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ネズミの消滅

古びた教室の壁に染みついた湿気とチョークの匂いが、教室中を満たしていた。それはまるで、この世界で俺が吸うことを許された唯一の空気であるかのようだった。


大きな窓の向こうでは、昼の日差しが校庭をまぶしい光で照らしている。だが、教室の隅にある俺の席だけは影に沈み、まるでそこだけが俺の居場所だと言わんばかりだった。


俺の名前はミナト。十七歳。東京にある高校の三年生だ。


破滅の前に訪れる静けさには、もう慣れていた。


重たい足音が俺の机の前で止まる。


顔を上げる必要はなかった。


タツヤが近づくたびに漂うあの冷たい空気だけで、新しい地獄が始まることを体が理解していたからだ。


机の下で手が震える。


ペンを強く握り締めるあまり、指の関節が白くなる。


胸が締めつけられ、慣れ親しんだ息苦しさが喉を塞ぐ。


押し殺した怒り。


心を食い尽くす無力感。


そして――ただ消えてしまいたいという切実な願い。


この教室から、この人たちから、どこでもいいから遠くへ逃げ出したかった。


教師が教室を出た途端、タツヤの口元に嘲るような笑みが浮かんだ。


自信満々の足取りで俺の前まで歩いてきて、その後ろには親友と、いつも一緒になって俺をいじめる二人の女子が続いていた。


タツヤは俺の前で立ち止まり、ジュースのパックを開けると、その中身をゆっくりと俺の黒髪へ流し始めた。


ジュースは髪を伝い、顔へ、そして机へと滴り落ちる。


何人かの生徒が笑い声を上げた。


別の者たちは何も見なかったかのように目を逸らす。


誰一人として止めようとはしなかった。


俺は青い瞳で床を見つめたまま、唇だけを静かに震わせていた。


タツヤは笑いながら言う。


「ミナト、お前の一番好きなところを知ってるか? 叫ばないところだ。ほかのバカみたいに泣き喚かない。」


仲間たちの笑い声が響く。


その時、一人の女子――ユミが椅子に腰掛け、足を組んだ。


軽蔑の笑みを浮かべながら、ゆっくりと靴を脱ぐ。


靴下を軽く振りながら言った。


「ミナト……私の靴下を脱がせて。」


教室は静まり返った。


俺はゆっくり立ち上がる。


まるで自分の意思ではなく体だけが動いているようだった。


ユミの前まで歩み寄り、胸を締めつける屈辱を感じながら膝をつく。


震える手を伸ばし、彼女の靴下を脱がせた。


終わると同時に、ユミはインクのボトルを取り出し、その靴下へ少しだけインクを垂らした。


挑発するように微笑みながら言う。


「あら、汚れちゃった。トイレで洗ってきて。」


俺は一瞬だけ顔を上げる。


ためらいが表情に浮かんだ。


それを見たタツヤが一歩前へ出る。


冷たい声だった。


「どうした、ミナト? 聞こえなかったのか?」


俺は苦しそうに唾を飲み込み、靴下を受け取るとトイレへ向かった。


トイレへ入り、扉を閉める。


蛇口をひねり、インクで汚れた靴下を見つめる。


静寂だけが流れる。


正面の鏡には、自分の姿が映っていた。


ジュースで濡れた髪。


青白い顔。


そして、とっくの昔に輝きを失った瞳。


震える声で呟く。


「もう……耐えられない。」


重苦しい沈黙。


そして――何年ぶりかに。


俺はその靴下をゴミ箱へ投げ捨てた。


深く息を吸い、トイレを出る。


しかし廊下へ一歩踏み出した瞬間、足が止まった。


タツヤたちが待ち構えていた。


タツヤは不気味な笑みを浮かべる。


「いつか反抗する日が来るとは思ってた。」


指を鳴らし、少し首を傾ける。


「覚悟はできてるか、ミナト?」


次の瞬間、全力で拳を振るってきた。


だが俺は寸前で身をかがめ、かろうじてかわす。


すぐにトイレから持ってきた消毒液を取り出し、考える暇もなく彼の顔へ浴びせた。


タツヤは両手で目を押さえながら叫ぶ。


「ぐあああっ! この野郎! 目が!」


そして狂ったように怒鳴った。


