13-4
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尊たちと別れ、俺たちは自分のキャンプ地へと戻ってきた。キャンプ地なんてかっこつけて言ったけれど、実際は寝袋と荷物と焚火があるだけだが。
「おかえりなさい、ダーリン」
俺たち三人の姿が見えると、ロウランが出迎えてくれた。ライラはすでに寝袋に包まって眠ってしまっていた。昼間の活躍があったから、なんだかんだ言って、疲れていたんだろうな。アルルカはその辺の草を束にしたものを地面に敷いて、簡易ベッドを作って寝そべっている。そのアルルカが口を開いた。
「で?どうだったのよ」
「ん、ああ、デュアンか?無事に見つかったよ」
「は?そんなやつどうでもいいわよ。じゃなくて、もう一人の方」
もう一人……?
「来たんでしょ。来客が」
「……っ!」
「なによその顔、なんで知ってるのかって?分かるに決まってんじゃない。あたしほどのヴァンパイアにもなれば、なんだってね」
不敵な笑みを浮かべるアルルカ。まさか、気配でも感じ取ったのか?それとも、フランみたく音を聞き分けて……?するとロウランが、コホンと咳払いをする。
「はーい、っていうのはウソなの。ほんとはアルルカちゃん、ダーリンたちを手伝ってあげようと、空から探してたんだよ」
「あっ、な、なんで言うのよ!それに違うわ!退屈だったから、空を散歩してただけ!」
は、はぁ?
「アルルカ、じゃあお前、アレを見てたのか?」
「たっ、たまたまね!あんたの声も聞こえてきたし……そしたら、あの仮面野郎がいるんだもの」
「そうだったのか。だったらそう言ってくれればよかったのに」
「黙ってた方がいいと思ったのよ。実際あいつ、あたしに気付いてなかったでしょ。もし戦闘になりそうだったら、そのまま狙撃してやろうってね」
お、おお。確かに、それがあの状況ではベストだった。下手にアルルカが顔を出していたら、仲間を呼ばれたと勘違いしたマスカレードがブチ切れていたかもしれない。
「アルルカ、お前成長したなぁ……」
「いちいちムカつく褒め方ねぇ……!」
それなら、話は早いな。俺は仲間たちの顔を見渡して言う。
「実は、マスカレードが現れたんだ」
消えかけていた焚火を再び起こして、それを囲むように座る。ウィルが湯を沸かして、俺に茶を淹れてくれた。それをすすりながら、俺は話し始める。
「奴の目的は、俺を仲間に引き入れることだった」
「あいつ、まだ諦めてないの?」
アルルカが腕組みしながら言う。
「ああ。けど、それも今回っきりだそうだ。これが最後だって、あいつ自身が言ったからな」
「もう諦めるってこと?」
「いや。次に会う時は、俺を殺す時だとさ」
ふん、とアルルカが鼻を鳴らした。ロウランが心配そうに身を乗り出してくる。
「それでダーリン、何にもされなかったんだよね?」
「ああ。あいつは本当に、ただ話しに来ただけだったんだ」
「それだけのために、わざわざ……でも、どうして今だったんだろ?」
「分からない。なんであいつが魔王の大陸に居るのかも、そこで何をしていたのかも、分からずじまいだ……けど、分かったこともある」
俺は指を三本、焚火の明かりにかざした。
「一つ目。あいつは、この世界を自分の理想通りにするために動いている」
「自分の、理想……?」
ウィルが怪訝そうに、眉をひそめた。
「それって、具体的には……」
「いや、奴はそれしか言わなかった。どんな手段を用いるのか、世界をどんな風にするつもりなのかは、さっぱりだ。奴は世界を一度白紙に戻して、そこに自分の世界を描き直すって言ってたけど」
「言葉通りに受け止めれば、まさしく神の所業ですね……」
「でも、荒唐無稽だわ」とアルルカ。
「まあ、俺もどこまで本気で言っていたのかはわからんねーよ。でも、一つ気付いたことがあるんだ。あいつはおそらく、どの国にも属していない」
「どの国にも?一匹狼ってこと?」
「まぁそんなところだ。あいつの言った、世界を白紙にするってのは、つまり一、二、三の国全てをひっくり返すってことだろ。そんな事を、三国が許すはずがない」
