第三節 共闘
「ツトム……それは……」
父がゆっくりと、スッと耳に届く声で言葉を投げ掛ける。
「それは自分で決めた事なんだな?」
「うん!」
主人公が続けて気持ちを込める。
「自分で……自分で決めた事なんだ。誰かに言われたんじゃない、僕自身が強くそう思っている事なんだ! 前に、ゾムビーに大切な人を襲われて……だから、もう二度とあんな思いはしたくなくて!」
暫くして、再び父が口を開く。
「そうか……それなら自分で決めた道を進みなさい」
「! お父さん!!」
母が心配そうに父の方を向く。すると父は続けた。
「母さん、いいんだ。ツトムが自分で皆を守るって決めた事だ。……ツトム、自分で決めた事をやり通すというのはそれがどんな事であれ、とても意味のある事なんだ。よく、自分で決心したな」
「父さん! ありがとう! 頑張るよ!!」
「ああ、頑張れよ」
主人公の力強い言葉に、優しく返す父。
「ふ――、しょうがないわね。分かったわ。母さんも応援するから。でも、無理だけはしない事。それと、何か私達に出来ることがあったら必ず言う事。出来る限りの事はするわ。分かったわね?」
父の様子に見かねた母は主人公の意見を認めた。
「分かったよ。母さん、無理はしないし、何かあったら協力してもらうよ」
主人公は晴れやかな気分でそう答えた。ふと、母は言う。
「あ、そうだ。一応言っておくけど、勉強に支障が出たら、許さないからね」
「はは、気を付けるよ」
主人公は少し硬くなる。
「ふっ、ははは」
父がクスッと笑った。
「ふふふ、あははは」
「ははは、ふふ」
母もつられて笑い、主人公もまた、頬を緩めた。
笑い止んでから、主人公は言う。
「とにかく、そういう事だから、これから頑張るよ! それと、これからも宜しくお願いします。父さん、母さん!」
「ああ」
「ええ」
父と母は笑顔で答えた。
「じゃあ、部屋に戻るよ」
そう言って主人公は二階に上がった。階段を上がりながら、主人公は考える。
(よし! 言えて良かった。もやもやした気持ちが晴れたよ)
ドアをバタンと開けて、自室に入る。
「ボフッ」
ベッドに腰掛けた。少し下を向いて、顔の前で指を組む。
「フ――、よし! 宿題宿題! ラストスパートだ‼」
主人公はスッと立ち上がった後、机に向かい、宿題を始めた。夕方には全ての夏休みの宿題が終わった。
――翌日、8月31日。主人公の自室にて。朝、主人公がバッグを準備している。
「さて、宿題も昨日終わったし」
階段を下りる主人公。茶の間にいる母に話し掛ける。
「母さん、ちょっと出かけてくるよ。帰るのはお昼過ぎるかも」
「ハーイ、行ってらっしゃーい」
母は返す。
――小一時間後、主人公はとある場所へ辿り着いた。狩人ラボである。
認証用のカードキーを使う。
「ウィ――ン」
ラボの扉が開いた。
「よしっ」
主人公は足を進める。数分後、主人公は研究室に辿り着いた。
センサーが感知し、自動扉が開く。
「こんにちは! 主人公ツトムです。今日の実験はいつからでしょうか?」
主人公の問いに、パソコンの前で作業をしていた研究員が手を止めて答える。
「お疲れ様、ツトム君。午後3時からだ」
「ハイ! ありがとうございます。尾坦子さんとの面会、大丈夫でしょうか?」
「ああ、被験体Aとの面会を許可するよ」
「ありがとうございます!」
主人公は尾坦子の下へ行く。相変わらず、尾坦子はガラス張りの部屋に閉じ込められていた。
「尾坦子さん! お久しぶりです!」
「あらツトム君、久しぶり」
二人は軽く挨拶を交わす。
「夏休みの宿題も終わって、時間ができたから来ました」
「ふふ、よく来てくれたわね」
主人公は近況報告を軽くした。友出の試合を見に行った事、逃隠家に行った事などを話した。
「コガレ君、ホントかっこよかったんだよ。シュートも決めて」
主人公は楽しそうに話す。
「その子の事が本当に好きなのね。……私とどっちが好きなのかな?」
尾坦子は主人公をからかう。顔を真っ赤にする主人公。
「えっ? えっと……それは……」
「ふふふ、いいわよ。本気で答えなくても」
「……」
「……」
主人公は顔を赤らめながら、尾坦子はニヤニヤしながら、二人は少しの間沈黙する。
「それで、ね……」
主人公が口を開く。
