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8話 プリュネにて 2




宿屋の朝は早い。日の出と共に起床する。

日本は五月だったけど、この世界ではいつなんだろう?同じくらいなら、日の出は五時前くらいなんだけど。


朝五時起床なんて全然余裕〜♪ 朝練ありますから!朝ご飯とお弁当も作りますから!

いつもならそう言えるところどけど、さすがに今朝は旅の疲れもあってしんどかった。

もう少し寝てたかったけど、初仕事だし、がんばるぞ〜!


実は昨日、エマちゃんから仮採用の話をされた後、お代わりを呼ぶブレイディさんと話し合って本採用になったのだ。

とりあえずブレイディさんのギックリ腰が落ち着く四〜五日の短期間ね。


「俺が作る飯より断然美味ぇ!」


ブレイディさんはガハハと豪快に笑って、その後、イテテと顔をしかめた。

……ムリせずしっかり治して下さい。




さて、最初の仕事は宿泊客への朝ご飯作り。本当にうちで作るようなものでいいのかな〜?

でも、家庭料理しかできないと言った私に、それがいいのよ!とエマちゃん。

プロが作るようなものはできないし、心を込めて作ってみよう!


宿泊客は、私をぬいて十四人。私たちスタッフの分を入れて多めに作る。

メニューはうちでも定番の、ベーコンエッグと野菜たっぷりのスープ。かぶっちゃうけど、ダシ代わりにベーコンも入れてね。

顆粒ダシとかキューブのコンソメって普通に使っていたけど、ありがたいものだったのね……。


さて、まずは野菜のスープ。

キャベツはざく切り、玉ねぎとニンジンはスライス。ベーコンは適当に小さく切って、これを煮込んで塩と少しのコショウで味付けする。

ここは宿屋だからコショウも砂糖もあったけど、庶民には高い贅沢品なんだって。だからコショウはほんの風味づけ程度に少しだけね。


ちょっと困っているのはベーコン。

うちで使っていたベーコンは、すでにスライスされて売られている物。ここにあるのはベーコンブロックで、私にはあんなに薄く切れない。エマちゃんに頼んだら、私よりもっと厚くなっていた。


あの薄さでカリカリになるのが美味しいんだよね。

目玉焼きも、白身の周りをカリカリに焼き上げるというのが我が家風。でも黄身はちゃんと半熟でね♪

そのままでよし、パンにつけて食べてよし。半熟の黄身って、何であんなに美味しいんだろ……。

思い出したら、めっちゃ食べたくなってきた!よし、作ろう!


私と同じくらいに起きてきて、何故かウロウロしているジェイにベーコンスライスを頼んでみる。剣を扱っているんだから刃物には慣れているかなと。

ジェイ君、才能発揮!


「わぁすごい!薄〜い!」


褒めると素直なジェイは嬉しそう。

なかなかの薄さのベーコンがどんどんスライスされていって、それを一人前ずつ卵とセットにしておく。

注文が入ってから焼き始める予定。熱々の方が美味しいもんね♪


ついでにチーズもスライスしてもらう。それもパンにのせてスタンバイ。

昨日の夜に食べたパン、村で食べたものよりは美味しかったけど、今まで食べてきたパンに比べたらかなり残念なものだった。

せめて食べる前に軽く温めたら少しは違うかも。チーズも溶ろけさせてコクを出す作戦!


さて、準備ができた。

最初のお客さんはもちろんジェイ。もう一時間近く『待て』状態だったもんね。

熱々のスープとカリカリのベーコンエッグ。軽くトーストしたパンの上にはトロトロのチーズ。我ながら食欲をそそる出来上がり。メチャクチャいい匂い!


「美味っ!」


いただきますと手を合わせてから、相変わらずの一言。

それからはひたすらガッついているジェイに、思わず笑顔になる。こうやってジェイが味の保証をしてくれているから、私は異世界でも料理が出せる自信になっているんだろうな。ジェイに感謝。


