14-3
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「な、なんだあいつ……巨人……?」
俺はギガースを思い出した。ここに来る途中で襲ってきた、巨人のモンスターだ。実際、扉から覗いている奴の頭は、ギガースにそっくりだ。岩を寄せ集めて作ったような、武骨な顔面。
だが、下半身は違った。巨大な頭と胴体に続いて現れたのは、何本もの、節のある脚。
「ッ」
虫嫌いのフランが、思わず身を引くのが見えた。何本もの足が波のように動き、石床をカツカツと叩く。ムカデ……?いや、最後に出てきた細長い尾の先には、鋭い毒針が見える。確か、ムカデのお尻に毒針はなかったはず。あれはむしろ、サソリか?
「バゴオオオォォォォ!」
っ!空気がビリビリと震える。巨大なサソリの化け物が、突然咆哮した。それはまるで、号砲だった。奇妙な姿の怪物たちは、一斉に襲い掛かってくる。
「なんだ、あの馬鹿でかいのは!?」
『あのモンスターも、記録にありません!』
「また新種!?どうなってんだ、くそ!」
俺は、巨大なサソリの化け物を見上げる。ギガースによく似ているが、どこか様子がおかしい。どこだろうかと観察すると、気付いた。目だ。奴の目は真っ黒になっていて、しかも六角形のハニカム模様に覆われている。あれは、複眼だ。
「まさか……あれは、ギガースを改造したモンスター……?」
「桜下さん!」
ウィルに呼ばれて、俺はハッと意識を戻した。
「わ、私たちは、どっちと戦うべきですか……?」
ウィルはすっかり混乱した顔で、巨大サソリと合成獣、二種類の怪物を見比べている。俺は頭を巡らせた。数の多い合成獣の方に加勢すべきか?でも、あのサソリ相手に、普通の兵士たちが敵うかと言われると……
「桜下!僕たちは、あのデカブツを叩くんだ!」
「え?」
悩んでいる俺の横を、数人が慌ただしく駆け抜けていく。金髪と、弓と、シスターのローブが見えた。
「クラーク!」
クラークたち一行は、巨大サソリへとまっすぐ向かって行く。クラークが半分だけ振り向いて叫んだ。
「総隊長殿からの伝言だ!アレは、僕らに任せると!」
「くそ、わかったよ!」
エドガーのやつ、勝算はあるんだろうな?あっちの合成獣どもも、なかなか強そうだぞ。片付いて戻ってきたら全滅してました、は無しだからな!
「問題ないよ、桜下!」
ライラが俺の袖を掴んで言う。
「あっちを、ソッコーでやっつければいい!そしたら、戻って手伝えるでしょ!」
「!……ああ、その通りだ!」
よし、そうと決まれば!俺はライラの手を握ると、負けじとクラークの後を追った。
「レイライトニング!」
バチバチバチ!激しい音と共に、前方で閃光が炸裂した。クラークがおっ始めたようだ。
「で、一番表の結果は……?」
クラークの魔法は、怪物を直撃したらしい。奴の首元あたりに、もうもうと煙が上がっている。だが……
「バゴアァァァァ!」
う、嘘だろ?全然効いてない!それどころか、怒り狂って襲い掛かってきたぞ!
「クラークのバカ野郎!ぬるい攻撃しやぁがってえええええ!」
悪態の途中で、俺は全速力で駆けだす羽目になった。怪物が大岩のような拳を振り下ろしてきたからだ。ズドォーン!
「うわっ、あいつ!床が抜けるぞ!」
あんなとんでもない力で殴ったら、石床だろうがぶち抜いてしまうだろう。だが、ヘルズニルは思ったより頑丈に造られているらしい。床には、小さなひびしか入っていなかった。
「ほっ……って、安心もできないか」
いっそ、床をぶっ壊して落っこちてくれればよかったのに。だがそうなると、俺たちも先に進めなくなる。どっちみち、あいつを倒さないとダメそうだ。
「くっ!僕のレイライトニングが、効かないなんて……!」
クラークは悔しそうに歯噛みしていた。
「クラーク!何でもいい、とにかく攻め立てろ!」
アドリアが叫ぶと、弓を引き絞り、パッと離した。ピュゥーン!
