第二節 遺書
『私達は自分たちの行っている事を正しいとしてきた。ゾムビーこそ悪で、悪は倒す、悪は全て殺す、そうしてきた。そして失ったものもある。だが、正義の反対は悪ではない。正義の反対はもう一つの正義だ。片方に家族、友人、恋人がいる様に、もう一方にも家族、友人、恋人がいる。私たちとて同じだ。私達にそれらがいる様に、ゾムビー達にもそれらがいるかも知れない。双方が対決するのが歯がゆく、厄介で、煩わしい。
さて、この星には、多種多様な生物が生息している。互いに共存している部分もあれば、殺し合い、命を奪い合って生きている部分もある。更に人々は、犯罪に手を染め、他人を無暗に殺す事だってある。何故そうなってしまうのか……。犯罪者について少し考えてみよう。彼らも、生まれたての頃はどんな汚れ無き眼でどんな明るい未来を夢見ていたかは、犯罪に手を染めた後では当の本人すら分からないだろう。
物事には必ず原因と結果がある。とある世界的な犯罪をおこなった男について、知っている事がある。彼は幼少期、酷いいじめに遭っており、彼を助ける者は、誰一人として居なかったという。彼に救いの手を差し伸べる者が居れば――、どんな凶悪犯にも、そこへ至るまでの過去や原因があるのかもしれない。少し重たい話で済まない。
もう一度言う。物事には必ず原因と結果がある。犯罪に手を染めた者も、幼少期や今、抱えている問題が有るのかも知れない。
そこで、だ。手を差し伸べる、という道は無いだろうか? 犯罪者になってしまいそうな状況に立たされている者、過酷な状況に置かれている者らに手を差し伸べるという道だ。そうやって手を差し伸べていくうちに、犯罪という行為は消えてなくなっていくのではないだろうか?
それはゾムビーとて同じかも知れない。攻撃や威嚇に対して返って来るものは攻撃だ。元々ゾムビーの住処に無断で侵入して行ったのは私たち人間だ。ゾムビー達が大切にしている石を奪ったのも私たち人間だ。そこは反省すべき点だと、私は切に思う。ゾムビーにも手を差し伸べる、共に歩んでいくという道もあるかも知れない。そこで具体的な方法を何か模索してくれないだろうか? 身体副隊長、サケル隊員、ツトム隊員、その他の隊員達でも構わない。何か策を考案して欲しい。そしてそれを実行に移し、ゾムビー達との戦いに、終止符を打ってくれ。私から言える事は以上だ。健闘を祈る』
身体は遺書を読み終え、続けて言う。
「と、内容はこういったモノだ。隊長の遺志を継ぎ、個人的には不本意だが、ゾムビー達と和解する方向で指揮を執って行く。そう、本当に不本意だがな……」
(回想)
河川敷をランニングしている身体。ふと、何かの気配に気付く。川の方を見るとそこには紫色をした、得体の知れない生物がたたずんでいた。
「! 何だコイツは!?」
その生物はじりじりとこちらへ近寄ってくる。
「ゾム……ゾム……」
「くっ来るなぁ!!」
怯える身体。
「……バースト」
「ボボン!」
得体の知れない生物は爆発するかのように弾け飛んだ。声のした方へと身体が顔を向ける。
「危なかったな、青年。もう大丈夫だ」
そこには、若かりし頃の爆破がいた。
「あ、貴女は?」
「ん? 私は爆破スマシ。ストレス解消と趣味で、さっきのような生物を駆除している者だ!」
「ケガの調子はどうだ? 副隊長」
爆破が問う。
「ええ、お陰様で、後はリハビリを残すのみとなりました。この通り、引っ付いています」
答え、手を動かして見せる身体。
「そうか……それは良かった。しかしまぁ、なんだ。クリスマスの夜と言うのに、お前はリハビリにトレーニングばかりなんだな……この後、食事にでも行かないか?」
「!!」
爆破の言葉に衝撃を受ける身体。
「何だ? 嫌か?」
「いいえ! 滅相もございません!」
爆破に咄嗟に言う身体。
「そうかそうか。じゃあ、30分後くらいに出発しよう。また後でな」
「まずは副隊長」
「は、ハイ……」
