表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
745/860

7-2

7-2


「ちっくしょう!撃ってきやがった!」


放たれた漆黒のビームは、地面にぶつかると爆発した。石の破片がそこかしこに飛び散り、もうもうと砂煙が起こる。


「あの球、砲台だったのか!?」


「砲台だろうがガラス玉だろうがどうでもいいでしょうが!重要なのは、あれはあたしたちの敵ってことよ!」


アルルカが翼を薙ぎ払うと、土煙が吹き飛んだ。


「バッカルコーン!」


ザシャアアァァア!大地を砕き、クリスタルのような氷柱が無数に突き出してくる。球状の浮遊砲台は、氷柱に一瞬で飲み込まれて見えなくなった。やった!と胸が躍ったのも束の間、次の瞬間、氷がみるみる溶けていくじゃないか。中からは、やはり無傷の砲台が現れた。


「ちぃっ。これでもダメとはね」


「まさか……あの球にも、城と同じバリアが!?」


「そう見たほうがよさそうよ。厄介なことになりそうね」


厄介だって?それどころか、相当マズいだろ!ヘルズニルを守る強力なバリアは、連合軍の一斉攻撃も防いだんだぞ。それと同じものが、あの砲台にも掛けられているのだとしたら……


「そうだ!魔法がダメなら、物理攻撃ならどうだ!?」


俺が言うが早いか、フランが背中の束を解き、投げ槍(スピア)を一本握って駆け出した。助走をつけて、ぶん投げる。俊足と怪力によって恐ろしいほど加速した槍は、空を裂いて飛んで行く。


ガキン!メキメキ!


投げ槍は確かに直撃したが、砲台にぶつかった途端、バキバキとへし折れてしまった。砲台には、白い木の破片がいくつかくっついただけで、傷一つ付いていない。


「くっそ、そう都合よくはいかねーか!」


「あの守りを何とかしないと、一方的にやれれるだけだよ!」


言ったそばから、砲台が二発目のビームを撃ってきた。今度は、連合軍を狙っている!ビームが爆発し、悲鳴と、何人もの人が宙に放り上げられた。


「ああっ!そんな!」


「くそったれ、むざむざやられるわけにいくか!ライラ、あのバリア、どうにか破る方法はないのか!?」


ライラはこの戦闘の最中にも、大きな目をさらに大きく見開き、一心に敵の砲台を観察していた。ライラは深くうなずくと、核心を持った目で、俺を見つめ返す。


「ある!あの魔法盾マジック・プロテクションは、マナの運動領域をゼロに固定することで、魔力の共振を強制的にシャットアウトしてるんだと思うの!

でも、マナを過剰飽和状態にして、デンシティフィールドの結合崩壊を誘発させれば……」


「……つまり、どうすればいいんだ!」


「まほーで攻撃し続ければいい!いつか、限界が来るはずだよ!」


最初からそう言ってくれ!俺は文句を言う代わりに、深く息を吸い込んだ。


「クラーーークッ!」


声の限りに叫ぶ。この騒ぎだ、ちゃんと聞こえればいいんだけど。


「とにかく、あいつを攻撃し続けろ!いつか破れる!」


ぜぇ、はぁ。くそ、のどがヒリヒリする。さあ、これであっちは任せよう。俺はかすれた声で指示を出す。


「みんな、そういうわけだから、とにかくアレを叩きまくってくれ……こほ」


「うん!」「分かりました!」


ウィルとライラ、そして返事はないがアルルカは、一斉に呪文の詠唱を始めた。一番手はやっぱり、早撃ちのアルルカだった。


「ヘイルギンコ!」


ピキキッ。彼女の周りの水分が凝固し、ゴルフボール大の氷になる。(ひょう)だ。アルルカが杖で指し示すと、雹はつぎつぎに飛んで、浮遊砲台を襲い始めた。


「この魔法、連射は効くけど、威力はないわ!あんたたち、後に続きなさい!遅れんじゃないわよ!」


アルルカは単発火力より、持続火力を重視したってことだな?俺も、それは正しい気がする。瞬間的な負荷を掛けても、あのバリアは破れない。でも、常に負荷をかけ続ければ、いつか必ず息切れするはず!

アルルカが先陣を切ってくれたおかげで、ウィルたちの準備時間は十分にあった。先に唱えたのはウィルだ。


「トリコデルマ!」


ウィルがロッドを旗のように振ると、ブワァー!真っ赤に燃える火の粉が、空気中に霧散する。続けてライラが叫ぶ。


「ウィンドローズ!」


ライラが両手を突き出すと、そこから強い風が吹き始めた。風は、ウィルの火の粉を乗せて、砲台の下へと運ぶ。そしてそこで渦を巻き始めた。


「あれは……火炎の竜巻!」


ウィルとライラのコンビネーション魔法だ!ウィルの高温の火の粉が、ライラの風に乗って竜巻となる。巻き上げられる空気によって、火の粉はさらに高温となり、ギラギラと赤い輝きを放つ。そこへさらに、アルルカが手を加えた。


「スノーフレーク!」


銀色に輝く冷気が、空高くへと昇っていった。一体何をする気だ?はるか上空へと舞い上がった冷気は、そこでとどまって、銀色の雲となった。するとにわかに、ライラが起こす風が強まったじゃないか。いや、それだけじゃなく……自然の風まで?


