閑話・カイト様との婚姻式
書く予定はなかったのですが、少々誤解なされている方や一部、要望などもありましたので、書くこととなりました。
作者の都合上、長くなってしまいました。
アリア視点です。
なおこれは読まなくても、なんら問題はありません。
2017/6/19 勢いで書いたおかしな部分を、一部だけ改稿しました。
「王女様、お加減はいかがでございますか?」
「ちょうどいいぐらいですわ。」
「お褒めにあずかり光栄です。 それでは、次にお化粧へ移らせていただきます。」
今私は、王宮に設けられた一室で、これから始まる、婚姻式の準備を執り行っています。
お相手は、カイト・スズキという、Cランク冒険者です。
ちなみに私は、アリア・ミューゼンという、この国の王族です。
ええ、分かっておりますわ。
『不釣合いだ』と申されるのでしょう?
少し前の私も、これだけを聞けば『どんなメリットのある婚姻ですか?』と聞いたに違いありません。
Cランクの冒険者なんかこの世界には、星の数ほどいます。
そんな者と結ばれたところで、価値など有りはしません。
ですが彼は、違います。
強いのです。
ともかく強い。
北方の森で王宮騎士を倒してしまうような敵を、一瞬で戦闘不能にしてしまったのです。
その上、転移魔法という最上級魔法を軽く使い、なんとお姉・・・ルルアム邸を襲撃し、彼女を拉致してしまったのです。
彼女の家は、王宮ほどではないにしても、かなり強固な警備に守られていたはずです。
それを汗すら滲ませず・・・・
デタラメなほどのお強さです。
窮地を救ってもらったという事もあり、私の心はすっかり、彼に奪われてしまいました。
外見はともかく・・・・私には彼が、『白馬に乗った王子様』並みの存在に見えました。
それはもちろん、今も同じです。
フフ・・・思わず笑みがこぼれてしまいますね。
「あの・・・王女様? お顔を動かされてしまいますと、お化粧のほうが・・・」
「そうでしたわね、ごめんなさい。」
表情筋を動かし、顔を引き締めます。
いけません。
王女がこのような態度では、国の威厳が失墜しかねません。
しかし、カイト様との婚姻は、難しいものでした。
まず、父上・・・要するに国王意様が納得してくれません。
これは、王妃様のご助言もあり、何とかクリアすることができました。
その後も、国王様には『貴族たちの説得』などで、大変なご迷惑をおかけしてしまいました。
私はこれから、それに報いるために一生懸命、がんばろうと考えています。
次なる難関は、カイト様ご自身の説得でした。
これは大変でした。
カイト様は、成り上ろうとか言う考えが、皆無の方のよう。
つまり、与えられる権力を見せ付けても、逆効果にしかならないわけです。
ここで私は、数日間に渡り『恋路』の勉強を王妃様に教えていただき、これを彼の前で、使用してみました。
王妃様も昔、これで国王様に最後の一手を放ったようです。
結果はご覧のとおり。
王妃様曰く、『上目遣いは女の武器!!』らしいです。
自分では分かりませんでしたが、使ってみると、かなり効果があったようです。
頑なに私との婚姻を断り続けていたカイト様も、口を縫い付けられた様に何も言ってこなくなりました。
恥ずかしかったので嫌だった、胸元が大きく開いていたドレスも、かなりの効果をあげていたようです。
これは、彼の視線が・・・
いえ、これからの旦那様に、これは失礼ですわね。
まあ、いやらしい視線を向けられた訳ではなかったので、私自身、嫌な気持ちにはなりませんでした。
必死に私から目を背けようとしていたのが、逆にいじらしさを感じさせられました。
「王女様、お化粧が終わりました。 しばらくこのお部屋で、待機をお願いします。」
「分かりましたわ。 ご苦労様です。」
鏡に映った自分の姿を見ると、とてもきれいに見えました。
それはまるで、見事に花開かせた、大輪の薔薇。
素敵な王妃様と違い、腹違いな私は誰に似たのか、お世辞にも容姿端麗ではありません。(と、当人は思い込んでいる)
平凡な私ですが、化粧とは、本当にすごいですわ。
ここまで人間を化かすのですから。
・・・・私自身、化粧は嫌いなのでなるべく、しない方向でいきたいところではありますが。
むろん、旦那様が望まれれば話は別です。
「王女様、お待たせいたしました。 準備が整いましたので、入り口までお進みください。」
さあ、いよいよ私の婚姻式が始まります。
着付けを行った部屋から数歩進み出ると、そこには大きな垂れ幕があります。
この先は、婚姻式会場。
カイト様はあちらの垂れ幕の向こうで、私を待っています。
「・・・・・。」
いけません。
いま、クラッとしました。
顔も紅潮し始めています。
気持ちを引き締めねばなりません。
ニヤけた新婦など、王族の婚姻式として、恥さらしもいいところです。
これから婚姻の儀式すべてが終わる数時間先まで、理性を保っていられるか、少し不安ですが・・・
頑張りましょう。
国王様に、何よりカイト様に恥をかかせてはなりません!!
