
「拳で抵抗するのだ!21歳!!拳なのだ!」
「それだよ!拳で抵抗するしかないよ!!」
「何を意味分からない事を言っているのかしら……とりあえず、二人とも落ち着きなさい。何か理由があるはずよ」
六花さんも驚いていたが、確かに告白するにしては少し可笑しな気がする。場所もわざわざみんなが居る部室を選ばなくてもいいし、廊下を走ってきたのも納得が行かない。
俺にそうしてもらわなければいけない理由があるように思える。恥ずかしがりやの静奈さんがそんな大胆な事をするようには思えない。
「確かにそうですね……少し取り乱しました」
「よく考えれば、拳て抵抗するのはダメなのだ!喧嘩は良くないのだ!」
「柊は少しズレてるぞ……」
とりあえず、落ち着いた彩は深呼吸をしていた。告白してきた理由とは一体何だろう。
「静奈、何があったの?」
六花さんは静奈さんに落ち着いた声で話し掛ける。六花さんは何かあったのだと、確信しているようだ。
「うん?航君に彼氏になって欲しいの!」
「やっぱり、告白だよ!!航の彼女だよ!!彩は捨てられたよ!?」
深呼吸をして少し落ち着いていた彩は再び大声を上げた。その声で静奈さんは急激に顔が赤く染まる。急に恥ずかしくなったのだろうか。
「ごめん!言い方を間違えた!私の彼氏役になって欲しいの!本当だよ?」
「え?彼氏役??」
静奈さんの声に、彩はキョトンとした声で言う。
「彼氏役ですか……」
「そうだよ!お願い!引き受けて欲しいの!私の一生のお願いをここで使うよ!」
「引き受けるのは別に問題無いですけど……一体どうしたんですか?」
静奈さんがそこまで焦っているのは珍しい。それに彼氏役というのはどういう事だろうか?まさか、誰かに付きまとわれて、付き合って欲しいと迫られているとか?いや、流石に静奈さんの事を知って居る学生がそこまでするとは思えない。
しかし、静奈さんの容姿であれば、学生だとも限らない。近所を歩いている時に、一目惚れをされて……。
それならば、可能性としては十分あり得る話ではあるが……とりあえず分からないので、静奈さんの話を聞くのが一番いいだろう。静奈さんのお願いなので、断る事は無いが理由も知らないで受けると、どうすればいいのか分からない。
「東京に行ったでしょ?」
「そうですね」
確かにお盆に四人で東京に行った。それは間違いないが、それが今回とどう関係しているのだろうか?東京では基本的に一緒に居たので何か変わった事は無かったはずだ。
彩と柊と一緒にコミケに行っている時に何かあったのだろうか……しかし、静奈さんが一人でどこかに行ったというのは限りなく低い気がする。
「実は、使用人の用事が……お見合いの取り付けだったの!」
「お見合い!?(なのだ!)」
彩と柊は同時に驚く。俺もお見合いは流石に予想出来なかったが、可能性は低くない。確かに、仙道家として生まれたのであれば、お見合いの話もあるはずだ。
「あまりにも急過ぎない?約束と違うわ!」
六花さんは驚いた様子が無いので、静奈さんにお見合いの話がある事は知って居たのだろう。確かに、言われてみればお見合いがあるのは納得出来るが……約束と違うというのはどういう事だろう?
「そうなの!そう伝えたけど、全然聞いて貰えなかったの!」
「静奈のおじいちゃんが、静奈の話を聞かないなんて……物凄く珍しいわね」
「そうなの!必ずお見合いをさせるって聞かないの!けど、私お見合いなんてしたくないから、勢いに任せて、付き合ってる人が居る!って、言っちゃった……」
なるほど、それで彼氏役か……。確かにそれならば納得がいく。俺も静奈さんが嫌がっている事を無視する事なんて出来ない。それに、それは静奈さんの人生を決める事になるかもしれないのだ。
「航君!お願い!彼氏役になってほしい!こんな事頼めるの航君しか居ないよ!」
静奈さんは再び俺の肩を両手でつかみ、顔を近づける。甘い香りが漂い、鼻腔をくすぐる。
「全然大丈夫ですよ。俺で良いならなんでもします。静奈さんのお願いなら断れないですよ」
本気で困っているようなので、俺に出来る事なら協力する。彼氏役と言われても何をすればいいのか全く分からないが、それで静奈さんの役に立てるなら問題ない。
「航君……ありがとう♪」
その言葉と同時に静奈さんは俺に抱き付いてきた。先ほどよりも甘い香りを感じられるようになり、密着している体の柔らかさが心地良い。急激に頬が赤くなるのが、自分でもわかる。
「航の顔が真っ赤だよ!物凄く真っ赤だよ!」
「航先輩はムッツリスケベと呼ばれるやつなのだ!だから仕方ないのだ!」
「なんでそうなるんだよ!誰でも赤くなるだろ!」
「航は、誰で良い見たいだわ!女の子でも男の娘でも良いみたいよ!」
