25話 プリュネ再び 1
夕日がだいぶ傾いてきた頃、ようやく私たちはプリュネの外壁にたどり着いた。飲まず食わずでヘトヘトだ。とりあえず水がほしい。
あ、まずい!壁門が閉まろうとしている!
私たちは最後の力を振り絞って駆け込んだ。何かこんな事があったなぁ。懐かしい。
「身元がわかるものを出して!」
不機嫌な守衛さんの声にも思い出し笑い。
この後、私の黒髪黒目に驚くのかも。
アダムとアシュリーはギルドカードを持っていたからすんなりパス。
私は荷物が馬車のカバンの中に入れてあったので手元にないし、ラックはプリュネのギルドで登録しようと思っていたからない。
ケイトさん、プリュネの領館にいるのかな。
そこに私の荷物もあると思うし、ラックは元々登録予定だったから、それを守衛さんに言うと三日以内に身分証を持ってくるよう言われた。これまた懐かしい。
閉門間際で早く帰りたい守衛さんは、わりとザックリだった。おかげで私たちはそれ程時間がかからず町に入れた。
ここまでの間にケイトさんには会わなかったけど、何か手続きとかあるのかもしれない。貴族って何かとめんどくさそうだもんね。
心配をかけているケイトさんには悪いけど、もう体力気力の限界だったので、先にブレイディさんの宿屋に行く事にする。
ジェイやエマちゃんにも心配をかけてるだろうから早く顔を見せたいし、何より水がほしい!乾き死んじゃう!!
壁門からそんなに行かない所にある、懐かしの(っていう程でもないか)ブレイディさんの宿屋に倒れるように転がり込んだ。
「エマちゃ〜ん、心配かけてごめんね!やっと帰ってきたよ〜!」
かすれた声でそれだけ言うと、ビックリ顔のエマちゃんがすっ飛んできた。
「ユア!無事だったの!よかった!いったい二年近くもどうしてたのよ!!」
エマちゃんはギュウギュウ私を抱きしめて盛大に泣き出した。
ごめんね〜!そんなに心配かけてたなんて。もっと早く帰れればよかったと、思わずこっちまでもらい泣きしそうになったけど……
何やら聞き間違えのような言葉があったような?
「エマちゃん、二年って言った?二ヶ月じゃなくて?」
「二ヶ月って何よ!二年でしょ! はっ!もしかしてユア、記憶喪失とか、何かひどい目にあってたの?」
「あってないけど。 二年って、二年って……、一年二年の二年?何でそんな事になってるの?二ヶ月が、何で二年になってるの?」
私たちは時間のすれ違いに軽く混乱している。
いったい何が起こった?!
私とエマちゃんが床に座り込んで抱き合ったままでいると、おずおずといった風にかすれた声がかかる。
「お取り込みのところすみませんが……、できれば水を一杯いただけませんか」
そうだった!乾き死ぬところだったんだ!!
「エマちゃん、話は後で!お水をください! 私たち朝から何も食べてないし、飲んでないの!死にそう!!」
時間は夕食時で食堂にはそこそこお客さんがいたけど、私たちは隅のテーブルにつかせてもらった。
四人とも一杯では足りず、二杯三杯と水をがぶ飲みする。
あぁ、カラカラに乾いていた身体が潤っていくわぁ。
エマちゃんは、こなみなみと水が汲んである大きな水差しを置いたら、ちょっと待っててね!と接客に戻っていった。
忙しい時間に申し訳ない。手伝いたいけど疲れ切っていて、いったん座った身体はもう立ち上がる力がなかった。
今すぐ寝れる……。
目蓋が閉じそうになるけど、これだけは聞かなければと、クルクル働くエマちゃんを目で追う。
一緒のテーブルについているアシュリーはウトウトし出しているし、ラックとアダムはボ〜っと、どこかを見ている。
少したつと、料理を出し終えたエマちゃんが戻ってきた。後はお酒の追加だけだからブレイディさんに任せられるとの事。
そのブレイディさんも大皿料理を持ってきてくれて、私の無事を喜んで厨房に戻っていった。
「エマちゃん、ジェイは?ジェイはあの後どうなった?元気だよね?ここにはいないの?」
「ユア、ジェイはここにはいないよ。ここというか、プリュネにはいないの」
三人には先にご飯を食べてもらって、私はエマちゃんと話をする。
気になってとてもご飯を食べる気になれないよ!プリュネにいないってどういう事?
エマちゃんはあの日からの事を話してくれた。
ユアが誰かに連れて行かれたと、あの辺を探し回り情報を聞きまくって宿屋に戻ってきたジェイは、すぐにでも私を追おうとしたけど、もう夕方になっていた事もあって朝まで待つようにブレイディさんに止められた。
朝までの間にブレイディさんも伝手を使って情報を集めてくれてたけど、自分を責めるジェイは見ていられないほど痛々しかったって。
私を連れ去った馬車は南の方に向かったという情報に、とにかく行けるだけ行ってくると朝一で飛び出したジェイは、三ヶ月ほど経ってボロボロで帰ってきた。ジェイは故郷を通り越して、国の最南の貿易都市ロートゥスまで行ってきたんだって。
私はいまいち地理がわからなかったけど、三ヶ月で行って帰ってくるのはとんでもなく過酷だったろうと言うエマちゃんに青ざめた。
だって私は徒歩で過酷なひと月半の南じゃなくて、馬車で四日の西の町にいたんだもん。
帰ってきたジェイは半月ほど寝込むくらいひどい状態だった。私を見つけられなかった焦心もあったみたい。ひどく自分を責めていたって。
起き上がれるようになると、ジェイはブレイディさんの宿屋に滞在して、魔獣や危険な野獣の討伐依頼をこなしてランクを上げながら、遠征しては私を探したりしていた。
そして半年ほどたった頃、別れ際に一緒にリーリウムに行こうと言っていたのを思い出して、もしかしたらリーリウムにいるかもしれないと、可能性がなくはないというくらいの希望にすがって旅立っていったんだって。
それが一年と三ヶ月くらい前の事。
以来私が見つかってないか手紙のやり取りをしてるけど、郵便事情はあまりしっかりしていないので、いったい出した何通がお互いの手元に届いているかわからないけど、とりあえず今までは私は見つかってないのが共通認識だった。
だけど今日、二年ぶりにひょっこり私が帰ってきた、と。
ちょっと待って。さっきも混乱した、その二年、いったいどういう事?
私的には、二ヶ月ちょっとだよ?どうして二年になってるの?
それから手紙! 私、手紙出したよ?!
あ。あてにならないのか……。
エマちゃんとウンウンうなっていると、ラックがポツリと、
「精霊界に行ったからかもしれない。あそこは時間の流れが人間界とは違うって聞いた事がある……」
私はがっくりテーブルに突っ伏した。
一晩で二年近くたったってか!
「俺、いくつになったんだろ?」
「見た目変わってないけど、どこか成長したのかな〜。 あ!ラックは成長したね!」
「そういえばそうだ! 俺たちは?」
兄妹の会話に、今それ?!と心の中で突っ込んだ。
「ところでユア、この人たちは?」
エマちゃんの最もな質問に、遅ればせながらみんなを紹介した。




