黒い吹雪と、氷の少女
暗い牢獄の中で重苦しい時間が流れていた。
やがて、不快な音を立てながら鉄の扉が開いた。
青い髪の少女――ミラが姿を現し、冷たい眼差しで二人を見つめると、命令口調で言った。
「ほら、立ちなさい。くだらない真似はせずに外へ出て。」
ミナトとカイトはゆっくりと立ち上がり、ミラに連れられて雪に覆われた村の通路を歩き、丘の上に建つ大きな木造の家へと案内された。
中へ入ると、質素な木製の玉座に座る一人の女性が目に入った。
彼女は六十代ほどの年齢で、白髪に覆われた髪を持ち、鋭くも賢さを感じさせる銀色の瞳をしていた。
ミラは恭しく頭を下げ、無表情のまま報告した。
「族長メリス様。この二人は村の外れで発見しました。状況から見て、この地域で略奪を繰り返している山賊の仲間と思われます。」
ミナトは表情を険しくし、はっきりと言い返した。
「それは違います! 俺たちは誰の仲間でもありませんし、山賊でもありません!」
ミラは怒りに満ちた目で彼を睨みつけ、鋭く遮った。
「嘘をつくな! 今までにもお前たちのような者を何人も捕らえてきた。解放すれば夜になって戻ってきて、村の若者たちを殺し、家々に火を放つ!」
ミナトは一歩前へ出て言った。
「ですが、俺たちは――」
最後まで言い終える前に、族長メリスは灰色の木の杖を持ち上げ、床を二度打ち鳴らした。
――コンッ! コンッ!――
その瞬間、激しい魔法の風が広間中を吹き荒れた。
強烈な圧力によって全員が口を閉ざし、ミラもミナトも一歩後ずさるしかなかった。
メリスは静かな、それでいて誰も逆らえない威厳ある声で言った。
「もう十分だ。言い争っても何の意味もない。騒がれると胸が苦しくなる。」
老女はゆっくりと立ち上がり、落ち着いた足取りで二人の青年の前まで歩み寄ると、その顔をじっと見つめた。
そしてミラへ向き直る。
「いいだろう、ミラ。この者たちの魔法の拘束具を外してあげなさい。」
ミラは目を見開いた。
「ですが、族長様! どうして安心できると――」
メリスはきっぱりと言葉を遮った。
「心配はいらない。この二人は山賊ではない。その顔には邪悪な意思が見えないし、その奇妙な服装も今まで見たことがない。」
ミラは少し迷ったものの、やがて二人の手首にはめられていた魔法の手錠を外した。
カイトの前まで来た時、彼女は少し身をかがめ、彼の匂いを確かめるように近づいた。
カイトはその場で体を硬直させ、恥ずかしさと緊張で額に汗を浮かべた。
メリスは微笑んだ。
「お前は清潔で良い匂いがするね、坊や。山賊どもの血なまぐさい匂いとはまるで違う。」
カイトは唾を飲み込み、戸惑いながら答えた。
「そ、それは……ただの学校で使っている普通の香水です。」
メリスは玉座へ戻ると、真剣な表情で尋ねた。
「それで、お前たちはどこから来た? なぜこの凍てつく山々へ来たのだ?」
カイトは慌ててミナトへ視線を送り、話を任せるように合図した。
ミナトは落ち着いた口調で答えた。
「俺たちは南にあるノクシア王国から来ました。商人として旅をしていましたが、森で山賊に襲われ、荷物もラクダもすべて奪われました。その後、道に迷ってここまで来てしまったんです。」
カイトは横目でミナトを見ながら心の中で叫んだ。
(おいおい、ミナト……いつの間にそんな完璧な作り話ができるようになったんだ!?)
メリスはしばらく黙っていたが、やがて小さくため息をついた。
「なるほど……誤解とはいえ、乱暴な歓迎になってしまったことを詫びよう。」
「お前たちをネヴァリア王国へ歓迎する。この村の名はスノーヴィルだ。」
「ミラ、この二人の世話をしてあげなさい。それと、この寒さをしのげる厚手の服も用意してあげるんだ。」
ミラは一礼した。
「承知しました、族長様。……二人とも、ついて来て。」
三人は家を出て村の広場へ向かった。
雪道を歩いている途中、ミナトは巨大な氷の像を見上げ、不思議そうに尋ねた。
「この巨大な氷の像は何なんだ? どうして村のみんなはこんなに敬っているんだ?」
ミラは振り返ることなく答えた。
「これは伝説の戦士、エリオラ様の像よ。」
「今から三百年以上前、ネヴァリア王国全土で壊滅的な大戦が起きたの。」
ミナトとカイトは同時に足を止め、声を揃えて尋ねた。
「誰と戦ったんだ!?」
ミラは暗い表情で答えた。
「氷の悪魔たちよ。」
カイトの体は震え、肩がすくみ上がった。
ミラは話を続ける。
「当時、氷の悪魔たちはこの王国の人間を滅ぼそうとしていた。」
「でも、その時エリオラ様が現れた。」
「彼女は悪魔たちに立ち向かい、山々を崩壊させるほどの戦いの末、氷の魔王を打ち倒した。」
「そしてその日、戦争は終わり、双方は血の盟約を結んだ。それ以来、彼らは私たちの村を襲わなくなった。」
ミナトは像の鎧を見つめながら尋ねた。
「つまり、この像は英雄である彼女を讃えるために建てられたんだな?」
ミラは誇らしげに頷いた。
「ええ。それにエリオラ様は、このスノーヴィルで生まれ育ったの。」
「だから、この村で育つ子どもはみんな彼女のように強くなることを夢見る。」