◇◇◇
「・・・・・。」
いま私は、婚姻式の舞台上で挨拶を終え、カイト様と並んで立っております。
ちなみに挨拶といっても、私は軽く会釈をするだけなのですが。
カイト様も噛みまくりながらも、挨拶を終えました。
まあ、カイト様は市井の人間です。
何百人も前にしての挨拶は、神経を使ったのでしょう。
これは仕方がありません。
ですが・・・・
私の横にいらっしゃるカイト様は、顔をグッと引き締め、口をへの字にして、ムッとした表情になっていいます。
見る者に、威圧感さえ与えるような表情・・・
カイト様、緊張感からそんな顔をなさっているのですね?
怖いです。
カイト様、その顔は怖いですわ。
それでは、戦場に向かう兵士です。
今は婚姻式なのですから、もう少しやわらかい表情を・・・
ああ・・・注意して差し上げたい。
でも慣例として、女である私は『宣誓の儀』を除き、決して声を発してはならないことになっていますので、ここは我慢です。
会場の下には、『カイト様の妹』という、赤毛の少女がいます。
可憐な見た目に反して、彼女も兄のカイト様同様に、かなりの実力持ちです。
森の中では最初に、彼女が飛び出してきて、暗殺集団を倒してくれました。
しかし昨日分かったことですが、彼女はトビウサギの、変異種のようです。
どうりで動きが、あまりに俊敏だと思いました。
カイト様の俊敏さも、人間離れしたものがありましたが、彼はレッキとした『人間』。
これはよかったです。
もし初恋が、『人外』だったら、私はどうしたら良いのでしょうか・・・
そんなことを考えているうちに、国王様やほかの貴族の皆様方の挨拶や、祝いの言葉なども終わり、とうとう、『宣誓の儀』です。
これが終われば、私はカイト様の、妻となります。
心臓の鼓動がはやり、体全体が熱くなります。
私の昔からの夢は、『強くてお優しい方と婚姻を行う』でした。
それが、望んだ形で今、叶われようとしています。
まずは、当主たるカイトさまから・・・
『汝、病める時も・・・』
から始まる、宣誓の言葉が、国王様から読み上げられます。
カイト様はこれに、『はい、誓いましゅ・・・』と答えました。
カイト様、噛みましたわ。
噛んだ上に、言い回しが違います。
『汝、カイト・スズキは病める時も息災なる時も、どのような難関がその道に訪れようとも、アリア・ミューゼンを生涯の妻として、婚姻の言葉を違えぬと宣誓するか?』
こう言われたら、
『私カイト・スズキは、病める時も息災なる時も、どのような難関がその道に訪れようとも、アリア・ミューゼンを生涯の妻とし、婚姻の契りを違えぬ事をここに、宣誓いたします。』
と、言葉を返すのが慣わしです。
国王様も、思わず苦笑いで、彼に『大公』の証たる勲章を授けます。
・・・彼は、緊張していたのでしょう。
別に私は、完璧な婚姻式など望みの中には無かったので、良いです。
気を取り直してっと・・・・・
次は、私の番です。
言い回しなどは、子供のころから教え込まれていたので、心配ありません。
私に宣誓の言葉を送るのは、王妃様です。
彼女の前に、一歩、進み出ます。
「汝、アリア・ミューゼンは、・・・・・えっとお・・・・・ん?」
ここまで言ったところで、王妃様は言葉を止めてしまいます。
頭上には、『?』マークが浮かんでおられます。
ま・・・・まさか・・・・・
お忘れになったのですか!?
緊急事態発生ですわ。
これでは私は、いつまで経ってもカイト様に対し、『宣誓』をすることができません。
これは、非常にマズイ事ですわ。
苦肉の策です。
小声で、お教えしながら王妃様に、『宣誓の言葉』を言っていただきましょう。
「・・・病める時も、息災なる時も・・・・」
「え? ああ! 汝、アリア・ミューゼンは、病める時も息災なる時も・・・」
王妃様も、私の意志を汲み取ってくれたようで、私に発した言葉を反芻してくれます。
ふう・・・・
なんとかこれで、『婚姻の儀』も、終わらせることが・・・・
「あれ、アリア、何で小声で宣誓しているの? まだ王妃様は言い終わっていないんじゃ・・・」
ちょ・・・・!!!
カイト様!!
そんな大きな声で言ったら、ほかの貴族たちに聞こえてしまうではないですか!