「ミナト、お前は絶対に許さない!」


俺は振り返らなかった。


全力で走り出す。


後ろから足音が迫る。


校舎の廊下を駆け抜け、階段を二段飛ばしで駆け上がる。


心臓が胸を突き破りそうだった。


最上階で古びた木の扉を見つける。


勢いよく押し開け、中へ飛び込むと扉を閉め、背中を預けた。


そこは使われなくなった倉庫だった。


古い木箱が散乱し、すべてが埃をかぶっている。


しばらくして、扉の向こうに彼らの足音が止まった。


タツヤが拳で扉を叩き、嘲笑混じりに言う。


「ミナト……開けろよ。何もしないって約束する。」


俺は息を切らしながら叫ぶ。


「嫌だ!」


タツヤは笑った。


「不正解だ。」


彼らは一斉に扉を押し始める。


俺は鍵をしっかりとかけ、震えながら全身で扉を押さえた。


恐怖に満ちた声が漏れる。


「これで……終わりだ。」


その時――


不思議な声が聞こえた。


「ミナト……」


すべてが止まる。


「ミナト……」


ゆっくり振り返る。


声は、黒い額縁の古い鏡から聞こえていた。


いつからそこにあったのか、まったく気づかなかった。


鏡の表面に赤い手形が浮かび上がる。


そして、血のような赤い雫が流れ始めた。


俺は目を見開く。


「な……何だ、この鏡は?」


無意識のまま近づき、手形へ触れる。


その瞬間――


言葉では表せない激痛が全身を貫いた。


「あああああっ!」


手を引き離そうとするが、鏡に吸いついたように離れない。


痛みは骨という骨、筋肉という筋肉へ広がり、体が引き裂かれるようだった。


俺は叫ぶ。


「誰か……助けて!」


次の瞬間。


鏡の表面が水面のように波打ち、俺の体を丸ごと飲み込んだ。


ミナトは姿を消した。


その直後、扉が破壊される。


タツヤたちが倉庫へなだれ込んだ。


一人が辺りを見回し、驚いたように言う。


「おかしい……さっきまでここにいたよな?」


タツヤは眉をひそめ、倉庫の中を見渡す。


「窓はない……隠れる場所もない。」


歯を食いしばりながら怒鳴った。


「どこへ消えやがった、あのネズミ!」


◇ ◇ ◇


ミナトはゆっくりと青い瞳を開いた。


冷たい石の床の上、何もない部屋に横たわっていた。


頭を押さえながら苦しそうに呻く。


「頭が……何があった?」


苦労して立ち上がり、周囲を見回した。


「倉庫は? ここはどこだ?」


慎重に扉へ近づくと、扉は開いていた。


小さく呟く。


「タツヤの仕業なら……鎖でもかけているはずだ。」


部屋を出ると、目の前には長く古い石造りの階段が続いていた。


ゆっくりと下り始める。


足音だけが静かな空間に響く。


建物全体が石造りで、壁には鉄製の松明が並んでいた。


驚いたように呟く。


「この造り……現代じゃない。」


階段を下りきる。


木製の扉の取っ手を握り、押し開けた。


その瞬間――


目を見開いた。


巨大な城壁に囲まれた広大な街が目の前に広がっていた。


人々が行き交い、商人が呼び込み、荷車が馬に引かれて進んでいる。


建物は今まで見たことのない古い様式だった。


呆然と見つめていると、長いウサギの耳を持つ女性が横を通り過ぎる。


彼女は不思議そうにミナトを見て言った。


「どうしてそんなに見てるの?」


ミナトは一歩後ずさり、そのまま尻もちをついた。


顔は青ざめ、目は限界まで見開かれている。


女性は呟きながら去っていった。


「変な人……」


ミナトは人であふれる街並みを見つめ続ける。


そして、震えるほど小さな声で呟いた。


「いや……そんなはずがない……」


唾を飲み込む。


「まさか……本当に……異世界なのか?」

いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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