14話 プルヌス 4
さて、魔法の話だけど。
治癒魔法の魔法使いは大多数が王都にいて、地方では大貴族といわれるお金持ちのところにしかいないんだって。
専属契約をすると莫大な報酬を払わなくてはならない程、治癒魔法の魔法使いは貴重らしい。
何か病気らしい症状が出る、魔法で治す。
どこかケガをした、魔法で治す。
なる程。予防って考えはないんだ。
あとは、民間だと祈祷師?
こちらも祈祷料が高いから庶民はなかなか頼めない。頼めるのはお金持ちの商人とか。
そういえば、日本でも大昔は祈祷師っていたような〜。日本だけじゃないか。
お祈りをバカにする訳じゃないけど、それじゃ治らないよ。病気やケガはちゃんと診療をしてもらいたい。
私は、お祈りって家族とか友達の応援の力だと思っている。
ちなみにお風呂。
庶民には贅沢な入浴も、お金持ちの貴族なら毎日できる。
私もここにきて毎日入浴している。これだけはありがたい。
話をしながらマッサージを続ける。
肩から首筋へ、それから頭へと軽く揉んでいく。強いマッサージはよくないと聞くからね。
私はきちんとした知識はないけど、軽く揉むくらいなら大丈夫と思う。
初夏だから湯冷めの心配はないけど、足し湯をしながら二十分くらいでマッサージは終了〜!
お湯から上がったら白湯を飲んでもらう。デトックス効果があるはず。
「マッサージとは気持ちのいいものなのですね……。何だか身体が軽くなりました。心も穏やかです」
「よかったです。あとはゆっくりおやすみください」
「ありがとうございます。この度のお礼をしたいのですが、ご希望はありますか?」
えぇ! ここでこれきた?
希望、ありますあります!!
「ぜひお願いしたい事があります!私をプリュネの町に帰してください!」
切実にお願いする!
「ユアさんはプリュネに住んでいるのですか? 転移者様の記録は古いものですが、異世界からの転移でこちらには身寄りはないとありました。家令の話では、私どもで庇護しようと思ったようですが……」
「住んでいる訳ではありませんが、心配している人がいます。いきなり連れ去られてしまったので、みんなとても心配してると思います」
ジェイに、エマちゃんにブレイディさん。
もしかしたら泊まり客のみんなも少しは心配してくれてるかもしれない。
「それは……。合意ではなくすみませんでした。夫に代わってお詫び致します。
それでは夫に話しましょう。ちょうど明日、砦から戻って来る予定なので少しお待ちください」
「はい!」
やった! これで帰れるんだー!
一ヶ月長かったー!
やっとジェイに会える!
ジェイ、エマちゃんごめんよ〜!
きっとすごく心配してるだろう。
帰ったら美味しいものをいっぱい作って食べさせてあげよう。
それが私にできる一番のお詫びだもんね!
次の日の夜になってから、私はフラヴィオさんに呼ばれて最初に会った執務室?に行く。
相変わらず冷たい美形で近寄りがたい。少しお疲れのようだ。
そういえば、ここから一番近い砦までは馬車で二日。その次の砦にはそこからまた馬車で一日の距離がかかり、戦地はさらにそこから徒歩で一日のところにあるらしい。
何日も馬車の旅でお疲れのところすぐに会ってくれるなんて、有難いというかちょっと申し訳ないというか……。
いや、相手は誘拐犯だけどね!
「まずは、貴女のおかげで妻の体調がいい事、使用人の不調が改善された事を感謝します」
感謝しますと言いながら、何だか上からな感じだよ。いえ、そんな事はありません。なんて答える気にならないというか。
私は答えずに曖昧に笑う。困った時の日本人スマイルだ。困った訳じゃないけど。
「妻から言われました。貴女は我々の庇護は必要されてないと。この度の礼にプリュネに帰してほしい事が希望だと」
「はい」
庇護なんて思ってもみなかったくせに!この誘拐犯め!
ラヴィーニア様の話に乗っかって、自分の犯罪をなかった事にするつもりか。
内心イラッときたけど、帰してくれるならと大人しくする。
文句を言って帰してくれなくなったら困るからね。
「私が最初に貴女に言った事を覚えておいでか?」
「はい」
思い出しても腹立たしい一方的な会話だったよね!
そういえばあの時よりずいぶん言葉遣いが丁寧だ。ラヴィーニア様に何か言われたのかな?
「貴女は特別な力はないと言われましたが、皆を健康にしました。これは十分特別な事だと思います」
「特別ではありません。私のいた世界の生活の知恵的なもので、誰でも知っているような事です。
それに皆さんまだ健康になったという程ではありません。健康を維持するのはこれからもずっと身体によい事を継続する事が大切なんです」
はっ! 誘拐犯に熱弁してしまった!
でもまぁ、ステラさんたちやラヴィーニア様の事だし。
一応この人この領地のトップだしね、知っておいてもらった方がいいか。
誰でも知っている……。
何だか驚いたように小さく呟いているフラヴィオさん。
あーたの驚きはどうでもよろしい。私をさっさとプリュネに帰してくれ。
「最初に言いました通り、私は剣も魔法も使えません。戦地ではお役に立たないのでプリュネに帰してください」
フラヴィオさんは、私をジッと見た。
何よ、やめてよ。その何か企んでいるような悪い目、怖いから!
「転移者殿は健康にお詳しい。プリュネにお送りする前にひとつ、ご意見をお聞かせ願いたいのですが、よろしいか?」
何か、どうも上からの言い方なんだよね。
「健康に関する事で、私に分かる範囲なら」
何か企んでいそうと思いつつ、意見くらいならいいかと答えたのが悪かった。
いや、後から思えば結果よかったのかもしれないけど。
「戦地の兵が疲弊しきっており、このまま戦いになれば厳しい戦況になるかと心配しています。
貴女の世界の知恵で、何か元気になる方法はありますか?」
おぃ! 何かって、ザックリしすぎだよ!
ザックリしすぎてて返答に困るわ!
だいたい、戦地とか兵士さんの事なんてまったく知らないし。何の知識もないのに何か言える訳ないじゃん。
というような事をやんわり伝えると、
「そうですね。実際見ていただいた方が、色々助言していただけるかもしれません」
実際見るって?
「転移者殿のご助力に感謝します」
悪い顔で頭を下げられた。
だから! 実際見るって何?!




