表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/90

16話 砦へ 2




勝利のお祝いは、各砦ごとに行われた。

実際に戦ったのはこっちの砦と元々戦地にいた皆さんだから、約束通り私が料理を作って労いたい。

ここの皆さんとは親しくなっていたし、料理も褒めてくれてたし、ぜひお祝いしなくちゃ!


といっても大人数だから、簡単にたくさん作れるメニューを考えた。

暑い季節には冷えたビールと枝豆!とお父さんが言っていた。

私はまだお酒が飲める歳ではないので、お酒のお供はお父さんの意見を参考にする。


フラヴィオさんから、枝豆と鶏肉を大量に届けてもらってある。

この国にはあの枝豆という食べ方がなかったから、若い大豆を送ってもらう。それをちょっと硬めに茹でて多目の塩を振る。硬めなのが我が家風。


ビールの樽は砦の敷地に引き込んである小川につけて冷やす。

キンキンに冷えたビールと枝豆サイコー!と言っていたお父さんを思い出す。ちょっとしんみり。


それから、パーティーメニューっていったらこれでしょ!と、定番の唐揚げ♪

本当は生姜とニンニク、お酒とお醤油で下味をつけたいところだけど、ここにはお醤油はないからね。しょうがない、お塩で下味をつける。

カラッと揚がった唐揚げには、カットしたレモンもそえる。


キンキンとまではいかなくても冷えたビールと、茹でたての枝豆と熱々の唐揚げ。

こりゃあ美味しくない訳ないよぉ!


さぁ! お祝いの始まりだ〜!

『乾杯〜!』ジョッキを合わす音があちこちで聞こえる。


「美味ぇ〜!こんなに美味い酒は久しぶりだ!」

「茹でただけの豆がこんなに美味いとは知らなかったぜ!」

「何だこれ!こんな鶏肉の食べ方初めてだ!美味ぇな!」

「こっち組になった時はハズレだと思ったけど大当たりだったわ!」


みんな美味しそうに飲んで食べてお祝いしている。

お酒ではなく果実水を飲んでいる私も酔いそうなお祭り騒ぎだ。


季節は初夏。日が落ちれば、吹く風が気持ちいい。

場所はビール樽を冷やしている小川の近く。

建物の中には全員入れる部屋はないし、ガーデンパーティーのようになっていた。


これってビアガーデン?

つい日本のことを思い出す。ビアガーデン、行った事ないけどね!




ふと、調理助手をしてくれた兵士さんが大きな桶を持ってどこかに行こうとしてるのが目に入った。


「ショーンさん、どこに行くの?」

「奴隷に飯を持って行くんっすよ」


奴隷! 魔法使いだけじゃなくて、奴隷もいるの?

ファンタジーなんかで読んだ事はあったけど、本当にいるとなると、何だかやっぱショックというか……。

歴史の教科書での知識があるけど、それはみんな悲惨な境遇だったもんね。


桶の中を見ると、何やら色んなものが一緒に煮込まれているようなものだった。

スープ? これスープなの?


その時、何でそう思ったのかわからない。


「私も一緒に行っていい?」

「お嬢さんが行くようなとこじゃないっすよ」


私は華麗にスルーして一緒に歩き出す。


「それがご飯なの?一緒に戦ったのに一緒にお祝いしないの?」

「奴隷と? ありえないっすね」


ショーンさんは悪い人じゃない。意地悪な人でもない。きっとこれがこの国の常識なんだ。

今の日本には奴隷制度はないし、外国でも聞かない。教科書に載ってないだけで、もしかしたらあるのかもしれないけど……。


奴隷小屋といわれる建物には三十人くらいの人がいた。

ショーンさんが灯りをつけたけど薄暗い。それまでは寝ていたのか真っ暗だった。


ご飯はお椀に一杯ずつだけ。

それじゃお腹いっぱいにならないじゃん!

思わずショーンさんを見上げると、ショーンさんは別に何でもないことのように配り続けている。

並んでいる皆さんはお椀を受け取ると、銘々その辺に座って食べ始める。


これが日常なんだ。

建物の中なのに、椅子もテーブルもない。ベッドもない。毛布みたいなものが見えるけど、それだけ。

かなりショックで、哀しくなった。


「あれはどうだ?」


配り終えたショーンさんが近くにいた奴隷さんに声をかけた。


「ダメですね。そろそろじゃねぇですか」

「そうか。魔法が使えたから持ち直せばまだ使えたのにな」


何の話?魔法とか言ってるから人の事だろか?ダメって何?死んじゃうって事?

