みんなで秋葉原!
朝の日差しで目覚めた俺は、そっと体を起こす。
一緒に寝ていた三人はすでに起きているらしく、布団の中に姿はない。どうやら少し寝すぎた見たいだった。
先に起きたのだったら起こしてくれたら良かったのに……なんて思うが、同じ立場だったら起こさないと思うので、言わないことにした。
布団から出て、広いリビングを見渡すが、三人の姿は無い。どこに行ったのかわからないが、とりあえず洗面所に向かうことにした。
洗面所に近づくと、シャワーの音が聞こえてきた。それと同時に三人の話声が聞こえてきたので、どうやらお風呂に入っているようだ。
ここで洗面所に行くと、ラッキースケベという奇跡に遭遇しそうだが、狙ってやるものではないので、俺はリビングに戻る。
暫くすると、お風呂から上がってきた三人が姿を現した。俺はソファーに座ってテレビを見ていた。
「あ、航!起きてんだ!」
「おはようなのだ!」
「航君、おはよう♪」
「おはようございます」
三人は俺が起きている事に気が付き、挨拶をしてくれた。俺も三人に挨拶をして、立ち上がる。顔を洗ったりするためだ。
「航!今日はどこか行きたい場所ある?」
「特にないけど……」
洗面所に行く途中に話しかけられた。だが、そんなに急ぐ事も無いので、返事を返す。今日、どうするかなど決めていた方が良いと思ったからだ。
せっかく、来たのだから楽しみたい。俺自身行きたい場所というのは特にないが、彩は行きたい場所がある見たいだ。どこか大体察しがつくけど。
「それなら行きたい場所があるのだ!!」
柊が急に詰め寄ってきた。お風呂上りなので、柔らかい良い香りがする。
「いいよ。みんなに付いていくよ」
「良かったのだ!静奈先輩も良いって言ってくれたのだ!」
「それなら、二人の行きたい場所に行こうか」
「行くのだ!!」
柊は俺から離れ、彩と二人で楽しそうに笑う。東京に来て、二人が行きたい場所など一つしかないように思える。その場所に行くのは東京に来る前からわかっていた事だ。
「秋葉原!!」
「秋葉原なのだ!!」
二人は声をそろえて言う。オタクの聖地と言われている秋葉原に行くことになった。
***********
準備が終わると時刻は十二時を回った頃だった。時計を見ると同時に六花さんから返信があるか確認したが、返信は無かった。俺たちが楽しめるように気を使っているようだった。
マンションから出て、さっそく秋葉原に向かうために新宿駅に向かう。
「何、ここ……」
「人が物凄いのだ!」
「地元とは大違いだね……」
初めて来た新宿駅は人の数が桁違いだった。どこを見ても人、人という感想で、正直何がなんだかわからない状態だった。それに駅自体も物凄く大きく、地元と比べるまでもなかった。
人が多いというのは知って居た事だったが、実際にこうして来て、自分の目で見ると一目瞭然だった。
「とりあえず……わからないから携帯で調べながら行こう」
「それが良いと思うのだ……」
「そうだね。電車も多くて、どれに乗ったらいいのか全く分からないよ」
携帯で調べながら秋葉原に向かう。電車代も物凄く安く、驚く事ばかりだ。色々な鉄道会社があるため、自然と価格が安くなるのだろう。
「電車もすぐ来るね♪」
「待ち時間がほとんどないのだ!」
流石、大都市だけあって、電車の待ち時間がほとんどない。地元では時間近くに集まったりするのが支流なのに、そういう事をしなくいても良いのはとても便利だと思った。
電車に乗って、十五分ほどで秋葉原に到着した。駅から見える光景だけで、どうしてここがオタクの聖地と呼ばれているのか良くわかる。
駅から出ると、そこは未知の世界が広がっていた。大勢の人と、見渡すと毎回のように目に入ってくる、アニメ関係の広告……この秋葉原はアニメで出来ているかのようだった。
「ここが有名なラジ館なのだ!」
「入ってみようよ!」
二人は楽しそうにラジオ会館と書かれた建物に入って行く。俺と静奈さんも見失わないように二人を追いかける。
「本当に人が多いね♪」
「そうですね……歩いているだけで精一杯です」
彩と柊はまるで忍者のように人と人の間を見つけてすり抜けて行く。俺も付いていけるが、静奈さんを一人にする訳には行かないので、静奈さんと一緒に歩いていく。当然のように、二人を見失った俺たちだが、上に向かうエスカレーターに乗り、探すことにする。