「?」
尾坦子はキョトンとする。
「父さんと、母さんに、狩人に入隊したことを話したんだ……」
「まあ」
主人公の言葉に、尾坦子は両手を口の前で開いた。
「それで?」
「うん、母さんは、最初は反対したんだ。僕を危ない目に遭わせられないって。……そしたら、父さんが狩人に入隊したのは、自分で決めた事なのかって聞いてきてね」
「ええ、それから?」
「僕は、この街の皆を守りたいから、自分で決意して狩人に入隊したって答えたんだ。そしたら父さんは認めてくれて、頑張れって言ってくれたんだ。母さんも、最後には納得してくれてね……」
「あら、良かったじゃない。これからも狩人として頑張れるわね!」
主人公に対し、明るく言う尾坦子。
「うん……でも……」
「?」
「コガレ君に、言われて気付いた事なんだけど、自分一人で頑張っていこうっていう気持ちじゃないんだ。サケル君のお父さんに対しても言った事なんだけど、狩人の仲間達と協力し合って一緒に戦っていきたい。狩人の人達だけじゃなくて、何かあったらコガレ君とも協力してもらったり、家族にだって相談して戦いを乗り越えていきたいんだ。僕一人の力では無理な事もあるし、一人で無理して心配かけるよりはずっといいと思う」
伝えたいことを言いきって、少し下を向く主人公。
「……そうね」
尾坦子が口を開く。
「その方が良いわね。相手はとても恐ろしい化け物なんだから、一人で無理したって勝てっこないわよ。私も、出来ることは実験に協力する事くらいだけど、目一杯頑張るから……一緒に、戦っていこうね!」
グッと親指を立てる尾坦子。
「……うん!」
主人公はパァっと明るくなり、答えた。
――、
「ありがとうございました」
研究員に挨拶する主人公。振り向き、尾坦子に手を振る。尾坦子は笑顔で手を振り返している。
――、
研究室を出て、ラボを後にした。家へと帰る道中、主人公は思う。
(よし! 僕は間違っていない! 尾坦子さんだって協力してくれる。皆で! 一緒に戦うんだ!)
――二学期、教室にて。
「おはよウ! ツトムゥ!」
逃隠が主人公に声を掛けた。
「おはよう。サケル君。夏休みの宿題、ちゃんとやってきた?」
「おウ! もちろン、やってないゼ‼」
自信満々に答える逃隠。ガクッと呆気に取られる主人公。
「予想はしていたけど……ここまで自信満々とは……」
「キーンコーンカーンコーン」
放課後のチャイムが鳴る。部活生はダッシュで部室に向かう。教室の窓で寄りかかる主人公。外のグラウンドを見ている。
「皆大変だなぁ。僕は帰宅部だから関係ないけど……」
そのままウトウトと居眠りを始める。外では一杯に入ったサッカーボールのカゴを運ぶ生徒や、ゴールを立てる者など、部活に備えている。
「うわあああああああああああああああ!!」
生徒の悲鳴が上がった。
「!?」
目を見開く主人公。
「まさか!」
階段を駆け下りる主人公。手には手袋を握りしめている。一方でグラウンドでは、生徒達が異様な光景に息を呑んでいた。グラウンドにはゾムビーの集団が8体、ぞろぞろとうごめいていた。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
逃げ惑う生徒達。校舎に駆け込む者、ゾムビー達と反対側の倉庫、部室側に逃げる者、校門を飛び出して何事もなかったかのように帰る者、様々である。
階段を昇る生徒達とは反対に、主人公は勢いよく下へ下へと駆け下りていく。グラウンドに到着し、ゾムビー達を確認する。
「やっぱり……」
主人公は手袋をはめた両手をゾムビーにかざした。
「リジェクト!」
「ゾ……?」
ドバっというような耳を突く衝撃音と共に、ゾムビーの集団のうち一番右端の1体を吹き飛ばした。
「(まだ7体もいる……!)狩人ラボはこの学校から遠い! 連絡をしても、到着が遅れてしまう!!」
「ツトムゥ! 狩人への連絡は任せロ!」
校舎の方から声がした。逃隠である。
「サケル君! お願い!(なんでまだ校舎に居るんだろう……?)」
返事をしつつ主人公は疑問に思う。
ゾムビーの方を確認し、ふと何かに気付く主人公。
(ゾムビー達の体液が、体育館裏の方から続いている……この前と同じ、あの排水口から大量発生したのか!?)
