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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
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くる!強い魔力が、ヴォルフガングの下に集まっている。ボクは素早く反応した。


(桜下!)


「わかってる!」


ボクとヴォルフガングは同時に、詠唱を開始した。さあ、考えろ。むやみに撃ち合うだけじゃ、きっと勝てない。さっきの事から見て、たぶんあいつの属性は……


「ガルテンペスト!」


ヴォルフガングが、手首を捻るようにして、腕を突き出した。ビュゴオオオオオ!渦を巻く突風が、こちらに迫ってくる!


「迎え撃つ!ジラソーレ!」


ゴウッ!燃え上がる火の玉が、ボクの手のひらから発射された。が、火の玉は突風にぶつかると、あっけなく弾け飛んでしまった。


(危ない!)


「いいや、狙い通りさ!」


(え?)


ボクは空間を蹴ると、ぴょーんと空に飛びあがった。突風はボクの下すれすれを通り過ぎていく。髪が引っ張られて、バタバタと舞う。この長い髪の毛ってのには、どうにも慣れないな。


「テメエ……妙な技を使うじゃねえか」


ヴォルフガングがうつろな眼窩で、ボクを見上げている。


「ただのいきったガキってわけじゃねえな。何をした?」


「見てのとーりだと思うけど?」


「ふざけるな。オレ様の攻撃は、確実にテメエを捕えてた。今頃、そのムカつく口と胴体とは、別々になってたはずなんだよ」


ふーん。ま、そうだろうね。直撃していたら、きっと今のボクは、一発でアウトだろう。この体、防御はすごく苦手だ。


「オレ様の攻撃は、完璧だった。なら、テメエがなにかしたんだろう」


ヴォルフガングは自分の手を見つめて、指を握ったり開いたりしている。わざわざ説明してあげる義理もないけど、まあいいか。大したネタじゃないし。


「ジラソーレをぶつけて、相殺したんだよ」


「相殺だと?そんなことができるものか。適当言ってんじゃねえぞ」


さてね。ボクは黙って肩をすくめてみせた。と、耳元でライラの声がする。


(属性作用……風の魔力(ヘカ)は、火の魔力(ヘカ)を強くするから。ジラソーレを相手の魔法で強化して、軌道をずらしたんだ……)


「お、さすがライラ。お見通しだね」


(お見通しなんかじゃないよ!それは理論上の話しで、現実には正確なマナコントロールと、空間演算が必要になるはずだよ!?)


「そうなの?よく分かんないけど、今のボクは、色々よく“見えている”んだ」


そう、今なら見える。うっすらと色づく、魔力のラインが。ひときわ強いのがヴォルフガングに集まっているけど、なにも奴にしか魔力がないわけじゃない。そう、ボクらの味方の中にだって……


「レイライトニング!」


バリバリバリ!ボクの背後から、電撃の槍が飛び出して、ヴォルフガングに真っすぐ飛んで行った。ヴォルフガングは無造作に片腕を上げて、槍を防いだ。電撃がまたたく。ズガガーン!


「……チッ。痛ってぇな。だが、この電撃は知ってるぞ。一の国の勇者だろ」


「その通りだ!」


兵士たちの中から、金髪碧眼の男が飛び出してくる。


「僕の名は、クラーク!お前を倒す者の名だ、悪の魔族!」


クラークは白く輝く剣を突き立てて、声高に叫んだ。あーあー、決まっちゃって。千両役者のおでましってわけかい?ヴォルフガングも若干呆れているみたいだ。この時だけは、あの魔人とも気が合う気がする。


「聞いてもないのに名乗るたぁ、ずいぶん出しゃばりな勇者が来たもんだ」


「何を!それに、女の子一人に戦わせるだなんて、勇者ができるはずがないだろう!」


「だーかーらー、ボクは男だってば!」


「え?」


まったくもう、事態がややこしくなっちゃったよ。クラークは困惑した目でこっちを見ているけれど、今説明している暇はないな。ボクはクラークの側へ駆け寄り、その首に腕を回すと、ぐいっとこっちに引っ張る。