反応する身体。
「今まで私の右腕として良くついてきてくれたな、ありがとう」
「滅相もございません!」
「私にもしもの事があれば、この部隊を仕切ってくれるのはお前だ。宜しく頼むぞ」
「は……ハイ!!」
(回想終了)
(隊長……隊長の命を奪ったのはゾムビー。そのゾムビー達と、どうしても和解しようと言うのならば、私は私情を捨てて和解の道を歩んでいきます)
身体はひっそりと思うのだった。
「副隊長、スマシさんは……」
主人公は口を開いた。
「何だ? ツトム」
(回想)
「さて、私は様々なゾムビーを倒してきた。時には同胞さえも……しかし、他の方法があったのではないかと、時々、思うんだ」
(回想終了)
「スマシさんは、ゾムビー化した人間だった人を、いいえ、元々ゾムビーだったゾムビーすら、殺すことをためらっていたのかもしれません。本当は嫌だったのかもしれません。だから……」
「今回、和解という指令を出してきた、と?」
主人公の言葉を遮って、言う身体。
「はい……!」
何か思いつく主人公。
「どうした? ツトム」
身体は問う。
「ゾムビーの発生源は、宇宙にあったウイルスなんですよね?」
「そうだ、それがどうかしたか?」
主人公に返す身体。
「ゾムビー達は石を欲していた……だから、和解の具体的方法として、あの石をロケットに載せてゾムビーの住処へ返すというのはどうでしょうか?」
「!」
「!!」
主人公の言葉に反応する身体と逃隠。
「そうか! ウイルスも石も、元は宇宙にあったゾムビー達の物。それを返すことで地球を襲わさせない様、協定を結ぶことが出来たら……!」
身体は声を上げて言う。
「はい……スマシさんの遺志も引き継いで、和解できる可能性があります」
「だい!」
主人公と逃隠は口々に言う。
「よし! 早速行動に移すぞ! あの石はここ、狩人ラボにはもう一つも有りはしない。急いでN州支部に連絡だ!」
身体の指示で、狩人隊員達が動き出す。
――、
N州支部の者にビデオ通話するべく、準備を始める。モニターを通信用に切り替え、通話を始めた。
「How are you! Everyone」
通信がつながった様だった。身体は英語で対応する。
『もしもし、狩人副隊長の身体だ』
『oh! そちらからの連絡とは珍しいデスね』
『今回は、込み入って頼みがある』
N州支部の者に相談を持ち掛ける身体。
『? ナンでしょうか?』
『例の、ゾムビーの能力を高める石を、宇宙に還して欲しい』
『……』
『……』
暫くの間、沈黙が続いた。先に口を開いたのは支部の者だった。
『……何故デショウか?』
身体は返す。
『ゾムビー達と、和解するためだ』
『……』
再び黙り込むN州支部の者。遂には口を開く。
『……何でデスカ?』
「!」
その表情は酷い憤りを感じていた為か、非常に険しいものだった。
『今まで戦ってきた敵と! どうやって和解しろと!? これまでに数万人の被害者を出してきた敵が! そんなことで攻撃の手を緩めるとでも! 本気で思っているのデスか!?』
N州支部の者の言葉をしっかりと聞いた上で、身体は口を開く。
『まず、事の発端から考えるんだ』
『!?』
虚を突かれるN州支部の者。身体は続ける。
『ゾムビーが地球に発生し始めたのは、我々地球人が宇宙に足を踏み入れて、ゾムビーのウイルスを地球に持ち帰ったからだ。違うか?』
『そ、……ソレは……』
『その時にあの石も数個持ち帰ったのだろう。ゾムビーが地上に発生した原因は、明らかに人間側にある』
『ぐ……ぐぬぬ』
支部の者はぐうの音も出ない様子だった。更に身体は続ける。
『それを、攻撃して来たから攻撃し返すでは筋が通らないだろう』
『それで、こちらから謝り、下手に出る、と言うのデスか……?』
『そうだ。和解の道はそこから以外ない』
N州支部の者の質問に淡々と答える身体。
(会話の全ては英語だから分からないけど、副隊長が上手に回っている事は分かる!)
