それは反則だ
「だから私今、葵ちゃんが一番心配で、大切なんだよねえ……」
何気なく、ごく自然に、といった雰囲気で優香さんの口から出た言葉は、多分数千倍の威力となって俺の耳に届いた。
急激に顔に血が昇っていくのが自分でも情けないくらい良く分かる。
不意打ち過ぎだ、だって「心配」とか「大切」とか、面と向かって言われる事なんかないだろう、普通!
優香さん本人も「しまった!」という顔をしているところを見るに、うっかり意図せずに言ってしまったんだろう、深い意味はない。多分。それが分かっているというのに、赤面が止められなくて仕方なく目を逸らした。
優香さんの方から超視線を感じるんだけど、もう勘弁して欲しい。
「いや、その、ごめん!」
目の端にあわあわと両手を振りながら謝っている優香さんが目に入る。その言葉に俺はハッとした。よく考えれば心配してくれているというのに謝らせるのはなんか違う気がする。
「……こっちこそ、ごめん」
なんとか謝ってチラリと優香さんを見たら、今度は優香さんが真っ赤になっていた。
なんだこれ、やっぱり相当恥ずかしい。ちょいちょいされてた女の子からの告白だってこんなに恥ずかしい気持ちになった事はない、いつだって冷静に対処できてたんだ、これまでは。
「いや、ええと、ええと。あのね、他意はないんだけど! あっでも心配なのは本当なんだよ!?」
「わ、分かってる」
優香さん、他意がないのは分かってる、だからもういいから……!
俺の思いとは裏腹に、優香さんは何故かなおも言い募る。
「っ……あのね、葵ちゃんだってずっと頑張ってたじゃない? 何度も何度も死にそうになっても愚痴も言わないで頑張っちゃうじゃない? 私、それずっと見てたから……この三年、本当に毎日毎日……」
「うん……ありがとう」
「逆に見てないと無茶しそうで心配っていうか」
どんだけ心配されてるんだ、どっちかって言うと優香さんの方がよっぽど危なっかしいと思うが。
「天界から見てた時は出来る事が少なくってホントもどかしかったんだけど、今は戦闘にも参加出来るし回復も出来るしこうして話せるし」
そうか、俺はこの世界に来てから初めて優香さんに会った気持ちだけど、優香さんはその前からずっと俺をみてるからそういう気持ちになるんだろう、多分。
「なんかやっと、一緒に戦えてる気がしてるんだよね」
そう言って優香さんはフフっと笑った。
「そっか、私、嬉しいんだ」
納得、という顔でなおも笑う優香さんは、もう顔の赤みもとれて割とすっきりした表情になっている。
「葵ちゃん、私、これからも一緒に冒険してもいい?」
「えっ」
「 私やっぱり葵ちゃんと一緒にいたい」
絶句。
なんて返せばいいんだ、これは。
「日本の方が住みやすいけど、こうやって葵ちゃんと一緒に苦労するのはなんか楽しいよ」
「優香さん、いいのか?」
「うん、いい。天界にいた時より断然充実してるし、きっと日本に帰っても私、葵ちゃんが心配でしょうがないと思う」
「……」
「私ね、今一番幸せになって欲しいのは葵ちゃんなんだ」
ダメだ、どうしたらいいんだ、またも顔がどんどん赤くなっていく。優香さんは至極真面目な顔で距離を詰めてくる。
ホントもう勘弁して欲しい。
「私が選んだ勇者様だもん、やっぱり葵ちゃんが幸せになるの、一番近くで見たい」
「そ、そう、か」
「葵ちゃんが迷惑じゃないなら」
「迷惑なんかじゃ!」
「うん、じゃあ一緒に頑張ろう! 」
朗らかに破顔して、優香さんが「これからもよろしく!」と手を出した。
敵わない。
なんだかおかしくなってきて、俺も笑いながら優香さんの手を取った。
優香さんとなら、きっと困難があっても一緒に乗り越えていけるんじゃないか、そう思った。
これにて完結です。
最後に神様のコメント入れようか迷ったりもしましたが、結果入れませんでした。
また思いついたら、彼らの冒険の続きを書きたいなと思います。