表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
770/860

14-2

14-2


作戦は予定通り、決行された。連合軍は長い列をなし、ヘルズニルへとなだれ込む。ホールを抜け、通路を進み、昨日フレッシュゴーレムと戦闘した部屋までやって来た。


「ここから先は、未知の領域だ。慎重に、だが恐れず進むぞ!」


エドガーの号令のもと、連合軍はさらに上層へと進軍を開始する。城に巻き付くような形の、管状の通路を登っていくと、ことさらに広い部屋へと出た。


「大きいな……」


部屋を見回す。壁際には、太い柱が何本も並んでいる。天井は高く、兵士たちの足音が響く。


「なんだか、神殿みたいなの」


ロウランの感想だ。神殿、か。言い得て妙かもしれない。この部屋はひんやりとしていて、死の静寂に満ちている。どちらかといえば、墓所が正しいのかも。

部屋の最奥、柱を抜けた先には、大きな石の扉が見えた。


「あの扉の奥が、先に続いているのかな」


重そうな扉だ。どうやって開ければいいんだろう?しばらく調べていたが、その扉以外に出口はなく、かといってスイッチのようなものがあるわけでもないらしい。それでもめげずに兵士たちが扉を調べていると……

ズズズ……石臼をひくような音がして、兵士たちがあっと声を上げ、扉から離れた。


「と、扉が……開いてくぞ?」


石の扉が、ひとりでに開き始めた。


「仕掛けが作動したのか?うまくいったってことだな」


「ううん、待って」


フランが、張り詰めた声で言う。


「こうとも考えられない?あの扉は、私たちを入れるために開いたんじゃない……中の“もの”が、外に出るために開いたんだって」


なんだって……?腹の底が、ひやりとした。フランの野性的なカンはこういう時、驚異的な的中率を誇る。まさにその時だ。扉の奥から身の毛もよだつ奇声が聞こえてきた。


「キシャァァ……」


「ヴォロロロ……」


くそ!扉から、なにかが出てくる!


「敵襲ー!てきしゅーう!」


兵士たちが口々に叫ぶと、剣や槍を構える金属音が、一斉に響いた。ジャキン、シュルルーン。


「くそ、始まりはいつも唐突だな!」


「ダーリン、アタシの後ろに!」


ロウランが素早く盾を展開する。よし、幸い扉がノロノロとしか開かないおかげで、先手は取れた。まずは落ち着いて、敵を観察するところから始めよう。

やがて、“それ”がぬぅっと、戸の隙間から頭を突き出した。ワニ……か?巨大な口、鋭い牙。鼻の穴は大きく、目は不格好で、小さい。ワニを醜悪にしたような顔だ。だが、続いて出てきた胴体は、とてもワニとは思えなかった。奴の首から下は、人間だ。背丈は普通の人の二倍近くあり、肌はくすんだ青灰色。そしてなんと、片腕がヘビになっている。


「なんだ、ありゃ……?」


その怪物は、奇怪な、今まで見たことのない姿をしていた。既存の生物の、様々なパーツをつぎはぎにしたような、いびつな構造をしている。しかも一体だけではない。そいつに続いて出てきた奴らも、似たような姿だ。四足歩行の奴もいれば、二本足で立つ奴もいる。足がなく、蛇のように這って動く奴もいた。そんな奴らが、何体も、何体も出てくる……!


「なんだ、あいつら……アニ!あれは、なんていうモンスターなんだ!?」


『わ……わかりません』


「え?」


アニが、困惑するように、ふるふると震えている。わからない?博識な魔法の字引が、知らないだって?


『あんなモンスターは、今まで発見された記録がありません。合成獣(キメラ)のようではありますが……』


「記録がない?新種ってことか?」


『もしくは、人類の発見記録がないのか……いずれにしても、未知数です。気を付けてください!』


「くそ、気を付けるって言われてもな……!」


何に気を付ければいいんだ。火を吹いてくるのか、毒を吐くのか?

正体不明の怪物は、巨大な口から、ダラダラと気持ち悪いよだれを垂らしている。鼻を突く悪臭も漂ってきた。レーヴェを助けた、あの実験室と同じ匂いだ。


「っ!怯むな!やっちまえ!」


あ、バカ!一人の兵士が声を張り上げると、剣を振りかざして、ワニのような怪物に襲い掛かる。兵士の剣がキラリと光ると、ワニ頭の喉元に、まっすぐ突き刺さった。ズブリ!


「どうだ、化け物め!」


兵士が獰猛な笑みを浮かべた。だがすぐに、その顔がこわばる。ワニ頭の怪物は、まったく何の反応もしなかったのだ。まるで他人事のように、自分に突き刺さった剣を見下ろしている。

次の瞬間、怪物の小さな眼が、ぎょろりと動いて兵士を捉えた。しゅるりと、蛇の腕が伸びる。バキン!蛇が剣に絡みついたかと思うと、真っ二つに折れてしまった。兵士は、折れた剣と、怪物に刺さったままの刃を見て、茫然としている。


「ヴォロロロロ!」


怪物が牙を剥いて、兵士に襲い掛かる!一転して襲われる側になった兵士は、折れた剣を放り投げて逃げ出した。仲間の兵士たちが助けようと、矢を何本も打ち込むが、怪物は止まらない。


「くそが!俺の後ろに隠れろ!」


一人の重装兵が、巨大な盾を構えて怪物に突進した。兵士は命からがら、その後ろに駆け込んだ。だが次の瞬間、信じられないことが起こった。


「グパァ!」


怪物が口を開けた。怪物のあごは、ペリカンのようにぐっと広がると、重装兵もろとも、兵士を飲み込んだ。

バギッ!メギッ、バキ、ゴリゴリ……

ウィルが鋭い悲鳴を上げ、フランが唇を噛んだ。


「くっ……そぉ!みんな、戦うぞ!これ以上、殺されてたまるか!」


フランは即座に走り出そうとした。だが、数歩駆けたことろで、急ブレーキを踏んで止まった。


「フラン!?どうした、何かあったのか!」


「違う……あいつらだけじゃない!」


なに?まだ、なにか……?

ズズゥーン……

大きな、地響きのような音が、扉の向こうから響いてきた。まるで、山が歩いているみたいだと、俺はぼんやりと思った。

やがて暗がりの中から、巨大な手が伸びてきて、扉の端を掴んだ。


(そうか……)


なぜあの扉が、あんなにもでかかったのか。怪物たちは普通の人間よりはでかいが、あれほどまで大きな扉は必要なかったはず。けど、今分かった。

あの扉は、あいつに合わせたサイズになっていたんだ。



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