エスカレーターで三階に到着すると、俺たちは降りた。その場所には多くのアニメグッズなどがあり、K-BOOKSと書かれた看板があった。
「ここに居そうですね」
「そうだね♪」
静奈さんは人が多いというのに楽しそうだった。だが、俺もこうして知らない場所をみんなで居るというのは新鮮な気分と同時に、楽しさがあった。静奈さんも同じなのだろうか。
それから中に入ると、そこはさらに未知の場所だった。俺の歓迎会の時に行ったアニメイトとは違い、タペストリーやクッション、小さなグッズや抱き枕カバー……様々な物が売られていた。正直、数が多すぎて全くどれがどれか分からない。
ほとんどが知らないアニメの物で、どうして自分たちがこの場所に居るのかと不思議に思うほどだった。俺でこう感じているのだから静奈さんはもっと感じているだろう。アニメとか見なさそうだし。
「物凄いねここ♪」
「そうですね……予想以上でした」
秋葉原というのはこういうのが多くあると想像はしていたが、自分の想像など軽く上回っている。少し進むと十八禁コーナーもあったり……本当に色々ある場所だと思う。
流石に十八禁コーナーには行って居ないとは思うので、その場所を離れた。そしてしばらく歩いていると、二人の姿を見かけた……が。
「航君!こっち来て!」
「え、でも!」
「いいから♪」
静奈さんも二人の姿が見えたはずだが、俺の手を引っ張って、二人とは反対方向に駆けだした。
人の多い場所なので、見失えば探すのが大変なのは、静奈さんも十分にわかっているはずだが……一体どうしたのだろうか。何かこの場所に用事があるようには見えないし。
静奈さんに手を引っ張られたまま、一階に降りてきた。
「一体どうしたんですか?」
「えっとね……」
静奈さんは困った顔をしていた。何か都合の悪い事でもあるのだろうか。それとも知り合いが居たとか……。
「わ、私、航君と行きたい場所があるの!」
ラジ館から出ると、静奈さんは立ち止まり、顔を真っ赤にしながらそう言ってきた。声も少し大きかった事から周囲から視線を感じたが、みんなと歩いていると、良くある事なので慣れた。
「行きたい場所ですか?」
「そうなの……二人で行きたいんだけど……ダメかな?」
引っ張ていた手を強く握り、上目遣いで言ってくる静奈さん。そんな頼まれ方されて、断れる男子などそう居ないだろう。
「いいですよ。静奈さんの頼みですから」
「本当に!?航君、ありがとう♪」
笑顔になった静奈さんに少しほっこりしながら、俺は付いていく。手は繋がれたままなのが少し恥ずかしいが、自分から離したいとは思わないので、何も言わないでおく。
暫く話をしながら付いていくと、静奈さんは立ち止まった。どうやら、目的の場所に着いた見たいだが……ここは。
「し、静奈さん。ここですか?」
「そうだよ♪私一回行ってみたかったの♪」
静奈さんが行ってみたいと言って居た場所は、外からでも店内に居るメイドさんの姿が見える場所……メイド喫茶だった。
噂には聞いたことがあるが、当然、実際に行くには初めてだ。というか、メイド喫茶など地元には存在しないので、見たこと自体始めてだ。アニメなどでは何度か見たことがあるが……本当に同じような空気のお店みたいだ。
「入ろう♪」
「わ、わかりました……」
一度行くと言ったのだから最後まで行くことにしよう。ここで、行かないと言ったら静奈さんは少なからず悲しい思いをするだろうから。
中に入ると、普通のカフェのような作りになっている。外装も同じような感じで、中にメイドさんが居なければわからないだろう。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
(本当にご主人様、なんて言われるんだ……)
初めて来るメイド喫茶。勝手も何もわからないので、とりあえず、メイドさんに従って席に座る事にした。
メニュー表を渡されて、メイドさんは離れて行った。
「本当にご主人様なんて言われるんだね♪」
どうやら静奈さんも俺と同じ事を思ったようだ。どういう場所なのかは知識としては知って居るが、実際に来ると思って居たのと違ったりするが、今のところほとんど変わらない。
それにしても、店内に居るメイドさんは、流石に慣れているのか、俺たちの対応もスムーズで、着ているメイド服も似合っている。中には物凄く可愛い女の子も居る。
「起きてから何も食べてないから、ここでお昼食べよう♪付いてきてくれたお礼にご馳走するから♪」
