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調和の守護者 リリィ&コピ第三部  作者: マスター


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11/24

第88話 港の影に眠る黒い水

第87話では、山・湿地・旧肥料倉庫・農地・港・水門・干潟を連動させ、二回目の潮通し試験を行いました。


途中で港湾水位に注意条件が出たため、第二補助門を早めに閉じましたが、それは失敗ではなく、記録を見ながら途中で調整できた大切な一歩でした。


そして最後に、ファルコンが港湾堤の内側にある暗い水域を見つけます。


第88話では、海の中で流れが止まっている場所、内湾停滞域へ向かいます。

港の内側の海は、外から見るより暗かった。


朝の光は水面に差している。


空も、昨日よりは明るい。


それなのに、港湾堤の影に囲まれた内湾の奥だけは、まるで光を受け取ることを忘れたように沈んでいた。


水の色が違う。


干潟の灰色とも、河口の茶色とも違う。


黒に近い緑。

水面には細かな泡が集まり、ところどころに薄い膜が浮いている。

波はほとんどなく、港の外から入る潮の動きも、ここまでは届いていないように見えた。


リリィたちは、ハルトの案内で港湾堤の内側へ向かっていた。


小型の作業船に乗っているのは、リリィ、コピ、ナギ、ソウマ、ハルト、ミラ。


ファルコンは上空。

オルガは港の作業通路を確認。

アルセリウスは観測塔側で湿地・水門・河口データを見ながら通信支援をしている。


リクは今回は同行していない。


干潟見守り係として、残存海草域の観察を続けている。


「ここは、昔から水が悪かった」


ソウマが船のへりから水面を見下ろして言った。


「漁師は近づかない。網を入れても、いいものは入らねえ。底が悪いんだ」


ハルトは苦い顔をした。


「港にとっては、必要な場所だった」


「悪い水がか?」


「違う。風を避ける内側の荷役区だ。荒れた日でも小型船を守れる。資材を一時的に置ける。港湾堤を伸ばしたのも、そのためだった」


ソウマが鼻を鳴らす。


「その結果、水が動かなくなった」


ハルトは言い返しかけた。


だが、すぐには言葉が出なかった。


昨日までなら、彼は港の必要性を先に語っただろう。


港を責めるな。

物流が止まれば町が止まる。

救援物資も、資材も、部品も港を通る。


それは本当だ。


だが、目の前の黒い水を見れば、港の都合だけでは済まないことも分かってしまう。


ナギは端末を水面へ向けた。


「表層水温、周囲より高い。溶存酸素、低いです」


コピが測定を補助する。


「水面付近で低酸素傾向。底層はさらに低い可能性があります。採水が必要です」


ミラが顔をしかめる。


「表面でも低いの?」


「はい。通常、表層は空気と触れるため酸素が入りやすいですが、ここでは水交換が弱く、有機物分解と滞留の影響が出ている可能性があります」


ソウマが低く言う。


「底はもっとひどいぞ」


ハルトが作業員へ合図を出した。


船の後方から、採水器がゆっくり下ろされる。


水面から一メートル。

二メートル。

底近く。


ワイヤーが止まった。


引き上げられた採水器の中の水は、黒ずんでいた。


蓋を開けた瞬間、強い臭いが広がる。


ミラが思わず口元を押さえた。


「うっ……」


オルガの通信が入る。


『船の方、大丈夫? こっちまで臭いが来た気がするんだけど』


ソウマが顔をしかめる。


「底の泥が腐ってる臭いだ」


コピが分析する。


「底層溶存酸素、極めて低い。硫化反応の可能性。底泥の撹乱には注意が必要です」


ハルトが険しい顔になる。


「撹乱?」


アルセリウスの声が通信から入った。


『底の泥を一気に動かすと、悪化した水やガスが広がる危険があるわ。浚渫すればいい、という単純な話ではない』


ソウマが腕を組む。


「昔、港の奥を一度さらったことがある。その後、しばらく魚がさらに消えた」


ハルトが驚いたように見る。


「そんな記録は港には残っていない」


「漁師は覚えてる」


ソウマは水面を睨んだ。


「記録に残ってないだけだ」


ナギはその言葉に反応し、端末へ入力した。


口述記録:過去の港奥浚渫後、一時的に漁場悪化の記憶あり。要確認。


