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15話 砦へ 1




どうしてこんな事になっているんだろ……。

私はガタゴト揺られる馬車の窓から外を見た。

本当ならプリュネに向かっている筈なのに、馬車は戦地に向かって西に進んでいる。


本当なら!プリュネに向かっている筈なのに!

二回言ってみた。ふぅ。


疲れ切っていて戦えば、力を出せずに死んでしまうかもしれない。なんて言われたら、協力しなくちゃ人でなしのように思えてしまう小心な私。

いやいや、人助けだし。フラヴィオさんにのせられた訳じゃない。


砦に行く前にプリュネのブレイディさんの宿屋に手紙を届けてもらう事をお願いした。

私は無事な事。依頼が終わったら送ってもらえる事。心配しないで待っていてほしい事等、簡潔にしたためて手紙を託す。


早くプリュネに帰るためにさっさと出発だ!

昨日着いたばかりのフラヴィオさんはこちらでやる事が溜まっているそうで、それならと私だけ先に出発した。ケイトさんの他に腕の立つ護衛さんも何人か一緒に。


最初の砦まで馬車で二日。途中の村で一泊お世話になる。

道中の馬車の中では、ケイトさんに戦の事を聞いた。たぶん、まったく知らない私のために分かりやすく言葉を選んで話してくれたんだと思う。悲惨なところは私が怖がらないようにサラッととかね。


それにしても、兵士や騎士の皆さん大変だぁ……。

死んでしまったら残された家族はどんなに哀しいだろう。


やっぱ平和が一番だね!

早くこの戦が終わりますように。できればこの先ずっと、争いのない世界になりますように。




ガタゴト馬車に揺られて二日目の夕方、最初の砦に着いた。

ここはプルヌスの領館と戦地を結ぶ中継地点で、攻め込まれたら最後の砦という重要なところだそう。堅固な造りで、かなり大きい。

ここには戦地から一時的に戻された騎士と兵士が待機していて、戦いになったらすぐに戦地に向かう事になってるんだって。


思ってたよりひどくないじゃん?と思ったら、ここはまだいいんだって。近隣の村から食事の支度や洗濯なんかをしてくれる人を雇っているらしいし、戦がなくても、ここはプルヌスの騎士や兵士の駐屯地だから元々きちんと生活ができるようになってるんだって。


問題は、次の砦とその先の戦地らしい。

今日はここに一泊して、明日その砦まで行く予定。

もちろん膠着状態だという事で、もし戦いが始まるようならすぐに戻るという事だったけど。


馬車で二日来ただけで、だいぶ田舎な感じだな。

夕食後、与えられた部屋の窓から外を見れば、降るような星空で……。

何度も見上げた星空ホテルを思い出す。


ジェイ、どうしてるかな。心配してるだろな。


会いたいな……。


ちょっと天然チックな明るさがどれくらい慰めてくれただろう。それなのにきちんと頼れるイケメンさんだし。


会いたいな……。


やる事がないとしみじみしちゃってダメだ。

らしくもないセンチメンタルにため息をついて、明日も馬車の旅だと横になった。




次の日の夕方、戦地前の砦に着いた。

昨日、らしくもないセンチメンタルになっちゃったけど、そんなのをふっ飛ばすような光景に唖然とする……。


実質馬車で半日ちょっとだよ?なのに何でこんなに違うの? いじめ?! いじめなの?!


砦は、一言で言うと不衛生だった。

これじゃ病気とか心配だわ。ケガだって、これじゃ治るもんも治らないよ〜!

戦場って、みんなこんななの?いや、ここは戦場じゃないけどさ。


確かにフラヴィオさんの言うとおり、みなさん元気がなく疲れているようだった。

戦争って、死ぬかもしれないんでしょ?

そんな緊張状態が長く続いてるのに、環境がこれじゃ、そりゃ余計そうなるよ〜!


