閑話・受付嬢の一日
気持ちが早いと思ったのですが、閑話です。
カイトにいろいろ教えてくれた、眠そうなギルド受付嬢の一日です。
本当に眠いです・・・
カラ~ンカラ~ンと、鐘の音が聞こえてきます。
ここ、シェラリータの街ではこの聖教会からの鐘の音ともに、街の一日が始まります。
かく言う私もこの鐘の音ともに起きて、職場へと向かいます。
申し遅れました。
私の名前はレン・ガエール。
ギルド協会シェラリータ支部に勤める受付嬢をやっております。
冒険者を目指して地元の田舎から街へとやってきたのですが、私には荷が重過ぎました。
でもギルドの受付のお仕事があって大変よかったと思っています。
ふああ・・・・。
まだ眠いです。 二度寝したいところですが、一昨日はそのせいで寝坊してしまい、ギルドマスターに怒られてしまいました。
こんなことでクビになって、路頭に迷いたくはありません。
ここは起きましょう。 ふう・・・私はなんて自分に厳しい大人なのでしょうか。
ゆっくり・・・いきなり起きると体に障るのでゆっっっっくり・・・ベットから這い出ます。
寝巻きからギルドの制服へ着替えるのは、すばやくします。 肌寒いですからね。
そうそう、ここで顔を洗うのと歯を磨くのを忘れてはいけません。
なんたって多くの人の前に出ますからね!!!
持って行くのは昼食と小さなかばんだけ。
これで準備オーケーです。
さあ、今日も(なるべく寝ないように)バリバリ働くぞ!
ファイト、オーー!!
◇◇◇
ギルドです。
今、私は自分のカウンター席について書類整理などをしています。
この後のお仕事を円滑に進めるためなので、余念がありません。
冒険者に時間は関係有りません。
依頼遂行には数日かかることもあるのですから。
と言っても私はギルドの受付嬢。 昼までは特にすることは有りません。
ギルドの依頼が更新されるのは昼なので、そのころが忙しくなります。
だから大丈夫なのです。 ほんのちょこっと居眠りしていても・・・
ZZZ・・・・・・・
「ちょっと、レンさん!? ギルドマスターが来ますよ!? おきて! 起きて下さい!!」
◇◇◇
陽もだいぶ高いところまで上がり、ぽかぽかしてきました。
頭には、小さなたんこぶが一つ。
居眠りのバツで、先ほどギルドマスターに殴られました。
でも私の眠気には、なんら影響はありません!!
陽気のおかげで、眠気が増大してきます。
いけません! それでこさっきも、ギルドマスターに怒られたではないですか!!
気を引き締めましょう!
しかし、今日はどうしたというのでしょうか?
冒険者が少ないです。 いつもはこの時間、冒険者でごった返しているのですが・・・
隣にいる同僚に聞くと、今日は依頼が少なかったそうです。
まあ、そういう日もあるでしょう。 となると今日はヒマで終わりそうです。
私としては、こんな平和な日もあっていいと思います。
と、思っていた矢先でした。
私のカウンターに一人の変わった風体の男性がいらしたのは。
「新規の方ですね? 登録料は銅貨五枚になります。」
「え”・・・・」
お金の話をしたとたん、彼は固まってしまいました。
どうしたのでしょうか?
銅貨五枚はそんなに高くは無いはずです。
ははあ~~。この方、もしや一文無しですね?
変わった風体の方だと思ったのですが、やはりスラム出身の方なのでしょう。
たまにいらっしゃるんですよね?
並の生活を手に入れたくて冒険者を目指す人。
私は、この方にそういった時の為の書類をお渡ししました。
出してから、そういえばこの方はスラム出身だったと気がつきました。
失念していました。 スラム出身の方は、文字がかけない方々なのですから。
ですが杞憂に終わりました。 この方、文字がかけるようです。
う~~ん・・・
見たところ学もありそうですし、逆に貴族の家から着の身着のままで、追い出された方なのかもしれません。 それならば変わった服装にも説明がつきます。
おっと、ギルドで他人の過去の詮索はご法度でした。
学があるなら手続きもスムーズです。
この方に私がカウンターを離れる間、読むようにと『冒険者手引』を置いていきました。
しめしめ。
ちゃんと呼んでます。 説明は要らなさそうですね。
学がある方で本当によかったです。
読み上げて、いちいちご説明する手間が省けました。
これは決して職務怠慢ではありません。
ですが、この考えは、すぐに打ち砕かれる事となりました。
◇◇◇
「すきる? 何それ??」
え”!? 今なんて言いましたこの人!?