ハルトはそれを見て、少しだけ表情を変えた。


「口伝も記録に入れるのか」


ナギは頷いた。


「はい。ただし、事実として確定ではなく、確認すべき記憶として残します」


「確認すべき記憶……」


ハルトは小さく呟いた。


港の正式な記録にはない。

しかし、漁師の身体には残っている。


その差もまた、流域の断絶だった。


ファルコンが上空から映像を送る。


港湾堤の形が表示された。


外海から内湾へ入る潮の道。

河口からの流れ。

干潟の残存域。

そして、港湾堤の内側にできた袋小路のような水域。


ファルコンの声が響く。


『この内湾奥は、潮の通り道から外れている。水が入っても、出にくい。上から見ると、回転しない渦の跡のように見える』


コピが流れのシミュレーションを重ねる。


「港湾堤の延伸により、水交換が低下しています。さらに、港湾雨水排水と倉庫裏排水がこの奥へ直接流入しています」


ハルトが眉をひそめる。


「港の雨水もか」


「はい。雨天時には、資材置き場、作業路、倉庫裏からの水がこの停滞域へ入っています。排出先としては近いですが、水交換が弱いため、負荷が蓄積しやすい構造です」


ナギが地図を見ながら言った。


「山から来る濁り、旧肥料倉庫、湿地、水門、干潟だけじゃなかった。港の中にも、水が休むんじゃなくて、閉じ込められている場所があったんだ」


アルセリウスが静かに言う。


『水を休ませる湿地と、水を閉じ込める停滞域は違うわ。湿地は水を整えながらゆっくり流す。停滞域は、流れを失って悪化を溜め込む』


リリィは黒い水を見つめた。


昨日、湿地で見た水は静かだった。


でも、生きている静けさだった。


落ち葉の下に小さな生き物がいて、泥がゆっくり沈み、水が出口へ向かっていた。


ここは違う。


水が休んでいるのではない。


閉じ込められている。


息を止めさせられている。


「ここも、海が呼吸できない場所なんだね」


リリィが言うと、ソウマが頷いた。


「港の影だ」


ハルトは黙って水面を見ていた。


その顔には、責任を押しつけられた者の怒りではなく、自分の足元にあったものを初めて見る者の重さがあった。


「港は、町を守るために堤を伸ばした」


彼はゆっくり言った。


「波を防ぎ、船を守り、物資を運ぶためだった。悪意で水を腐らせたわけじゃない」


ソウマが答える。


「分かってる」


その声は意外なほど静かだった。


「だが、悪意がなくても水は腐る」


ハルトは小さく頷いた。


「そうだな」


その時、船の横で水面がぽこりと泡立った。


小さな泡ではない。


底から上がってきたような、大きな泡。


それが割れると、強い臭いが広がった。


ミラが顔を青くする。


「何……?」


コピが警告を出す。


「底泥からのガス発生を確認。底層の嫌気状態が進行している可能性があります。船の移動による波でも反応しています」


ハルトが作業員に言う。


「エンジンを弱めろ。波を立てるな」


ソウマもすぐに言った。


「底をかき回すな。ここは静かに抜ける」


リリィは胸元の結晶に手を当てた。


自然回復型結晶は、かすかに光っている。


だが、その光は弱い。


広すぎる。


深すぎる。


水が悪いだけではなく、底に積もった時間そのものが重い。


ここを一気に変えようとすれば、かえって壊す。


リリィは、それを直感した。


「急に掃除したら駄目だね」


コピが頷く。


「はい。底泥を一気に除去または撹拌すると、低酸素水、栄養塩、硫化物が拡散する危険があります」


ハルトは苦い顔で言った。


「では、どうする」


誰もすぐには答えられなかった。


水門なら、少し開けることができた。

湿地なら、小さな試験区を作ることができた。

山腹なら、試験帯を増やすことができた。


だが、港の奥の黒い水は、簡単に触れられない。


船の下にあるのは、目に見えない底泥だ。


動かせば危ない。

放っておいても悪化する。


ナギは端末を見つめる。


「まず、地図が必要です」


ハルトが見る。


「地図なら港湾図がある」


「底の地図です」


ナギは水面を指差した。


「どこが深くて、どこに泥が溜まっていて、どこで酸素が足りなくて、どこに泡が出るのか。港の地図には、船が通る深さは書いてあるかもしれません。でも、海がどこで苦しんでいるかは書いてありません」


