表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
725/860

2-1 天然の城壁

2-1 天然の城壁


ウィルとフランとの一悶着があった後に、行軍が開始された。二人は相変わらずプンプン怒っていたが(俺が悪いのか?)、道のりを進むうちに、次第にいつも通りに戻っていった。

魔王城への進行は、いよいよ後半に差し掛かったところだ。


『ここは、“黒の荒れ地”と呼ばれる地帯です』


アニはそんな風に、この辺りについて説明してくれた。この道は過去に一度、勇者ファースト、セカンド、サードが率いた連合軍も通ったことがあるという。そん時に開拓されたルートってことだな。


「でもそれなら、もっとマシな道を選んでくれたらよかったのに。こんな岩場じゃなくてさ」


『ここが一番マシだったんですよ。他のルートを通った際には、燃え盛る炎の巨人イフリートが出現したという記録もあります』


「あ、じゃあここでいいや……」


魔王城までのルートは、大きく分けて三つのエリアで構成されている。最初が、“霧の湿地”地帯。俺たちがギガースと戦ったところだな。次が“黒の荒れ地”地帯で、現在地だ。そしてここが、もっとも長いという。で、これから通る最後の地帯が……


『最後の地帯は“花園”です』


「花園?花畑ってことか?ははは、そんなまさかな」


『さて、どうなんでしょう。私も実際に観測したことはありませんから。記録ではそこに魔王の城があるそうです』


じゃあなおさら、違うな。お花畑の中に城があったら、そこは魔王城じゃなくてシンデレラ城だろう。でもじゃあ、花園ってのは何かの隠喩か?例えば、生えているのが花じゃなくてアルラウネだとか……


『ですがその前に、大きな山を一つ越えなければなりません』


「え、山?」


『そうです。この黒の荒れ地の最後に、ひときわ高い山脈がそびえ立っています。そこを越えれば、魔王城は目前だそうです』


うへあ、山か。北の最果て・ミストルティンの町へ行った時のことを思い出す。あの時も大変だった……


(……ミストルティンと言えば、コルトは無事かな)


コルト。俺たちが北の町で出会い、そして魔王軍に攫われてしまった女の子だ。わざわざ攫ったくらいだから、きっと命を害する目的ではない、と信じたい。彼女やロア、それに攫われた大勢を救い出すためにも、山登りくらいで音を上げていちゃいけないな。


(先に進もう。そうしていけば、いずれは到着するんだから)


俺たちは、黒い岩山の間を、長い行列となって進んでいった。




それから三日後。ついに、アニの言った、最後の山が見えてきた。


「たっ……高いな……」


俺と仲間たちは、そろって首を上げて、その山を見上げる。つっても、あまりにも高すぎて、そのまま後ろにひっくり返りそうだ。山の頂は、雲に隠れていて見えない。山頂に近づくにつれて、黒い岩肌が白へと変わっていくのは美しいが、それはふもとにいるから抱ける感想だろう。実際にあの場へ行けば、極寒と豪雪の地獄なはずだ。


「どっかに、抜け道とかはないのかよ?」


ないとは分かっていつつも、ついそんなことを言ってしまう。


『ありません。見てわかる通り、この一帯を横断するように尾根が続いていますから。厳密には、この尾根はぐるりと円形に続いているのです』


「円形?どこがだよ。まっすぐな壁じゃないか」


『それは、あまりにも広大過ぎるからですよ。我々が今見ているのは、引き延ばされた一辺にすぎません。そして、魔王城はその円の中心に建っているのです。避けて通る道はありません』


ううむ……カルデラみたいな地形ってことか。


「ちぇっ、さすが魔王の城だな。天然の城壁に守られてるってわけだ」


『ええ、まあ……そうですね』


うん?妙に歯切れ悪いな。珍しい、アニに限って。しかしまあ、こっからは一苦労になりそうだ。

さて、最後の関門へと差し掛かった連合軍だったが、ここまで来ていまさら、俺は兵士たちの備えに不安を感じ始めていた。

例えば、防寒着。これから、あのはるかな雪山を越えていくってのに、まるで準備らしい準備がないように見える。俺の中の勝手なイメージだと、でっかいリュックサックを担いで、目にはゴーグル、手には杖、足にはスパイク付きの長靴……雪山登山って、そんな感じなんだけどな。