主人公は2人の様子を見てそっと思う。
『そうデスか……。それでヤツらが和解に応じてくるという確証はあるのデスか?』
支部の者の質問に再び答える身体。
『それは分からない。しかし、こちらの隊長、そしてそちらのエース隊員を失った今、ヤツらゾムビー達を再び宇宙で迎え撃つ事が出来る可能性の方が、低いのでは?』
『! ……分かりマシタ。しかし試すのは一回だけデスよ?』
『今回の申し出に、応じてくれるのか!?』
『……ハイ』
「グッ」
拳を握る身体。その様子を見ていた主人公と逃隠。
「副隊長!」
「副隊長ォオオ!!」
「スッ」
飛びつきそうな二人を右手で制止する。
『石を宇宙へ送る具体的な方法についてだが、ゾムビー達がそれに気付いてくれないと話にならないな』
『そうデスねー。無人ロケットに入れて飛ばすのが安全策デスガ……』
すると――、
「バチバチッ……ジー、ジー」
通信回路に異変が。
「!」
「!!」
「!?」
身体、逃隠、そして主人公が異変に反応した。
「ジー、ジー」
ノイズが徐々に小さく、通信回路が安定してきた。
『!! !! !?』
一同が驚愕する。何と、モニターにはかつて見た、ゾムビーの親玉が映っていたのだ。
『ヤア、久シブリダナ、諸君』
親玉は語り掛けてきた。
「お! お前は!!」
主人公が叫ぶ。
「スッ」
それを身体は右手で制止させた。
「久しぶりだな、何の用だ? まさか先程の話を聞いていたのか?」
『ソノマサカダ』
「!」
身体は動揺した、と同時に
「それなら話は早いな」
今をベストなタイミングと見込んだ。
「今回、あの石をロケットに入れて宇宙に還す。その代わりに今後、人間を襲って来ない様にしてもらいたい。どうだ?」
『……』
数秒の時が過ぎた。
ピリピリと張り詰めた空気が辺りを包む。
そして遂に、ゾムビーの親玉は口を開く。
『……直グニハ、答エハ出セナイ。ソチラノ都合モアルダロウ……マズハ三ツ。三ツノ石ヲ宇宙ニ送ッテクレルカ? 話ハソレカラダ』
「分かった。早急に三つのあの石を宇宙へ送る。それが確認できたらこちらを認めてくれるかどうか、その段階に入ったと見る」
『ヨロシイ。ソレデ手ヲ打トウ。ソレデハ、サラバダ』
「ジー、ジー……ブブー」
再び通信回路に異変が。
「ジージー」
『繋がりマシタか?』
N州支部の者がモニターに映った。
『今のやり取りデスが、こちらにも同じ映像、音声が流れていた為理解する事が出来マシタ』
『そうか……』
身体は返す。
『まずハ、三つ……デシタね。あちらから通信を行ってきたのが幸運デシタ。早急にロケットを手配シマース』
『……頼む』
『分かりマシタ。デハ、失礼しマース』
『ああ、じゃあ……な』
「プツンッ」
モニターがオフになり、通信回路も遮断された。
「副隊長! やりましたね。こんなに上手く事が運ぶなんて!」
主人公が明るく身体に話し掛ける。
「……」
俯いた様子の身体
「副隊長……?」
身体の左手を見ると、強く握った拳が。握り過ぎて血が滲んでいた。
「! 副隊長……」
「怖がらせてしまって、悪かったな」
身体が口を開く。
「俺とて、不本意だったんだ。いくら隊長の意向とは言え、隊長を殺したヤツらと和解なんて――、な。ゾムビーも、現場を知らないあの支部の者も嫌いだ……」