「でもそれは、どっかの国が他の二つを吸収して、一つにまとめるって意味とも考えられるじゃない」
「まあそうだが、俺はそっちの線は薄いと思ってる。あいつはその前に、国の連中のことをさんざん馬鹿にしてたんだ。固定概念に囚われた石頭たちだって。奴がどこか一つの国に肩入れしてるとは思えないんだ」
「ふぅん……なるほどね」
アルルカは納得した様子で黙った。俺は続ける。
「それに、俺たちに攻撃を仕掛けてこなかった。奴は魔王の側でもないってことだ。だったら今ごろ、こうして落ち着いて話しなんてできてないからな」
ふぅ。俺は一口茶を飲み、口を湿らせた。
「で、二つ目。あいつのなにがしかの計画は、ぼつぼつ大詰めになってきているってこと」
「あいつが、桜下さんに会うのはこれで最後だと言ったからですね」とウィル。
「そう。これまでちょくちょく絡まれて来たけど、はっきり最後だって言い切ったってことは、奴も本腰入れるってことなんだろう。それがどれくらい先なのかは分からないけどな……」
「ひょっとしたら……戦争が終わってすぐ、なんてことも……?」
「可能性はある。今は国中の戦力がこっちに集中しているんだしな……」
そう考えると、エドガーだけには話を通していた方がいいかもしれない。他の連中には隠しておくつもりだが、最終的な判断は彼が下すだろう。
「それで、最後の三つ目が……これは、まだ真偽不明だけども……魔王の正体が、勇者だってことだ」
「え?」「はぁ?」「えぇ?」
フランと、寝ているライラ以外から、驚きとも呆れとも取れる声が上がった。
「魔王の正体が、勇者って……あんた、この前のあたしとの話、まるっきり忘れたわけ?」
アルルカはイライラしながら食い掛ってきた。
「魔王には、簡単になれやしないんだってば!だいたい勇者って、そんなにうじゃうじゃいるわけじゃないんでしょ?今だって、あんたら三人しかいないはずじゃないの」
「ああ。正確にはキサカがいるけど、まあそれでも四人だ。俺はもうやめたけども……けど、そういう事じゃないらしい。魔王の正体は、過去の勇者らしいんだ」
「か、過去の勇者、ですって?」
「そう。伝説の三人の勇者、ファースト、セカンド、サード……この中の誰かが、魔王に成り代わったんだって」
アルルカは呆れすぎて、言葉も出ないようだった。ロウランがうーん?と首をかしげる。
「その勇者さんたちって、死んじゃったはずじゃなかったっけ?」
「そのはずなんだがな……何らかの形で、自分の死を偽装したのか」
「これまでだーれも、そのことに気付かなかったってことなの?」
「まあ、うん……」
話せば話すほど。自分でも信じられない気分になってくる。アルルカはウンザリだとばかりに首を振った。
「デタラメよ、デ・タ・ラ・メ!あんたがワタワタすると思って、ハッタリかましたに決まってるわ」
「うーん、そうなのかもなぁ……」
「だいたい、あんなやつが言った言葉を信じるっての?」
「でも、筋が通ってる部分もあるだろ?復活してから魔王軍の動きが明らかに変わったのは、やっぱり不自然だよ」
「それはそうだけど……でもやっぱり、ありえないわ」
話しが堂々巡りになってきた。ウィルがぱん、と手を打つ。
「さあ。話し合いはこの辺にしましょう。いずれにしても、今すぐ結論が出るもんじゃないです。それに、桜下さんはもう寝ないと」
ほらほら、とウィルが寝袋を押し付けてくる。むう、こういう所までオカンっぽいというか。俺はコップに残った茶をぐいと飲み干すと、大人しく寝袋を受け取った。
「分かったわかった。子どもはもう寝るよ」
「はい、そうしてください。おやすみなさい、桜下さん」
寝袋に潜り込むと、さっき飲んだ茶の温かさが、じんわりと腹の中に広がった。ああ、眠気がどっと襲ってくる……
「魔王が、勇者だなんて……」
アルルカのつぶやきを最後に、俺は眠りの中に落ちていった。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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