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夏祭り

あれから三日が経過して、ついに夏祭りの日がやってきた。


 静奈さんが楽しみにしておいてと言っていたので、この三日間の内に何かあるのではないかと思って居たが、いつも通りのボランティア部だった。


 特に何事もなかったので、あの言葉に深い意味はなかったのではないか……そんな事を思いながら俺は待ち合わせの場所に向かう。


 夏祭りが行われるのは駅前の少し離れた場所にある河川敷で行われる。毎年のように行われる夏祭りだけあって、人もそれなりに来る。河川敷に出店を多く並んでいるたため、飽きる心配はない。


 川を挟んだ場所にも出店が並んでいるので、歩いているだけでもお祭り気分を味わえるはずだ。


 遅くなると人が多くなるので、ほどより時間に集合時間を指定して、俺たちは集合することになっている。一度、集合場所にも使ったことがある駅前に集合することになっている。


 人が多くいることが予想されるが、あの四人が並んでいるのならすぐに見つけられるはずだ。


 集合時間の少し早めに指定された場所についた。歓迎会の時のように遅れても罰ゲームなどは無いのだが、やはりみんなを待たせる訳には行かないので、早めに来たのだが……。


「遅くなってすいません……」


 まだ、集合時間まで少し時間があるのに、俺以外みんな来ている。それに、その恰好……。


「今、幸せを感じました」


 みんなの姿を見た俺は、自分でも意味の分からない事を口走っていた。しかし、これは幸せを感じられずにはいられない。


「大げさだよ航!」


「確かに大げさだと思うわ。けど、そう言ってもらえると嬉しいわね……」


「我も嬉しいのだ!こういう恰好したの初めてなのだ!!」


「みんな、喜んでくれているなら、用意した甲斐があったよ♪」


 なるほど……静奈さんが楽しみにしていてと言っていたのはこういうことか……確かにこれは楽しみになるには十分すぎる光景だった。


 みんなは浴衣を着ているのだ。みんな自分のイメージにあった色合いの物を着ており、みんな似合っている。


 普段、見ることが出来ない浴衣姿のみんなはとても良かった。どう表現すれば正しいのか俺にはわからないが、似合っているのは確かな事だ。


 その中で特に浴衣が様になっているのは間違いなく静奈さんだろう。この辺では有名な仙道家の娘なので着る機会も多いかもしれない。それに、普段とは違う髪型にしており、首から見えるうなじがなんとも言えない。


