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断章・姫君たち、悲嘆に暮れるの事

雑多な樹木に覆われて鬱蒼と昼なお暗い大江山の中腹に、雑木や蔓草に紛れて隠された洞窟があった。その奥は暗い山間の中にあってさらに暗く、一条の光も届かぬ世界だった。


その暗闇の中に、ひたすら嘆き悲しむ声だけが響いていた。女子の泣く声である。一人二人ではない、おそらく十数人はいるらしき声が、それぞれにか細く引き攣るように暗闇の中を響いていた。


良く良く暗闇に慣れて洞窟の奥に目を凝らして見れば、地下水の滲み出た(かび)臭い岩肌の行き止まりと思しきところには樫の木で頑丈に組まれた檻があるのがわかる。


その檻の向こう、ほんのりと申し訳程度に付けられた蝋燭の灯りに縋り付くように先日都の道長別邸から攫われた公卿の姫君たちが寄り集まって震えていた。親や夫に連れられて左大臣様の宴の席に招かれる喜びに日の暮れるまで遊び通して楽しんだ時間は、突然に終わりを告げた。


何処からともなく現れた醜悪な容貌の鬼たちに自慢の長髪を掴まれ、着物の長裾を巾着のように一纏めにつままれて担いで運ばれるという屈辱的な扱いでここに運ばれてきて以来、食事もろくに出されず用をたす場所も無く、時が経つに連れ臭気が充満してきて、それが姫たちの恐怖をより一層いや増していった。


初めのうちはか細く消え入るように泣き入っていた姫君たちだったが、次第に泣き声は狂気の度合いを増し、日が落ちて完全な闇に閉ざされた頃には甲高い金切り声が木霊となって大江山の夜の森に轟いた。


その大音声に業を煮やしたのか、牢番らしき若者が慌てて土牢の中に入ってきた。鬼たちに使いっ走りとしてこき使われているのか、若者はボサボサに伸び放題の長髪を振りかざしながら必死に姫たちを宥めようとした。



「もし、どなたか存じませぬが後生です、ここから出してくださいまし、お願いです!」


「私の夫は中納言様に所縁(ゆかり)の者です、金品なら如何様(いかよう)にも都合して下さいましょう、だからどうか!!」


「お父様、お父様あああぁぁぁぁ!!!」



柵の向こうに人影を認めるや否や、姫君たちは若者に殺到して代わる代わる狂ったように訴え出した。若者は一斉に自分に向かって大声で訴えかけられたため、対応できずにしどろもどろになった。



「えっと、あのぅ、皆さん、落ち着いてくださーい。お静かに願いますー。ね、ね?」



若者はなんとか平静に努めようと出来るだけ穏便な口調で姫たちを(なだ)めて回るが、狂気の声は収まるどころか、頼るべき相手が見つかった事で一層激しく響くこととなった。声もかすれ、柵が血にまみれるほど激しく爪を立て、姫たちはなおも狂おしく泣き叫んだ。



「どうか!どうか!どうか!!」



若者は自分まで泣きそうな顔になりながら、力を振り絞って叫んだ。



「わかった!わかりました!!今ここから出してあげますから、だから落ち着いて下さい〜!!」



若者のその言葉に、姫君たちはようやく安堵の表情を見せ、今度は「早く出して」と声を揃えて叫び出した。



「はい、はい!今出します、出しますから、皆さん、その前に少ぉーしだけ、こちらを見て下さい〜」



若者はそう言って、柵から離れて姫たち全員が視界に入る位置にまで遠ざかった。



「いいですか〜、はい、皆さんこちらに注目〜、はい、いち、にの、さんっ!!」



若者はそう言って姫君たちを見渡すと、若者を凝視していた姫たちは一瞬岩のように身を固くし、目を泳がせてそれまで必死に声を上げていたのをピタリと止めてしまった。

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