第5話『天候術師、妖狐キュウビを撃破せよ』
「ロクに魔術も使えん小童が!消し炭にしてくれる!」
計画を全てブチ壊しされたキュウビは、激昂し僕を睨みつけている。そんなことしても、無駄だと思いますけどね。
確かに僕は魔術が使えないけれど、それに抗う術ぐらい持っています。キュウビが本気で殺しにかかりそうだったので、僕も杖を構えたんですけど、テラスに呼び止められてしまいました。
こんな状況で、何が言いたいのでしょう。手短にしないと、キュウビから攻撃が来るのですが……。
「キュウビのことを弱いって言ってたけど大丈夫!?というか、クウは戦えるの?相手は……妖狐族最強よ」
「そういえば、戦っている姿は見せてなかったね。大丈夫だよ。テラスが僕を信じるのならね。僕は……絶対に負けないんだ」
「……信じるわよ。必ず勝ちなさい!」
僕が戦えるのかどうか、不安だったみたいですね。
そんな心配は、テラスらしくないな。まぁ、この旅で初めての戦闘になるし、無理もないのでしょう。
──見ていて下さい。
テラスが信じた最高の魔術師が、最強を誇る妖狐族キュウビを討ち取る瞬間をね。僕の天候術で、キュウビの全てを掌握しよう。
勇者パーティにいた時は、実力を隠して勇者様のサポートに回っていた訳何だけど、今はそんなこともする必要がない。
キュウビには悪いけど、手加減は無しで行かせて貰う。
「そちらが来ないのなら、こちらから行かせて貰うぞ。死ぬがよい、才能ゼロの無能魔術師が!」
───妖狐豪炎・稲荷火
キュウビは、蒼白い何かを複数展開して、僕に目がけて射出した。確かに速い魔術ではあるけれど、避けられないものでもない。
本気なんでしょうけど、悪いですがそんなものは僕には当たりません。魔法の使い方が、あまり上手くなさそうな印象もありました。
軽く全弾を回避して、僕は笑ってキュウビに挑発する。もうちょっと強いと思ってたんですが、仕方ないですね。
所詮は、悪党だ。
完膚なきまでにブチのめし、更生して頂きましょう。
「随分と力の弱い魔術を使うのですね。その程度でしたか。ならキュウビさん、君は僕の足元にも及びませんよ?」
「何故、あの魔術が回避出来る!さては、また妙なペテンを使ったな! 隠れて魔術を行使していたのだろう!」
「いいえ……僕はまだ魔術を使っていませんよ?」
この異様は状況に困惑するキュウビですが、僕が魔術を使えないって事ぐらい、分かっているじゃないですか。
魔法などではなく、これは僕の身体能力だけで、キュウビの魔術を回避していたのです。ですが、それをいちいち説明したところで無駄でしょう。
「おのれ!ならば、我が妖狐族の最強魔術で貴様を殺してやろう。これならばチマチマと避けられまい!」
「全力で来るといい。僕はその全てを打ち消そう」
────妖狐豪炎・メギド
周囲に炎の渦を張り巡らせて、その最大魔力を放出する準備をキュウビが行なっていた。きっと、そこまで時間は掛からないでしょう。
僕一人ならどうとでもなりますが、ここにはテラスやイズナもいます。巻き込まれでもしたら、ここに居る者は全て消し炭になる。
だったらいいでしょう。
キュウビの魔術の根源は、火属性。
僕は、その魔術を無効化する!
「火遊びはいけませんね。直ぐに鎮火しなくっちゃ」
「何だと!?我が最強の魔術を受けれる術なんかお前にはないだろうが!」
「それがあるんですよね。まぁ……天候術なんですけど」
────天候術式・スイレン
杖を地面に突き、僕は魔術を行使した。
その合図に天は応え、快晴だった空を曇天に包み込みます。
雲から流れ出る一雫が段々と勢いを増し、僕達の元へ大粒の雨を降らせる。この天候の効果は、火属性魔法の起動を無効化するんだ。
キュウビの取っておきの魔術は、起動不全を起こし失敗に終わるだろう。
「炎の渦が……消えていく!?まさかこれは魔術を無効化しているのか!」
「そうですよ。魔術の根源には、何かしらの属性があります。なら……その根源を知っていれば天候を操作することでその魔術を無効化出来ます。あなたの場合は、火属性でした。だから、僕は雨を降らせたんだ」
キュウビの驚き様は、見るに堪えません。
余程、手詰まりなのでしょう。切り札を失って、どうしようもなくなったようですし、僕もそろそろ反撃といきますか。
一気に妖狐キュウビに向かって走り出し、高く飛び上がって、僕は顔面に飛び膝蹴りを打ち込んだ。罪を償い、懺悔して下さい。
僕にはこの程度のことしか出来ないけれど、せめてもの誰かの救いになるのなら、その想い、全てを乗せた魂の一撃だったのです。
ーーバンッ!!
「ぐふっ……!」
「ふぅ……これでいいですかね。勝ちましたよテラス」
「嘘でしょ……。妖狐族最強のキュウビをあんな容易く倒すだなんて……。あなた最強過ぎるでしょ!どうして実力を隠してたのよ!」
「隠すっていうか、使う機会が無かったんだよね。僕はサポートばっかりだったし」
テラスさん、そんなガッカリした顔しないで下さいよ。
僕が悪いみたいになってるじゃないですか。
僕がキュウビを圧倒する姿に、村の妖狐達が歓喜していたんですが、奇跡に立ち会ったみたいな勢いで、僕を担ぎ上げてきました。
大袈裟だとは思いましたが、妖狐達からしてみればこれから平和に暮らしていけるのですから、この歓声も当然ですよね。
「魔術師さん、ありがとうです!この御恩は一生忘れないのです!」
「そんなに畏まらなくても問題ないよ。イズナが無事で本当に良かった。これで、君の心も少しは晴れたかい?」
──妖狐キュウビを撃破した功績は、妖狐族としても、僕としても、とても大きいものだった。妖狐族イズナを救えたことを僕は誇りにしようと思う。
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