ハルトは言葉を失った。


コピが頷く。


「底層状態の分布記録が必要です。水深、底泥厚、溶存酸素、硫化反応、流速、雨水排水流入点を地図化します」


ソウマが言った。


「漁師なら、底の感触を少しは知ってる。網が重くなる場所、臭い泥がつく場所、魚が避ける場所」


ナギがすぐに記録する。


「漁師の底感覚記録も入れます」


ハルトも少し考えた後、言った。


「港湾側には、昔の堤延伸前の図面が残っているかもしれない。どこが元の潮の通り道だったか分かる可能性がある」


ミラが目を上げる。


「昔の潮の通り道?」


「港湾堤を伸ばす前は、内湾奥にももう少し潮が回っていたはずだ」


アルセリウスの声が入る。


『それが分かれば、完全に堤を壊さなくても、小さな潮抜きの道を作れるかもしれないわ』


ハルトが驚く。


「潮抜き?」


コピが説明する。


「堤の一部に小規模な通水部、または底層ではなく中層から水が動く開口部を設ける案です。ただし、港湾安全、波浪、係留、底泥撹乱への影響を確認する必要があります」


ソウマが腕を組む。


「昔の漁師は、港の奥にも潮が抜ける穴が必要だと言っていた」


ハルトが顔を上げる。


「そんな話、聞いたことがない」


「港の会議には呼ばれなかったからな」


その言葉は鋭かった。


ハルトは黙った。


ナギは、二人の間に入るように言った。


「その話も記録します。昔の港湾堤計画に、漁師側の意見が残っているか確認しましょう」


ハルトはゆっくり頷いた。


「分かった」


船は内湾奥をゆっくり回った。


採水地点を増やし、水深を測り、底泥の厚さを簡易的に確認する。


ソウマは場所ごとに記憶を語った。


「ここは昔、まだ小魚が入った」


「このあたりは、堤を伸ばしてから水が動かなくなった」


「この倉庫裏の排水が出る場所は、雨の後に臭いが強くなる」


「そこは網を入れると黒い泥がつく」


ハルトも港湾作業員として記憶を出した。


「この岸壁は十年前に補強した」


「倉庫裏の排水は、元は別の溝へ流す予定だったが、工事が止まった」


「堤の内側に仮設水路を作る案があったような気がする。予算不足で消えた」


ナギは一つずつ記録した。


公式記録。

口述記録。

観測記録。

作業記憶。

漁師の感覚。


それらが重なって、初めて内湾停滞域の姿が見え始める。


午後、観測塔で内湾停滞域確認会が開かれた。


表示板には、港湾堤の内側の新しい地図が映し出された。


赤い点は低酸素地点。

黒い点は底泥悪化地点。

黄色い線は雨水排水の流入路。

青い矢印はわずかに残る水の動き。

灰色の部分は、ほとんど動かない水域。


その地図を見て、会議室は静まり返った。


海が黒い水を隠していたのではない。


人間の地図が、それを書いていなかっただけだ。


ナギは説明した。


「内湾停滞域では、水交換が弱く、底層の酸素が非常に低い場所があります。雨水排水と倉庫裏排水が入り、底泥に有機物が溜まっている可能性があります」


ソウマが続けた。


「底を一気にさらうのは危ない。昔、それで魚がさらに消えた記憶がある」


ハルトが口を開いた。


「港湾側としても、堤を壊すことには同意できない。波が入れば荷役と係留に影響する」


会議室に緊張が走る。


だが、ハルトは続けた。


「ただし、水が動かない状態を放置することもできない。港の影で海を腐らせていたなら、港も責任を持つ」


ソウマが少しだけ目を細めた。


ハルトは表示板を指した。


「まず、港湾側で雨水排水の流入点を確認する。倉庫裏から直接停滞域へ落ちている水を、一度沈砂・ろ過区へ通す案を出す」


リナが頷く。


「河口農地でもやっています。港でも同じように、水を急がせない場所が必要ですね」