再び手をかざす主人公。
「リジェクト!」
2体目を吹き飛ばす。
(よし、今日は調子がいい。5秒に1回は撃てる……)
ゾムビーと充分に距離をとりつつ、ゾムビーのうちの1体が射程圏内に入るまで待つ主人公。
(今だ!)
「リジェクトォ!」
遂には3体目を吹き飛ばした。
「やった! この調子で……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
安堵した瞬間、叫び声が……。その声の方向に顔を向ける。主人公から見て一番左端のゾムビーが、校舎付近で腰を抜かしていた生徒の一人を襲っていた。
(マズい‼ あと1秒足りない……)
「ゾム……」
「うわぁあああ! 嫌だぁあああ!!」
近寄るゾムビー。泣き叫ぶ生徒。ゾムビーの口から体液が放たれようとする。瞬間、
「ビュン」
「ゾ?」
何かがゾムビーに向かって飛んで行った。
その物体はゾムビーの顔面に直撃、溜めていた体液はゾムビーの顔面から後方へ飛び散った。
「やった! 体液はあの生徒にかかってない! あれは……」
物体を凝視する主人公。
「ボテ……テーンテーンテテーン……」
それはサッカーボールだった。
「サッカー……ボール……?」
「よぉ、手こずってる様だな。ツトム」
主人公が振り返るとそこには友出の姿が。サッカーボールが一杯に入ったカゴに手を掛けている。
「コガレ君!」
「早くぶっ倒せよ、こんなサッカーボールじゃ、奴を怯ませる事しかできないぜ?」
友出は冷静に言う。
「あ……リ、リジェクトォ!!」
4体目を撃破する主人公。ゾムビーの肉片が、体液と共に飛び散る。その残骸は、グラウンドの土から煙を上げて鼻を突く異臭を放っていた。
「ひっひぃいいいいいい」
ようやく動けるようになり、走り去る生徒。
「ありがとう! コガレ君!」
咄嗟に礼を言う主人公。
「礼ならいいぜ。それより、囲まれてるぜ?」
「え!?」
友出の言葉に、冷静になって辺りを見渡す主人公。そこには、ほぼ均等にゾムビー達が主人公と友出を囲って立ち塞がっていた。
ヒタリ……ヒタリと、半固形の足を不気味にうごめかしながら、徐々に二人の距離をつめてくるゾムビー達……!!