「わっ、ちょ、君!」


「いいから!耳貸しなって」


何を勘違いしたのか、クラークのやつは顔を赤くしている。まったくもう、どうしようもないやつだな。


「いい?あの骨男、見た目通りかなりヤバイやつだよ。なめてかかっちゃダメ」


「わ、わかってるさ。僕のレイライトニングを片手ではじくような奴だからね」


「なんだ、わかってるじゃん。それなら話は早いよ。君はガンガン攻撃して、奴の気を引いてくれないかな。その隙にボクが忍び寄って、あいつの弱点を探してみる」


「でも、それだと君が危険だ!」


「だいじょーぶ、上手くやるから。それより、そっちこそ上手くやってよ。うまいことチャンスが作れたら……」


「そしたら、あなたがガツン!と決めてくれるってことね」


え?わっ!び、びっくりした。いつの間にか、尊がすぐ隣にいた。ぜんぜん気が付かなかった……


「み、尊さん!?危ないですよ、こんなところで何を……」


「なにって、蔵……じゃなかった、クラーク君。私だって、勇者なんだよ?みんなばかりを戦わせられないよ」


「それは、そうかもしれませんが……」


「ほら、早く!敵さんだって、いつまでも待ってはくれないよ」


ボクとクラークは見つめ合うと、ため息をついた。しょうがない、尊が戦っちゃいけない理由はないからね。


「でもまあ、勇者のお二人が加勢に加わってくれるなら、ボクとしても心強いけどね……!」


三人寄ればなんとやら。さあ、反撃のお時間です!


「ピーコックウェイブ!」


クラークが口火を切った。剣を大きくスイングすると、その剣先から、扇状の電撃が噴き出す。シャアアー!だけどヴォルフガングは、避けようとすらしなかった。よほど自信があるのか、腕一本だけを前に伸ばしている。まさか、あれで止める気?


「クレイローチ!」


尊の呪文!地面から土の触手が飛び出して、伸ばしたヴォルフガングの腕に噛みついた。


「これでもう、防げないでしょ!」


「ナイスです、尊さん!」


電撃がヴォルフガングに迫る。だけど……ボクは宙を蹴って、空へと駆け上った。


「しゃらくせえ!」


するとヴォルフガングは、自由な方の片腕を、地面へと向けた。


「ブラストビート!」


バアアァァァー!風が、奴の足下で爆発した。突風が吹き荒れ、電撃も土も吹き飛ばす。尊とクラークも風で倒れてしまったが、爆心地にいるヴォルフガング自身も、相当の風を喰らっているはずだ。


「むちゃくちゃするなぁ」


(でも、チャンスだよ!あいつ、こっちに気付いてない!)


「そーだね。任せてばかりもいられないし!」


二人のおかげで、ボクは敵の頭上を取ることができた。よし、行くぞ!あっという間に呪文は完成した。


「ジラソーレ!」


ボンッ!火の玉が、ボクの頭上に燃え上がる。


「かける、十!」


(えっ)


ボボボボン!ジラソーレが、さらに追加で九個出現した。赤々と燃える火の玉は、太陽のミニチュアみたいだ。


「いっけー!」


十個の火の玉が、流星群のように降り注ぐ!ガンッ、ガガンッ、ガンッ!


(すごい!これなら……)


「っ!まだだ!」


魔力のラインが、はっきりと見えた。ボクが慌てて飛び退ると、さっきまでいた場所を、鋭いつむじ風が吹き抜けた。逃げ遅れた髪の毛が数本、プツリと切れて宙を舞う。まるではさみで断ち切ったように鋭い。


「恐ろしいな……もろに喰らってたら、真っ二つになってたね」


もうもうと立ち込める煙が、徐々に晴れていく。さあ、次はどんな手で来るか……


「あれ?」


(桜下、どうしたの?)


「おかしい。さっきまであんなに集中してた魔力が、嘘みたいに消えた……」


やがて煙が完全に晴れると、ボクの違和感が間違っていないことが判明した。ヴォルフガングの姿は、どこにもなかったんだ。


(倒した……わけじゃ、なさそうだよね)


「うん。きっと、逃げたんだ」


(なんだ、あっけなかったね!ライラたちの勝ちだよ!)


ライラは無邪気に喜んでいるけど、ボクはそこまで浮かれる気持ちにはなれなかった。


「厄介な相手だった。できれば、ここで仕留めておきたかったな……」



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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