「流石にそれは悪いですよ。自分の分は自分で出しますよ」
その言葉に頬を少し膨らませて、拗ねる静奈さん。こういう反応をするところをあまり見た事が無いので、素直に可愛いと思ってしまった。
「いいから!私が出すよ!それに、メイド喫茶って、案外高い見たいだよ♪」
静奈さんはメニュー表を開いて、俺に見せてきた。値段は……確かに、普通のお店に比べると高いかもしれないが、想像以上ではない。
「これぐらいなら大丈夫ですよ」
「むぅ……わかった。そんなに言うなら後で罰ゲームだからね♪」
「ど、どんな罰ゲームですか!?」
「それは内緒♪」
満面の笑みを浮かべる静奈さんだが、罰ゲームと聞くだけで、あの王様ゲームの内容が浮かんでくる……あんな内容はしてこないと思うが……。少し怖いが、教えてくれそうにないのでメニューに目を向ける。
「それより、航君は何を食べるの?」
「そうですね……」
メニューに載っている物はどれもおいしそうなのだが……おまじないなど、良く分からないことが書いてるので、どれを選ぶのが正しいのが全くわからない。
まぁ、自分の食べたい物を選んだ方がいいだろう。
俺は一番目に入ったラブ♥オムライスというのを頼んでみることにした。名前からして危険な香りがするが、メイド喫茶はこういう場所なのだろう。
「私はこの変わったカレーを頼むよ♪」
俺と静奈さんは近くに居るメイドさんに声をかけて、料理を頼む。それからしばらくすると、違うメイドさんが持ってきた。
「お待たせしました!」
笑顔を浮かべながらそう言ってくれて、とても気持ちが良い。他の人もみんなメイドさんの笑顔で、そういう気持ちになるのだろうか。
「食べよう♪」
「そうですね」
メニューに載っていた通りの見た目で、オムライスの形がハートの形になっており、可愛い見た目になっている。
周りにはデミグラスソースが掛けられており、少しだけ野菜もある。可愛らしさだけではなく、おいしそうだ。
「これも可愛いよ♪」
ごはんが熊の形になっており、その真ん中にはとんかつが乗っている。周りにはカレーが掛けられており、熊は布団で寝ているような姿になっている。オムライスと同様で、可愛らしい見た目だった。
メイド喫茶というのは初めて来たが、知識として、こういう料理が多くある事は知って居た。しかし、メニューには普通のおつまみも置いてあり、対象年齢の幅も広いように感じる。
お店の空気も決して悪くない。むしろお客として来ている人も楽しそうで、メイドさんも笑顔でやっているので空気はかなり良い。こういうのが好きな人は絶対に楽しめる場所になっていると思う。
「航君?どうしたの、そんなにメイドさんばっかり見て♪」
「別にメイドさんを見ていた訳では……」
確かにメイドさんの方も見ていたのは否定できないが、そういう目で見てい訳ではない……確かに可愛いとは思って見ていたというのは少しあるが。
「そうだね……そんなにメイド服が好きなら、今度みんなに着てもらおうか♪家にあるのを借りてくれば大丈夫だし♪どうかな航君?」
「…………」
ふと、静奈さんの言葉でみんながメイド服を着ている光景を想像してしまった……悪い訳がない。ここに居るメイドさんよりも可愛い子が着れば似合うに決まっている。
「遠慮しなくてもいいの♪みんな着てくれなくても、私だけは絶対に来てあげるから♪」
「……お願いします」
「素直なのは良いことだよ♪」
見たいか?見たくないか?と聞かれれば、間違いなく前者だろう。これで見たくないという男はきっと違う趣味の持ち主だろう。
「それじゃ、食べようか♪」
こうして静奈さんと俺はメイド喫茶で、料理を食べて、少しゆっくりしてからメイド喫茶を後にした。
来るまで少し緊張していたが、こうして来ると普通に楽しい場所ということが分かって良かった。
一人で来るのは俺には難易度が高いけど。
***********
「ところで、航君?罰ゲーム覚えている?」
「……覚えてないです」
「変な間があったから覚えてるね♪」
そういえばすっかり忘れていた。メイド喫茶に居た時に後で罰ゲームをすると言ってた。その後、静奈さんは何も言わずに食事をしていたので、俺もすっかり忘れていた。
「どんな罰ゲームですか?」
「それは、私と手を繋いで歩く事だよ♪」
「あの……」
それは、決して罰ゲームではなく、むしろご褒美なのではないだろうか?