「へえ~。桜下さんのいたところだと、そんなに重装備なんですね」


ストームスティードを歩かせながら、俺がこの話をみんなにすると、ウィルがさも興味深そうに、なんどもうなずいた。


「すごいなぁ。そんなにたくさんの荷物を持って、重くないんですか?」


「そりゃ、重いよ。だけど、少しでも軽くするために、いろんな工夫がされてるんだって。特殊な素材で作られてたり、袋とか箱はあらかじめ捨てておいたりさ」


「うわぁ、そんなことまで。やっぱりそっちの世界の人たちって、頭いいんですね」


うーん?ウィルはどうにも、俺がいた世界のことを、過剰評価している気がするが。


「なら、こっちの世界だとどうなんだ?」


「え、そんなの、決まってるじゃないですか。魔法ですよ、魔法」


「あ、そうか。こっちにはそれがあるもんな」


「ええ。魔法は便利です。でも、今の話を聞くと、一長一短かもしれませんね。その便利さのおかげで、私たちは工夫を凝らすってことをしませんから」


ふぅむ。でも実際、魔法はとても便利なんだよな。現に俺たちも、ライラの呼び出したストームスティードに乗っている。これだけ速くてタフな移動手段があるのなら、それこそ自動車なんかを発明しようとは思わないよな。

そして魔法は、この軍にとっても必要不可欠だ。雪山を越えるために連合軍が用意したのは、大量の防寒具ではなく、熱を生み出す炎属性魔法が使える術者だった。魔法は荷車を圧迫しないから、雪山用の装備を山と積む必要がなくなる。さらに、それら装備よりも高い効果を期待できるんだから、言うことなしだ。


「うーん……俺からしたら、魔法が使える方が、やっぱりすごいと感じるなぁ……」


「そういうものですか?不思議なものですね。隣の芝はなんとやら、ってやつなんでしょうか」


俺たちの技術をすごいと言うウィルと、ウィルたちの魔法がすごいと言う俺。確かに、不思議なもんだ。するとライラが、くるりとこちらに振り返った。


「でもさ、ライラだって、ウィルおねーちゃんって、けっこーすごいと思ってるよ」


「え、え?なんですか、急に……」


「だって最近のおねーちゃん、どんどんうまくなってるもん。前にやったファイアアントなんて、かなりむつかしーまほーなんだから」


「そうだぜ。実際、大したもんだよ」


「えぇ、やだぁ。おだてても何も出ませんよ!」


そう言いつつ、ウィルはにやつくのを抑えられていない。わかりやすいなぁ。


「すると、この先の山では、またウィルの魔法にお世話になるのかな?ほら、この前に使ってた、暖房魔法とか言うやつ」


「ああ、確かにあれが使えるかもしれませんね。なんだったら、今試してみましょうか?」


「え?いや、今は」


しかし、調子に乗ったウィルは、俺の言葉を聞いていなかった。ロッドを掲げて、高らかに唱える。


「ヒートアナナス!」


ふわぁー。ロッドの先から、ドライヤーを吹き付けたような温風が出て、俺たちを包み込んだ。うん、すごい。これが極寒の雪山なら、ウィルを聖母とあがめていたかも。けど、思い出して欲しい。ここはまだ、太陽がぎらつく荒れ地なのだ。


「あああ、暑ーい!」


「やああぁ!おねーちゃん、ライラたちを蒸し焼きにしたいの!」


「ああっ、ごめんなさい!すっかり忘れてました!」


ウィルは慌てて魔法を止めて、俺とライラを手で扇いだ。だがそんなんじゃ足りないと見るや、気が動転したウィルは、ローブの裾を掴んでばっさばっさとやり始めた。ばっ、思いっきり見ちゃったじゃないか……白か……


「すみませんでした、ここは暑いんでしたよね。幽霊になると、どうにも気温というものに疎くなってしまって……」


「ご、ごほん。まぁ、ウィルの魔法のすごさは、よくわかったよ。この身で味わったから」


「面目次第もありません……」


「……あなたたち、何しているんですか?」


ん?大騒ぎしているところに、そう声をかけて、馬を寄せてきたのは……


「アルア?」



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