「そういう意味で言った訳じゃないです……」
そんな話をしていると、静奈さんは俺から離れた。恥ずかしさは当然あったが、離れてしまうと勿体ないという思いが浮かんでくる。あれ?柊が言うムッツリは案外否定出来ないかもしれない……。
「急にどうしたのかしら……約束を破るような人じゃ無いはずだけど……」
「ずっと思ってた事を聞いてもいいのだ?」
「かまわないわ、どうかしたのかしら?」
「その約束ってどういう約束なのだ?」
「確かに彩、気になります!」
「彩……絶対わざとやってるのだ」
という俺も口には出さないが気になる。六花さんの話から察するに、お見合いをする事は前から決まっていたのだろう。
「大した事じゃないよ♪ただ、私と六花を留年させる代わりに、儂が選んだ相手と結婚しろって、言われてるの♪卒業後にね♪」
「それって、自分で相手を選べないって事ですか!?」
「そういう事だよ♪こればっかりは、小さい頃からなんとなく理解していたから問題ないよ♪」
「けど、それって……」
彩はその先は言わずに口を閉ざした。俺たちのような一般の生まれには到底理解出来ない事なのだ。この街では有名な仙道家に生まれて、これまで育ってきた。当然のように、そういう話は親に聞かされたりしているだろう。もしかすると、静奈さんの親も同じように結婚したのかもしれない。それ自体に俺たちがどんな言葉を掛けても、所詮は他人事だ。静奈さんの気持ちなど理解出来ないのだ。
「そんな悲しい顔をしないで♪私だって、自由に生きたいよ♪自分が好きになった相手と結婚だってしたいし、家に縛られて生きていきたくないよ♪」
「だからこそ、留年までして物語の世界に行っているのよ。静奈はね」
「そういう事だよ♪願いが叶えば、家に縛られて生きていく事をしなくても済むよ♪出来なくても結婚相手ぐらいは自分で選べるようにはするよ♪」
確かに、物語を全て完結させて、願いを叶える事が出来れば静奈さんは自由を手に入れる事が出来るだろう。この話を聞いて、自分だけの願いのためではなく、静奈さんのためにも物語を完結されるように頑張ろうと思った。
自分の願うが叶うという事は、みんなの願いも叶うという事だ。
「ところで、静奈。彼氏が居るって伝えたのよね?」
「そうだよ♪」
「どんな事を言われたの?」
俺もそれは物凄く気になる。今まで彼氏が居るなど一回も言った事は無いのだろう。実際は居ないのだから、理由が無ければ嘘をつく必要性は無い。
しかし、急に付き合っている人が居ると言われたら、一体どんな反応をするのだろうか。
最悪の場合……儂の孫を手籠めしよって!許さんぞ!!こんな展開にもなるのでは無いだろうか……。いや、流石に考えすぎか。
「驚いてたよ♪けど、直ぐに嘘だろ?って言われたけど、居る!って言い張ったよ♪そしたら、儂が直接見てやるって言われたよ♪」
「それって……」
「大体想像していると思うけど、私の家に来て欲しい♪おじいちゃんを呼ぶ訳にも行かないし♪」
「まぁ、そうなりますよね……」
静奈さんの家には行ったことは無い。外から見たことは確かにあるが、大きな門に閉ざされていて、中の様子は全く分からない。
静奈さんのおじいちゃんにも会ったことは無いので初めて会うことになる。どんな人か分からないが、少し緊張する。静奈さんが良い人なので、勝手なイメージになるが、良い人なのではないか?と思って居る。
これも俺の勝手なイメージになるが、家が大きくて、お金持ちの人は厳格な人が多い気がする。髭を生やして、浴衣の様な服を着て……怒鳴ると物凄く怖いイメージ。
「とりあえず、次の休みの日に欲しい♪」
「わかりました」
土曜日は全く予定は入っていない。する事も無いのでちょうどいいだろう。
「ごめんね、せっかくの休みを私のワガママで潰しちゃって……」
「全然大丈夫ですよ。俺も予定ありませんし……それに俺がやるって決めた事ですから」
「ありがとうね♪本当に助かるよ!」
嬉しそうに笑顔言う静奈さんを見れただけで、引き受けたかいがある。静奈さんがお見合いをしないようにするには、俺が頑張る他無いだろう。
静奈さんのおじいちゃんにも考えがあっての事なのかもしれないが、やはり、したくない事を無理にさせるのは良く無いだろう。少なくとも約束した卒業までは待つべきだ。
家の事に他人が口を挟む事はあまりしたくないが、嫌がっている静奈さんを見ている事は俺には出来ない。
出来る事は少ないかもしれないが、俺に出来る事ならしていこう。多少は無理をしてでも、お見合いを阻止しなくてはならない。
「とりあえず、纏まった見たいだからいいかしら?今日話をしようと思って居た事を説明したいわ」