「カイト様、今は緊急事態なのです!! 私の宣誓はこれから・・・・!!!」
ここまで言ったところで、ハッとしました。
今は、『婚姻の儀』真っ最中です。
慣わしとして、新婦は、婚姻の宣誓の言葉以外、一言もしゃべってはならない決まりになっています。
「あ・・・・。」
会場は、皆が固まってしまっています。
私は宣誓の言葉以外のことを、ガッツリとしゃべってしまいました。
それも、会場全体に響きかねない大声で。
王妃様、そんな『あちゃー』な顔をしないでください。
あなた様さえ、婚姻の言葉をお忘れになっていなければ、この事態は防げたのです。
「あ、そっか。 そういうことね。 ごめんごめん、続けて?」
カイト様は、私のしようとしていたことが、理解できたようです。
できれば、あと十秒ほど前に、察してほしかったです。
今理解されても、どうにもなりませんわ。
「あの、王様どうしてみんな、固まっているんですか??」
「え? いや・・・その・・・なんだ? 今契りがなされるところではあるのだが・・・・」
「・・・・・。」
終わりました。
私の人生、最初で最後の婚姻式は、誓いの言葉も交わせず、幕を下ろしました。
この先私たち夫婦は、『婚姻式を無事、通り越せなかった貴族』として吹聴されること決定です。
カイト様、申し訳ございません。
妻として私は、わたしはーーーーー!!!
「?」
取り乱していた私の頭に、何かが触る感触が伝わってきました。
頭を上げてみると、どうやらカイト様が頭を撫でて・・
ちょ、カイト様!!
あなたは何て事を・・・・!!
ブツン。
◇◇◇
「アリア、俺何か、悪い事した?」
「・・・・・。」
今私たちは王様に呼び出され、二人そろって謁見の間へ向かっております。
しかし私は、横にいる彼の顔を、直視できません。
なぜあんなことを・・・・・
なぜ頭を撫でたかと聞くと、『泣きそうだったから、何となく』と答えられました。
しかし普通、親子が愛情表現するために行うものです。
それも、『成人前』の。
カイト様は、なぜか分かっていないようですわ。
「なんだかこう・・・婚姻式で俺、あの後何したか覚えていないんだよね? その前も緊張していたというかさ・・・ アリア、俺って大丈夫だった?? 誰にも迷惑かけてない?」
私に聞かないでください。
あなたの奇行のせいで、意識が彼方に吹き飛ばされてしまったのですから。
あああ・・・・
最悪ですわ。
きっと私は、契りの言葉なんか交わせてはいません。
私の一生に一度の婚姻式は、最悪の形で終わってしまいました。
父上からの呼び出し。
お叱りを受けるのでしょう。
当然ですわ。 王族として、恥ずかしすぎる婚姻式にした挙句、すべてをぶち壊してしまったのですから。
いつの間にか、謁見の間へ入っていたようです。
気が重いです・・・・
悪いのは、結局は私です。
覚悟を決めましょう・・・・・
「スズキ公よ、良き婚姻の儀であった。 これからそなたには、領地を任命する。 よく励むように。」
「領地・・・ はあ・・・・・・・」
カイト様、そんな露骨に嫌そうな顔はしてはいけません。
領地を賜るというのは、名誉なことなのです。
彼は、それを望んでいないようですが・・・・・
「アリア、おまえもスズキ公の妻として、もっとシャキッとせぬか。」
「はい・・・」
国王様が私に、叱咤激励してくださいました。
でも無理です。
立ち直るには、もう少し時間が必要です。
私の婚姻式が潰れてしまったのですから、お許しくださいませ。
「アリアよ、参列した貴族の方々からは、『実に良き婚姻の儀であった』と、口をそろえて言ってきているのだぞ?」
「・・・・・・・え?・・」
婚姻の言葉も交し合っていないアレが?
最低の婚姻式だった、の聞き違いでは??
「アリア、聞いて頂戴。 私は、あんなに恋心あふれる婚姻の儀は、はじめて見たわ。 いいじゃない。 婚姻の言葉なんて、交わせ無くても、夫に尽くすことなんてできるわ。」
ニッコリと、微笑み返してくる王妃様。
「え!? やっぱり違ったの??」
カイト様に視線を向けると、驚いたように言葉に疑問の言葉を投げかけてきました。
彼を見ると、悶々としていた自分がバカらしくなってきました。
彼は、アレで完璧とでも思っていたのでしょうか?
「カイト様、婚姻の儀ではできませんでしたが、ここで改めて誓わせていただきますわ。 私は、生涯あなたの伴侶として、尽くさせていただきますわ。」
「・・・・・・妻・・か・・・」
「え?」
カイト様はそう、言葉を発すると、私の耳に口を近づけました。
何を言う気でしょうか?
まさか・・・・・・・・・・
顔が一気に、紅潮してきます。
「アリア、領地に着いたらクーデターを起こしてくれない? 俺は失脚して、山奥ででもひっそりと・・・」
「いたしません。」
「え~~。」
この方は、おバカですね。
そんなことをすれば私は、絞首刑ですわ。
紅潮した顔も、一瞬で元に戻ってしまいましたわ。
でもそんなところが、彼のいい所でもあります。
「カイト様、これからどうか、よろしくお願いいたします。」
「う~ん、・・・よろしく?」
前途多難な気がしますが・・・・なんとか、乗り越えられる気がしてきました。
・・・・気のせいかもしれませんがね。
実験もかねて、投稿しました。
これからも、よろしくお願いいたします、