スキルを知らない人ですと!!???
信じられません。 スキルを知らない方なんて始めて見ました。
三歳の子供でも知っていると言うのに・・・
うぅ~む・・・。 学があるというのは気のせいだったのでしょうか?
ま、これも仕事なので説明して差しあげましょう。
その前に、ギルドカードの発行のために、彼のステータスを確認しなければなりません。
で、ステータスが開けたのはよかったのですが・・・
名前 :カイト・スズキ
年齢 :17歳
レベル :1
HP(体力):480/522
MP(魔力):1549950/1550000
STR(筋力):210/211
DEX(機敏):730/730
スキル :好きなものを好きなだけ♪
何ですか、この人!?
勇者ですか、勇者なんですか??
私、小さいころに、絵本とかでしか見たこと無いですよ!?
突っ込みどころ満載のスキルですが、群を抜いているものが三つ。
まずレベル1。
始めて見ました。 五歳の子供ですら、レベル3は有ると言うのに・・・
そして魔力が155万。
この国の大賢者が魔力1万5千と聞きます。ちなみに私は87です。万なんて付きません。
そしてスキル。
好きなものを好きなだけって・・・orz
この方を残し、急いでギルドマスターにこのことを報告しに行きました。
冒険者ランクが分からないのです。 スキルにムラがありすぎるので。
私があわてている様子を見ただけでギルドマスターは
「すぐにお前の動きを俊敏にさせている、その原因のやつをここへ連れて来い!」
と、言ってくれました。
私はまだ何も言っていなかったのですが・・・
話が早くて大変助かります。
◇◇◇
「君が、驚くべきスキルをはじきだしたカイト君だね?」
「は・・・はい。カイトは俺ですけど・・・」
ここはギルド内にあるギルドマスターの私室。
重苦しい空気に包まれています。 私も思わず、ゴクリと唾を飲み込みます。
ギルドマスターもこの方の、異常スキルが気になるようです。
カイトさんが先ほどのように水晶に手をかざします。
「「「・・・・・。」」」
あ、ギルドマスターも固まりました。
それにしても先ほどは気がつきませんでしたが、水晶が虹色に輝いていますね。
普通、これは火属性の方なら赤、水属性の方なら青と、言う風に輝きます。
好きなものを好きなだけ・・・は伊達ではないようです。
しばらく黙っていたギルドマスターでしたが、少しうなずくと、私に耳打ちしてきました。
スキル的にはSランクで申し分ないが、ポッと出の人にそれをしたら他の冒険者に示しがつかない。
でも、それはいわゆるギルドの都合なので、慰謝料と言う形で金貨を三枚渡すことにするそうです。
私の一ヵ月のお給料は銀貨十五枚ほどで渡されます。
要するに、私の一ヶ月の二十倍です。
まあ、Sランクのはずが、目立たないためとはいえCランクです。 妥当と言えば妥当・・・・
妥当なのです!!!!!!(自分に言い聞かせる)
お金をもらったときのカイトさんの喜ぶ顔は、とても見ていて気持ちがよかったです。
すごく安心するような・・救いの手を差し伸べられたような・・そんな顔です。
普通こんな大金もらったら、物欲で下品な顔したりとかするのですが。
ちなみに私だったら一軒家を買います。
ふう~~・・・
今日は疲れました。
気疲れです。
気持ち的な疲れです。
でもそれより、今日はとっても面白いものを見させていただきました。
こんな風に仕事中に眠気が飛んでしまったのは、いつ振りのことでしょうか?
カイトさんは、明日から依頼を受けに、ここは来ることでしょう。
何よりカイトさんは、いい人そうです。
そこらの山猿さん方とはまったく違います。
ふふ・・・・
明日からが楽しみです。
明日はどんな面白いことをしてくれるでしょうか?
・・・ところで、カイトさんの仰っていた『てつどう』とはなんのことだったのでしょうか?
あの、ギルドの受付譲さんはこんなことを思っていたのですね。
ちなみに彼女が冒険者をあきらめたのは、「夜、眠いのを我慢して不寝番なんか出来ない」からです。
ちなみに体力も無いのも一端です。
※9/6、大幅に加筆修正しました。