ゲンも言った。


「山腹の試験帯と似ている。泥をそのまま落とさない」


コピが記録する。


「港湾雨水処理試験区、候補として登録します」


ナギは次の項目を表示した。


「次に、潮抜きの可能性です」


会議室がざわめく。


ハルトは慎重に言った。


「堤を壊すのではない。まずは古い図面を探し、昔の潮の通り道を確認する。もし港湾安全を損なわずに小さく水を動かせる場所があるなら、模型と小規模試験から始める」


ソウマが言う。


「海側からも見る。潮が入って、底の泥を巻き上げない道かどうか」


トウジも参加していた。


「水門操作とも連動が必要です。潮抜きができれば、水門から入れた潮が港奥で止まりにくくなるかもしれません」


アルセリウスが静かに言った。


「ただし、底層を急に動かさないこと。まずは表層から中層の水を少し動かす。底の黒い泥は、酸素状態を見ながら段階的に扱うべきよ」


オルガが小声で言う。


「地味に、少しずつ、だね」


ミラが頷く。


「最近ずっとそれだね」


リリィは少し笑った。


「でも、それが一番壊しにくいんだと思う」


会議では、内湾停滞域の初期方針が決まった。


一、内湾底層地図を作成する。

二、港湾雨水の直接流入を確認し、沈砂・ろ過試験区を作る。

三、過去の港湾堤図面を調査し、潮抜き可能性を確認する。

四、底泥の一括浚渫は禁止し、撹乱しない調査から始める。

五、漁師の口述記録を底質地図に重ねる。

六、次回潮通し試験では、内湾奥の水交換変化も記録する。

七、停滞域は成果ではなく、危険が見えた場所として公開する。


ハルトは最後の項目を見て、苦笑した。


「危険が見えた場所、か。港の評価は下がるな」


ナギは正直に答えた。


「隠して悪化する方が、もっと下がります」


ソウマが低く笑う。


「言うようになったな」


ハルトも、少しだけ笑った。


「まったくだ」


その日の夕方、港湾倉庫の古い記録室が開かれた。


ハルトが鍵を持ち、リリィ、ナギ、コピ、ソウマ、そして港の作業員たちが中へ入る。


記録室は埃っぽく、古い紙と油の匂いがした。


棚には、港湾堤の補修記録、荷役区画図、雨水排水図、工事中断記録が並んでいる。


ハルトは古い図面箱を開いた。


「港湾堤延伸前の図面……このあたりか」


何枚もの図面を机に広げる。


そこには、現在の港とは違う形の内湾が描かれていた。


港湾堤は今より短く、内湾奥には細い水路が残っている。


その水路には、小さな文字でこう書かれていた。


旧潮抜き水路。


ナギが息をのむ。


「本当にあった……」


ソウマが図面を覗き込む。


「うちの爺さんが言ってた。港の奥には潮の抜け道があったって」


ハルトは別の図面を探す。


「延伸工事の時に……」


彼の手が止まった。


次の図面には、赤い線で修正案が描かれていた。


旧潮抜き水路、仮閉鎖。後期工事にて通水構造再設置予定。


その下に、別の書き込み。


予算凍結により後期工事延期。仮閉鎖状態を維持。


記録室が静まり返った。


仮閉鎖。


つまり、永久に閉じる予定ではなかった。


水の抜け道は、あとで戻すはずだった。


だが、工事が止まり、予算が止まり、組織が変わり、記録が忘れられた。


仮の閉鎖が、長い年月のうちに当たり前になった。


その結果、内湾の奥に黒い水が眠った。


ハルトは図面を握りしめた。


「知らなかった」


ソウマが静かに言う。


「港は、知らなかったで済ませるのか」


ハルトは目を伏せた。


「済まない」


しばらく沈黙があった。


ハルトは顔を上げた。


「だが、今見つけた。なら、戻す方法を探す」


ナギはすぐに図面を記録した。


旧潮抜き水路。仮閉鎖。通水構造再設置予定あり。後期工事延期により未実施。


