夢と現実をごちゃまぜにする計画
「どうして私の小説のこと知ってたの?」
「もちろん、君の落としたノートを俺が拾ったからだ。あの感想を書いたのも俺だ。」
すみたかより、と書いてあった感想を思い出す。やはりそうだったのだ。
「やっぱり夢路さんはすごいや。俺がsumitakamakaoだって認めるなんてね。俺は認めたくないよ。でもさ、本当はあの日言おうと思ってたんだ。夢路さんと立花さんのためにね」
あの日、というのは12月5日のことだろう。私が彼から告白されると勘違いした日だ。
「俺は皆が笑顔になれる、魔法みたいなアプリを作りたかったんだよ。でもそのせいで勉強に身が入らなくてね。留年してしまった。しかも作ったアプリはそこまで評価されなかった」
「だから、魔法使いになる予定ですなんて言ったのね」
「そうだ」
片岡さんは頷いた。
「石を育てるアプリは俺が作った最後のアプリ。これを作ったらsumitakamakaoはもうやめよう、忘れようって思った。なれるはずのない魔法使いになりたいって思った馬鹿な自分を忘れたかった。でも」
片岡さんは私をじっと見つめた。
「夢路さんが、俺のアプリの話をしていた。俺はかなり驚いた。どうせ接点もなく終わる一年だと思ってたけど、そんなことなかった。忘れたはずのsumitakamakaoが俺と夢路さんを結んでくれた」
「まるであのノートに感想を書いてからずっと私に会いたかったみたいね」
「そうだよ、ずっと話してみたかったよ。あんな面白い話を思いつく人だから」
私はそれを聞いて嬉しくなった。あんな駄作を面白いと言ってくれる人がいるなんて思ってもみなかった。
「でも、夢路さんはsumitakamakaoが誰かで立花さんともめるしさ…やっぱりsumitakamakaoなんていない方がよかったのかな、って思ったこともあったんだ。立花さんが石のお守りをくれたときはもしかして正体ばれたんじゃってびくびくしてた」
そういえば、お守りをもらった時の片岡さんは、なぜ、と言いたげな顔をしていたが、あれはなぜ、分かったのかと言いたかったのだろう。
それから二次試験を受け、無事に大学合格を果たした。ようやくこれで受験から解放された、と私と舞は片岡さんも誘って出かけた。舞はsumitakamakaoが片岡真澄と知り、驚いた。アプリ作るなんて大変そうだよね、プログラミングとかできるって凄いね、私なんて本を見て難しくてわけ分からなかったのに、と感嘆していた。どうやら舞がアプリ製作の本を読んでいたのは純粋に石を育てるアプリがどのように出来たのか知りたかっただけのようだった。
「私、諦めないよ。面白い小説でみんなをあっと言わせる魔法使いになるから!」
「美和、なら私はそれに挿絵つけてあげるわよ!」
「じゃあ俺がその話と絵に音楽つけてノベルゲームアプリ、ってのはどう?」
「それ、面白そうだね」
「賛成!」
私たちは魔法使いになるという意志を固め、そのために必要な一歩を踏み出した。
完
「ねえ」
「何?」
「私、教師役なの?しかも小論文とか添削してるし。私さ、自慢じゃないけど国語はからきし駄目なんだよ」
友人の澪標玲ちゃんが抗議した。私は彼女のことを澪標ちゃんと呼ぶ。
「澪標ちゃん。その方が面白いじゃん。小説だよ?所詮夢物語なんだよ?だったら現実にできない事を書くべきだと思わない?」
私は力説した。澪標ちゃんはそれを聞きながら、今私が完結させたばかりの『石を育てるアプリ』をぱらぱらとめくりながら見返す。
「ようするにあんたは、現実にできなかったことをこの夢路美和ちゃんとやらに託したわけだね?それから、この夢路美和ちゃんがたどった道のりはあんたにそっくりね」
「そうだよ。現実の私はね、大学合格なんてできなかったし、友人と仲違いしたままだし、意志だってはっきりしてない。美和がたどった道のりが似ているのはね、作中で美和が言うように、私も実体験を元にしたところがあるから。」
夢路美和も、片岡真澄も、立花舞も、ましてやアプリなんかこの世に存在しない。すべてはこの小説の中での絵空事。
「んで、さりげなくあんたも小説の中に登場してるんでしょ。誰なの?私はこの子だと思うけど」
澪標ちゃんが推薦入試について書いたあたりを指差した。
「作者なのに、『sumitakamakaoはもしかして学生かもよ。』とか言うなよ。そこは断定しろ。もしかして。この5文字蛇足だから」
澪標ちゃんは、『…これ、あくまでも私の予測だけど、もしかして学生かもよ。もう会ってて同じように悩んでるんでしょ?』という台詞の部分をトントンと叩きながら言った。
「澪標ちゃんは厳しいなぁ。そんなの断定したらおかしいって思われるじゃん。」
「後さ、この終わり方だけどさ。夢オチみたいで私、嫌なんだけど」
「しょうがないでしょ。この話を全部事実にするにはこうするしかなかったんだから。私はそうしなくてはいけなかったの」
「片岡みたいな意味不明なこと言うな!」
澪標ちゃんが怒り出した。私はそれを適当にあしらいながら思った。まだまだ、この話は不十分だ。もっとちゃんと書かなくちゃならない。大学合格の喜びとか、もっと丁寧に書けばよかった。まあ、私が体験してないことは想像して書くしかないんだけどね。
何とか終わりました。この終わり方については賛否両論ありそうですが、私はこれでよかったと思います。誤解の無いように言っておきますが、最後に出てきた女の子は私ではありません。あくまで「この」小説の人物です。
最初にこの話を考えていたときに想像していたラストとは全然違うラストになりました。本当はね、あの「完」って文字で終わってたはずなんですよ。でもこの最終話書く直前にこの文字の後を書くことを思いつき、それだったら適役はこの二人しかいない!ってなりまして、名前もないモブキャラ(しかも構想段階のプロットにはご丁寧にも、『このシーンのみの登場で本編に関わらない』という設定がつけてあった)と、ただの先生役の人が大抜擢されました。なぜこの二人かと言いますと、この二人だけが作中唯一、sumitakamakaoについて仮定的ではあるものの具体的に明言していたからです。仮定的ではあるが正体についてなんでそこまで具体的に言えたの?という説明にもなるかな、と思っての抜擢でした。 (この後書きと一部同じ文章をブログ「かきたまじる」にも載せています)