そんな言葉が口から出そうになったが、言わない事にした。言ってしまえば、ご褒美が本当の罰ゲームに変わる気がしたからだ。
静奈さんは罰ゲームとなれば、まったく手加減しないので、それはそれで怖い。そうならば、初めのご褒美を貰った方が確実に良いに決まっている。
「わ、わかりました」
「やった♪それなら繋ごうか♪」
静奈さんが嬉しそうに俺の手を握る。いわゆる恋人繋ぎという繋ぎ方だ。秋葉原の街は人が多いので、離れないためにもいいかもしれない、と自分を誤魔化してみる。
ちなみに今は秋葉原にあるドン・キホーテ前に居る。
今は特に行く先もなく、秋葉原の街を歩いている。彩と柊と合流すればいいが、静奈さんがもう少し街を見て歩きたいと言ったので、見る事になった。
二人も、互いにオタク同士で見ている方が楽しいだろうし、問題はないだろう。しかし、何かあると心配なので、出来れば早めに合流したいと考えている。
「本当に人が多いね♪」
「そうですね……色々な物もあるし、便利な街ですね」
オタク向けの物も多くあるが、他にも電気製品なども多く売っている。他にもカードを取り扱っているお店もある……本当に色々な物がある街だ。人が多いのも頷ける。
二人共初めて来た秋葉原なので、色んなところを見渡しながら歩いていた。ソフマップという店は何店舗あるんだと思う。
目新しい物ばかりがある街を眺めて歩いていると、「航!!」と俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
人が多く、初めは気のせいかと思ったが、だんだんその声も近づいてきて、はっきり聞こえるようになると、気のせいだという感覚も消えた。
「呼ばれてますね」
「私もはっきり聞こえるよ♪」
俺たちは声が聞こえる方向に振り向くと、そこには買い物をしたのであろう彩と柊が手を振って近づいてきていた。
「そろそろ合流しようか♪」
「そうですね。みんな一緒の方が旅行来たって感じがしますし」
彩と柊が来るのを少し通路の横にズレて待つ。真ん中で止まっていると邪魔になって仕方がないだろう。
「どこに行ってたの??連絡しても全然でないし!」
「二人で必死に探したのだ!」
「その割には結構買い物してる見たいだが……」
二人は大きな袋を抱えていた。色々な物を買ったのだろう。
「探しながら買ったのだ!」
「そうだよ!それに、袋は大きいけど、買った物は少ないよ!」
二人は持っていた袋を前に突き出して、そう言った。どうやら嘘ではない見たいだった。
「そ!れ!に!!どうして二人は手を繋いでいるの!!」
「これは罰ゲームだよ♪航君のね♪♪」
「全然罰ゲームじゃないよ!むしろご褒美だよ!」
「そうかな♪」
静奈さんは口元に人差し指を添えて、とぼけて見せる。彩と柊は言うまでもないが、静奈さんも楽しんでくれた見たいで良かった。
「彩ちゃんが物凄い目で見てきてるから、離すね♪」
「わかりました。その方が良いと思います」
王様ゲームの時見たいに、泣きそうな顔を見るのは絶対に嫌なので、静奈さんの手を離す。
「ほら、荷物持つから拗ねないでくれ」
俺は二人の荷物を持って、再び歩き出す。特に行く場所もないが、四人で秋葉原の街を歩く。
静奈さんと二人で居た時も十分楽しかったが、こうして四人で一緒に歩きながら話をする方が楽しい。
知らない土地をみんな歩くのは良い物だと思った。それからアテもなく歩いていたが、すぐに彩と柊に連れられて、色々なアニメ関係のお店を回ったのは言うまでもない。
この日、マンションに帰っても、六花さんから連絡が帰ってくる事はなかった。