「私も……小さい頃から、それだけが夢だった。」
カイトは周囲を見回しながら、小さな声で尋ねた。
「そ、その……この山には今でも氷の悪魔が生き残っているのか?」
ミラは冷静に答えた。
「いいえ。何百年も前に完全に姿を消したか、絶滅したと言われているわ。」
カイトは胸を押さえながら大きく息を吐いた。
「よかった……それを聞いて安心した。」
三人はそのまま歩き続け、毛布や厚手の服が保管された木造の倉庫へ到着した。
ミラは二人に動物の毛皮で作られた暖かい毛織りのコートを渡した。
カイトはそれを着込むと、自分の体を抱きしめながら嬉しそうに言った。
「ああ……やっとだ! ようやく手足に血が戻ってきた!」
――ゴォォォン! ゴォォォン! ゴォォォン!――
突然、村の大鐘が激しく鳴り響き、その音が村中にこだました。
外にいた村人たちの表情は一変し、慌てて家へ駆け込み、扉を固く閉め始めた。
ミナトは驚いて尋ねた。
「外で何が起きているんだ!?」
ミラは真剣な表情で叫んだ。
「急いで! 二人とも私の家へ!」
「黒い吹雪が来る! あの風に包まれた者は、全身が凍りついてしまうの!」
三人が倉庫を出た瞬間、猛烈な吹雪が彼らを襲った。
視界は荒れ狂う白一色に飲み込まれ、獣の咆哮のような風の音が辺り一面に響き渡る。
ミラは太いロープを取り出し、その端をミナトとカイトに渡して、吹き荒れる風の中で叫んだ。
「このロープを絶対に離さないで! この吹雪の中で道を見失ったら、助かる見込みはないわ!」
ミラは膝まで積もった雪をかき分けながら、必死に二人を先導した。
ようやく自宅の扉へたどり着くと、勢いよく扉を開き、ミナトを中へ押し込んでから、吹雪を遮るように力強く閉めた。
ミナトは顔についた氷を払いながら、大きく息をついた。
「やっと着いた……くそ、本当にとんでもない吹雪だったな。なあ、カイ――」
そこで言葉が止まる。
彼は周囲を見回した。
カイトの姿がなかった。
ミナトの目が驚愕に見開かれる。
「カイト!? カイト、どこだ!?」
ミナトは慌てて扉の閂に手をかけ、外へ飛び出そうとした。
しかし、ミラが力強く腕をつかみ、鋭く叫ぶ。
「気でも狂ったの!? 今この吹雪の中へ出たら、道に迷って数分で凍え死ぬわ!」
ミナトは焦りと怒りを抑えきれず叫んだ。
「くそっ! あいつはこの世界のことなんて何も知らないんだぞ!」
――その頃。
猛烈な吹雪の中。
カイトは雪の中を必死にもがいていた。
転んだ拍子にロープを手放してしまい、そのまま仲間とはぐれてしまったのだ。
彼は声の限り叫んだ。
「ミナト! ミラ! どこなんだ!? 助けてくれ!」
だが、その叫びは暴風にかき消されてしまう。
見渡しても、そこには死を思わせる白銀の世界しかなかった。
気付かぬうちに村の外までさまよい出た彼は、凍った湖を覆う薄い氷の上へ足を踏み入れていた。
――パキッ!
突然、足元の氷が砕けた。
「うわあああああっ!」
カイトは凍てつく湖の中へ落ちた。
冷たい水が全身を飲み込み、肺を氷で締めつけられたように息ができない。
彼の身体は暗い湖底へと沈んでいく。
命が少しずつ身体から抜け落ちていくのを感じていた。
震える手を、水面に開いた小さな光へ向かって伸ばす。
そして、目を閉じながら心の中で呟いた。
(そうか……ここで終わるのか。)
その手が完全に闇へ沈もうとした、その瞬間――
突然。
雪のように白い肌をした一本の手が伸び、彼の手首を鋼のような力でつかんだ。
――一気に引き上げる。
カイトの身体は水面から勢いよく引き上げられ、固い雪の上へと投げ出された。
彼は激しく咳き込み、水を吐き出す。
意識は朦朧とし、視界もぼやけていた。
ゆっくりと顔を上げる。
命を救った人物へ視線を向けた。
そこには、自分と同じくらいの年頃の少女が立っていた。
吹雪の中でも微動だにせず、幻想的なほど静かに雪の上へ立っている。
その髪は漆黒で、とても長く、地面に届くほど伸びていた。
神の絹糸のようになめらかで、毛先だけが幻想的な氷青色に染まっている。
瞳は透き通るような淡い青。
まるで純粋な氷そのもののような色を宿し、吹雪の中で神秘的な輝きを放っていた。
肌は雪から削り出された彫刻のように白く、美しかった。
黒髪の間からは、後ろへ緩やかに湾曲した小さな濃い青色の角が二本覗いている。
それは彼女に危険な「鬼」のような印象を与えながらも、その圧倒的な美しさを少しも損なってはいなかった。
彼女は銀色に輝く雪の結晶模様で飾られた、気品ある純白の長い着物をまとい、黒い帯を締めていた。
指は細く長く、その爪は凍った水晶のように透き通っている。
そして何より、彼女は裸足のまま雪の上へ立っていた。
それなのに、雪へ沈むことはまったくなかった。
彼女の身体を包むのは、冷たい霧のような淡い気配。
周囲では小さな雪片が静かに舞い、まるで自然そのものが彼女にひれ伏しているかのようだった。
カイトは、その美しくも恐ろしい少女の顔を見つめ続けた。
冷たい霧が頬を優しくなでる。
やがて視界は暗闇に包まれ――
彼は完全に意識を失った。




