引き上げたものわ
船は、揺れていた。
一定のリズム。
波の上。
龍二が欠伸をする。
「さっきの当たり、マジでなんだったんだ」
軽い声。
いつもの調子。
それが、ここを現実に繋ぎ止めている。
「……さあ 」
大牙は短く返す。
視線は海に落ちたまま。
黒い水面。底の位置が、決まらない。
「もう一回やるか」
龍二が竿を持ち直し。糸を投げる。
糸が沈む。
音もなく、深く。
数秒後、違和感がおとずれた。
大牙の竿が、しなる。
「……お?」
引く。
重い。だが、手応えが、わずかに遅れる。
水の中で、何かが“ついてくる”。
水面が割れ、音が遅れて来る。
現れた。
小さい。
子供の形。
だが、揃っていない。
手の長さ。
指の数。
関節の位置。
どこかが過剰で、どこかが足りない。
「……なんだよ、これ」
大牙の声が落ちる。
それは、船縁に触れた瞬間、
自分で動いた。ぬるり、と。
床へ。音が遅れて来る。
濡れた音。だが、水が広がらない。
“留まる”。
形のまま。
それが、顔を上げる。
位置が揺れ、目が合う。
合ってしまう。
その瞬間。
音が消える。
波も、風も、すべてが一段沈む。
代わりに、流れ込む。
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意味は、分からない。
分からないはずなのに、どこか、引っかかる。呼ばれているような、感覚だけが残る。
誰に向けられているのかは、考えない。
「……っ」
呼吸が止まる。
大牙の左腕が、疼く。
内側で、何かが触れる。
「おい、下がれ」
低く、鋭い。龍二の声
立ち位置が自然と変わり、大牙の前に出た
訓練された重心。
「風見さん……」
「目、逸らすな」
短く発した。
「距離取る。触るな」
判断が早い。
足元を見る。
滑り。
踏み込みを調整する。
逃げ道を測る。
それでも、目の前の“それ”は、
距離の上にいない。
這う。
ゆっくりと。
だが、止まらない。
龍二が踏み込む。
間に入る。
手を伸ばす。
止めるために。
その瞬間。
“ズレる”。
近いはずの位置が、遠い。
手が空を切る。
「……は?」
龍二の声が低くなる。
もう一度、位置を測る。
触れる。感触がない。
遅れて、冷たい湿りだけが残る。
「理屈が……合わねえ」
短く吐く。
それは、
跳ねた、距離を飛び越えて、目の前に来る。
近い。
近すぎる。
龍二が腕を出す。
遮る。だが、
“すり抜ける”。
先に通り、あとから触れる。
順番が逆になる。
「くそっ……!」
それでも、龍二は下がらない。
もう一度、位置を取り直す。
大牙の前に、立ち続ける。
意味がなくても、意味を作るように。
その間にも
流れ込む。
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意味は、掴めない。
だが、無視できない。
大牙の左腕が、熱を持つ。
冷たいのに、焼けるように。
内側で、何かが揃いかける。
「……やめろ」
誰に対しての言葉は解らないが、言葉が漏れでた。
だが、届かない。
魚名が言う。
「……上がってきたかのか」
海が、船が、
大きく揺れた、 次を待つように。
龍二は、まだ動いている。
守ろうとしている。理解できないまま、
それでも前に出た。
全体シナリオとしては、このシナリオは第0話なんですよね。
それにしても、風見龍二 TRPG中と違ってカッコよくなりすぎじゃあねえ?