「この風……竜巻に吸い込まれてるのか?」


俺たちの後方からも、風がびゅうびゅうと吹き付けている。炎の竜巻が、周辺の空気を根こそぎ吸い込んでいるようだ。


(まさか……空気の温度差で、本当に竜巻を?)


アルルカのやつ、それを狙っていたのか?なんてやつだ、自然まで味方に付けるなんて!

紅蓮の竜巻に閉じ込められた浮遊砲台は、完全に姿が見えなくなった。だが、きっとあれは、あの中でも無傷のはずだ。バリアを破るまで、竜巻を維持し続けないといけない。それまでの間、大人しくしてくれるかどうかは……

バシュウッ!


「危ない!」


ロウランが金色の盾で、俺たちを包み込んだ。やっぱり、そうはいかないよな!砲台が放ってきたビームは、盾に当たって爆発する。グワーン!うわ、鼓膜が破けそうだ。この出来事にも、魔術師たちの集中は途切れなかった。だが、竜巻の勢いが衰えた気がする。完全に途切れはせずとも、意識にノイズが走ったに違いない。


「こんなの何度もやられたんじゃ、持たないぞ……!」


バリアが破れるまでに、あとどれくらいかかるのだろう?それまでに、何発のビームが飛んでくるのか。それに、ウィルたちの魔力も無尽蔵じゃない。集中が途切れるのが先か、魔力が尽きるのが先か……

その時。待ちに待った声が、連合軍の方で轟いた。


「コンタクト・ガルネーレ!」


バララララ!

紫色の電撃が、兵士たちの間から立ち昇った。クラークのやつだ!あいつ、トロトロしやがって!

その電撃は、空に昇る竜のように、激しくのたうちながら空へと伸びる。と、その電撃の先端が、手のように五本に分かれた。


「いけっ!」


紫の手は、ぐねぐねとねじ曲がりながら、炎の竜巻へと突っ込んだ。紅蓮の竜巻が紫電を帯び、ぼうっと光り輝く。だが、クラークの魔法は、そこで終わりじゃなかった。電撃は、クラークと繋がったままだ。あたかも彼の腕が伸びたかのように、竜巻の中の、おそらく浮遊砲台を掴んだまま、離れない。


「おおおおおおおお!」


クラークの気合がここまで聞こえてくる。それに応じるように、紫電も激しくのたうち、その輝きを増した。いかづちが絆となって、彼の魔力を、竜巻の中へと伝えている!

ピカッ!ビシャーン!チカッ、ガガーン!

何度もフラッシュがたかれ、その度に目の前が真っ白になる。竜巻は今や、真っ白に白熱して、光の竜巻と化していた。その中にときおり青い光がまたたくのが、砲台のバリアがまだ抵抗している証だった。だがじきに、それも終わりの時を迎える。


ビキッ。ビキビキ……バリィーン!


ガラスが砕けるけたたましい音と共に、竜巻が消え去った。クラークの電撃も、最後に一瞬明滅して、ふっと消える。俺の網膜には白い残像が焼き付いていて、しばらく状況が分からなかった。が、すぐに肩の力を抜くことができた。


「わああああああ!勇者の雷と竜巻が、悪魔の目玉を退けたぞ!ばんざーい、ばんざーい!」


大地を揺るがすほどの、連合軍の歓声が聞こえてきた。どうやら、あの砲台は跡形もなく消え去ったらしい。ふぅ、やれやれだ。一時はどうなることかと思ったが。


「ははは、やったなみんな!」


俺はにこにこ笑いながら、ライラとウィルに振り返った。今回の立役者である、二人の魔術師をねぎらおうと思ったんだ。だけど……


「ウィル?ライラ……?」


二人の様子がおかしい。勝利にわくでもなく、ほっと安堵するでもなく、ただ茫然と、上の方を見つめている。脱力して、ぼうっとしているのか?……いや、そうじゃない。もう長い付き合いだ、こんな時、二人はどんなに疲れていても、俺に微笑み返してくれたはず。それなら……?


「桜下。あれ……」


ライラがフラフラと、指を伸ばした。俺は不安に駆られながら、彼女が指さした方へ顔を向ける。そこには……


「……うそ、だろ」


塔の先端から飛び立つ、なん十個もの、新たな浮遊砲台の姿があった。



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