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道?あんな空まで、どうやって道が……
だが、連合軍もまた、盆地の中心を目指しているようだった。目的地としては、そこが正解らしい。花畑の真ん中には、大きな黒い石柱が立っている。大きな岩だが、ただそれだけのようだ。あれがアニの言う道だとは、とても思えないんだけど……
「あの岩、なんなんだ?上の城から落っこちてきたのかな」
『いえ、あれがいわば、玄関口です。ここから道が始まるのですよ』
「はい?」
この岩が、玄関?間もなく、俺たちはその石柱のそばまで到着した。すると、隊の中から、数人の兵士が石柱へと近づいて行く。彼らは何やら、石柱をぐるぐると見回している様子だ。ときおり、岩を触ったりいじくったりしている……
フォン。
「わっ。な、なんだ?岩が光った……?」
岩の表面を水色の光が走った。他の兵士たちも驚いているようで、抑えたざわめきが聞こえる。
「ただの石柱じゃないのか……?」
『ここから、道が生成されますよ。心構えだけしておいてください』
「えっ。いや、まだ準備も何も……」
ズズズ……ゴゴゴン!
「わあっ」
「きゃあ!びっくりした……」
突然の物音に、ウィルとライラは小さく飛び上がって、ぴったりと体を寄せてきた。俺たちは三人で、あたりをせわしなく見回す。と……
「あ!あれ、岩が浮いてってるぞ!」
俺が指さした先には、ゆっくりと空へと昇っていく岩石があった。それも、一つじゃない。いくつもいくつも、数え切れないほどある!
「あの岩、一体どこから……」
「あ!あれですよ!花畑のそこら中に転がっていた、黒い岩!」
ああ!確かに、岩石がそこかしこにあったっけ。じゃあ、この盆地中の岩が持ち上がっているのか?
「あれ……?それに、ちょっと待ってください。あれ、岩なんかじゃありませんよ!」
「え?ウィル、落ち着けよ。あれは正真正銘の岩だ。いいか?岩ってのは、固くてゴツゴツしてて……」
「きぃー!それくらい分かってますよっ!そうじゃなくて、ほら!あれは、何かの建物の残骸です!」
なんだって?俺はふざけるのをやめて、改めて浮かんでいく岩をよく観察した。初めはゴツゴツした岩にしか見えなかったが……いや、確かに。酷く風化しているが、何かのパーツの一部のようにも見える。一度完成したものを、でっかいハンマーか何かでぶっ壊したら、あんな感じになりそうだ。
「わっ、今度はなんだ?岩が……回ってる!?」
空へと上昇した岩たちは、今度はぐるぐると回転し始めた。信じられるか?明らかにトンはくだらない岩石が、風船のように軽々と浮かび、蝶のように軽やかに舞っている!目の前の光景に、俺たちは度肝を抜かれ、兵士たちも動揺してざわざわと騒いでいた。
無作為に飛び回っていると思っていた岩たちだったが、少しずつ冷静さを取り戻すと、ある程度規則性を持って飛んでいることが分かってきた。ある岩は上空高くに飛んで行くし、逆に地面すれすれまで降りてくる物もある。わかった、これ、選り分けているんだ。
そしてウィルの推測が、正しかったことが証明された。あるべき場所へと移動した岩石が、一つの形を取り始めたんだ。風化し、ギザギザになった断面が、パズルのピースのように、カチッカチッと組み合わさっていく。
「これは……橋、か?」
岩石たちが組み合わさってできた物は、空へ伸びる、螺旋状の橋だった。ただ、橋と言っても、橋脚がない。岩が空中に静止し、それが緩いカーブを描きながら、空へと伸びあがっている。
「こ、れは……驚いた。まさか、こんな形で道ができるなんて。でもアニ、まさか、これを登っていけだなんて言わないよな?」
『主様が言ってほしいのであれば、言いますが』
「いや、いいや……」
気が遠くなりそうだ。宙に浮かぶ岩の橋を渡って行けって?
「あれ……でも、桜下さん。この橋、途中までしかできてませんよ!」
え?あ、本当だ!橋は中途半端な所まで伸びて、そこから先が無い。いくらそこら中の岩石をかき集めても、天空の城までは到底足りなかったんだ。
「アニ!あの橋、届いてないじゃないか!」
『ご安心を。先まで進めば、ちゃんと続きが現れますから』
「えぇぇ、本当か……?」
「あ、でも桜下さん、まだありますよ。こんなふきっ晒しじゃ、攻撃され放題です!」
「あ、それもそうだぞ!アニ!」
『ですからご安心ください。前回の連合軍もこの仕掛けを利用しましたが、この橋を渡っている最中、魔王軍からの攻撃は一度もなかったと記録されています』
「え?そ、そうなのか。ありがたいけど、なんでだろう」
『理由は二つあります。一つ、あの橋は見かけによらず、極めて高い耐久性を持っていること。前回の連合軍が破壊を試みましたが、できませんでした』
「ばっ、気でも狂ったのか!?なんでぶっ壊そうとしてんだよ!」
『この橋を破壊すれば、魔王軍の補給路を断てるのではと考えたからです。いわば、兵糧攻めですね。先ほど述べたように、失敗しましたが。そして二つ目が、魔王軍としても、この橋を失いたくないということ』
「ああ、それは俺にも分かるよ……これしか、地上に行く手段がないんだから」
『ええ、その通り。それに加えて、前回の連合軍が橋を攻撃し始めると、魔王軍がそれを妨害しに来たのです。それだけ、これが大事だという事でしょう』
なるほど、てことはこの橋は、一に頑丈で、二に守りが堅い、と。それなら確かに、この橋は安全そうだな。魔王軍としても、大事な橋の上で戦いたくはないだろう。
『頑張ってください、主様。ここを登れば、もうすぐそこが魔王の城です』
「はは……喜ぶべきなんだろうけど、あんまり嬉しくないな。登った先で待ってるのが、魔王じゃな」
『それなら、何が待っていれば喜ぶのですか?』
「なにってそりゃ、こういうのの定番は、絶世の美女とか。あ、ごめんやっぱ嘘、嘘だってフラン!」
「馬みたいに、お尻を蹴り飛ばして登らせようか!」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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