ドパァァン!矢は命中すると同時に、爆発した。いつかに見た、アドリアの爆発する矢じりだ。
「敵の弱点が分からん以上、とにかく手数で試すしかない。畳みかければ、いつかは膝をつくはずだ!」
「わ、わかった!」
クラークはうなずくと、再び魔法を唱え始めた。大丈夫か?要は、手当たり次第ぶっ叩けってことだろ?作戦なんて呼べたもんじゃない。
「じゃあ他にいい手があるのかと言われたら、ないけどな……!」
敵は、シンプル極まりない武器を持っている。でかさと、堅さだ。ひねりがない分、隙が無くてやりづらい!
「くそ、俺たちも加勢するぞ!なんとか突破口を見つけないと!」
あのデカブツを倒さなきゃいけないのもそうだが、俺はレーヴェとの約束も忘れていない。あの巨人が、もしもレーヴェたちと同じなんだとしたら……できれば、むやみに殺めたくない。
「あたしが援護するわ!行きなさい、フラン!」
アルルカが舞い上がると、杖を掲げて叫んだ。フランはうなずくと、姿勢を低くして駆け出した。小柄なフランだが、化けサソリは彼女の脅威を感じ取ったらしい。クラークたちに構わず、フラン目掛けて拳を打ち下ろしてくる。
「フラン!」
フランはひらりと跳躍して、拳をかわした。さらにそのまま、巨人の腕を駆け上がる。ダダダッ!
「やあああ!」
フランが跳んだ!奴の鼻っ柱に、蹴りを入れるつもりだ。いいぞ、奴は巨体のせいで、動きは鈍重だ!それに今、腕は下がっている!
だが次の瞬間、フランの両側に、真っ黒な何かが伸びてきた。馬鹿な!奴の腕は、まだ下にあるぞ!?
「あ、あれは!ハサミだ!」
くそ、今まで隠してやがったな!巨人の背中側から、大きな黒い、サソリのハサミが伸びてきたのだ。あいつ、複腕だったなんて!しかもフランは空中にいて、ハサミから逃れようがない!
「ふ、フラーン!」
「スノウウィロウ!」
パキパキパキ!アルルカの杖先から氷の鞭が噴き出し、ビューンと怪物へと伸びた。あいつを縛る気か?だが鞭は、怪物ではなく、フランの方へと飛んで行った。
「掴まれ!」
アルルカが叫ぶ。フランは飛んできた鞭を片手で掴むと、そのままぐいっと引っ張られた。アルルカに釣り上げられたフランは、間一髪、化けサソリのハサミから難を逃れた。
「あ、危なかった……って!」
「ダーリン、前!」
ちくしょう!サソリの尾が、鞭のように飛んできている!あいつ、アルルカのマネを!
ロウランが飛び出すと、一瞬で金色の膜があたりを包んだ。その数拍後で、凄まじい衝撃と轟音が俺たちを襲う。ガィィーン!
「ぐあっ……!」
音と振動で、脳震盪を起こしそうだ。俺たちはロウランの盾ごと宙を舞い、ぐしゃっと落ちた。
「くっ……そおぉ」
「だ、ダーリン。だいじょうぶ?」
「ああ、なんとかな……」
俺とロウラン、そしてライラは、球形の盾の中で洗濯機よろしくもみくちゃになっていた。こんなのが何度も続いたら、俺たちは溶け合ってバターになっちまうぞ。
「トリコデルマ!」
ん、この呪文?ウィルか!幽霊のウィルは、化けサソリに攻撃を受けることなく、天井近くまで浮上していた。そこから、真っ赤に燃える火の粉をまき散らす。うまいぞ、サソリの頭を直撃だ!だがなんと、化けサソリはうっとおしそうに手を振り、粉をいとも簡単に吹き飛ばしてしまう。う、嘘だろ、あの粉はものすごい高温のはずだぜ?ウィルも唖然としている。
「バゴオオォォ!」
化けサソリは吠えると、再び暴れ出す。今度はクラークたちが対象だ。
「コネクト・ボルボクス!」
クラークは自身に身体強化の魔法をかけると、背中にアドリア、腕にミカエルを抱えて、怪物の攻撃をかわした。大きくバックジャンプすると、ひとっ跳びで俺たちのもとまで下がってくる。
「くそ!ダメだ、全然効いていない!桜下、君たちでもダメか!?」
「ちくしょう、ごらんの有様だよ!あいつ、魔法も効果が無いのか?」
「分からない……けど、諦めるわけにはいかない!」
それは、俺だってそうだ。だが……その時、俺たちの後ろから、はぁはぁと息を切らした声が聞こえてきた。
「みんな、遅れてごめん!」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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