「……」
黙り込んでしまう主人公。
そこで――、
「副隊長ォ! それでも! 前を向いて行くしか、無いんだい!!」
逃隠が口を開いた。
「隊長は! 和解を望んだんだい!! だから……だから!」
両目は涙で滲んでいた。
「分かった」
身体は逃隠に近付きながら言う。
「悪かったな、これじゃあ、隊長に顔向けできないな」
「ぽん」
逃隠の頭に手をやる。
「俺は前を向いて生きて行く」
「副隊長ォオオ」
身体に抱きつく逃隠。
「こらこら、止めないか」
それを見て、主人公は思う。
(サケル君が居てくれて良かった。僕じゃあすぐに声を掛けられなかった)
身体と逃隠がじゃれ合っている。
(僕も……やるんだ! 前を向いて生きて行こう)
hunter.N州支部――、
『早く! 約束の日まで時間が無いヨ』
急ピッチでロケット発射の準備が進められている。
(回想)
爆破や主人公達は、頭に直接呼びかけてくるような “音”を感じ取った。その音は、ロケットのコックピット等に居るパイロット達にも聞こえた。
『今回ハ、ココマデデ勘弁シテヤロウ。シカシ、我々ハ諦メンゾ。アノ石ヲ……。モウ7日、一週間後ニマタ戦力ヲ立テ直シテキサマラヲ襲ウ。セイゼイ余命ヲ楽シムンダナ。ハッハッハッハ』
“音”は徐々に消えていった。
(回想終了)
(あの石を欲していたゾムビーの親玉……和解の道は本当に在るのか……?)
N州支部の者は考え込む。
そして――、
『石は積んだな!?』
『確認済みです!!』
『分解装置の動作確認は!?』
『完了しています!!』
『よし、5分後、発射する!!』
遂に例の石が載ったロケットが発射される。
『スリー、ツー、ワン……』
「ゴゴゴゴゴゴゴ」
発射は成功に終わった様だった。
『成功……だな』
hunter.N州支部の隊員達はロケットの動向を伺う。
『現在、冥王星方向へ向けて進行中……ふぅ。ひとまずは安心だ』
『帰りの燃料の心配しないで済むから、楽なモンだな』
口々に言う隊員達。
――、
日々は過ぎていき、約束の日の1日前になった。
Hunter内部、モニタリング室にて。
隊員が口を開く。
『ロケットどこまで行ったかなー』
『3日以上経ってる、相当遠くへ行っただろう』
すると――、
「バチバチ……ジー、ジー」
「!」
「!?」
いきなり、通信用のモニターの電源が入った。そして――、
『ゴキゲンヨウ、地上ノ諸君』
ゾムビーの親玉が話し掛けてきた。
「!」
「!!」
『上へ連絡だ。急げ』
『ラジャー』
隊員達は上司を呼ぶ様だった。
『アノ石ヲ載セタロケット、確カニ確認デキタ。礼ヲ言ウ』
『クソッ俺達で対応していいのか!? 上の者はまだ来られないのか!?』
『私ハ、身分ハ問ワナイ』
「!!」
『石ヲ確認デキタノデ、地上ニ居ルゾムビー達ニ指示ヲ出シ、攻撃ヲ止メサセル。更ニ頼ミガアル』
『……何だ?』
モニタリング室に居た隊員は少し冷や汗をかきながら問う。
『地上ニ散ラバッタ、全テノ石ヲコチラヘ返シテモライタイ』
「!?」
「!!」
隊員達は驚愕した。
『な……まだ石が地上に在るのか!?』
『少シ昔話ヲシヨウ』