「むぅ、航がずっと静奈先輩見てる!」


「この中では一番浴衣が似合っているから仕方無いのだ!」


「心なしか静奈の首元を凝視していた気がするけど……気のせいと思っておくわ」


 どうやら、静奈さんを見ていた事がすぐにバレてしまったようだ。それも首元を見ていたことまでもがばれている。


「航君……流石にそんなに見られると恥ずかしいよ……」


「す、すいません……」


 静奈さんの照れている顔を見るのは久しぶりな気がするが……相変わらず可愛い。


「みんな似合ってる!これは嘘じゃない」


 確かに静奈さんが一番似合っているのは違いないが、それでもみんなが似合っていないと言われたらそれは違う。それぞれ、良さがあるのだ。それがまた良いと俺は思う。


「それに少し申し訳ない……」


 その理由は簡単で、俺だけ私服なのだ。みんなが浴衣を着て来るとは思っても居なかったので、普通に来てしまった。


 浴衣を着て来るとわかっていれば、もっとしっかりとした服を着てきたのだが……この浴衣の四人と歩くにはこの服では申し訳ない。


「気にしてないわ!私たちが勝手に着てきただけだわ!」


「ありがとうございます」


 一緒に歩くにはつり合いは取れないが、そもそもこの四人と一緒に俺が歩いている段階でつり合いなど取れていないので、あまり気にしないことにした。


 みんなも六花さんの言葉に頷いているので、これ以上気にするのはみんなにも悪い気がする。今回は夏祭りを全力で楽しめば良いと思う。


 だが、次からはこういう時はしっかり気を付けようと心の中で誓った。


「早く行くのだ!我のお腹が贄を求めてるのだ!!」


「彩もだよ!楽しみで何も食べてきてないよ!!」


 彩と柊が一斉に走りだす。


「危ないぞ!走るな!」


 慣れない浴衣姿で、それに夏祭りという事もあって人が多い。走ると人にぶつかる危険があるし、こけてしまう可能性もある。


 それに、この人の多さではぐれてしまうとなかなか見つかりに難い。携帯の電波も弱くなるだろうからはぐれないに越したことは無い。


「わかってるのだ!」


「わかってる!」


 そういいながら二人は先ほどよりは速度が遅くなったが、それでも駆け足程度で駆けていく。


「あれは絶対にわかってないわ」


「けど、楽しそうだからいいと思うよ♪」


 先輩二人は駆けている二人を見ながら笑っていた。楽しそうにしている二人が微笑ましいのだろう。


「怪我しなければいいですね……」


 この地域でのお祭りはこの夏祭り程度しかないので、楽しくはしゃぐのもなんとなく理解出来る。怪我と人に迷惑をかけなければいいだろう。


 俺たちは河川敷に向かう。河川敷までは十分ほど歩く。人が多いので、いつもより少し時間がかかるが、それでも十五分程度だろう。


 先に行った二人は俺たちが見える範囲に居るので問題はない。はぐれると合流するのは時間が掛かるのは見ればわかるので、離れないように注意しているのだろう。


 そして、十五分ほど歩くと河川敷が見えてきた。時間的に少し早いが、それでも十分な人が居る。夜になればさらに込み合うに違いない。


 河川敷の手前で立ち止まった二人と合流して、出店が並んでいる通りに向かう。


「いっぱいあるのだ!!」


「人もすごく多いね!!」


 出店を見て再びはしゃぐ二人。この夏祭りに来るのもかなり前になるが、あの時と変わらないぐらいか、多くなっている出店が並んでいる。


 見えている限りでも様々な物がある。出店のメジャー商品である、焼きぞばはもちろんのこと、綿あめにから揚げ。紙コップに入ったポテトにフランクフルトなど、他にも様々な出店がある。


 ビニールに空気を入れた剣を売っていたり、金魚すくいなどもあり、小さな子供も楽しめる物もある。


 夏祭りが終わるまで、この場所に一日居ることが出来るだろう。


「どうする♪」


「歩きながら回る感じでいいと思うわ」


「俺もそれがいいと思います」


 出店の楽しみとは歩きながら見るに限るだろう。特にこだわりなどはないが、歩きながら色々な物を見るのが楽しいと思える。その中で目的の物を見つけたりすると嬉しさがあるのではないだろうか。