「ツトム、背中を合わせろ」
一言、言い放った友出は手を掛けていたカゴを引っくり返し、中のボールはガラガラとカゴを鳴らして足元に散らばった。
「う、うん!」
主人公は指示に従い、友出と背中を合わせて立った。
「俺があいつらを怯ませるから、お前は自分の最善の方法で、1体ずつ奴らを倒していけ」
「分かったよ、コガレ君!」
二人は会話を交わし、戦闘態勢に入る。
「行くぜ!」
ボールをキックする友出。
「ドシャァ」
ゾムビーの顔面にヒットする。
「次だ!」
隣のゾムビーに狙いを定める友出。
「リジェクト!」
一方の主人公は自分の正面のゾムビーを攻撃する。
5体目を撃破した。
「フッ!!」
「ドシャァ」
「リジェクト!」
「ドガァアッ」
友出が怯ませ、主人公が撃破する。
「コガレ君!」
「何だツトム!?」
「僕達って最高に強いよね!」
「……ああ!」
ヒタリ……と粘つく足音がした。
「ゾゾォ!!(よくもなかまを!!)」
ゾムビーは残り1体となった。
「決めろよ、ツトム」
「うん」
主人公は手を正面の敵に構える。
「リジェクトォオオ!」
「ゾ?」
炸裂音がした。
跡形もなく吹っ飛ぶゾムビー。グラウンドに現れた全てのゾムビーは一掃された。
――夕日が傾いていた。主人公と友出は熱い握手を交わす。
その時――、狩人達が爆破、身体と共にグラウンドに登場した。
「大丈夫か? ツトム。今日は部隊の訓練と日程が重なっていてな……これは?」
爆破が何かに気付く。辺りには散らばるゾムビー達の残骸と、幾つかのサッカーボールが。爆破が友出に問う。
「少年、これは君とツトムでやった事なのか?」
「だったら悪いか?」
友出が答える。
「……」
爆破は友出の言葉を受け、少し考え事をした。
(生身で、サイキッカーでもない中学生が、サッカーボールだけで……)
「さて……俺は帰るぜ。この騒ぎだ、どうせ部活は中止だ。じゃあな、ツトム」
友出はそう言うと、その場を立ち去ろうとした。
「コガレ君……」
友出を見つめる主人公。
「……ああ、それと……」
友出が何か言おうとする。
「俺は狩人とか言う連中に加わる気はサラサラ無いからな」
「!」
主人公は友出に言う。
「コガレ君!……今日は、ありがとう!」
それを聞き、振り向かずに右手を上げて軽く振る友出。一方で、身体の元へ逃隠がやってきた。
「副隊長! お勤めご苦労様でス! 今回の連絡は私めが務めさせて頂きましたでございまス!」
「……」
逃隠の言葉に、黙り込む身体。遂に口を開く。
「見たところ、今回もお前は何もしなかったみたいだな。……一般人の中学生も加勢したというのに……お前にはガッカリだ……」
「ガ――――――ン」
(お前にはガッカリだ……お前にはガッカリだ……お前にはガッカリだ……)
身体の言葉が、逃隠の胸の奥底に突き刺さる。
「ガク……ペタァ」
膝を地面につき、両手もつく逃隠。哀愁が漂っている。
「ツトム、今回の戦果報告をしてくれ」
爆破が主人公に指示を飛ばす。
「ハイ、まず8体のゾムビー達が体育館裏の排水口の方から現れました。それから……」
話を続ける主人公。
「……で、コガレ君がサッカーボールでゾムビーを怯ませて、隙を作ってくれたので、1体ずつ倒していく事ができました」
「ふむ、報告ご苦労! 友出コガレと言うのか……是非我が狩人で育成してみたい人材だが、彼は私たちを少し毛嫌いしている様子だったな」
苦笑いを浮かべる爆破。
「はは、そうですね(今日は、ずっと思っていたこと、皆で協力して戦う事が実践できたぞ! これからも、こうやって戦っていき、ゾムビー達を全滅させないと……!)」
爆破に相槌を打った後、少し考え事をする主人公。
「そうだ、ツトム」
爆破が口を開く。
「今回は、排水口付近からゾムビーが発生したように、ゾムビー達は湿った場所から発生すると言われているんだ。で、だ。次の土曜日には沼地へ行ってゾムビー発見のための調査を行うことにする」
「ぬ……沼地……?」




