第十一節 平穏な夏休み
配置に着く主人公。いつものように手袋をはめる。両手をサンドバックに向ける。
(集中……集中だ……この町で、ゾムビー達の好き勝手にはさせない‼)
「リジェクトォオオ!!」
「ドッガァアア!!」
物凄い勢いで吹き飛ばされるサンドバック。
「威力は!?」
表示器を見る主人公。
「ピピピピピピ……ピ」
502kgの表示。
「やった! 目標の500kg!」
主人公は歓喜の声を上げ、全身で達成感を味わった。
「パン、パン、パン」
手を叩く音が――。音の主は爆破だった。
「よくやってくれた、ツトム。この短い期間での特訓、ゾムビー討伐の中でよく成長してくれた。3週間にまけてやると以前言ったが、本日をもって特訓を修了とする」
「スマシさん……」
目を潤ませる主人公。
「どうしたツトム? そんなに嬉しいのか」
爆破がそっと問う。
「はい、だって……これで、やっと宿題ができる」
「……切実なんだな」
主人公の言葉に、呆気にとられる爆破だった。
「まあいい、ともあれこれで今日から自由の身だ。荷物の整理をして、忘れ物の無いようにな」
「ハイ……スマシさん、ちょっとお願いがあるのですが……」
「ん?」
――研究室、尾坦子がいつもの場所に座っている。
「ウィ――ン」
部屋の扉が開く。
「尾坦子さん!」
主人公が手を振って登場した。
「あら、ツトム君!」
尾坦子が主人公に気付く。
「特訓の方、無事に終わりました。目標の500kg、達成したんですよ」
「へぇ、それはすごいわ!」
会話を交わす二人。
「それで、今日から実家に戻ることになりました。これからは夏休みの宿題で必死です」
「あら、まぁ」
笑う二人。
「休み中、時間があれば会いに来ます。休みが終わっても、土日なら暇なんで、ちょくちょく会いに来ると思います。いいですか?」
「いいわよ。楽しみに待ってます」
笑顔の尾坦子は落ち着いた様子でペコリと頭を下げた。
「じゃあ、今日はこの辺で。尾坦子さん! お元気で!」
研究室を後にする主人公。手を振って見送る尾坦子。
主人公ツトム。特訓、無事終了!
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「えぇーっと、電圧V割る抵抗Rで電流Iだから……」
昼下がり――、主人公が自宅で夏休みの宿題をしている。8月も第3週目になった。
「もう3時間経ったんだ。ちょっと休憩しよう」
主人公が時計を確認して、ベッドに横たわる。天井を見上げる主人公。
(春から、ホントに色んな事があったな)
主人公が過去を振り返る。
病院でのこと、学校の体育館裏でのこと、狩人ラボでのこと、工場地帯の戦い……。ゾムビーとの闘いの日々がよみがえる。
(初めは、リジェクトも使えない状態でゾムビーに立ち向かったんだっけ……)
ふと机の上を見る主人公。そこには、いつも手にして戦った、手袋があった。
起き上がり、手袋をはめ、握ったり眺めたりする主人公。
「不思議な縁だなぁ。リハビリの一環で、デイケアで作ってただけの手袋だったのに……今は必要不可欠な相棒のような気分だ…………!」
主人公が何かに気付く。
「ここ……傷になってて破れそうだ」
左手手袋の、小指の付け根辺りが傷ついていたのだ。
「右手も……だ」
右手の手袋にも何カ所か傷があった。
「……ゾムビーの体液でも掛ったのかな?」
じっくり手袋を眺める主人公。
「よし、明日革を買ってきて、修理しよう」
手袋を手から外し、机に置く。更にポンと一撫で。
「ふぅ――休憩終了。おっしゃ! やるか」
再び宿題を始める主人公。やや疲れながらも、集中力は落ちないようだ。
――夕方。
「ツトムゥー? 宿題は順調? ご飯できたわよー」
母が1階から呼んできた。
「はーい、今行くよ。母さん」
リビングで夕食を食べる主人公と母。
「父さんね、今夜遅くなるんだって」
「大変だね」
箸を進めながら、母と子はとりとめのない会話を交わす。
「そうそう、3週間近くもお勉強会、よく頑張ったわね」
カチンと固まる主人公。
「ア……ウン……ソウダネ……」
動揺を隠せない。
「入院するまで追い込まれちゃってたツトムにそんなお友達ができて、私安心したわ」
上機嫌で話す母。
「ハハハ……ウンウン……」
目が泳ぐ主人公。
(ゾムビーと戦うために、狩人に入隊したって事、全然話してなかった。誤魔化し切れるかな? ……いや、いつか絶対話さないといけない。父さんも居る時に、いつか必ず!)
「手が止まってるわよ? 食欲無いの?」
母の言葉にハッと我に返る主人公。
「あ、いや……食べるよ」
――夜。部屋を暗くして、ベッドに横たわる主人公。
(母さん、心配するだろうな……父さんは……怒っちゃうかも……)
目を閉じ、ため息をつく。
「あ――――!」
頭を搔きむしる主人公。
「いつか言うったって、いつ言えばいいんだろう? すぐには言う勇気なんて無いし……」
しばらく考え込む主人公。
「夏休み! 終わるまでに言おう!」
心は決まったようだ。
「よし! それで決定。じゃあ寝よう寝よう」
主人公は深い眠りについた。
――翌日。
「行ってきまーす!」
主人公は買い物に出かけた。
ショルダーバッグに財布を入れて、ホームセンターに向かう。
日差しが強い。途中通りかかった家の犬も、犬小屋でハッハと息を乱して横になっている。
ホームセンターに着いた。革の材料が売っているコーナーを探す。数種類の革が売っている場所を見つけた。手袋を取り出し、色合いが合っているか確かめる。
ホームセンターを出る主人公。どうやら目当ての材料が見つかったようだ。家路を辿る。行きと同じく、日差しが強い。汗をぬぐう主人公。道にはうっすらとかげろうが。
家に着いた。2階へ上がり、糸と針、ハサミを用意する。先程買った、革の材料を、手袋の傷に合わせて少し大きめに切る。全て切り終え、針を使い縫っていく。作業に没頭していく主人公。30分程が過ぎた。修理は完了したようだ。手袋を手に取り、はめて確かめる主人公。縫った部分から傷が出てきていないか確認する。
「よし」
手から手袋を外す主人公。机の上に手袋を重ねて置く。
「お帰り!」
第一章 始まりの手袋、完