「我もそれでいいのだ!!」


「彩もそれでいいです!」


 全員が同意したので、出店を歩きながら見ることに決まった。


 俺は左右を二人に囲まれて河川敷を歩く。まさに両手に花という表現が正しいと思うが、真ん中に居るのが普通の姿をしている俺では、周囲から浮いている。


 すでに、浴衣の女の子四人に囲まれている段階で浮いているには間違いない。周囲からの視線を感じるのは仕方がないことだろう。


「みて、チョコバナナだよ!」


「彩はエッチなのだ!」


 右に沿った長いバナナに、上の部分にチョコがかかっているチョコバナナを見て、柊が可笑しな事を言いだした。


「な、なに言ってるの!そ、そういう意味で言った訳じゃないよ!!」


「恥ずかしがっているところが怪しいのだ!」


 普段であればこんな会話をすることはほとんどないのだが、お祭りに来ているということもあって、テンションが高いようだ。


 それにしても、流石に高校生なので、そういったことも知っていても可笑しくないのか……そんな事を思ってしまった。


「航なら信じてくれるよね?」


「ああ、信じるぞ」


「良かった!ありがとう、信じてくれて!」


「別に大したことことない……それより、チョコバナナ買って、食べてくれ。俺の方を見ながら」


「わかった!!」


「え……」


 完全に冗談で言ったつもりだったが、彩は何もそれに対して感じずに、そのままチョコバナナを買いに行った。


「……私、流石に今のは無いと思ったわ」


「私も少し……」


「俺もそう思います……」


 先ほどの会話でも普通に気が付いていたので、照れる反応を期待していたのだが……思った通りにはならず、俺が単純に最低の奴になっただけだった。


 無垢な少女を汚したような申し訳なさ……いや、実際に汚した訳ではないし、汚したこともないが、それでも罪悪感を抱いてしまった。


「買ってきたよ!」


「ありがとう……」


「それじゃ、食べるね!」


 彩は俺が言った通りにこちらを向きながらチョコバナナに……噛り付いた。


「…………」


 なぜかはわからないが、その光景を見て、太ももらへんがぞわっとした感覚に襲われた。


 チョコバナナを噛みながら、おいしそうに食べる彩を見て、申し訳ない気持ちになり、先端部分が無くなっているバナナを見て、複雑な気分になった。


 結論から、彩にそんな事を言った俺が全て悪いのだ。


「じゃ、もう一回行くよ?」


「いや、一回でいい」


 だが、その言葉を聞かずに、彩は再び俺の方を見ながら、チョコバナナに噛り付く。さらに短くなったバナナを見て、再び太ももらへんがぞわっとした。


 結局、すべて食べ終わるまで、俺の方を見ながら食べてきた。何食わぬ顔をしているが、もしかして狙ってやっているのではないか?と少し思ってしまった。


「我はあれがやりたいのだ!!」


 柊が指をさす方向には、射的があった。おもちゃの拳銃で、景品を落とすと貰えるというお祭りには良くある出店の一つだ。


「面白そう♪射的なんて初めてやるから、私もやる♪」


「静奈がやるなら私もやろうかしら!」


 結局、柊と六花さん、静奈さんが射的を行うことになった。少し並んでから三人の順番になり、俺と彩は後ろから見つめる。


「我が魔法の力、見せてやるのだ!!」


「仙道家のガンマンと呼ばれた私の力見せてあげる♪」


「私の美少女オーラで景品を落としてやるわ!」


 玉は各自五発打てるようになっている。どの景品を狙うのも自由で、やはり大きい物は取るのが難しくなっている。


 ていうか、柊は平常運転だが、先輩二人の言ってることも理解できない。仙道家のガンマン……六花さんに関しては、射的とは全く関係無い。


 まぁ、楽しそうにしているので、深い事は考えていないのだろう。


「私もやればよかった……」


 隣で見ている彩は羨ましそうに言っていたが、絶対に三人が言っていた良くわからない言葉を言いたいだけだろうと察する。


 三人は銃を構えて、景品を狙うーーー。


 まぁ、結果は言うまでもなく、一つも落とせなかった。


**********


 射的が終わってからも俺たちは話をしながら河川敷を歩いていた。夜になったため、来た時よりもかなり人は増えた。夜には花火も行われるので、それを見に来ている人も大勢いるようだ。


 歩きながら食べ物を食べたりしているので、お腹もちょうどより感じになって居る。食べることも出来るが、無理して食べる事はないだろう。


 みんなも大体そんな感じのようだ。


「金魚すくいしたいけど……金魚飼ったりする事出来ないしやめとこ」


「それがいいと思う。飼えないのに取るのは可哀そうだな」


 別にやるだけでも出来そうな気がするが、出来なければ金魚がかわいそうなのでやめておいた方がいいだろう。


 残念そうにしている彩の頭を軽く撫でると直ぐにいつも通りに戻った。


「航!あれって、キリト君と涼花じゃない!?」


 彩が指をさす方向には、確かにキリト君と海鳥さんに見える二人が歩いていた。


「もしかして、前に依頼してくれた人??」


「そうです……それにしても仲良くやってるみたいで良かったです」


 キリト君とは時々、やり取りをするぐらいで会って話をすることはほとんどない。海鳥さんに関しては、廊下ですれ違ったりすれば挨拶する程度だ。


「彩、邪魔したらーーー」


「涼花!!」


「…………」


「遅かった見たいなのだ」


「そうだな……」


 こうして一緒にお祭りに来ているということは、あれから進展があったということだ。大きな進展かは聞いていないのでわからないが、それでも今、二人の邪魔をするのは無粋な気がしたのだが……彩は気が付かなかったようだ。


「その声……きゃ!」

 