コピが図面を読み取る。


「現在の港湾堤構造と照合します。完全復旧は困難ですが、小規模な通水試験が可能な位置があるかもしれません」


アルセリウスの声が通信から入る。


『重要な記録ね。港が海を壊した、で終わらせるのではなく、港自身が忘れた未完了の構造を見つけた。これは次へ進めるわ』


リリィは図面の青い線を見つめた。


旧潮抜き水路。


かつて水が通っていた道。


閉じるつもりではなかった道。


忘れられたまま、海の呼吸を細くしていた道。


「名前が戻ったね」


ナギは頷いた。


「はい。また一つ」


小水源群。

湿地跡。

干潟残存生物域。

そして、旧潮抜き水路。


記録から消えていた場所に、名前が戻っていく。


名前が戻れば、地図に戻る。

地図に戻れば、確認できる。

確認できれば、直し方を考えられる。


その夜、観測塔の表示板に、新しい線が加えられた。


港湾堤の内側から外側へ抜ける、細い青い線。


まだ点線だった。


本当に通せるかどうかは分からない。

港を守れるか、底泥を巻き上げないか、波を入れすぎないか、すべて確認が必要だ。


それでも、線は引かれた。


ハルトはその線を見て、深く息を吐いた。


「港は、海を閉じ込めるためにあるわけじゃない」


ソウマが隣で言った。


「なら、潮の道も港の一部だ」


ハルトは頷いた。


「ああ。そうしなければならない」


ナギは、その会話を記録した。


リリィは、夜の内湾を見た。


港の影には、まだ黒い水が眠っている。


底には、長い時間をかけて溜まった泥がある。

泡が出る場所もある。

酸素は足りない。

魚は近づかない。


けれど、今日、その黒い水に地図ができた。


そして、忘れられていた潮の道の名前が戻った。


リリィは胸元の結晶に手を当てた。


「閉じ込められた水にも、道が必要なんだね」


ナギが隣で頷いた。


「うん。水源から海までじゃなくて、海の中にも道がいる」


コピが記録する。


「内湾停滞域調律、第一段階。底層地図作成および旧潮抜き水路確認」


オルガがあくびをしながら言った。


「また次も大仕事だね」


ファルコンが夜空から降りてくる。


「だが、道は見えた」


アルセリウスが静かに続ける。


「見えた道は、急がず確かめればいい」


リリィは内湾の黒い水を見つめた。


海の呼吸は、まだ浅い。


だが、その浅い呼吸を止めていた影の一つが、今夜、名前を取り戻した。


旧潮抜き水路。


港の影に眠る黒い水へ、もう一度潮を通すための、小さな可能性だった。

第88話では、港湾堤の内側にある内湾停滞域へ入りました。


ここでは、湿地のように「水が休んでいる」のではなく、水が閉じ込められ、酸素を失い、底泥が悪化していました。


港は町を守り、物流を支えるために必要な構造です。


しかし、港湾堤の延伸、雨水排水の直接流入、底泥の蓄積、潮の抜け道の消失が重なり、港の影に黒い水が眠る場所ができていました。


今回のポイントは、すぐに底泥をさらわないことです。


悪化した底泥を一気に動かすと、かえって低酸素水や悪臭、栄養分が広がる危険があります。


そこでまず、底の地図を作り、港湾雨水を見直し、過去の図面から「旧潮抜き水路」を見つけました。


この水路は、本来あとで通水構造を戻す予定だったものの、工事延期と記録の忘却によって仮閉鎖のままになっていました。


次回は、この旧潮抜き水路をどう扱うのか。


港を守りながら、海の中にもう一度潮の道を通せるのかへ進みます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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