何でそんなに軽く話してるんだろ。人の生き死にの話だよね?


ショーンさんがチラリと向けた目の先には、灯りも届かないような部屋の隅に小さい毛布の膨らみがあった。


小さい……。 子供くらいのサイズ。

子供なの? 子供なのに奴隷なの?

そう思った瞬間、私は駆け出した。


「ユアちゃん!」


焦ったショーンさんの声が聞こえたけど、私はかまわず毛布をとった。


ひどい!

薄汚い毛布の下には、小さな子供が丸くなっていた。

十歳くらいかな? ちょうど上の弟くらいの大きさだ。


「死にそうってわかってて、何の手当てもしないんですか?」


私は、ショーンさんと話していた奴隷さんを非難した。


「手当てっても……。オレらは奴隷だし」


奴隷さんは、何で私が怒っているのかわからないようだった。ショーンさんも同じ表情だ。


ダメだ。ここではそうなんだ。

何となく知っている、悲惨な奴隷の境遇を思い浮かべる。

同じような感じなんだろか?こんな小さな子まで?

私はその子を抱き上げた。


軽い!

私は怒りに震える声で言った。


「いらないなら私がもらいます!」


私は男の子を抱き上げると、私に与えられている部屋まで運んだ。

少し距離があったのに一度も休まずに運べるくらい男の子は軽かった。怒りの馬鹿力もあったかもしれない。


慌てて追いすがるショーンさんに、


「お湯をたくさん沸かして!」


否を言わせない剣幕で言いつけると、ショーンさんは砦の中にダッシュしていった。


私が使わせてもらっている部屋は、料理をするのに都合がいいよう一階の厨房のそばにある。

二部屋続きで、一部屋はお風呂を置かせてもらっている。戦地に近いところで贅沢は申し訳ないけど、これが私の報酬だと思ってお願いしたのだった。


みんなはまだお祝いの真っ最中。

大盛り上がりで、灯りの届かないような端を歩く私には誰も気づかなかった。


部屋に戻った私は、男の子をソファーに寝かせた。

包んでいた毛布をとって、ボロボロの服を脱がす。

私はお医者さんじゃないから診る事はできないけど、どのくらいのケガをしているの知らなければ何もできない。


男の子は乾いた血と泥で汚れていた。

これじゃどこにどんなケガがあるかわからないよ。それに、こんなに汚れていたら治るものも治らないんじゃないだろか。化膿とかこわいし。


額に手を当てる。今まで抱いて来てたけど、特に熱いとは思わなかった。今も手に当たる体温は熱いとは思わない。だけど人と違うこの子に、人と同じ平熱で考えていいものか悩む。

男の子は褐色の肌に尖った耳、ファンタジーに登場するダークエルフのように見えた。


「ユアちゃん、お湯沸いたよ」


ショーンさんが顔を出す。


「ありがとう。白湯を一杯とスプーンをお願い。それからお風呂にお湯をためてください」


ショーンさんは何も言わずお願い事をしてくれた。後でお礼をしなくては。

その前にこの子だ。やれるだけやる!


ショーンさんがお風呂にお湯を入れてくれてる間、私は男の子に白湯を飲ませた。

抱きかかえて、スプーンで一杯ずつゆっくりと。

唇がカサカサだったし、何日も放置されてる話の内容に脱水を心配した。


「いい子ね、これを飲んでね。大丈夫、ゆっくりね……。 上手ね、もう一口……」


意識を失ってる子に聞こえてるかわからないけど、できるだけ優しく聞こえるように話しかける。

敵意はないよ。飲んでも安全だよと伝えるために。


ゆっくりゆっくり、カップの半分くらいまで飲ませると、ちょっと考えた。

衰弱してると思われる状態で、お風呂に入れて大丈夫だろうか?

でもこんなに汚れていたらケガがわからない。化膿もこわい。


間違っているかもしれないけど、私は男の子をお湯に入れた。なるべく素早く洗って優しくふき取ると、ベッドに寝かせてゲガの具合を見る。


……ケガらしいケガはないと思う。

もう塞がっているような傷跡や、褐色の肌で分かりづらいけど、薄い痣のような跡があるくらい。

内臓とかいわれたら、それはもう私にはムリだけど、外見的には何の手当てもいらなそうだった。


男の子の服なんてないから私の服を着せて、また白湯を飲ませる。 


ゆっくり……、ゆっくり……。


さっきと同じように声をかけながら、またカップの半分くらいを飲ませると、ベッドに横にした。

医療知識のない私は、弱ってる時はとにかく寝るのが一番!くらいしか思いつかないのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