 彩は海鳥さんに抱き着いた。


「涼花、お祭りは行かないって言ったのに!」


 どうやら彩は海鳥さんと適度に連絡を取っているみたいだ。もしかしたら二人で遊びに行ったりしているかもしれない。


「久しぶりでござるね!」


「そうだよ!!航も居るよ!」


 彩は海鳥さんから離れて、俺の方に近づいて来た。


「航も久しぶりでござる!元気にしてたでござるか?」


「してるよ。てか、連絡何回かとってるだろ」


「そうでござるね」


 キリト君は俺と同じで、私服だが、海鳥さんはみんなと一緒で浴衣を着ている。その姿は、とても似合っていた。


 見た目だけで見るなら、黒髪ということもあり、静奈さん以上かもしれない。


「ところで、二人はデート?付き合いだしたの??」


「彩……」


 普通、そんなに率直に聞くか?確かに俺も少し気になって居たので、耳を傾ける。


「まだ、違うでござるよ!」


「そ、そうですよ!違うますよ!」


 否定はしている二人だが、こうして二人でお祭りに来ているということは、以前遊んだ時よりも距離は近くなっているのは間違いないだろう。それなら手伝った甲斐がある。


 せっかく二人来ているのだ。邪魔するのはやめておこう。


「彩、行くぞ」


 俺は彩の手を優しく握った。そして、海鳥さんとキリト君に「また、今度遊びに行こう」と伝え、離れた。


 そういえば、まだ、大阪に行こうと言っていたのに行っていない事を思いだしたので、また今度連絡してみることにする。


 二人の邪魔にならないように離れ、俺たちは再び河川敷を歩き出す。花火の時間までもう少しなので、場所取りに行く。


「それにしても、仲良さそうでよかった♪」


「そうね!ああいう光景を見ると、依頼を受けて良かったと思えるわ」


 確かに俺もそう思う。だが、俺たちがあくまでも手伝っただけで、頑張ったのはキリト君本人だ。あの感じなら友達以上になるのは遠くないのかもしれない。


それから、みんなで話をしながら、花火の場所取りを終えた俺たちは、花火開始時刻まで座って待機している。


 周りにも大勢の人がおり、みんなが花火を見るために集まっているようだ。多くのカップルの姿も見られるので、この中にキリト君と海鳥さんも居るだろう。


 静奈さんが気を利かせてレジャーシートを持ってきてくれていたので、助かった。もしなければ、浴衣のみんなを地面に座らせるところだった。


「あと一分で始まるよ!」


 花火開始時刻は二十時と書いてあった。現在は一分前なので、俺たちは花火が上がってくる方向を見つめていた。


 こうして花火を見るのは何年にも前になる。久しく見ていないので、少し楽しみだ。


「上がったのだ!」


 柊はそういうと、大きな音を立てて、夜空に大きな花が咲く。それが何十回も続き、連続で花が咲く。


「綺麗ね……」


「本当に綺麗だね♪」


「音が響くのだ!」


「タマヤー!!」


 久しぶりに見た花火は綺麗だ。柊が言う通り、胸の中に花火の音が響き渡っている。これを感じると花火を見ているという感覚がより強く湧き出て来る。


 それから俺たちは、様々な形で出て来る花火を見ながら会話をしていた。有名なキャラクターの顔や、ハートマークの花火……。


 小さな花火が連続で鳴り響く物など、本当に様々な花火が夜空に浮かび上がってくる。


 ふと、俺は花火を見上げているみんなの方に視線を向けた。みんなは話をしながら楽しそうに花火を見ている。瞳は小さな子供のように光り輝いている。


「綺麗だな……」


 柄にもなく、そんなキザな言葉をつぶやいてしまった。まぁ、花火の音で誰も聞こえていないので、問題はない。聞かれていたらしばらくは、からかってくるだろう。


 花火の音が大きくて良かったと少しだけ思った。


 花火は時間にして約三十分間鳴り響いた。あまり長い時間ではないが、その中で様々な綺麗な花火を見ることが出来たので良かったと思って居る。


「物凄く良かったのだ!」


「そうだよね!また、みんなで来れるといいね!」


「そうね!来年もみんなで見ることが出来たらいいわね」


「きっと見られるよ♪」


 花火を見終わったみんなの会話を聞きながら、俺も言葉にはしなかったが、そうなればいいと心から思った。


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