それからだんだんとお客さんたちが食堂に下りてくる。食欲をそそる匂いと、ガッついているジェイの姿に、次々と注文が入る。

私はせっせと調理、エマちゃんが給仕と、初めてにしてはなかなか息の合った連携プレイだと思う♪


「美味っ!何だこれ。昨日までの飯と全然違うじゃねぇか!」

「うめぇな!今朝はいったいどうしたってんだ?」

「エマ、お代わり!」


お客さん皆さんから美味しいと言ってもらえて、ホッと一息。

よかった。我が家の朝食だけど、この世界の人の口にも合ったみたい。


エマちゃんが、ブレイディさんがよくなるまでの朝食の助っ人を頼んだと私を紹介する。

ちょうど出来た一人前を持って顔を出してご挨拶。


「おわっ、黒い髪に黒い目だ!」

「初めて見た!人か?」

「人です!」


という、何度目かになったやりとりをして、まぁ見た目より飯だと話は戻る。


「ずっとユアに作ってほしいわ!」

「そんじゃあ、親父さんの長患いを祈るか?」

「おっかねぇな!そんな事思っても言えねぇわ!」

「ちげぇねぇ!」


ドッと笑いが起きて楽しそう。

美味しいものを食べると、嬉しくなるし元気になるよね。


しばらくして、食べ終わった人から仕事に出ていく。

全員出払うと、私も待っていてくれたジェイと一緒に冒険者ギルドに向かう。洗い物は途中だけど、残りは帰ってから。エマちゃんの了解はとってある。

私の仕事が終わってからだと、ジェイの仕事始めが遅くなっちゃうからね。


ブレイディさんの宿屋で仕事についたとはいえ、身分証明の事もあるし、ギルドで冒険者登録をしなくてはならない。昨日の予定通り、ジェイと一緒に行く。




ジェイは、この世界に不慣れな私の事を、ちょっと過保護にしている。きっと生まれ育った村でも世話焼きさんだったのだろう。

私にも弟が二人いて、そういう気持ちはわかるからお世話になっているけど、いつもと立ち位置が逆なのでどうも慣れない。

でもこういうのもいいかも、と思う気持ちもあったりして……。不思議な感覚だ。


宿屋街を抜けて少し行くと、大きい建物が見えてきた。冒険者風の人たちが出たり入ったりしてるから、そこが冒険者ギルドだとすぐにわかった。


中に入ると、奥にカウンター。朝だからか、仕事依頼の受付で混んでいて、新規登録の手続きなんて何だか悪い気がする。また後で来ようかな。


「新人さん? こっちにきて!」


ジャマにならない端の方から声をかけられた。

私がそっちに向かうと、ジェイも一緒についてくる。

カウンターの向こうにいたお姉さんは……


わぁ!獣人さん?!


ファンタジーに出てくるまんま!人の頭に白い毛で覆われてる長いうさ耳の、美人なお姉さんがいた!見惚れてしまう!

そういえば人だかりでよく見えないけど、あっちで忙しく依頼受付をしているお姉さんの頭の上には犬っぽいお耳が見えているような!

シッポは?シッポはあるのかな?!


ワクワクしながら見惚れていると、うさ耳お姉さんがイライラした声を出した。


「朝は忙しいの! 登録するの?しないの?」

「すみません!あんまり綺麗だから見惚れちゃって。登録お願いします!」


本心からそう言うと「女の子に言われてもね」と返しながらも、お姉さんは気をよくして手続きをしてくれた。


名前や年齢など質問に答えていく。

お姉さんは何やらサラサラ書いていく。


「ところであなた、人族?」

「はい!」


黒髪黒目ってそんなに珍しいのかな?

日本では、というか、もっと広くいったらアジアなら普通にいるんだけど……。

この世界では黒髪黒目ぅて転移者しかいないのかな?

たくさんの人たちと接する受付業務のお姉さんなら知っているかと聞いてみる。


「この黒髪と黒目のせいで、人族かってよく聞かれるんです。黒髪黒目って、人族以外ならいるんですか?」

「黒髪なら、魔族とかダークエルフにいるわね。黒目は今まで見た事も聞いた事もなかったけど」


そうなんだ。

話をしている間も仕事をしていたうさ耳お姉さん。


「はい、できた。このカードは初回はタダだけど、失くすと次回からは有料になるから失くさないようにね!」


あら、ポイントカードと同じシステムなのね。


「じゃあ最後に、ここに指をのせて」


カードの、言われたところに人差し指をのせる。指紋認証システムかな?


「これでこのカードはあなたのものよ。ようこそ、冒険者さん!これからランクアップがんばってね!」

「はい!ありがとうございました!」


私は頭を下げると、カウンターを離れた。すぐ後ろにはジェイがいる。

彼は私が手続きをしている間、自分の仕事の手続きに行っていたのだ。

もう依頼は受けたのかな?


「いい仕事あった?」

「まぁまぁかな。ユアがもう仕事してるのに、俺が何もしない訳いかないもんな」


何の張り合いよ……。

でもまぁ宿代も払わないとならないし、収入がないのは困るもんね。お互いがんばろう!




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