聞くと、この砦と徒歩一日行った先の戦地の皆さんはローテーションしてるんだって。もちろん戦いが始まればどっちも戦場に出るけど。

でも屋根があってベッドで休める砦と、戦地で野営するのじゃ疲労度が違うって。

そりゃそうだよね。


……まずはこの不衛生を改善しよう!


ここは戦地に近いから近くに村はない。なので食事や洗濯などの人は雇えない。それなら皆さんが交代ですればいい。

戦地ではどれだけできるかわからないけど、ここは水もある建物だし、分担して掃除もできるだろう。


次に、食関係を聞いてみる。

基本塩漬け肉と日持ちする硬いパンだけだって。塩漬け肉を煮て、しょっぱいスープに硬いパンを浸して食べるらしい……。


おぃ! 圧倒的に栄養バランスが悪いだろ!

色々足りてないし!


そういえば、昔は長期の船の旅でビタミン不足になって、何とかっていう病気があったとか読んだ事がある。これもそういうものなのかな〜。

フラヴィオさんへの連絡用騎士さんに大量の食材を頼む。


流石に戦地には行けないけど、あちらにもおなじ食材を届けてもらって、調理指導した兵士さんに行ってもらおう。

衛生面は、戦地は全くわからないから助言だけでおまかせだけど……。


連絡用騎士さんは、次の朝すぐにフラヴィオさんの元に発った。

そして、早い事に食材は三日後には届いた。


私は、戦地で食事指導してもらう兵士さんと一緒に緑黄色野菜たっぷりのスープを作る。

せっかくだからダシついでに塩漬け肉も一緒に煮込む。これでビタミンとタンパク質はとれる筈。わざわざ塩を使わなくても塩味もバッチリだ。


それからチーズも取り寄せていた。

パンを薄く切ってチーズをのせて軽く焼く。戦地では直火で炙る感じになるのかな?

チーズで美味しくなるし、薄いパンなら硬くても食べやすくなると思う。カルシウムもとれるし、一石二鳥作戦だ♪


砦の皆さんには好評で、何日かするとだいぶ元気になってきた。

最初は私の容姿に遠慮がちだった砦の皆さんも、私と調理助手さんが作ったご飯を食べるといきなり親しくなった。

大盛りにしてほしいのか、お代わりが欲しいのか。

大丈夫! 材料費は他人の(フラヴィオさんの)お財布だ。たくさん作ってあるからね!


日替わりで作る異世界風の料理は美味しいでしょ〜♪

私はガッチリ砦の皆さんの胃袋を掴んだのだった。


そして、ローテーションで砦の皆さんが戦地に立つ日、やっぱり戦地には行きたくないのは当たり前の感情だよね。

私は元気づけようと、


「この戦が終わったら、めっちゃ美味しい料理でお祝いしましょう!フラヴィオさんにお願いしてお酒も用意してもらいますからね!皆さんムリをしないように!死んだら家族が哀しみます。全員無事に帰って来てくださいね!」


楽しみを提案した。

それに戦争経験者じゃない私は、勝ち負けより無事が大事だ。


私の声が届いた辺りの人たちはびっくりしたように私を見て、だんだん笑顔が広がっていった。それから、


オオォォォ!!!

雄叫びが上がって、それも広がっていく。


「ユアちゃんのめっちゃ美味しい飯を食わないで死ねないな!」

「ソッコー終わらせてくるから、料理の用意をして待っててな〜!」

「ユアちゃんが死ぬなってさ!無事に帰ってこいってさ!」


オオォォォ!!!

あちこちで雄叫びが上がる。


何やらものすごく士気が上がって、皆さん出発していった。うん、いい事だ♪


『めっちゃ美味しい料理』の威力すごいな……。

こりゃあ腕によりをかけて作らない訳にいかないね!

すぐに食材とお酒をフラヴィオさん連絡用騎士さんに頼んだ。


驚く事に、元気になった(と報告されていた)戦地の皆さんと、戦地に向かった砦の皆さんとで、一週間で一気に戦を終わらせた!

やっぱ食って大事だよね! ご褒美も♪




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