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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
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太陽が頭上に輝いている。

周囲の黒い岩は熱をよく吸収し、じりじりと熱い。今日はよく晴れているせいもあって、なおさらだ。俺は上着を脱ぎ、シャツの袖をまくり上げていた。これからストームスティードを呼び出すライラも、この暑さにはまいっているようだ。この子は半アンデッドという特異な体質のせいで、暑さ寒さにとても弱い。


「ライラ、暑くないか?」


「あついよぉ……でも、我慢する」


「あんまり、無理すんなよ。辛かった言えよな、休むから」


「うん、ありがと。……でも、それより桜下は、自分のこと心配したほうがいいんじゃない?」


ぎくっ。目を背けようとしていたのに……俺はため息をつくと、ちらりと横を見る。すると勢いよく、顔を背けられてしまった。誰にって?そんなの、あの二人に決まっている。ウィルと、フランだ。


「桜下、二人になにしたの?」


「いや、何かしたわけじゃないと思うんだが……勝手に聞かれてたというか……」


「うーん、よく分かんないけど、ずっとこのままにしとくつもり?」


「そりゃあ……困るけど……」


「じゃあ、ほら。ライラ、耳塞いでてあげるから。ちゃんと話し合いなよね」


そう言うとライラは、ふわふわの髪を両手でつかむと、耳当てみたいにぎゅっと押し当てた。よ、幼女に気を遣わせてしまった……情けないやら恥ずかしいやらで、涙が出そうだ。


(しかしまあ、ここまで言われて、引き下がるわけにもいかんか)


ようし、覚悟を決めよう。俺は息を深く吸うと、そっぽを向いている二人に話しかける。


「あー、ウィル、フラン。ちょこっと、話を聞いてくれないか」


「へ、は、はい。いい、ですけど……」


油の足りないブリキ人形みたいに、ぎこちなくウィルが振り向く。思いっきり動揺しているなぁ……フランはいつも通り無表情だが、心なしか頬が色付いている気がした。


「その……今朝の、話なんだけど」


「あ、はい……その、私たちも、実は気になっていて……」


う、まあ、だよな。やっぱりこの反応を見るに、アルルカの話は本当だったってことか。くわー、気まずい。


「桜下さんって、今朝、夢を……?」


「う、うん。見てた。もう分ってると思うけど、二人もその中に出てきて……」


ウィルの顔が桜色に染まる。それをごまかすように、ごほんと咳ばらいをすると、夢について訊ねてきた。


「それで、どんな内容だったんですか?」


「えっ、話さなきゃだめか……?」


「もちろんです!夢の中の私とフランさんを出させたということは、当然現実の私たちも、それを知る権利があると言う事です!」


う、うん?そうかな……だが結局、ウィルの勢いに押し切られる形で、俺は夢の内容を白状することになってしまった。


「えっと……気が付いたら、辺りから波の音がして。シェオル島みたいだって思ったら、本当にあそこのコテージになったんだ。そこに、二人がいた」


シェオル島と聞いて、ウィルはちょっと納得したような顔をした。フランが訊ねてくる。


「わたしたち、どんな格好だったの?」


ううっ。鋭い……


「えっ、まさか、水着とかじゃないですよね!」


ウィルがくわっと目を見開いて、詰め寄ってきた。俺はギョッとして、つい本当のことを口走ってしまう。


「い、いや!水着みたいな恰好だったけど、でも水着じゃなかった」


「み、みたいな恰好?どういうことですか、桜下さん!」


ウィルはさらに詰め寄る。ずいっと体を寄せてきて、大きく見開かれた金色の瞳が、至近距離で俺を捉える。ち、近い!


「ふ、二人は、サキュバスだったんだ。だから、ものすごい格好をしてて……」


「サ、キュバ、ス……」


ウィルが真っ赤っかになった。


「それで、わたしたちは、どうしたの?」


気が付くとフランも、俺のすぐそばまで寄ってきている。赤い瞳には、なぜか期待の色が見えるようだが……


「ふ、二人は……俺を、押し倒そうとしてきた」


「……」

「……」


ごくり。大きく喉を鳴らしたのは、ウィルだった。彼女の赤い顔から放たれる熱が、こちらまで伝わってくるようだ。唇を薄く開くと、そこからかすかな声を漏らす。


「夢は……一説では、人の願望を映し出すと言われています」


ぎゅうっと、俺の裾を掴んだ。


「それってつまり……私たちと……?」


フランは、瞳をルビーのように丸く見開くと、確かめるように俺を見る。


「そうなの?あなたも、そんな風に、思ってくれてるの……?」


「う、わ……わから、ない」


ウィルは掴んだ袖を、ぐいと引っ張った。瞳はうるうるして、今にも涙がこぼれそうだ。


「桜下さん……桜下さんが望むなら、私……私……!」


「わ、わからないんだ。だって……その後すぐに、二人はモンスターになっちまったから!」


「……はい?」


ピシリ。見えない壁に、確かにひびが入った気がした。二人の顔が、急速に白く、無表情になっていく。


「気が付いたら、二人の姿が、ヴィーヴルとライカンスロープになってたんだよ。俺は最後に怪物に押し倒されて、そのまま海に放り込まれたんだ。もしこの夢が、俺の心を映し出したものなんだったら、俺は二人のことを怖がってたのかな?あはは、なーんて……」


「……」

「……」


ち、沈黙が痛い……ウィルは掴んでいた裾を離すと、代わりに俺の鼻をぎゅっとつまんだ。


「いへへへへ!」


「桜下さんのバカ!とーへんぼく!むっつりスケベ!」


「おい!最後のは違うだろ!」


「違わないですよ!うわーん!」


ウィルは叫びながら、空へと飛んで行ってしまった。フランもぷいっとそっぽを向くと、そのまますたすた歩いて行ってしまう。


「な、なんなんだよ。泣きたいのはこっちだぞ……」


二人は一体、俺にどんな答えを求めていたんだろう?もしかして……いや、まさかな。やっぱりオトメゴコロっていうのは、難しいことだらけだ。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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