「私は大丈夫だよ♪航君には詳しい事は、帰ってから連絡するね♪」
「わかりました」
一応、静奈さんの彼氏として行くのだから、変な恰好では行けない。後でそういう事も聞いておこう。
「それでつかさ、考えてきたかしら?」
「書いてきたのだ!劇の台本!」
そういえば、夏休みの時に劇の内容は柊が考えてくると言っていた。中二劇とか言ってたので、内容は覚悟していた方がいいだろう。
「完璧な内容になったはずなのだ!!と、言いたい所なのだ!けど、我は少し分った事があるのだ!」
「何がわかったの?」
彩の質問に柊は少しドヤ顔をしながら口を開く。そのドヤ顔少し可愛い。しかし、彩は少しうざそうにしている。
「静奈さんと航先輩は、カップル(仮)なのだ!」
「確かにそうだね……少し言い方が聞き覚えあるけど」
「我はこの展開を知って居るのだ!」
「どういう事かしら?」
柊が中々言わないので、六花さんが入る。柊は良くわからない事を言うが、あまりにも自信に溢れているので、何か本当に思いついたのだろう。
「静奈さんのおじいちゃんに、もうすぐ文化祭がある!そこで使用人をつけるからデートしろ!っていう展開なのだ!」
「!?」
柊の言葉に俺たちは全員驚き、声を出せなかった。確かにそう言う展開はアニメや漫画では鉄板の展開だろう。俺もどこかでそんな展開を聞いた事がある。
しかし、現実でそんな事が起こる物なのだろうか?だが、起こらないと全く否定出来ない。何より、柊が起こりそうな出来事を口にした事に驚いた。
「つかさちゃん」
「つかさ……」
静奈さんと六花さんは柊の名前を呼びながら、顔を向ける。それをドヤ顔で待ち構える柊。
「物凄くあり得る!!!」
「物凄くあり得るわ!!!」
と、二人は声を合わせてそう口にした。多分だが、静奈さんのおじいちゃんに会った事があるのは六花さんだけだろう。
その六花さんと、一緒に暮らしている静奈さんがそう言うのだからありえる展開なのだろう。そうなると、俺が先ほど勝手なイメージで思い描いた、お金持ちは厳格な人説は間違いになってしまう。
「というか、それを聞いた後だと、その展開しか予想できなくなるわ!」
「そうだよね♪つかさちゃん凄いよ!」
「えっへんなのだ!」
褒められて少し得意げな柊。しかし、そういう展開になるのと、劇の内容にどう関係あるのだろうか。
「絶対に劇も見られるのだ!だから、我は思うのだ!劇に中二の要素を入れながら、二人が恋人同士しか出来ないようなシーンを入れれば完璧なのだ!!」
「!?」
またしても柊以外が言葉を失う。確かに、それは物凄く良い提案だ。どういうシーンにするのかは決めないといけないが、付き合っているという説得力が増す。
「今日のつかさはどうしたのかしら……」
「つかさ……もしかして熱があるの?体調が悪いんだったら保健室に行く?」
「失礼なのだ!我は物凄く元気なのだ!」
可愛らしく頬を膨らませて、力こぶを作る柊。全然力は入っていないが、確かに元気そうだ。
「そうよね……単純に冴えているだけかしら」
「とりあえず、いい案だと思うよ♪採用だね!」
「彩も物凄く良いと思う!内容次第だけど!」
まぁ、そこはみんなで考えればいいだろう。流石にカップル(仮)なので、出来る事と出来ない事がある。その境目を決める必要がある。
「とりあえず、そういう展開にならない可能性もあるから……視野に入れておくって感じだな」
静奈さんと六花さんが言っていても、もしかしたらそういう展開にならない可能性も存在する。それも考慮して考える方がいいだろう。
「航君甘いよ!」
「そうよ、甘すぎるわ!!」
「一体どうしたんですか……」
急に迫ってくる二人。なぜか妙な迫力があり、少し体を後ろに引いてしまった。
「静奈のおじいちゃんは絶対にそう言うわ!」
「私のおじいちゃんは、絶対にその言うよ♪」
どうやら二人の中では、完全にそうなるように見えているようだ。二人の自信を見ていると、なぜか分からないが、俺もそう思えてくる。
「だから、もう一度家で考えてくるのだ!次の土日開けまでには絶対に完成させるのだ!」
「みんなで考えるだろ?」
「何言ってるのだ?この劇の内容は我に一存されているのだ!我が考えるのだ!」
「…………」
ダメだ。中二劇というだけでも嫌な予感しかなかったのに、今回は完全に積んだ。柊の可愛らしい笑顔が、悪魔の笑顔に見える。
「とりあえず、そういう事なのだ!我は忙しくなるので、今日は帰るのだ!」
と、言いながら帰る準備を始める柊。そして、勢いよく部室を後にした。
「私たちも今日は帰りましょうか……」
六花さんのその言葉で今日は解散する事になった。




