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19-2 十年越しの告白

(なんか、気まずい……)


 アベルと二人きりで向かい合うのは、実に一週間ぶりのことだった。


 あの騒動からエリサは心労が祟ったのか三日ほど寝込んでしまい、その間にイヴリンはアンベール公爵家の屋敷に勤めるメイド長やさらに上の侍従たちから責任を問われていた。

 しかし、そこはウィルフレッドが取りなした。しばらくの謹慎後、状況が明るみになってようやく今日、家族と面会できたというのが先ほどの話だ。


 イヴリンと話す時間もなく、またアベルはアベルで王宮と領地を行ったり来たりしていた。

 ここまでの経緯と報告、すべての処理が終わり、エリサも回復したことでようやく顔を合わせることができたのだった。


 また、アベルもあの口づけ以降はエリサの前で派手な暴走をすることはなくなった。

 二人の距離はもう横並びで歩けるほど近い。そんな晴れやかな日だというのに、エリサもアベルも何を話せばいいのか思いつかない。


 ウィルフレッドが間に立って二人の時間を作ってくれたというのに、しばらく沈黙を選んでしまう。


(何を話そう……て言うか、何から話そう……)


「ウィルフレッドって」


 焦るあまり、口をついて出てきたのはウィルフレッドの名前だった。アベルの眉がピクリと動く。


(あぁっ、しまった! なんで別の男の話をしようとしてるんだ、私は!)


 アベルの今までを思い出せば、ここでウィルフレッドの話をするのは得策じゃない。

 エリサは口をつぐんだ。しかし、アベルは一息ついて促した。


「あいつがなんだ?」


「え、あ、えーっと、彼って、なんだかミシェーラ国のこと、詳しいなって思いまして。そりゃずっと調査してたのなら詳しくもなりますよね! くだらないことを言って失礼しました」


 エリサは早口で言い、お茶を口に含んだ。

 するとアベルは少し落ち着いたのか、ため息混じりに言った。


「あいつの母親はミシェーラの貴族。だから、向こうの国の事情も多少は知ってるんだ」

「へっ?」


 思わぬ言葉に、口に含んでいたお茶が危うく気管に入るところだった。


「て、敵国の、ハーフってことですか?」


「まぁ、血筋で言えばそうだが……ミシェーラの貴族だったウィルの母親は、そもそもロズヴィータとの国交のため政略結婚させられたんだ」


 それは初耳だ。思えば、エリサはアベルのこともウィルフレッドのこともよく知らない。

 アベルは嫌そうな顔をしながらも、会話の種になれればと言わんばかりに、話を続ける。


「しかし、ウィルの母親はミシェーラのあの聖女信仰が古臭くて嫌いだったらしく、ロズヴィータ国に嫁いでせいせいしたと。今では先進的なロズヴィータへの愛国心が強い」


 アベルは淡々と話した。これにエリサは状況が飲み込め、頷きながら言葉を返す。


「なるほど。だから、ウィルフレッドもお母様のそのミシェーラ国嫌いが」


「そうだ。母の英才教育のおかげで、あいつはかなりのミシェーラ国アレルギーだよ。まぁ、ウィルの母がこっちに嫁いでから数年後、互いの国はまた争い始めたわけで、現状のとおりだ」


(はー、どうりで彼も敵国とは言え、ミシェーラ国に対しての嫌悪が強かったわけだわ)


「これを機に、ウィルはミシェーラ国を徹底的に潰すと宣言してたほどだ。さすがに止めたが」

「アベル様が止めるほどの因縁だったのですね……」


 エリサは深く納得した。


「そういう事情があって、ウィルと俺は複雑な境遇同士、意気投合したというわけだ。そしてあいつは、出自のせいかあらゆる外国を見てきて、多様な文化を学んでいた。そして出た結論が『人を不幸にする信仰は糞食らえ』だそうだ」


「それもまた極端ですわね……」


 この国にも女神や神の信仰はあるが、重く縛り付けるようなものではない。それゆえに、ミシェーラ国の信仰が強いものに感じられる。

 向こうでは聖女の導きは絶対であり、政も聖女次第らしい。それはあとで屋敷の図書館で調べた。


(いやー、とんでもないものに祀り上げられるところだったわ……ここ以上に束縛されちゃうじゃん。本当に勘弁してほしいわ……)


 エリサはげんなりとした。アベルの話が続く。


「あいつに言わせれば、ミシェーラの聖女というのは偶像らしい。俺が死神であることと同義で、エリサが聖女だという根拠はまったくない。人より回復薬生成できるという類稀な才能を持っただけなんだ」


 唐突に自分の話になり、エリサは目を丸くした。一歩遅れて思考が回る。


「そ、そうだったんですね」

「あぁ。だから君は変異的な人間ではなく、ましてや神でもない。ちゃんとここに生きている一人の人間なんだ。確かに、珍しい能力ではあるけどな」


 アベルはチラッとエリサを見た。エリサも目を向け、視線がぶつかる。


「私は……あまり、そんなことを考えたことはないですよ。変人だとか、無能だとか言われましたけど、気にしてません」


 ふとアルヴィナ家でのことを思い出し、取り繕う。

 するとアベルは躊躇いがちに、エリサの手に自分の大きな手を重ねた。


 その光景に、エリサは一瞬だけ、古い記憶が脳裏に走る。


(何、今の……デジャヴ?)

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