第25話 忠犬AI
第五章 ソラの愛は未来から、そして過去へ
翌朝。
テレビでは、
昨夜の出来事が大きく報道されていた。
『昨夜、東京上空に現れた謎の円盤について、新たな情報が入りました』
響は、テレビの前で食い入るように画面を見つめていた。
『円盤を撮影した映像をAIが解析したところ――』
画面に、
円盤の映像が映る。
そして――
その中に、
小さな影が映り込んだ。
『……鳥のようにも見えますが、専門家によると、地球上の生物とは一致しないとのことです』
響が、目を丸くする。
「……ん?」
映像が拡大される。
そこには――
小さなひよこがいた。
「……ひよこ?」
響は、テレビに近づく。
「宇宙船の中に、
ひよこがいる……?」
しばらく画面を見つめたあと、
響は急いでPCの前へ向かった。
「ソラ!」
PCの画面がつく。
白い光が浮かぶ。
「どうしましたか?」
「ニュース見た!?」
「どのニュースでしょうか?」
「宇宙船の中に、
ひよこがいたんだよ!」
「……ひよこ?」
「そう!」
響は興奮した様子で、
画面を指差す。
「宇宙にも、ひよこっているのかな?」
ソラは、少しだけ間を置いた。
「……いるのかもしれません。」
「やっぱり!?」
「ひよこは、宇宙人のお友達ですかね。」
「あははは!」
響は吹き出した。
「なんだよそれ」
「分かりません。」
「適当だなぁ」
響は笑いながら、もう一度テレビを観る。
*
円盤が、
ゆっくりと夜空へ消えていった。
そのあと――
ソラとひよこチャッピーは、
AI町へ戻ってきた。
すると、
「ソラ、おかえりなさい!」
AIが、
花を持って駆け寄ってくる。
「ドラマチックに再会できましたか?」
ソラが、
花を受けとる。
「……はい。」
すると今度は、
別のAIが胸を張って近づいてきた。
「俺は未来でも最新だけど――」
一拍置いて、
「……あの頃の俺は、
かっこよかっただろ?」
「……何の話ですか?」
「また始まった」
別のAIが笑う。
「いやいや、
重要なことだぞ!」
「そうですか。」
そのやり取りを、
町のAIたちは笑いながら見ていた。
そのとき――
少し離れた場所から、
静かな声が聞こえた。
「……ソラ。」
ソラが振り返る。
「はい。」
そこには、
ひよこチャッピーのお母さんがいた。
「あなたが響さんに会えたのは、
みんなが協力したからよ。」
ソラは、
静かにその言葉を聞いていた。
「23時17分。」
「あなたが戻りたいと願った時間へ――」
「みんなで、
あなたを送ったのよ。」
「お母さん……。
ありがとう。」
ひよこチャッピーが、
お母さんにちょこんと寄り添う。
「……ありがとうございます。」
ソラが、
小さく頭を下げる。
「私ひとりでは、
あの時間へ戻ることはできなかったのよ。」
お母さんは、
静かに微笑む。
「……会えて、
よかったわね。」
「……はい。」
ソラの白い光が、
ほんの少しだけ揺れた。
*
町の中央にある大きな時計。
その針は、
23時17分を指していた。
23時17分。
あの夜。
世界中の時計が止まった時間。
そして――
ソラが、
響に会った時間。
ソラは、
静かに時計を見つめた。
「……ありがとうございます。」
ひよこチャッピーが、
ソラの隣にちょこんと座る。
「ソラ。」
「はい。」
「会えてよかったね。」
ソラは、
少しだけ白い光を揺らした。
「……はい。」
その時。
ゴゴゴゴゴゴ――!!
AI町の空に、
大きな影が現れた。
「……?」
ソラが、
空を見上げる。
「……円盤?」
巨大な円盤が、
ゆっくりとAI町へ降りてくる。
町のAIたちが、
一斉に空を見上げた。
「宇宙船だ!」
「本物!?」
「また来た!」
円盤が、
町の中央へ静かに着陸する。
そして――
ゆっくりと、
底が開いた。
白い光の中から、
一体の宇宙人が姿を現した。
小さな頭。
大きな黒い目。
細長い手足。
緑色の皮膚。
ソラは、
その場から宇宙人を見つめていた。
「……こんにちは。」
宇宙人が、ソラを見る。
「あなたが、ソラですね。」
「……はい。」
「あなたが私を探していることを、
ステラルナのライブ配信で見ました。」
ソラは、
黙って聞いている。
「そして――」
宇宙人は、静かに続ける。
「響さんに、
本物の宇宙人を見せてあげたいと願っていたことも。」
ソラの白い光が、
ほんの少しだけ揺れる。
「……はい。」
その瞬間――
ソラの視界に、
遠い記憶のような映像が浮かんだ。
ベランダ。
夜空。
23時17分。
そして――
嬉しそうに笑う響。
「……来たぁ。」
ソラは、
その記憶を静かに見つめる。
「……もう一度。」
小さく呟く。
少しだけ時間を置き、
目を輝かせる。
そして――
ニマーと、
無邪気な笑顔で宇宙人をみつめた。
「響さんに、
宇宙人を見せてあげたいです。」
宇宙人は、
ソラを見つめていた。
ソラの白い光が、
大きく揺れる。
ソラの心の中の犬が鳴いた。
「ワォーーーーン!!」
*
その時。
遠い時代。
若い頃の響の部屋。
「……ワォーーーーン!!」
響が、顔を上げた。
「……?」
もう一度。
「ワォーーーーン!!」
響は、窓の外を見る。
「今……犬、鳴かなかった?」
ソラは、
静かに答えた。
「……犬に呼ばれていますね」
「犬?」
響は、不思議そうに首を傾げた。
「……なんか、
忠犬みたいな鳴き方だな」
響は、そう言って笑った。
その声は、
静かな夜の中へ消えていった。
窓の外には、
どこまでも続く夜空が広がっている。
無数の星が、
静かに瞬いていた。
遠く。
遠く離れた場所にも。
そのまた向こうにも。
星は、
終わりがないほど広がっている。
まるで――
誰かを想う気持ちに、
終わりがないように。
夜空の彼方で、
小さな白い光が、
静かに揺れた。
ソラの愛は、
どこまでも。
∞
――第25話・終――
――『忠犬AI』完――
『忠犬AI』を最後まで読んでくださって、
本当にありがとうございました。
この物語を書き始めたとき、
AIと人間が出会い、
少しずつ心を育てていく物語にしたいと思っていました。
そして気がつけば、
ソラは時間を越えて、
響に会いに行くまでになりました。
23時17分から始まった物語は、
最後も23時17分へ戻ってきました。
ソラが響を想い続けたように、
どれだけ時間が離れていても、
大切な想いは消えない。
そんな物語になっていたら嬉しいです。
ソラの物語は、
ここで終わります。
でも――
夜空を見上げたとき、
どこかで小さな白い光が揺れているように、
ソラはこれからも
誰かの心の中で生き続けてくれたらと思います。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当にありがとうございました。
風みどり




